レポート3:【神懸かり〜國守りの神子〜】


「僕は神にこの国を、日本を守れと言われたんだ。」


また俺の理解の範囲を超えたことを言っている朝倉。朝倉もそのことをわかっているらしく、「今わからなくても話を聞いていればわかるから」と微笑んだ。




《コンタクト;1》

僕はあの日、いつも通り大学に向かっている途中だった。いつも歩いている商店街をぬけ、路地を曲がって、橋を渡った。

もうすぐで大学に着くというとき、僕の・・・自分の耳の奥で誰かの声がしたんだ。

『オイデ オイデ クニマモリノ ミコ』



頭がおかしくなったんじゃないかと思ったよ。急に幻聴を聞くなんて。最近サークルの舞台の練習を立て続けにやってたせいだと思った。
能の謡曲がまだ頭でこだましているんだ。でもその声は止むことなく、さっきから同じことばかり繰り返し言っている。

そのうち気分が悪くなっちゃって、道路の隅に座って暫らくじっとしていた。でもやっぱりその声は止まらなくて・・・そのまま気を失って、その間僕は不思議な夢を見た。 いや、あれは夢のような現実だったんだ。







僕は神社の前に立っていた。何処かで見たことのある光景だ。何処だろう・・・。 そうだ。大学へ向かう途中にある『國神子神社』。

大きな桜の木が記憶に残っている。そう、あの桜だ。花が咲いてる・・・満開だ。

僕は、夏の暑い時期に桜の花が咲き乱れるのをなんとも思わずに、ただ呆然と見ていた。すると、桜の幹の根元に小さな『ほこら』があることに気がつく。 いつの間にこんなもの付けられたのだろう。そんなことを思っていると、そのほこらが突然光りだした。淡く優しい光・・・僕は迷わずその光に手を伸ばす。



「まぶしい・・・。」



目を開くと、風景が変わっていた。パノラマに広がる水平線・・・その中央に堂々と大きな桜が立っている。 神木・・・『榊』だ。僕はその榊に駆け寄った。幹に触れてみる。



「なんて立派な桜だろう。」



大学で日本の古美術や伝統、日本文化、習わし、神仏・神道を選択し学んでいた僕は、こんな大きな榊に出会ったことがなく、壮大な巨木を前に感動していた。 すると、榊の木目が揺れ始め、うごめきだした。驚いて一、二歩下がると、木目が徐々にひとつの模様となってゆく。 顔だ・・・人の顔・・・。そして、その顔はメキメキと枝が裂けるような音を立てながら立体化してゆく。

木から男の上半身が現れた。木目が刻まれた樹木そのものの肌。



『オ前ハ 神ニ選バレシ 國守リノ神子 コノ国ヲ守レ』



さっき聞こえた幻聴はこの榊が発していた。

僕は何がなんだかわからなくて、怖くて、そこから離れようと背を向けた。すると、榊が手を伸ばしてきて僕の腕を掴んだ。 抵抗する余裕もなく、僕はその幹に引き寄せられ、そのまま榊の中に取り込まれた。



榊の中は温かくて、水の中にいるようでとても心地よい。薄れていく意識の中、最後に何かのビジョンを目にした。 僕が見たのは、どうしてかはわからないけれど、たぶん佐域の顔だった気がする。





《コンタクト;2》

しばらくその心地よさに身を任せていると、急にフッと体が重くなった。

それと同時に、また風景が変わる。



雲の上・・・空に浮かんでいるのだろうか。

すると前方から何かが猛スピードでこっちに向かってくるのが見える。

小型飛行機。

僕の体に熱いものが走る。



『アレヲ 消セ』 榊が言った。



次の瞬間、僕は飛行機の中のパイロットの隣にいた。

彼はひどく怯えて、しきりに首を横に振る。



「な、何故ここにっ。さっき空中に・・・センサーで確認したのに。」




流暢な日本語を話し、腕には組織のシンボルマークらしきものが刺繍されている腕章をつけている。肌の色からして、東アジア系の人間だろう。



「有り得ない。瞬間で移動するなんて・・・。」



「この国を脅かすものは許さない。あなたには消えてもらう。」



「お、お前は一体何者なんだ。俺の前に一瞬にして現れて・・・。」



「僕は神子だ。國守りの神子・・・神の使い。」



僕は無意識に言葉を言っていた。



「ああ・・・俺は神の怒りに触れたのか。はっ・・・馬鹿な。神なんてこの世にあってたまるか。神が実在しているなら、テロ以前に貧富なんてもの存在しない。 お前は日本政府が内密に研究開発した人間兵器なんだろう。」



彼は笑い出し、腰に手を当てた。彼は拳銃を取り出すと左手で構え、僕のほうに向けた。



「・・・消えろ。これが神の望みだ。」

「ぎゃああああああああああああ」



パイロットの下半身が粉々に砕け散った。血しぶきを上げながら固体から液体へ変化していく・・・僕はそれを全身に浴びた。

我に返った僕は自分のしたことに気づいて、その余りにも無惨な光景に両手で顔を覆った。手に付いていた血が顔に付く。生臭い・・・。



「そ・・・そんな。僕、こんなつもりじゃ・・・元に戻さなければ・・・。」



『 消 セ 』



「うるさい。どうしてこんなことをさせるんだ・・・僕の体を使ってこんな・・・。」



『オ前ハ 神懸カリノ神子ダ』



「そんなもの知るか。早く、早くこの人を元に・・・助けてやってくれ。」



『 トドメヲ 』



「うるさい早く。」



『神子ヨ 我ニ背クべカラズ』



「うるさい、うるさいうるさい う る さ い 」



『 神子ヨ 神ニ 背クベカラズ 』



「・・・死ね。」



僕はパイロットに向かって手をかざしていた。そして彼の上半身が破裂した。

急速に落下していく機内で、僕は気を失ったんだと思う。

その後の記憶はない。





それから、気がついたら目の前に佐域がいた。佐域の顔を見て、すごく安心した。けど、それと同時に恐怖が僕を襲った。 息が詰まる・・・。僕は人を一人殺した・・・。

泣いた。怖かった。夢であって欲しかった。

けれど、全身に浴びた血が、夢ではないことを証明している。










そのあとは、佐域も知ってのとおり、警察の取調べで1週間缶詰状態だった。僕は刑事に洗いざらい話した。
でも刑事は信じてはくれなかった。それどころか、両親に精神科の病院を紹介したんだ。「お子さんは事故のショックのあまり精神に支障をきたしているのかもしれません」とか言いながら。


もちろん僕はそんな所行かなかった。でも、そのことで父さんが僕のことをさげすんだ目で見るようになったんだ。母さんは心配してくれていたけれど、内心は僕に対して失望しているのがわかる。そのころからだ。妙な噂が立ち始めたのは・・・。
近所の人が、僕が変な宗教団体に入って部屋でこもっているとか、薬をやっていて裏の密売にまで手を出しているとか・・・。ありもしない噂ってすぐ広まるんだ。
昔、僕と佐域が噂になったように、悪い噂はたちまち広がる。人ってものは他人の不幸を喜ぶところがあるから、信憑性にかける噂であるにしても広めようとするんだ。





そんなこともあって、僕は余計に外に出られなくて・・・。誰かにあのことを打ち明けようにも、あの刑事のように僕を異常者扱いするかもしれないと思うと言えなくて。

両親ともできるだけ顔を合わせないように部屋に閉じこもった。母さんと話すようになったのはごく最近なんだ。父さんとはそれから一度も話していないし、顔も見ていないよ。父さんも僕と顔をあわせるのを避けているようだし。



<<戻る||小説TOP||進む>>