和紙

馬鹿
□■馬鹿

今日は愚鈍を意味する言葉のお話です。

以前「探偵ナイトスクープ」と言う番組でアホとバカという言葉の分布を調べて話題になりました。
関東がバカ、関西がアホ、そして名古屋付近にタワケと分かれているということでした。

ところで、これらの言葉の語源には面白いお話があります。(信憑性のほどは疑問ですが ^^;)

■まず、登場するのは
秦の始皇帝(B.C.259-B.C.210)です。
彼は、史上最初の帝国を作ったことで有名です。
郡県制による中央集権制の採用、焚書坑儒(注)による思想統制、度量衡・貨幣・車両の幅などの統一、文字の簡略化、万里の長城の増築、
阿房宮(東西 675 m、南北 112.5 m)など荘厳な宮殿の建造などを行いました。優れた政治家だったようです。

1974年に発掘された始皇帝陵の地下宮殿の大きさなど想像を絶しますね。今までに、等身大の兵士や馬の陶製人形(兵馬俑:へいばよう)8,000体が発見されているそうです。

さて、始皇帝は「秦の国は"胡"によって滅ぼされる」と言うお告げで、北方の異民族"胡"(匈奴)から国を守るため万里の長城を築いたと言われます。
しかし、秦帝国を滅ぼしたのは彼の末子で二世皇帝の"
胡亥(こがい)"だったと言う出来すぎた話があります。

さて、上に出てきた阿房宮(あぼうきゅう)がアホの語源だと言うのです。
70 余万人を動員したという壮大なものだったようですが、完成前に秦を滅ぼした項羽によって火を放たれました。なんと、全焼するのに3ヶ月かかったと言います。(白髪三千丈のたぐいでしょうか? ^^; )

この阿房宮の馬鹿げたまでの大きさにあきれた中国人が馬鹿げたことを阿房というようになり後に阿呆と書くようになったと言う説です。
もっとも、現在の中国語には阿房または阿呆という言葉は残っていないようです。

さて、次の登場人物は二世皇帝胡亥。
胡亥は朗中令(官房長)趙高の策謀によって二世皇帝になりました。
彼は全く能力の無い皇帝だったようです。その二世皇帝に対して、ある日、趙高は鹿毛の馬を贈ります。「これは馬のような鹿です」と言って。
しかし、さすがに胡亥は「これは馬だ」と言い張ります。そこで、趙高は朝臣達に聞こうと言うことにしました。そして、馬と言った朝臣を粛清したのです。彼の策略だったのですね。この話をもとに日本の学者がバカと言う日本語に馬鹿という漢字をあてたと言う話です。
結局、秦帝国は建国わずか15年でB.C.206年に滅亡しました。

では、このバカの音はと言うと、有力な説は、梵語の
moha=慕何(痴)、または mahallaka=摩訶羅(無智)が転じたもので、僧侶が隠語として用いたことによるのだそうです。

他に、「
おこ」と言う古語が おこ→ほこ→ぼこ→ばか と転訛したとする説もあります。
"おこ"は"おこがましい"の"おこ"です。
"おこ"を"
烏滸"と書くのは中国の後漢時代、河西省近くに「烏滸」と言う国があり、愚か者が多く物笑いの種になることが多かったと伝えられたのが、大和言葉の"おこ"と混同されたと言います。
ついでに"
尾篭な話"等と使う"尾篭"も元は"おこ"の当て字だったものが"ビロウ"と音読されるようになり、意味も"ばかげた"が"けがらわしい"、"きたない"に変化したといわれます。

蛇足ですが、中国には
馬鹿という動物がいます。赤鹿のことです。その角は馬鹿茸と呼ばれる漢方薬です。

古川柳にも、これらの話を読んだものが残っています。
・趙高馬鹿もの始皇阿房もの
・名の高い阿房と馬鹿は親子也

最後に
タワケの語源についても書いておきますね。
戯ける(たわける)から出た言葉で、ふざけること、馬鹿なことをする意味です。
古くは「たはく」と言ったようです。

これにも面白い説があって、「田分」を語源とする説です。
遺産相続で田を子供達に配分していくと、だんだん狭くなって結局一族共倒れになってしまうことから、愚か者のことを「たわけ」というようになったというものです。

(注)
焚書坑儒
辞書によると:中国秦の始皇帝がB.C.213〜B.C.212に行った、主に儒家に対する言論統制政策。法家の思想家、李斯の建言により、医学・卜筮・農事などの実用書以外を焼き、儒生460余人を咸陽で坑殺したといわれる事件です。
現在では、学問・思想を弾圧することの意味に使われます。

なお、安能務によると、坑刑の坑には「穴埋めにする」と言う意味は無かったそうで、「閉じ込める」が正しいのではないかと言うことです。また、儒生と言うのも誤りで諸生(犯禁者)だそうです。  参考:始皇帝(安能務:文春文庫)

(2001.03.30)上にも書いたんですが、探偵ナイトスクープでアホ・バカの分布が10年ほど前に放映されました。
今日、その顛末とそれ以降の成果をまとめた本を読みました。(遅すぎますね。^^;)
「全国アホ・バカ分布考-はるかなる言葉の旅路」新潮文庫・松本修¥781
結論だけを言いますと
バカは白楽天の詩に出てくる「馬家の宅」(馬燧(ばすい)の家)が出典としています。
一方、アホは蘇州人が抗州人をあざけって言う阿呆(アータイ)が語源としています。
なかなか、説得力のある研究で、暇と興味のある方は読んで見るのをお薦めします。

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