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21世紀の高等教育に向けての世界宣言:展望と行動

ユネスコ高等教育に関する世界会議

1998年10月9日、パリ

21世紀の高等教育に向けての世界宣言:展望と行動

京都府立大学 金澤 哲 訳

http://www.kpu.ac.jp/Resource/UnescoJ.html より転載(訳者後書

目次

  • 前文
  • 高等教育の使命と機能
  • 高等教育の新たな展望の構築
  • 展望から行動へ
  • 訳者あとがき

  • 前文

     新世紀を目前に控え、高等教育への需要はこれまでにないほど高まる一方、それ自体の多様化もまた非常に進んでいる。さらに、社会文化および経済の発展のため、ならびに来るべき世代が技術・知識・理想を身につけて将来の建設に備えるために、高等教育が果たすべき決定的な重要性に対する認識も深まっている。高等教育とは「実効性ある国家権威によって高等教育機関として認められた大学または他の教育施設によって提供される、中等後教育レベルのあらゆる種類の研究・教育・訓練」を含んでいる。高等教育はいたるところで財政、学習課程への参加時および参加後の条件の平等化、教員の資質向上、学力別教育、教育・研究・社会貢献のレベル維持および向上、教育内容の妥当性、卒業生の就職能力、効率的な協力関係の設立や国際協力の利益の平等な分配などの巨大な試練と困難に直面している。同時に、高等教育は知の生産・管理・分配・評価・支配を向上させるテクノロジーによって生み出された新たな可能性によって挑戦を受けている。そのようなテクノロジーは教育システムのあらゆるレベルにおいて平等に利用できるようにされなければならない。

     今世紀の後半は目を見張るほどの膨張の時代として高等教育の歴史に残るであろう。世界全体で学生数は1960年の1300万人から1995年の8200万人へと6倍以上増えている。しかし、これはまた工業先進国と発展途上国とりわけ最貧国との間に既に存在していた、高等学習および研究への参加および手段に関する大きな格差がさらに広まった時代でもあった。また、この時代には一部の最先進国においてさえ国内における社会経済的階層分化が一層進み、教育機会の不平等が広まっている。技術と教育を身につけた十分な数の人材を供給する高等教育・研究機関なしには、いかなる国も完全に内発的で持続的な発展を遂げることはできず、とりわけ発展途上国や貧しい国々は、工業先進国との格差を埋めることはできない。知識の共有、国際協力、そして新しいテクノロジーは、この格差を縮めるための新しい可能性を与えてくれるものである。

     高等教育は何世紀にも渡って成長を続けており、自らを改革すると同時に社会の改革と発展をもたらしてきた。その変化の大きさと速さのために社会はますます知識重視となり、高等学習と研究は、今や個人・地域共同体・国家が文化的・社会経済的に環境を損なわず発展するための不可欠の要素となっている。それゆえ、高等教育自体が途方もない試練に直面しており、これまでに求められなかったほどの根本的改革と再生へと進んでいかなければならない。それによって、現在深刻な価値観の動揺に見舞われている我々の社会は、単に経済的な観点から事態を考えるのではなく、より深い道徳的・精神的観点から事に当たることができる。

     このような試練の解決と世界中の高等教育の徹底的な改革の動きを進めるために、ユネスコは「21世紀の高等教育に関する世界会議:展望と行動」を開催した。この会議の準備として、ユネスコは1995年に『高等教育の改革と発展のための計画書』を公にしている。その後5度に渡って地域会議が開催された(ハバナ1996年11月、ダカール1997年4月、東京1998年7月、パレルモ1997年9月、ベイルート1998年3月)。それらの会議によって採択された宣言と行動案は、この世界会議の準備中になされたあらゆる議論と同様、それぞれの独立した価値を損なうことのない形で世界宣言に十分に生かされており、付帯文書として添えられている。

     我々、1998年10月5日から9日にかけてパリ、ユネスコ本部に集まった「高等教育に関する世界会議」の参加者は

    国連憲章、世界人権宣言、経済、社会、文化権利に関する国際規約、公民権および政治的権利に関する国際規約の諸原則に思いをいたし、

    また、世界人権宣言第26条第1項に「誰もが教育を受ける権利を持つ」、「高等教育は能力に応じ誰もが平等に参加できなければならない」とあることにかんがみ、さらに第4条において国家の側に「高等教育を能力に応じてあらゆる人々が参加できるものにする」ように求めた「教育における差別に反対する条約」(1960)の根本原則を支持し、

