BOOK REVIEW
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ドクトル・マブゼ
ノルベルト・ジャック

 その晩のエドガー・フルは、どこかおかしかった。いつもは慎重にギャンブルを楽しむフルだが、その晩はまるで分別というものがないかのような賭け方をしていたのだ。しかしそれは、フルだけに襲い掛かった事件ではなかったのだ。同じような事件が相次ぎ、事件性を感じた検察官ヴェンクは調査を始める。事件は同じようなものながら、目撃される不審な人物は、その都度異なる人物像なのであった。

 1921年にノルベルト・ジャックによって発表され、ドイツでベストセラーに、翌年、映画監督のフリッツ・ラングによって映画化された作品です。ドイツにおいては非常に有名な怪人なのだそうですが、ラングの初めの映画以外、きちんと日本において語られたことがないのではないかと思います。
 尾之上浩司氏の解説によると作者によって十四日間で書き上げられた作品だそうで、そのスピード感は読んでいても感じることだと思います。一方で作品の構造全体が杜撰な印象も受けます。最早八十年以上も昔に書かれた小説を、現代の小説技法において評価することがともするとナンセンスなのかも知れませんが、ラングの映画自体は今でもなお面白さが存在するところもあるので、僕は本書にもその時代性を乗り越える要素を期待してしまったのです。一方で、第一次大戦後の混乱したドイツの情勢を見て取ることができるかも知れません。

 先ほど杜撰だ、とは言いましたが、この荒唐無稽なストーリー展開は、何の気構えもなく楽しむことができると思います。一方で、マブゼ博士が犯罪を犯す理由、犯行方法を考えて第一次大戦後に発表された、ということを考えると、当時のドイツを覆っていた空気を否応なく感じ取らせるところもあると思います。
 しかし、果たしてラングの映画を見たことがない人が読んでみて面白いのかどうか、僕には判断がつきませんでした。フリッツ・ラング監督作の『ドクトル・マブゼ』は非常に面白いサイレント映画だと思います。ひょっとするとそれを見た上で、原作を読んだ方が、楽しめるのではないかなあ、と思いました。


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