和紙

蛇足
  菊の香や奈良には古き仏達  芭蕉
今日は菊のお話です。

■語源
菊は中国から奈良時代に伝来し、「きく」と言う言葉は中国音に由来すると言います。ですから「きく」は音、ただし、手元の辞書には訓も「きく」とし、音から転じたとしているものもありました。

草カンムリに鞠が本字で、丸い花の咲く草の意味です。

★chrysanthemum(菊)
英語の語源は、ギリシャ語のchrysanthemon (chrys-金の+anthemon花)です。
この単語、覚えるのが大変そうですね。英国では「菊の中には、chrys(クリス)とan(アン)とthemum(シモン)と言う三人の少女がいる」と覚えるんだそうですよ。

■菊
★キク科

キク科の花は世界中で2万種以上もあると言われ、植物の中で最大の種となっています。
有名なところでは、ヒマワリ、タンポポ、ゴボウ、ヨモギ、レタスなどがそうです。
他にも、金盞花(きんせんか)、エーデルワイス、コスモス、カモミール、アンティーチョーク、マリーゴールド、マーガレット、紅花、あざみ etc.

★原産地
キク科キク属キクの原産は中国です。
ハイシマカンギクとチョウセンノギクが中国で交雑したものが品種改良され園芸用のキクになったと言う説以外にも諸説あるようです。

★お国柄
フランスでは11月1日の万聖節にお墓に供える花なので嫌われているようです。
しかし、中国など東南アジア、米のカトリック圏、ドイツ、イギリスでは好まれているようです。
イランやコートボアジュールでは母の日に贈る習慣があると言います。

■雑
★菊人形

菊の花や葉を細工して人形の衣装として、芝居や伝承の名場面をつくって見せるものです。
そもそもの始まりは江戸時代に巣鴨
染井の植木職人が菊細工としてお寺で参拝客に見せたものだと言われます。
染井と言えば、ソメイヨシノもここでつくられたのですね。
明治になると、
団子坂(文京区千駄木)に移り、秋になると団子坂の両側には菊人形の小屋がたちならんだといいます。

漱石は「三四郎」の中で、「一行は左の小屋へ這入った。曽我の討入りがある。五郎も十郎も頼朝もみな平等に菊の着物を着ている。但し顔や手足は悉く木彫りである。」と描写していますし、
正岡子規は「自雷也もがまも枯れたり団子坂」と詠んでいます。

他にも、森鴎外「青年」、二葉亭四迷「浮雲」、江戸川乱歩「D坂殺人事件」などにも、団子坂は登場します。

★重陽の節句
一番大きな陽数である九が重なる意です。五節句の一つで、陰暦九月九日です。
菊の節句とも言われます。

古く中国ではこの日に、菊の花を酒に浸して飲む菊酒で邪気を払い長命を願うという風習があったと言います。菊の花には血を利し 身を軽くし 老いに耐え、年を延ばすとして、不老長寿の薬としての信仰がありました。
現在でも、漢方薬では、干した菊は目の病に効くとされています。

この風習が日本に伝わり、平安時代には「
重陽の節会」として宮中の行事となります。

なお、五節句は、人日(じんじつ:1月7日)、上巳(じょうし:3月3日)、端午(たんご:5月5日)、七夕(しちせき:7月7日)、重陽(ちょうよう:9月9日)です。

★十日の菊
九月九日が重陽の節句と書きましたが、翌日十日の菊はもう用済み、つまり時期遅れの例えに使われます。
同様に、五月五日は端午の節句ですから、「六日の菖蒲」も同じ意味です。
二つあわせて「六日の菖蒲、十日の菊」とも言われます。

★検事のバッジ
正式名称は検察官記章といいます。
真ん中が旭日で、まわりには菊の花弁と葉をデザインしてあります。
この形が霜と日差しの組み合わせに似ていることから、厳正な検事の職務と理想像とが相まって「
秋霜烈日のバッジ」と呼ばれています。

★菊割れ
炭は断面の亀裂から、しまり具合がわかるんだそうです。一般には黒炭の亀裂は細かいものがよく、白炭は亀裂がないものがよいとされます。
茶の湯用の
クヌギ黒炭は断面が菊花状に細かく割れることが良炭のしるしと言われ、これは菊割れと呼ばれます。

もう一つ菊割れと呼ばれるものがあります。
流し台の
排水口に取り付けるゴムの蓋です。中央から放射状に切れ目が入っていますね。あれを菊の花と見立てたのでしょう。

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