    高等教育に関する主要委員会や会義、なかんづく「21世紀の教育に関する国際会議」、「文化と発展のための世界会議」、第44・45回「教育国際会議」(1994年、96年ジュネーブ)第27・29期ユネスコ総会における決議、なかでも「高等教育に携わる教員の地位に関する勧告」に関係するもの、「万人のための教育に関する世界会議」(1990年タイ国ヨミチェン)「国連環境開発会議」(1992年リオデジャネイロ)、「学問の自由と大学の自治に関する会議」(1992年、シネア)「世界人権会議」(1993年ウイーン)、「社会発展のための世界サミット」(1995年コペンハーゲン)、第4回「世界女性会議」(1995年北京)、「世界教育情報会議」(1996年モスクワ)、「21世紀の高等教育と人的資源開発のための世界会議」(1997年マニラ)、第5回「成人教育のための国際会議」(1997年ハンブルグ)、そしてとりわけ、「未来のための行動計画」第2主題(学習の環境と質の向上)の以下の部分:「我々は成人学習者に学校・大学への門戸を開くように努め、高等教育に関する世界会議(1998年パリ)に対し、中等後教育機関を生涯学習機関に改変し、大学の役割をそれに応じて再定義することを求める」を考慮し、

    教育は人権・民主主義・持続的成長および平和の根本的な支えであり、それゆえ生涯に渡って参加可能でなければならないと確信し、またさまざまな部門、とりわけ一般的・技術的・専門的中等および中等後教育ならびに大学および技術教育機関の、枠にとらわれない調整と協力を実現させるための手段が必要であると確信し、 この観点から、21世紀を目前にした我々が直面している様々な問題の解決は、将来の社会への展望、および教育一般なかでも高等教育に課せられる役割にかかっていると信じ、

    新しい1000年に入ろうとする現在、平和の文化の価値と理想を広く行き渡らせ、そのために知的世界に属する人々を動員することが高等教育の義務だと自覚し、

    高等教育の大幅な改変と発展、その質と有用性の向上、さらにその直面する主要な問題の解決には、政府や高等教育機関の強力な関与が必要なだけではなく、学生およびその家族、教師、商業や産業、私的・公的経済部門、議会、報道機関、地域社会、専門家組織・学会を含むあらゆる関係者の強力な関与が必要であり、また、高等教育機関が社会に対し一層の責任を担い、公的・私的・国家的・国際的な資源の利用についてさらなる責務を負うことが不可欠であると考え、

    高等教育システムは、不確かな状況に耐える能力、自ら変わり周囲をも変えてゆく能力、ならびに社会のニーズに応え連帯と平等を進める能力を向上させるべきであること、さらに、そのレベルを達成・保持するために不可欠な科学的厳密さと独創性を公正に維持・行使し、また、生涯学習という視点に基づき学生をその関心の中心に据え、来るべき世紀の世界的知識社会の完全な一員にするべきであることを強調し、

    さらに、国際的な協力と交流が世界全体の高等教育の発展の主要な方法であると信じ、

    以下のように宣言する。

    高等教育の使命と機能

    第1条 教育・訓練・研究遂行の使命

    我々は高等教育の中心的使命および価値、とりわけ社会全体の持続的発展と進歩への貢献という使命が、維持・強化され、さらに拡張されるべきことを宣言する。具体的には、

    (a) 社会で役立つ資格を与え、人間活動の全分野の必要に応えることのできる高度な能力を身につけた卒業生と責任ある市民を育てること。この資格とは、現在および将来の社会の必要に合わせて常に見直される教育課程や教育内容を通じ、高度な知識と技術を結びつける専門的な訓練を含むものである。

    (b) 高等教育と生涯教育の機会を提供し、学習者にシステム内のどこから始めどこで終えるか最高の幅と柔軟性を与え、また個人の発展と社会的流動のための機会を与えること。これは市民としての義務と権利、全世界的視野からの社会への積極的な参加、潜在的能力の開発、正義に基づく人権の強化、持続的成長、民主主義および平和を目指す教育のためである。

    (c) 研究を通じ知を進め、創造し、広めること。また、地域社会への貢献の一部として、社会に役立つ専門家を育て、社会の文化的・経済的発展を助け、社会科学・人文学・創造的芸術だけではなく科学や技術の研究を促し発展させること。

