レポート4:【真実を映す瞳の中の俺】





「・・・これが僕の今まで心に留めていたこと。」



「・・・・。」



朝倉の長い話が終わった。俺は何も言わず聞いていた。表情も変えず、いたって冷静に。

でも、疑いを持っているということが朝倉に伝わったのだろう。朝倉の表情が、話し終えた後に少し陰った。

朝倉はフゥッと息をもらすと、髪を掻き揚げゆっくりと目を閉じ、そのままテーブルの角の辺りを見つめて再びため息をついた。



「・・・朝倉、あのな・・・。」



「それ以上言うな。わかってる。君の言わんとしていることは。」



「すまない・・・でも朝倉、俺は・・・。」



「謝る必要はないよ。でも・・・僕だって君を騙そうとして言っているんじゃない・・・。」




「・・・どうしたって信じられないよ、そんなことは。」

この一言を言おうとした俺は、朝倉の顔を見て言いとどまった。今にも泣き出しそうな目をしている。 親友にまで信じてもらえない・・・きっとそんな気持ちを朝倉は抱いている。朝倉は、俺だけは信じてくれると思って話したのに。

『君を騙そうとして言っているんじゃない』・・・。朝倉の押し殺した声が胸につかえて、その先の言葉を言えなくさせる。 話を聞く前に信じると約束したけれど、こんなこと普通ならば信じられるはずはない。

朝倉が神に召された神子で、朝倉の体を使って神が悪党を懲らしめるなんて・・・。



俺は優しく語りかけた。朝倉をなるべく傷つけないよう、そっと。



「朝倉・・・信じてやりたいが、俺が思うにそれは・・・。」



ダンッッ!!

朝倉がテーブルに両手のひらを強く叩きつけ、勢いよく立ち上がった。立ち上がった拍子に椅子が倒れ大きな音を立てる。 朝倉がテーブルを叩いた衝撃で、ティーカップが傾き、紅茶がテーブルにゆっくりと広がってゆく。

俺はいきなり大きな音を立てられ驚き、手元の紅茶をひっくり返してしまった。床に紅茶が滴り落ち、こちらもまた少しずつ広がってゆく。



「あ・・・朝倉。」



「僕は嘘なんか言っていない。」



朝倉の叩きつけた手がこぶしに変わり、小刻みに震えだした。人が激しく怒りの感情を持ったときの反応だ。



「・・・佐域。」



「・・・うん。」



「・・・榊を見たら、榊に会ったら本当だってことわかってくれるかい。」



「え・・・会うって・・・。」



「僕が君を榊に会わせる。榊が実在しているなら、この話は全て真実・・・。」



「まあ、そういうことになるだろうな。でも朝倉・・・。」



「行こう、佐域。」



「・・・って、今行くのか。もう外暗いぞ。」



「いいから行くんだ。」



朝倉が俺の腕を引っ張り立ち上がらせ、部屋の外へ出るように促す。階段を下りると、おばさんが心配そうな顔をして廊下に出ていた。さっきの大きな音が聞こえたらしい。



「奏、さっき何か倒れるような音がしたんだけど・・・。何かあったの。」



「なんでもないよ、紅茶をこぼしたんだ。拭いておいてくれるかな。僕ら少し出かけてくるから。」



「出かけるって、こんな暗いのに。それに二人とも夕飯まだでしょう。もう8時過ぎてるんだから・・・。」



「大丈夫。僕ら男だし、もう子供じゃないんだから。それに佐域が一緒だから心配ないよ、母さん。」



「そうね、隆成くんが一緒なら安心ね。でも危ない場所には行かないでちょうだいね。」



「わかったよ。じゃあ行ってきます。」



「お邪魔しました。」



俺は一礼すると、玄関で靴を履いた。朝倉が扉を開けようとしている。「俺が開ける」と言って、俺は朝倉の前に出て玄関の重い扉を開けた。



外はかなり寒い。足を止めて深呼吸する。息を吸い込むと12月の冬の匂いがする。爽やかで身が引き締まる。



「 佐域 。」



俺が深呼吸している間に十歩ほど前に進んだ朝倉が、振り返って俺を呼ぶ。



真実だけを映すその純粋な澄んだ瞳に

俺はどう映っているのだろう。

親友を信じてやれない俺の姿は

どんな風に見えているのだろう。



俺は朝倉に追いつくように早足で歩き出す。




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