「流行通信」 June 1995

(実はこの記事どなたが書かれたのかわからないのです!とても知りたいのですが、、、。書かれた方を知っている方、是非教えてください!)

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Toad The Wet Sprocket

〜カリフォルニアの片隅にきらめく
アメリカンロック最後の宝石〜



―アメリカで支持されている音楽が全て素晴らしいとは限らない。しかし日本のリスナーになかなか届かない宝物があまりにも多いことも事実。そんな宝物のひとつがトード・ザ・ウェット・スプロケットだ。心を洗われるような清らかな端々しさで包んでくれる彼らの歌は、喪失感、怒り、挫折感に満ちた時代に、純粋で無垢な理想を描き続ける。


”完璧なバンド”の条件とはいったいなんだろう。詞、メロディ、ハーモニー、ヴォーカルの美しさ、ビデオやジャケットなどのアートワークのクォリティ、そしてルックス? トード・ザ・ウェット・スプロケットはその有力候補だと言える。彼らのアルバムを一聴すればその理由は解って頂けるはずだが、残念なことに、このバンドの名を知る人はまだ日本には少ないようだ。某米国系AM系ラジオ局を一日聴いてみれば、彼らの曲がかかる回数はマドンナのそれとたいして変わらないというのに。

トードのホームタウンはカフォルニア州サンタバーバラ。ヴォーカルのグレン、ギターのトッド、ベースのディーン、そしてドラムスのランディからなるこの4人組みはすでに4枚のアルバムを発表し、そのうち2枚はプラチナ・アルバムだ。若手の中ではかなりのキャリアの持ち主だが、他のメンバーより4年ほど若いグレンに至っては、1986年の結成当時、まだ14歳だった。

――グレン
「一番年下だったから以前はよくコケにされたけど、だんだん年の差は感じなくなってきた。僕たちの場合、経験豊富なミュージシャンが集まって共通点を見つけるというより、初心者が一緒に学びながら自分達のサウンドを作っていったパターン。お互いに寄り掛かりながらね。

88年に自主制作でファースト・アルバムを発表した彼らは、当初からカレッジ・チャートで熱狂的に支持されていたが、転機が訪れたのは91年。シングル「オール・アイ・ウォント」の大ヒットによってサード・アルバム「Fear〜畏怖」は100万枚を超えるセールスを記録した。
――グレン
「あれは何かの間違いとしか思えない(笑)。始めた時はまさかこれが職業になるとは思いもしなかったよ。僕たちはただ単にいい歌を作りたかっただけ。それ以外は全て副産物でしかなかったんだ。今でももっといい歌を書けるように努力している最中だし。」

その後94年に彼らは、4枚めにして最高傑作と呼べるアルバム「ドルネシア」を発表。さらに昨年は意外なところに出没し話題を添えた。キッスのトリビュート・アルバム「Kiss My A**」への参加である。ジーン・シモンズとポールスタンレー自身が“一番ぶったまげた”というのがドード版「ロックン・ロール・オール・ナイト」だったのだ。
――ディーン
「よりによってなんで僕らがキッスのトリビュートに参加するのかって、みんな怪訝そうにしてたんだよね。なにしろジーンシモンズ御大からじきじきに誘われたんだから。僕らのライブを見て以来ファンになったらしいけど、そりゃびっくりしたさ。」 そこで完成したのはとても同じ曲とは思えないスローなアコースティック・ヴァージョン。ジーン・シモンズはジャクソン・ブラウンみたいと感想を語っていたが...。
――ランディ
「ぼくはバッファロー・スプリングスフィールドだと思ってたけど」
――グレン
「ぼくの理想ではジェームス・テイラーだったのに(笑)。本当は4分の4のところを8分の6にしちゃったんだ。トードの曲ってそういうワルツっぽいのが多いしね。"ロックン・ロール・オール・ナイト"っていえば酒に女にパーティに明け暮れって感じの歌なのに、僕らのはキャンプ・ファイアを囲んで歌うような雰囲気だよね(笑)。
――ディーン
「ぼくはトードらしければそれでいいと思った。それだけでも十分笑える(笑)。」