    (d) 文化の多元性および多様性を前提として、国家的・地域的・国際的・歴史的文化を理解・解釈・保存・増進・発展・普及させること。

    (e) 民主的な社会に生きる市民としての基礎を成す価値観を若者たちに身につけさせ、将来に関わる重大な岐路の選択や人道的な視野を深めるのに役立つ批判的・客観的な視点を提供することによって、社会の根本的価値の維持・増進に貢献すること。

    (f) 教師の養成などを通して、あらゆるレベルの教育の発展と向上に貢献すること。

    第2条 倫理的役割、自律性、責任、および先見的機能

    ユネスコ総会によって1997年11月に承認された「高等教育教員の地位に関する勧告」に従い、高等教育機関、その職員および学生は

    (a) そのさまざまな活動において、倫理および科学的・知的厳格さを行使することにより、その肝要な機能を守りまた発展させなければならない。

    (b) 倫理的・文化的・社会的問題に関し、責任を自覚した上で、完全に独立した発言ができなければならない。それは社会が自ら問題を考慮・理解し、その解決のために行動するのに必要な一種の知的権威を行使することである。

    (c) 社会・経済・文化・政治の絶え間ない潮流分析に基づき、予測・警告・阻止のための焦点を提示することによって、批判的および先見的機能を増進させなければならない。

    (d) その知的能力と道徳的威信を行使し、ユネスコ憲章にうたわれた平和・正義・自由・平等・連帯を含む普遍的価値を守り、積極的に広めなければならない。

    (e) 一組の権利と義務として理解された自由と自律性を完全に享受する一方、社会に対し完全に責任を持ち、その活動を説明できなければならない。

    (f) 地域社会・国家・世界の繁栄に影響を与える問題を明らかにし、それに立ち向かうことに寄与しなければならない。

    高等教育の新たな展望の構築

    第3条 入学機会の平等

    (a) 世界人権宣言第26条に則り、高等教育への入学許可は入学希望者の成績・能力・努力・忍耐・献身に基づいて与えられるべきであり、また、全生涯に及ぶ人生設計の中に位置を占め、生涯のいかなる時期にも可能でなければならない。その際、以前に修得した技能はふさわしい評価を受けるべきである。その結果、高等教育への入学において、人種・性・言語・宗教・経済文化社会的地位・身体的障害などによるあらゆる差別は許されない。

    (b) 高等教育への入学機会の平等は、あらゆる他のレベルの教育、とりわけ中等教育との繋がりをあらためて強化し、必要とあらば調整することから始められなければならない。高等教育機関は、幼年期教育と初等教育から始まり生涯に渡って続く切れ目ない教育システムの一部と見なされるべきであり、そうなるべく自ら努め、そのシステムを強化しなければならない。高等教育機関は、保護者・学校・学生・社会経済団体・地域社会との活発な協力関係を築かなければならない。中等教育は幅広い基礎に基づいた学習能力を発展させることで、質の高い高等教育への入学希望者を育てるのみならず、広範囲に渡る職業に関する訓練を与え、活動的な人生への門戸を開いてやらねばならない。しかしながら、高等教育への入学機会は、中等教育または同等の機関の修了者あるいは十分な入学資格を証明した者に対し、いかなる年齢においても、またあらゆる差別なしに開放されていなければならない。

    (c) 以上の結果として、急速かつ広範囲に渡る高等教育への需要に応えるため、必要に応じ、上記第3条(a)で定義された個人の成績に基づく入学を優先させるべく、入学に関するあらゆる方策がはかられなければならない。

    (d) 先住民、文化的また言語的少数者、恵まれない人々、被占領地域の住民、障害者など、一定の配慮を必要とする人々の高等教育への参入は、積極的に促進されなければならない。そのような人々は、集団および個々人として、社会や国家の発展のために大いに価値のある経験や才能を持っているからである。特別な物質的援助および教育的手段により、これらの人々が高等教育に参加し学習を継続するための障害を取り除くことは可能である。

    第4条 女性の参加の拡大とその役割の向上

    (a) 高等教育への女性の参加を拡大させる著しい進歩が成し遂げられたとはいえ、さまざまな社会・経済・文化・政治的障害が、世界の多くの地域で女性の完全で効果的な参加を妨げている。それらの障害を乗り越えることは、成績の原理に基づく公平で非差別的な高等教育システムを実現させるための改革の過程において、依然として緊急の優先事項である。

