==> 国立大学独立行政法人化の諸問題
「経済」2000.9月号 p127-137

独立行政法人化と国立大学の財政問題

小淵 港(愛媛大学教授)

抜粋

2. 国立大学の財政の現状

(1)国立学校特別会計

国立大学の財政は、戦後しばらくは一般会計において処理されていたが、1964年(昭和39年)以降は一般会計から分離されて国立学校特別会計において行われてきた。特別会計とは、政府が特定の事業を営む場合、特定の資金を保有し運用を行う場合、あるいは特定の収入を特定の支出にあてる場合などに、一般会計と区別して設けられるものである。国立学校特別会計の場合には、授業料収入、附属病院収入、財産処分収入などの自己調達財源と一般会計からの受入金とを財源として、国立大学、附属学校、附属病院、研究所等の運営が行われている。

特別会計への移行は当時余り大きな議論もなく、大蔵省主導で行われたようであるが、その主たる意図は理系学部増設等で予算の増加率と規模とが相対的に大きかった国立大学予算を特別会計に移すことで、一般会計の膨張をみかけ上抑制しようとする「財政合理化」にあったとされている。

また関係者の説明によると、国立学校の弾力的な運営、施設の急速な充実整備が制度変更の目的であって、これにより、学校所属の不用財産の処分収入を施設整備にあて、財政投融資資金の借入を大学付属病院等の整備に用い、決算剰余金の一部を積立金として施設整備にあてるなど、従来はできなかった財政運営を行いうるようにしたのである。

高度成長を背景に進められた理工系学部拡充や工業高等専門学校の新設に伴う施設整備などが、一般財源だけではなく、借入や財産処分収入などをも財源にして進められることとなったのである。特別会計移行後しばらくは、政治的判断で授業料の値上げが押さえられたが、国立大学の施設の貧弱さは授業科が安いからだという主張が政府によって行われ、あるいは私立大学との格差是正を理由として、やがて授業科・入学金の大幅値上げの時代に移っていくことは良く知られている通りである。

(2)国立学校特別会計の推移

表1は最近の国立学校特別会計の歳入歳出内訳である。これをみると、一般会計からの受入が最も大きな割合を占めて57%、次いで附属病院収入が19・3%、授業科等が12・4%、借入金2・9%、財産処分1・2%などとなっている。一般会計からの受入が50%を超えているとはいうものの、病院、授業科収入が合わせて30%を上回っていることに注目する必要がある。事業収入、受益者負担への依存が強まつていることを示しているからである。特別会計歳入総額に占める主要財源の構成比の推移を、特別会計に変わって後の1964年度以降についてみてみると、表2のようになる。一般会計からの受入の占める割合(繰入率)は70年度以降、持続的かつ急速に低下していることがわかる。

この原因の一つは、授業料・入学科等の継続的な引き上げである。1964年には四年制昼間部の年間授業科は1万2000円であり、歳入総額に占める授業科等の割合は2.3%に過ぎなかった。それが、70年代半ば頃から授業科と入学科とが隔年ごとに引き上げられるようになり、99年度には授業科は47万4800円、入学料は二七万円となり、実に40倍近い引き上げとなったのである。歳入に占めるその比率99年度には年々高まり、90年度には10%を突破し、12.4%に達していることである。

第二の原因は、この間一県一医大政策によって医学部の増設が行われ、病院収入が相対的に増加したためである。こうして、独立採算化ではなく運営の弾力化を目的に行われたはずの国立学校持別会計の35年間は、公費負担比率の一貫した低下、独立採算的傾向の強化、受益者負担増加の歴史であったと言うことができる。」

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表1 国立学校特別会計(単位:億円、%)
	                1996年度 	 1999年度	
                	決算	構成比	 予算	  構成比    
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〈歳入〉				
一級会計より受け入れ	16,053	55.8	15,537	57.0
借入金	                   870	 3.0	   791	 2.9
附属病院収入	         4,839	16.8	 5,273	19.3
授業科及ぴ入学検定科	 3,054	11.0	 3,380	12.4
財産処分収入               162	 0.6	   318	 1.2
前年度剰余金受入	 2,609	 9.1	   594	 2.2
その他	                 1,206	 4.2	 1,368	 5.0
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合計	                28,792 100.0	27,261 100.0
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〈歳出〉				
国立学校                14,836	55.6	15,913	58.4
大学附属病院             5,597	21.0	 6,070	22.3
研究所	                 1,661	 6.2	 l,970	 7.2
施設整備費	         3,728	14.0	 1,641	 6.0
国債整理基金へ繰入	   816	 3.1	 1,009	 3.7
その他                      29	 0.1	   658	 2.4
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合計	26.667	100.0	27.261	100.0
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(出所)『財政統計』1999年版。

