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環境ホルモン
□■環境ホルモン

環境ホルモン、正式には内分泌撹乱(かくらん)化学物質(endocrine disrupting chemicals)と呼ばれ、極微量でも生物のホルモン分泌系を撹乱してしまいます。(注1)
環境ホルモンは簡単に言うと、動物の体に取り込まれた場合に正常なホルモンの作用に影響与える物質のことです。
ホルモンの様に振舞う場合もありますし、正常なホルモンの働きを阻害するような場合もあります。

■歴史
事の発端は1962年、
レイチェル・カーソン女史の「沈黙の春(silent spring)」
(注2)での、合成殺虫剤が招く危険性をめぐっての重大な警告でした。
時の大統領ケネディーもこの本を読んで感動し、産業界の反発を押し切り、早速、農薬の環境への影響を調査させ危険な農薬禁止への第一歩を踏みだしました。
彼女は1964年にがんで56歳の生涯を閉じます。

このような農薬汚染を題材にした映画がジュリア・ロバーツ、デンゼル・ワシントン主演の「
ペリカン文書」です。

しかし、事態は収拾していませんでした。
1991年
Theo・コルボーン女史らの提唱でウィングスプレット宣言がでます。
環境ホルモンへの警告です。
そして、1996年、「
奪われし未来(Our Stolen Future)」(注3)が出ます。
環境ホルモンの生物界への影響がクローズアップされた衝撃の書です。
この本には時のゴア副大統領が序文を寄せています。

環境ホルモンの濃度
普通、化学物質の急性毒性や発ガン性が問題になるのは、ppm の単位です。つまり100万分の1の単位です。ところが、環境ホルモンが問題になる濃度は、
ppb,ppt の単位です。ppm より1000倍〜100万倍薄い濃度で作用するのです。(注4)

感覚では判りにくいですね。
イボニシと言う貝がいます。日本の近海でも普通に見られる貝です。
この貝には環境ホルモンの一つ
有機スズ(トリブチルスズ)が影響しています。
有機スズは、船体に塗られる塗料に、貝の付着などを防ぐ目的で加えられています。
1pptでメスにペニスが生えてきて、3週間で90%がオス化したと言う報告があります。
その濃度ですが50mプールの水に1/1000gの量です。
有機スズについては2001.10月の国際海事機関の国際会議で使用禁止が採択されます。

さらに恐ろしい事には、
低濃度効果と言われ、幾つかの化学物質については超微量の方がかえって効果が大きくなることがあると言うのです。従来の安全性の概念が通用しないのです。

環境ホルモンの種類
現在私達が普段使用している化学物質は87,000種(一説には10万種)にのぼると言われています。
その内、どれだけの化学物質が環境ホルモンとして働くのか判っていません。

環境庁が1998年5月に策定した「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」では、疑われる化学物質として67物質をあげています。
有名なところでは、
DDTPCBダイオキシン、業務用合成洗剤の分解物であるノニルフェノール、ポリカーボネート樹脂の原料等であるビスフェノールA、スチレンからポリスチレン樹脂を合成する時、重合が不完全で生成するスチレンダイマー(2量体)、スチレントリマー(3量体)などです。

生物濃縮係数
化学物質は食物連鎖によって次第に濃度が高くなっていきます。
アメリカの五大湖のPCBの例だと、水質検査ではPCBは微量で計測不能です。ところが食物連鎖の頂点に立つセグロカモメでは2500万倍、その上のハクトウワシに至っては5億倍と言う数字が出ています。

また、世界中何処にいてもこれらの化学物質から逃れる事は出来ません。
北極に住むアザラシで3億8400万倍、それを食べるホッキョクグマは、食物連鎖の頂点にいるため30億倍にまで濃縮されています。

人は別でしょうか? いいえ、当然そんなことはありません。アザラシを食べるイヌイットの人々にはっきりした影響が出ていると言います。
また、デンマークの例では、人間の精巣がんが1940-1980で3倍、精巣の異常細胞の増加、1938-1990で精子数の半減などが報告されています。

人間の精子の数は現在でもかろうじて受精できるほどの数しかいないと言います。
それほど脆弱な種なのだそうです。それにしては人口が多い。^^;
これに、もし、環境ホルモンの影響で精子の数が減るような事になると、種の存続に関わってくるといえます。
昨年の静大のシミュレーションでは2050〜2060年に深刻な状況になると言う中間報告があります。

もう一つ問題なのは、これらの環境ホルモンが生物の雌雄が分化する時点で大きな影響を与える事です。従来は胎盤が化学物質のトリデになっていると考えられていましたが、最近の研究ではトリデにはなっていないということがはっきりしてきました。

人間の体脂肪の中には少なくとも250種類以上の化学物質が有るとも言われます。
これらの化学物質は子孫に伝えられてしまいます。大変なことが起こるかもしれないのです。

生物は進化の歴史の中で、がん発生の要因となるDNAの傷を修復する機構を獲得しています。しかし、ホルモン撹乱に対する修復機構は全く持っていないのです。

日本のダイオキシン対策はヨーロッパに比べると10年は遅れていました。最近やっと、欧米並の規制値に近づいています。しかし、なかなか分解されない化学物質はすでに環境中に多く蓄積してしまっているのです。
第二のエイズ問題にならなければいいのですが。

(注1) 米国では一般人の環境ホルモンの認知度が50%に満たないといいます。
理由は、内分泌撹乱化学物質という単語を使い、環境ホルモン(environmental hormone)と言う単語を使っていないからだといいます。
ネーミングは非常に重要ですね。
ちなみに、日本での認知度は、ほぼ100%だといいます。
(注2)「沈黙の春」 レイチェル・カーソン著 青樹簗一訳 1992 新潮社文庫
(注3)「奪われし未来」シーア・コルボーン他著 長尾力訳 1997 翔泳社  
本ではTheo Colbornをシーア・コルボーンと訳していますが、NHKではティオ・コルボーンとしていました。
(注4)ppm:parts per million 100万分の1
   ppb :parts per billion  10億分の1
   ppt :parts per trillion   1兆分の1

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