    (b) 高等教育においてあらゆるジェンダーに関する偏見を捨て、ジェンダーのいろいろな側面をさまざまな学問分野において考察し、あらゆるレベルとりわけ女性が十分に活躍していない学問分野において女性の参加を強化し、女性たちが意志決定権を手に入れるために、一層の努力が払わなければならない。

    (c) ジェンダー研究(女性学)は、高等教育と社会の変化をもたらすために、知の一分野として発展させられなければならない。

    (d) 女性の活躍を阻害している政治的社会的障害を全廃し、高等教育や社会における方針決定や意志決定に女性たちがより積極的に関われるように、努力が払われなければならない。

    第5条 科学、芸術、人文学の研究による知の増進およびその成果の普及

    (a) 研究による知の前進は、高等教育のあらゆるシステムの本質的な機能である。高等教育のシステムは大学院での研究を促進するべきである。既存学問分野の革新、いくつもの分野に渡ったり既存の分野を越えた新しい分野の開拓が、社会的および文化的な目標とニーズを長期的に見据えた計画において促進・強化されなければならない。また、基礎研究と特定の目的のための研究との間には、適当なバランスが必要である。

    (b) 各機関は研究に携わる者全員に、適切な訓練・便宜・支援が与えられるようにしなければならない。研究結果に対する知的文化的権利は、人類の利益のために用いられなければならず、悪用されないよう保護されねばならない。

    (c) 研究はあらゆる分野で進められなければならない。それには社会科学・人文科学・教育学(高等教育を含む)・工学・自然科学・数学・情報学・諸芸術が含まれ、その研究は国家的・地域的・国際的な研究発展のための指針の枠内でなされなければならない。特別重要なのは、高等教育機関内における研究能力の強化である。というのは、高等教育と研究が高いレベルにおいて同一機関内で行われるとき、ともにその質が向上するからである。そのような機関は必要な物質的および財政的援助を、公的および私的財源から与えられるべきである。

    第6条 社会的問題への長期的な取り組み

    (a) 高等教育の有用さは、社会の高等教育機関への期待とそれらの機関の実際の業績との整合性によって評価されるべきである。このためには倫理的基準・政治的不偏性・批判能力と並んで社会の様々な問題や勤労の世界とのよりよい関係が必要であり、それらは文化の尊重や環境保護を含む社会の目標・ニーズへの長期的取り組みに基づくものでなければならない。重要なのは、広い一般的な教育と、しばしば学際的で技術と能力に狙いを絞った特定の職業のための教育の両方をともに与えることである。それらはともに、流動的でさまざまに移り変わる状況に対応し適宜職業を変えてゆく力を与えるものである。

    (b) 高等教育は社会へ貢献する役割を強化しなければならない。とりわけ、問題を学際的な視点や既存の分野を越えた視点から分析することによって、貧困・不寛容・暴力・非識字・飢餓・環境悪化・病気の根絶を目指す活動に貢献しなければならない。

    (c) 高等教育は、教師教育の向上・カリキュラム開発・教育に関する研究を通じて、教育システム全体の発展のために一層貢献しなければならない。

    (d) 究極的には、高等教育は新しい社会の創造を目指さなければならない。それは非暴力的で何人をも搾取せぬ社会であり、高い教養と意欲的で調和のとれた人格を持ち、人類愛に鼓舞され叡知に導かれる人々から成る社会である。

    第7条 勤労の世界との協力の強化および社会的ニーズの予測と分析

    (a) 知識とその応用および情報の処理から生じた変化と新しい生産様式によって特徴づけられる経済において、高等教育と勤労の世界および社会の他の分野との繋がりは強化され新しいものにされなければならない。

    (b) 勤労の世界との繋がりを強化するため、勤労の世界からの高等教育機関の運営への参加、学生・教師の国内および外国での実習・勤労研究の機会の増加、勤労の世界と高等教育機関との間の人的交流、あるいは勤労の実態により則したカリキュラムへの改革などがはかられなければならない。

    (c) あらゆる年齢層の人々に専門的訓練を行い、最新の情報を与え、経験を生かす方法を提供する機関として、高等教育機関は勤労の世界や科学・技術・経済の分野における新しい潮流を組織的に取り入れるよう努めなければならない。勤労の現場での必要に応えるため、高等教育システムと勤労の世界は協同し、理論教育と職業訓練を調和させた学習課程、転職支援教育課程、既学歴評価体制を発展させ、またその評価を行うべきである。社会のニーズを予想する機能を持つという点において、高等教育機関は新しい職業の創造に貢献する。もっともそれは高等教育機関の唯一の機能ではない。