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表2 国立学校特別会計歳入内訳の推移

                	1964年度   1970年度   1980年度   1990年度   1999年度
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歳入総額	           l,395     3,054     13,180   19,888   27,261
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一般会計からの繰入         82.1%     83.l%      74.4%    60.3%    57.0%
授業科等収入                2.3%      2.0%       5.2%    10.0%    12.4%
附属病院収入               12.5%     12.3%      14.3%    20.9%    19.3%
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(注)数字は当初予算額。(出所)『国の予算』各年版。
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3.独立行政法人化されれば予想されること

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「予想される財政上の問題を、現実の大学財政に即して少し見ておこう。ただし、各国立大学の財政状況はごく簡単にしか公表されていない。『大学案内』等に公表されている資料をもとに、財政状況の概要を試算してみるしか方法がない。誤差を恐れずに検討してみると、以下のようなことが明らかとなる。

愛媛大学の98年度の歳出総額は、約313億9800万円である。これに対し授業科、病院収入等の自己調達財源(歳入)は、149億1400万円であり、不足分164億8400万円は国の一般会計によって負担されていることになる。必要額に対する自己調達財源の比率(自己財源率とする)は47.5%である。この内医学部付属病院は、歳出107億1800万円、歳入92億800万円と財政規模が極めて大きいが、これを除外して考えてみると、歳出206億8000万円に対し、歳入57億600万円で自己財源率は27.6%にすぎなくなる。病院を除く愛媛大学は、大学運営に必要な経費のうち約四分の一しか自己財源で賄っていないことが分かる。自己財源の内訳を見てみると、授業科・検定科が47憶6400万円、雑収入9億1500万円であり、財産収入はゼロである。雑収入には附属農場・演習林収入が含まれているはずだが、金額的にはわずかなものと考えられ、大部分は科研費補助金、奨学奇付金、受託研究費等の外部研究資金であろう。

独立法人化された場合、政府は独立採算制ではなく連営費交付金で措置されると言っているが、運営の効率化と自己財源の調達努力を求められることは火を見るより明らかだと言ってよい。そこで最悪のケース、公費負担が無くなった場合を想定してみると次のようになる(病院を除外して計算)。歳出206億8000万円を自己財源で賄おうとすると、何らかの方法で158億2500万円の増収をはからなければならない。これを授業科のみで行おうとすると、大学院を含む在籍者数9828人で計算して一人当り約161万円の投業料値上げが必要となる。外部資金の獲得に努めて、雑収入を30億円まで増やしたとしても、授業科は約140万円の引き上げが必要である。このような授業科の徴収は不可能であり、公費負担無しで行おうとすると教職員の大幅削滅が必要となろう。

もう少し現実的に、公費負担が歳出の二分の一まで引き下げられたとしよう(現在の公費負担は先述のように、72.4%である)。この場合には103億4000万円を自己調達する必要があり、外部研究費を15億円集めたとしても、授業科は89.9万円(計算上入学金は無視する)となり現在の約二倍に引き上げることが必要となる。また、この場合には学部格差授業科を設けることが避けがたくなるが、格差の設定の仕方によっては医学部の授業科は現在の五倍にする必要がある。

今日の財政状況と政府の政策動向からする時、独立法人化されれば、従来同様の財源が保障されるとは考えられず、授業科の引き上げ、外部資金の獲得、経常的経費の削減などが強く求められることになるであろう。しかし、景気の長期停滞の中、外部資金は、特に地方国立大学では大幅な増収を期待することはできない。大学財政の構造は人件費の比重が高く、財政の効率化を備品や消耗品の節約で達成することは困難である。行きつくところは、授業料の引き上げと教職員の人員削減という最悪の方向である。」