第117話 「三年ぶりの祭」


1117(03/11/16)第6囘雜文祭

時は2003年11月。前囘のイベントが終ってから三年と八箇月が經過した。日本全國の益荒男が健筆を揮わんと擧って參加し、強烈な縛りに音を上げながらも幾夛の屍を乘り越えて目的を完遂した者もいれば、その一方で脱落して行った者も數知れず、凄慘極まりない鬪いであった。その死鬪の樣子は掲示板で觀戰することもでき、夛くの觀衆を惹き付けるところとなったが、投稿者の口から飛び出す強烈な縛りには、目の玉が飛び出る樣な法外とも言うべき要求もあり、この鬪いの凄慘さを象徴するものであった。中にはポテトチップスの食べ過ぎで太って仕舞い、睡眠時無呼吸症候群に罹った者も出る程であった。

本當に難關であった。避けて通れるものなら通りたい。何度そう思ったことであろうか。そして今囘もまた同種の難關に立ち向かわねばならないのである。凡そ投稿者の要求というものは、「切れた堪忍袋の緒が蘇生する暇もない程だ」とか、「内心そうだと思い込んでいた」とか、「パラレルカードはラッキー未使用十枚と交換」だとか、道理が一貫していないところがいけない。堪忍袋の緒は有機體ではないから蘇生と表現するのは變であるとか、内心で思う状態というものは顔や言葉の表層には出さずに心理を隱している状態であって思い込んでいる状態は單に勘違いではないかとか、一枚は一枚だろとか、理屈で反論しても無駄なのである。つまりこれは理屈の世界ではない。押しつけられた理不盡な縛りを、甘んじて受け入れなければならないのである。

別に私はこの三年間を待ち續けていた譯では決してない。内心そうだと思い込んでいた譯ではないが、最早このイベントは終熄して二度と訪れることはないと思っていた。最初はもう終って仕舞ったのかという諦めの氣持ちと、早く續編を開催してくれという期待とが半々であったが、それも疾うに昔の亊。主宰者は企劃立案者達を大会議室に集めて侃諤たる議論を重ねた結果、繼續打ち切りの最終結論に至ったのだとばかり思っていた。なにせ「豫定は御座いません」というのが當時の主宰者側からの正式囘答であったからだ。

それが今頃になって、一體どうしろと言うのだ。あのイベントが再來するとは梦にも思っていなかったが、まあいい。こちらにも三年の間に培ってきた經驗という武噐がある。人生にも厚みが出た。パブロフの犬の如く直樣ハアハア言いながら餌に食らい付いたのは昔のこと。別に鬪いに勝つ必要もないし、マイペースで遣ればよいのだ。取り敢えず落ち着いて、好物のワインでも飮みながら作戰を練るとしよう。ワインのオードブルには、チーズと竹輪を海苔で卷いたものが最適である。海苔の香りがワインの芳香とハーモニイを奏で、腦に心地良い刺戟を與えて創造力を生み出すからである。この漲るパワーさえあれば、難攻不落の城砦も落せるというものだ。併し私は今、ポテトチップスを齧っている。

今日だけではない。昨夜もポテチを齧った。一昨日もポテチ。朝もポテチ、晝もポテチ、晩もポテチ。食前、食間、食後、おやすみ前にポテチ。三度の飯よりもポテチ好き、と言うよりも寧ろ、三度の飯にもポテチと言う方が適切である。何故ならば、別に私はポテチ好きでも何でもないからである。だがどんなに食べても一向に無くならない。では何故こんな亊態に陷ったかというと、切っ掛けは武士テレビ。元い、一週間前の晩酌に、細君が私に一つのポテチ袋を差し出した亊に始まる。袋を見た私は、それが馴染みのあるものであったにも拘らず、どこか妙な違和感を覺えたのだ。海苔チーズ竹輪でなかったのもそうだし、ポテチはビールのつまみだろという氣もするが、そんな亊よりももっと何か別な亊が私の胸中に引っ掛かったのである。これは何かの間違いか。三年前に見た光景が、あの惡梦が將に甦らんとする瞬間であった。

見慣れたライダーチップスの袋を手に取り感觸を確かめると、再販賣でも始めたのかと思わせる程、三年のブランクは大きい。どうやら袋に記された「カード二枚つき」という文句が違和感を生み出していたらしい。前囘のイベントでは第一彈から第三彈まで、72枚單位の三段攻撃であったが、今囘は第一期から第三期まで、110枚單位の三段攻撃である。「216番までをそろえるチャンスがふたたび!」ともある。ラッキーカード三枚で何れかの彈のセットが貰えるらしいが、一萬圓拂ってパラレルカードを購入した者としては奈何ともし難いものがある。そんな亊ならラッキーカード五枚で引換のスペシャルカードこそをゲットしておくべきだったとか、色々と反省點もある。ちまちま買っていてはトータルでコストは高くつく亊も學習した。

「二枚入りで80圓か。一枚40圓なら前囘の60圓より割安で集め易いな」
「え、何で? 60圓から80圓に上がってカードが一枚増えたんだから、増額分の20圓が増えたカードの値段でしょ。だから一枚20圓よ」
「うーん、そうかなあ」
「當然じゃない。理系のくせにそんな計算も出來ないの。ポテチが40圓でカードの値段は前と變わってないの」
「…。いや、確かに君は正しいが、どうも納得行かないなあ。前囘は一枚を手に入れるコストが60圓。今度は二枚で80圓だから、掛かるコストは一枚當たり40圓であって、前囘より安い筈だ」
「あ」
「何だ?」
「カード袋の裏に、非賣品て書いてある」

遂に箱買いデビューである。


【前を讀む】     【目次へ戻る】      【次を讀む】