    (d) 新たな事業を興すための技術と先取の気性を養うことは、高等教育機関の重要な目的となるべきである。それは卒業生の就職を容易にし、かつ、卒業生が単に職を求めるだけでなく職を創造する側に立つことを促進する。高等教育機関は学生が社会的責任を自覚しながら自己の能力を完全に発展させる機会を提供し、また、民主的社会に全面的に参加し平等と正義をもたらす改革の推進者となるべく教育しなければならない。 

    第8条 機会平等促進のための多様化

    (a) 高等教育のあり方および学生募集の方法・基準の多様化は、増大する国際的な要求に応えるために不可欠であり、また、卒業にいたるさまざまな道筋を提供し、増大し続ける一般からの関心に一層広く応えるために不可欠である。それは、生涯教育という観点から、高等教育システムをどこで始めどこで終えるかという点に関して柔軟な態度をとるものでなければならない。

    (b) 多様化の進んだ高等教育システムは、公立・私立あるいは非営利の機関のような、新しいタイプの第三次教育機関を特徴とする。それらの機関は広範囲に渡る教育・訓練の機会を提供できなければならない。具体的には、伝統的な学位取得課程、短期課程、特定の時間だけの履修、柔軟な時間割、自由に組み立て可能な学習課程、遠距離学習の支援などである。

    第9条 革新的な教育方法:批判的思考と創造性

    (a) 急速な変化を遂げつつある世界では、高等教育に関する新しい展望と枠組みが求められる。新しい高等教育は学生本意のものでなければならず、ほとんどの国において、かつて見られなかったほど多様な人々の必要に応えるための徹底的な改革と門戸開放方針を求めるものである。また、高等教育の内容・方法・実施・伝達方法に関しても同様に新しい展望と枠組みが必要であり、それは地域社会をはじめ社会の広範な層との新たな繋がりと協調に基づかなければならない。

    (b) 高等教育機関は広い知識と深い意欲を備えた市民を育成しなければならない。それは、批判的な思考力を持ち、社会の様々な問題を分析しその解決をはかり、社会に対する責任を担うような人物でなければならない。

    (c) これらの目標を実現するためは、新しい適切な方法を導入してカリキュラムを再構築し、ただの習熟に基づく学科の習得以上のものを目指さなければならない。新しい教授法・講義法が公開・普及され、技術の習得・コミュニケーション能力・創造的および批判的分析力・多文化社会を前提とした思考の独立や共同作業を容易にしなければならない。そこでは、創造力はまた、伝統的あるいは地域的な知識やノウハウを先進的な科学・テクノロジーと結びつけることを手助けしなければならない。そのように再構築されたカリキュラムは、ジェンダーの問題や、それぞれの国における特定の文化的・歴史的・経済的な背景を考慮に入れなければならない。人権の基準をはじめ、世界のあらゆる地域の人々が必要とするものの教育が、あらゆる学問分野、とりわけ起業家の養成に関わる分野のカリキュラムにおいて反映されなければならない。カリキュラムの決定にあたっては、高等教育に携わる人間が主要な役割を果たさなければならない。

    (d)また、 新しい教育方法はこれまでになかったような教育・学習素材を求めるであろう。それらは新しい評価方法と組み合わされ、単に記憶力だけではなく理解力および実際的な技術と創造性を発展させるものでなければならない。

    第10条 主要当事者としての高等教育職員と学生

    (a) 構成員の質的向上を熱心に求めることは、高等教育機関の本質的な要素である。高等教育に携わる教員に関し、明確な方針が立てられなければならない。教員の今日の務めは、知識の源泉であるよりはむしろ、学生に学習の方法や自ら積極的に探求する態度を教えることにある。研究および教授法の向上と発展をはかるため、十分な財政的支援がなされなければならない。またそのためには、教員の質的向上のための適切な計画が必要であり、それはカリキュラム・教育方法の絶えざる改変を促すとともに、職業的にも経済的にもふさわしい地位を確保するものでなければならず、また、1997年11月ユネスコ総会によって承認された「高等教育教員の地位に関する勧告」の関連条項を反映し、卓越した研究と教育を目指すものでなければならない。この目的のためには、国際的な経験がより重視されなければならない。さらに、生涯学習のために高等教育が果たすべき役割にかんがみ、教育機関以外での経験もまた高等教育に携わる有効な資質の中に含めて考えれるべきである。