さて、トードの魅力は何よりもグレンが手掛ける詞だといっていいだろう。"無垢な少年の目からみた世界"という表現がよく用いられるその詞が描くのは、少年が大人の世界を垣間見た時に感じる憧れ、恐れ、嫌悪感、当惑などといった感情。そして残酷なほど純粋な目が映し出す、人間関係や世界の不条理。胸が締め付けられるように切ないこんな歌がどうして書けるんだろう、とアルバムを聴きながら幾度となく思ったが、グレンの澄み切った瞳をみれば誰もが納得するはずだ。
――グレン
「多分、僕の視点は少しずつ変わってると思う。これまで10年近くの間に様々な体験をしてきたし、いつまでも少年ではいられない。少しは成熟してるといいんだけど(笑)。」

以前グレンは"一曲一曲がまるで映画のようだから"とケイト・ブッシュのアルバムをお気に入りの一枚に選んでいたが、彼の詞にも同じような質が感じられる。
――グレン
「どうかな...僕はあまりダイレクトに状況説明をしないようにしてる。叙述はかなり多いけど言葉で説明されてない部分こそきっと重要なんだ。ディテールは聴く人それぞれが埋めていくって言うか...。どうせケイト・ブッシュには勝てっこない(笑)。確かにキャラクターに語らせるのは好き。彼らの行動も説明する。でも、彼らを繋ぐ文脈や背景を構築するのはリスナーの役目さ。不明瞭な部分を埋めることによって歌は豊かになるんだ。

今のアメリカのロック・シーンでも抜きんでた詩人の一人であるグレンだが、彼の詞はいわゆるジェネレーションX的フラストレーションの爆発とは一線を画す。
――グレン
「結局のところ怒りに任せているほうが楽なんだと思う。"おれには怒る権利がある"と宣言してしまうほうが。そうすれば何もしなくていい。問題を解決する必要も答えを探し求める必要もない。何かをクリエイトするには悩み苦しまなければ、という妙な神話が今の若者を捉えてしまっているんだ。」
――ランディ
「"悩めるアーティストの神話"シンドロームってやつだね。」
――グレン
「うん。まるで苦しみ続けることが崇高で偉大なことであるかのように。確かに苦しみに耐えることも素晴らしいかもしれない。でも僕が思うに、本当に崇高なことはその苦難を受け入れて乗り越えること。一生そこに留まり続けるんじゃ意味がない。苦しみに触れることによって初めて喜びを見いだせる、という理想はどんな哲学の基礎にもあると思う。苦しみは人生の常だということを認めなくちゃ。だから僕たちの歌の多くはこの葛藤をテーマにしている。いつも苦しみの向こう側を見つめながら。今のアメリカに満ちている怒りには理由も充分にあるさ。でもそれは最初の一歩であって、最終目的じゃないんだってこともみんな気付いてない。全てのバンドがそうだとは言えないけど、そういう傾向が強くて、ほとんどエゴとしか思えない。ま、みんな子どもなんだよね、所詮(笑)。」
――ディーン
「まだまだ青いよ。僕らみたいに大人になればわかるさ(笑)」

屈託なく笑い転げる4人は、とても満場のホールを沸かせるロック・バンドには見えない。しかし昨年11月、アメリカはセントルイスで体験したライブで、彼らの人気の原点を見せ付けられたような気がした。グレンと合唱する満場の聴衆の声がエコーする会場。何の飾り気もないステージに立つどこにでもいそうな4人の若者。そこにあるのはだた、彼らが淡々とプレイし続ける音楽だけ。バンドは持つもの全てを与えファンは求めているものを得る――そんな当たり前のことがあまりにも新鮮に感じられた、それは不思議な一晩だった。あのライブを体験した数少ない日本人のひとりとして、これからもトードの魅力を語り続けずにはいられない。


*メンバー紹介の写真の下に "幼なじみである4人は「ほかのバンドでは考えられないほど強い絆で結ばれている」とランディ。" とあります。彼らがバンド存続を考える時に友情を第一に考えた理由がうかがえますね。





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