
第19回 定期演奏会 曲目解説
1879年、46歳のブラームスは、ブレスラウ大学から贈られた名誉博士号に対して、翌年保養地バート・イシュル滞在中に書き上げたこの作品で大学に謝意を示しました。
実はこの数年前にイギリスのケンブリッジ大学からも名誉博士号の授与の話があったのですが、わざわざ遠方まで出かける用事はないとのことで辞退していたのです。
しかし今回は、ただ何か作曲してもらえれば良いと言うので受けることにしました。
お返しに贈られる作品に関しては大学側より厳粛な雰囲気を大切にした作品にしてほしいとの要望がありましたが、ブラームスはこれら期待に反し学生歌をふんだんに採り入れるなどした陽気で賑やかな作品に仕上げました。
曲の中には、4つの学生歌が取り入れられています。1曲目は、曲の前半でトランペットで荘厳に始まる「我らは立派な校舎を建てた」。2曲目が流麗な旋律が様々な楽器で演奏される「国の父」。3曲目は、ファゴット2重奏で軽快に演奏される「新入生の歌」。4曲目が、序曲の最後を飾る大合奏で演奏される「ガウデアームス(喜びの歌)」です。この4つの旋律と、ブラームス自身のつくった主題が次々に現われては喜びの気分を盛り上げます。
ストラビンスキーやショスタコービチと同時代に活躍した、ソビエト連邦を代表する作曲家の一人であるハチャトリアン(1903〜1978)は「剣の舞」で有名な「ガイ−ヌ」をはじめとする管弦楽曲、交響曲や、協奏曲など多くの曲を残している。彼は幼少時に、型にはまった音楽教育を受けなかったことも幸いしてか、ソ連音楽界では初めて、<非ロシア>の民族音楽を多く取り入れ、その後のソ連の音楽家にも大きな影響を与えた作曲家である。
「仮面舞踏会」は、19世紀ロシアの文豪ミハイル=レールモントフの同名の戯曲にもとづいて作曲された劇音楽である。物語のあらすじは、妻のニーナが仮面舞踏会でなくした腕輪をきっかけに主人公のアルベーニンが嫉妬し、ついには毒殺してしまう、という悲劇である。ちなみに仮面舞踏会とは、その言葉の通り、仮面をつけて顔を隠した男女がお互い謎のパートナーとして踊り明かす、というちょっと危ない大人のパーティーのことである。
劇音楽「仮面舞踏会」は1941年に全14曲が初演された。1944年に作曲者自身の手によって、5曲からなる2管編成のオーケストラの為の組曲が作られた。今日では組曲の方が演奏される機会が多く、今回演奏するのもその組曲である。
この曲は、初演当時からソ連の評論家からも非常に好評を得た。特に、ドラマチックなワルツ、悲哀と叙情に満ちたノクターンやロマンスは「もはやこの曲なくしては、仮面舞踏会は語れない」と絶賛されたと伝えられる。
各曲について簡単に紹介しましょう。
1.ワルツ
このワルツは組曲のタイトルにもなっている「仮面舞踏会」を表現し、全曲を運命づける中心的な楽曲です。A、B、Cの3種のワルツが(ABA〜C〜ABA)という複合三部形式で構成されています。ちょっとアブないオトナの世界、禁断の仮面舞踏会の雰囲気を味わって下さい。
2.ノクターン
ノクターンを訳すと夜想曲となります。アンダンティーノのゆったりとしたテンポでヴァイオリン独奏により主題が演奏されます。美しく叙情的なヴァイオリンの為の小さな協奏曲として作曲された曲です。美しいヴァイオリンの独奏をお楽しみ下さい。
3.マズルカ
マズルカとは、やや早い3拍子で演奏されるポーランドの民族舞踊の意味。軽快な3拍子に乗って、ハチャトゥリアンらしい華やかな音の世界が展開されます。
4.ロマンス
アンダンテの遅いテンポで、主人公の悲愛が歌われる。
ヴァイオリンによって提示された愛の歌が様々な楽器に受け継がれ、その度にその表情が変化していくロマンチックなメロディをお聞き下さい。
5.ギャロップ
ギャロップとは、もともと馬の早駆けの意味、19世紀にヨーロッパで流行った2拍子のテンポの早い輪舞の総称。
8小節の序奏の後、木管群により短2度の(作曲者のイタズラ心たっぷりの)不協和音で主題が演奏される(この不協和音の短2度の下の音が、正しいメロディとなります)。中間部では、クラリネット、フルートにより、カデンツァ風のソロが演奏され、最後は華やかに幕を閉じる。
シューマン/交響曲第1番<春>
交響曲"春"は、1841年、シューマンが31歳の時に作曲された。念願だったクララとの結婚がかなった翌年である。「谷間に春が萌えだしている」というベットガーの詩よりインスピレーションを得て、わずか一ヶ月で書き上げられ、友人のメンデルスゾーンの指揮により初演された。
シューマンは、1810年、ドイツの美しく豊かな自然に囲まれた町ツヴィカウに生れた。出版社と書店を経営する裕福な家庭で、7歳よりピアノを習い、美しい自然と文学に親しみ恵まれた少年時代を過ごす。繊細で夢見がちな感受性の強い彼は、当時全盛だったロマン主義文学に傾倒し、詩人ハイネやジャン・パウルに夢中になる。大学では法学を専攻するが、音楽への情熱を捨てきれず、19歳から、厳格なピアノ教師クララの父からレッスンを受ける。しかし無理な練習から指を痛め、ピアニストへの道を断念し作曲家を志す。この時9歳年下のクララはすでに天才少女ピアニストとして活躍していた。その後、美しく成長したクララに恋をするが、クララの父は無名の作曲家であるシューマンとの結婚を強く反対した。しかし、二人は、その障害をのりこえ、5年越しで結婚をみのらせたのである。
フランス革命以降の社会体制が移り変わる不安定な時代で、音楽もまた、貴族のものから庶民へと広がり、それまでの形式的なものから人間の様々な感情を自由に表現するようになる。文学から始まったロマン主義を、シューマンは音楽で表現したのである。まさにロマン主義音楽の申し子であった。優れた音楽評論家でもあった彼は、文才を生かし、新しい音楽を世間に紹介した。若きブラームスを絶賛し紹介したのも彼である。
シューマンの音楽はクララの存在抜きにして語れない。クララは一流のピアニストであり続けながら、シューマンをよく支えた。彼が精神障害により46歳で生涯を終えた後も、7人の子供を育て上げ、彼の曲を演奏し紹介し続けたのである。
今日は、シューマンが最も幸福だった時に作曲されたこの交響曲の人生の春の息吹とロマンを感じて頂けたら嬉しく思います。
第一楽章 Andante un poco maestoso
春の訪れを告げる始まり。萌え出した生命の息吹と躍動感に満ち溢れ、苦難をのりこえて成就したクララとの結婚の喜びと感謝が表現されている。
第二楽章 Larghetto
たそがれ。美しいメロディーが繰り返されクララとのロマンスが歌い上げられる。
第三楽章 Molt vivace
情熱的で力強いリズムと楽しい遊びを表現したリズムが織りなされる。
第四楽章 Allegro animato e grazioso
春たけなわ。幼少時より育まれた美しい自然への賛美、幸せな結婚生活への期待の高まり、まさに人生の春を謳歌する喜びにあふれた楽章である。