    (b) すべての高等教育機関は、幼児教育や中・初等教育に携わる教師を一層向上させるための明確な方策を立てるべきであり、カリキュラムの絶えざる改変のための刺激を与え、教育方法の模範的な例を示し、さまざまな学習スタイルになじませなければならない。

    (c) 国家および教育機関の意志決定者は、学生とそのニーズを考慮の中心におかなければならない。また、高等教育の改革にあたっては、学生を主要なパートナーかつ責任ある当事者と見なさなければならない。このことには、教育レベルに関するさまざまな問題や、評価・教育方法およびカリキュラムの改変への学生の関与が含まれ、さらに、権力・方針形成・組織運営に関する組織的枠組みへの参加も含まれる。学生が自らを組織し自分の意見を述べる権利を持つのと同様に、これらの問題への学生の関与も保証されなければならない。

    (d) ガイダンスやカウンセリングの機能は、学生組織との協力の上で発展させられなければならない。それは、あらゆる年齢層の学生が高等教育に適応してゆくのを支援し、ますます多様化する学習者のニーズに配慮するためである。他の学校や各種学校からの入学者とは別に、生涯に渡る人生設計の中で退学し再入学する学生のニーズも考慮されなければならない。そのような学生へのサポートは、教育課程を学生にふさわしいものとし、中途退学者を減らすのに重要な役割を果たす。また、中途退学者は、適当な場合あるいは時に、高等教育に戻る機会を与えられるべきである。

    展望から行動へ

    第11条 質的評価

    (a) 高等教育の質とは多面的な概念であり、そのすべての機能や活動を包含するものでなければならない。具体的には、授業・教育計画・研究・奨学金・教職員・学生・建物・設備・備品・地域社会への貢献・学問的環境などをすべて含まなければならない。内部評価および専門家(国際経験のある人物が望ましい)によってオープンに行われる外部評価は、質の向上のために不可欠である。独立の国家組織が設けられ、国際レベルの比較基準が定義されるべきである。多様性を考慮に入れ画一性を避けるためには、個別の組織的・国家的・地域的な事情に十分な注意が払われなければならない。また、組織評価の過程において、当事者たちの関与は不可欠のものとして認められなければならない。

    (b) 高等教育の質というものは、また、国際的な側面によって特徴づけられなければならない。それは具体的には、知識の交換・相互交通的なネットワーク・教師や学生の移動・また国際的な研究プロジェクトなどのことである。一方、それはそれぞれの国の文化的価値や環境を考慮に入れたものでなければならない。

    (c) 国家的・地域的・国際的な質の獲得・維持のためには、教職員のあり方が特に深い関わりを持つ。とりわけ教職員の注意深い採用とその絶え間ない向上が肝要であり、教職員の向上のための適当な計画を推進することが必要である。そのためには、国際的な学生の交流だけではなく、教育学習法・国際的な交流・他の高等教育機関や勤労の世界との交流の向上が図られなければならない。新しい情報テクノロジーは、知識とノウハウの習得の方法を大きく変える可能性を持っており、このための重要な手段である。

    第12条 テクノロジーの可能性と挑戦

     新しい情報通信テクノロジーの急速な発達は、知識の発展・習得・伝達の方法をさらに変えてゆくであろう。新しいテクノロジーが、教育内容や教授法を変え、高等学習への参加を容易にする可能性を与えてくれるという点もまた注目されなければならない。しかしながら、新しいテクノロジーは教師の役割を小さくするのではなく、学習課程におけるその役割を変えるのであり、情報を知識・理解に変えるためには教師との継続的な討論こそが基礎になるのだということを、心に留めなければならない。高等教育機関は新しい情報通信テクノロジーの利点と可能性を引き出す上で指導的な役割を果たすべきである。その際、公開・平等・国際協力の精神に基づいて、質を保証し、実際の教育とその結果に対する高い基準を維持するために、以下のことがなされなければならない。

    (a) 様々なネットワーク、テクノロジーの移転、あるいは能力開発に携わり、教材を開発し、教育・訓練・研究におけるその利用体験を共有し、知識をあらゆる人に公開すること。

