Nick Lowe・大人になったロック小僧

果たして、日本でのニック・ロウの一般的な知名度とはどれくらいのもんなんでしょ?67年デビューの彼がヒットチャートを賑わしたのは79年のこと。「Cruel To Be Kind」がビルボード12位を記録しているからその時代を知っている方は「ああ、あの曲の人」と思われるのかもしれない。
私がニック・ロウを知ったもの彼の最大ヒットである同曲がきっかけなんだけどオリジナルを聞いたわけでなく、日本のバンド、ボ・ガンボスのロックンロールカバーライブアルバム「The King Of Rock'n'Roll」(94年)で聞いたのが最初でした。プレスリーからドアーズまで様々なカバーが収められていた同アルバムのなかで唯一馴染みのない曲でした。あんまロックンロールっぽくなくてポップソングとのぎりぎりの線にいる感じがして、でも完成度が高いなと感じたのでした。ちょいとポール・マッカートニーのソロみたいな雰囲気でね。でクレジットを見ると「Nick Lowe/Ian Gomm」とある。ニック・ロウ?うーむ、聞いたことあるよなないよな。とりあえずオリジナルを聞いてみっぺと思い「Cruel〜」が収録されているのを確認のうえベスト盤「16 ALL TIME LOWES」を買ってみたのでした。

そこに収録された16曲、とにかくポップなんです。でも全然チャラチャラしてないんですわ。ポップなのはそのセンスであって、バンドの音はタイトでね。基本的にギター、ベースにドラム。どれも短い曲でR&Bっぽいんだけどブリティッシュ特有のシニカルさがあって。この時はじめて彼がベーシストであることを知り、ほぼ全曲、彼のペンによる作品であることも知ったわけです。さすがベーシストの書く曲は構成がしっかりしとるわいと思ったしだいです。
さらにクレジットを詳しくみると「American Stream」という曲のバッキング・ヴォーカルにE・コステロの名が。そーいやコステロと同じデーモン・レコードのリリースやなあと思い、コステロのベスト盤のクレジットを見るとなんともはや、コステロの初期作品は全てニック・ロウによるプロデュースなのでした。確かにコステロのキャラクターである神経質そうなとこを除いてもっとポジティブにするとその「ロック小品」的な曲調は似通っている。 さらに興味をそそられてアウトテイクやデモを集めた裏ベスト的アルバム「THE WILDNESS YEARS」を聞いてみるとドクター・フィールグッドに提供した曲(プロデュースも)なんてのも収録されていて、確かにDr.フィールグッドの粗暴なとこを除いてもっと脳天気にするとその「ロックンロール小僧」的なノリは似通っている。(さらに同アルバムにはニック・ロウの最初のバンド、ブリンズリー・シュウォルツ」のレコード契約を切る為に変名でリリースしたというベイシティローラーズ(!)の曲も収録されており、作者もニック・ロウとなっている。ここにいたってこのおっさんは何者ぞ!という疑問がフツフツと湧いてくるのでありました。)

さて次はオリジナルアルバムも聞いてみっかと思い、もう一丁買ったベスト盤「Basher 〜The Best Of Nick Lowe」(初めての方にはこれをお薦めします)とダブりが少ない、その時点での最近作であった「Party Of One」「Pinker And Prouder Than Previous」を購入するもそのサウンドはいまいちでなーんかノリが悪いもんでした。後から知るにこの時期、彼のポップセンスにマンネリ化の波が来てたようです。

彼のプロデュース作品、Dr.フィールグッドやジョン・ハイアット(とっても渋いアメリカのヴォーカリスト)のアルバム、さらにはデイブ・エドモンズと組んだ「ロックパイル」のアルバム(これはとてもよい)も買ったりしたが、このお方の探究もここまでにするかなと思っていた矢先、突然に彼の名をどこで見たのか思い出しました。その時は全然気にも止めなかったギターマガジンのアルバムレビューで「リトル・ヴィレッジ」というバンドがあったのです。これこそニック・ロウ(b&vo)、ライ・クーダー(g&vo)、ジョン・ハイアット(vo&g)、ジム・ケルトナー(dr)という名うての名人たちが結成した「スーパーグループ」(GM誌)で記事の扱いも大きい!こいつは「買い」だ!と直感的に判断し、聞いてみたらこれが素晴しい!本当の「大人のロック」がそこにはありました。肩のちからの抜けたそれでいて隙のないタイトな演奏、名人たちのポジティブで謙虚な姿勢。ロックのひとつの理想的到達点を見た思いがしました。

そうして94年、私にとって初めて「新譜」としてのニック・ロウを聞くこととなった「Impossible Bird」がリリースされました。この頃に復活したコステロとのコラボレーション(アルバム「Brutal Youth」やツアーに参加)と「リトル・ヴィレッジ」での活動、これらが彼の原点回帰とスタイル熟成、若々しさと円熟を同時にもたらしたように近年、最高のアルバムと賞される出来なのでした。
さらに同アルバム発表に伴うツアーで来日。中野サンプラザに足を運びました。5人編成でステージの真ん中辺りにこじんまりとしたセッティングでの演奏が実に潔く、リラックスして楽しめるライブでした。ニック・ロウは全編、ナイロン弦のエレ・ガットを使用しアンコールでは弾き語りも見せ、落ち着いたハートフルなステージは多岐に渡る長年の活動の総決算ともいえる仕上がりなのでした。
今年、98年3月「Impossible Bird」から4年振りの新作「Dig My Mood」をリリース。年輪を重ね、さらに落ち着きを増した雰囲気のあるサウンドになっています。ちょっと茶目っ気がなくなった感もありますが。


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