    (b) 遠距離学習設備から完全な仮想高等教育機関・システムにいたる新しい学習環境を創造すること。それは距離を超えた高い質の教育システムを発展させることを可能にし、そのようにして社会の重要事項、とりわけ社会・経済的進歩と民主化に貢献する。その一方、地域的・国家的・世界的ネットワークに基づいた仮想教育設備は、文化的・社会的な個性というものを尊重しなければならない。

    (c) 情報通信テクノロジー (ICT) を教育のために用いる際、新しい情報通信テクノロジーや対応する手段の生産に関し国家間あるいは国家内に存在する深刻な不平等に留意すること。

    (d) 情報通信テクノロジー (ICT) を国家・地域・地方のニーズに適応させ、それを維持するための技術・教育・運営・組織のシステムを確保すること。

    (e) 国際的な協力を通じて、あらゆる国々、とりわけ開発途上国の目標と利益の明確化を支援し、また、この分野における平等な利用と基盤施設の強化、さらにこのテクノロジーの社会全体への普及を助けること。

    (f) 高い質と平等な利用提供の普及を実現させるために、「知識社会」の進展を注意深く見守ること。

    (g) 情報通信テクノロジー (ICT) によって創り出された新しい可能性を考慮する一方、高等教育機関がその任務を近代化するために新しいテクノロジーを用いるのであって、新しい技術が高等教育機関を現実のものから仮想の機関に変えるのではないことを認識すること。

    第13条 高等教育の運営及び財政の強化

    (a) 高等教育の運営と財政は、適切な計画と政策分析能力と戦略を必要とする。それは高等教育機関と国家政策の立案・調整機関との間に築かれた協調関係に基づき、能率化された経営と予算の効率的な運用を目指すものである。高等教育機関はその置かれた環境のニーズに対応した前向きの運営策を取るべきである。高等教育の運営者は、積極的かつ有能で、さらに内部及び外部機関による評価に基づき運営手順やルールの効率性を評価できなければならない。

    (b) 高等教育機関はその内部の問題を処理する自律性を与えられなければならない。しかし、この自律性は、政府・議会・学生・社会に対して明瞭でわかりやすい説明をする責任を伴う。

    (c) 運営の究極の目標は、質の高い教育・訓練・研究や地域への貢献の実現によって、高等教育機関の使命を高めることになければならない。この目標のためには、世界的な問題への理解をはじめとする社会的ビジョンと効率的な運営手腕とが一体となった運営が必要である。このように、高等教育の指導者に求められるものは、社会への強い責任感であり、その指導性は高等教育のあらゆる当事者、とりわけ教師・学生との対話によって強められる。現在の組織的合意の枠組み内で、高等教育の運営陣への教師の参加も考慮されるべきである。しかし、それは運営陣をあまりに肥大させるようなものであってはならない。

    (d) 発展途上国における高等教育の強化のために必要な資金を確保するためには、南北協力の推進が不可欠である。

    第14条 公共サービスとしての高等教育への財政保証

     高等教育の経費を賄うためには、公的及び私的資金が不可欠である。この点に関し、国家の役割は依然として不可欠である。

    (a) 資金源の多様化は社会の高等教育への支援の反映であり、高等教育がさらに発展し、効率を増し、質と重要性を高めるために一層強化されなければならない。教育的および社会的使命をバランスよく達成するためには、高等教育及び研究への公的な支援は依然として不可欠である。

    (b) 社会は全体としてあらゆる教育を支援しなければならない。高等教育は持続的な経済・社会・文化の発展を促進するという役割を持ち、それゆえに社会からの支援の対象に含まれるものである。この支援を受けられるかどうかは、社会の側の自覚と並んで、経済の公的および私的部門・議会・マスコミ・政府組織および非政府組織・学生・家庭・諸機関など高等教育に関わるあらゆる社会部門の関与にかかっている。

    第15条 国境を越えた知識・ノウハウの共有

    (a) 世界中の高等教育機関同士の連帯と真の協力関係の原理は、世界的な問題の理解を促し、その解決のために民主的統治と高度な技術を身につけた人材が果たすべき役割への理解を進め、異なる文化や価値観を持ちながら共生する必要性を一層よく理解させる、あらゆる分野の教育・訓練のために決定的な重要性を持つ。多言語主義の実践、教員・学生交換プログラム、そして知的および科学的協力を進めるための組織的連携は、すべての高等教育機関の不可欠の部分でなければならない。

    (b) 先進国および発展途上国の高等教育機関同士の関係は、国際的な協力の原理に基づいていなければならない。それは連帯・相互認知・相互支援の原理であり、互いに平等な利益をもたらし境界を越えた知識・ノウハウの共有を促進する真の協力関係の原理である。国際的な高等教育機関の協力関係は、とりわけ最貧国の利益となるものでなければならない。戦争や自然災害に苦しむ国々の高等教育機関の能力を保護する必要が考慮されなければならない。結果として、カリキュラムや教育・学習課程には国際的な配慮が浸透していなければならない。

    (c) 学習成果の認知のための地域的・国際的な基準が、承認され履行されなければならない。それは修了生の身につけた技術・能力の証明を含み、学生の学習コースの変更を容易にし、国内的および国際的な移動を促すものである。

    第16条 「頭脳流出」から「頭脳流入」へ

    「頭脳流出」は食い止められなければならない。それは社会・経済的発展を加速するために必要なハイレベルの専門家を、発展途上国や先進国の仲間入りをしつつある国々から奪ってしまう。国際的な協力計画は、南北間の長期的協力関係に基づき、また途上国間の協力を促進するものでなければならない。発展途上国の研究者・学生が、国外の学術ネットワークの中心地で専門的かつ集中的な短期研究をする計画が重視されるべきである。熟練した研究者・専門家を引きつけ留まらせるような環境を創り出すことが考えられなければならない。高度に訓練された学者・研究者がその出身国へ永続的または一時的に帰ることを容易にするために、国家的政策や国際的な取り決めが必要である。それと同時に、国際協力による「頭脳流入」の実現に向けた努力が必要である。それは国際的な側面を持つゆえに途上国における高等教育機関の設立と強化に貢献し、途上国の潜在力を最大限に生かすものである。この点に関し、UNITWIN/UNESCO Chairs Programme と高等教育における学位の認知に関する地域会議で認められた原則による経験はとりわけ重要である。

    第17条 協力と連帯

     国家および組織の政策立案者・教職員・研究者および学生・産業界・地域団体は、高等教育の改革を進めるために協力し連帯しなければならない。同様に、非政府組織も改革の鍵を握る存在である。それゆえ、共通の利益や相互の尊敬と信頼に基づく協力関係が、高等教育の再生を生み出す主な母体とならなければならない。 我々、「高等教育に関する世界会議」の参加者たちは、この宣言を採択し、あらゆる人々の教育を受ける権利と個人の成績・能力に基づく高等教育への参加権を再確認する。

    我々は、個人および共同責任の範囲内でともに行動し、、世界人権宣言および「教育における差別に反対する協定」にうたわれた高等教育に関する諸原則の実現のため、あらゆる必要な措置を執ることを誓う。

    我々は平和への献身を厳かに再確認する。その目的のため、我々は平和教育を重視し、西暦2000年に行われる「平和文化のための国際年」の催しへの参加を決意している。

    それゆえ、我々は「21世紀の高等教育に関する世界宣言:展望と行動」を採択する。この宣言にうたわれた目標を実現し、とりわけすぐに行動を起こすため、我々は以下の「高等教育の変化と発展のため優先されるべき行動の枠組み」について合意する。

    (以下、「高等教育の変化と発展のため優先されるべき行動の枠組み」は省略。)


    訳者あとがき  この文書はユネスコによる World Declaration on Higher Education for theTwenty-First Century: Vision and Action の全訳です。英語原文はインターネット上の http://www.unesco.org/education/educprog/wche/declaration_eng.htmで見ることができます。 訳に当たっては、できるだけわかりやすい日本語にするよう努めました。そのため多少原文から離れてしまった箇所があるかもしれません。また、原文自体にかなりわかりにくい部分があり、そのようなところでは思い切った訳をしています。 例を挙げますと、たとえば第6条の見出しは原文では "Long-term orientaion basedon relevance" です。これは直訳すると「社会の重要問題との関連に基づく長期的指向」となるのですが、これではわかりにくいので、「社会的問題への長期的な取り組み」としてみました。また、第7条では" world of work" という言葉がキーワードなのですが、これも適当な訳が見つからず、直訳風に「勤労の世界」としました。この訳で満足しているわけではありませんが、「産業界」も「労働界」も違うと思います。「実社会」という訳も考えましたが、"world of work and other parts of society" という箇所が第7条の (a) にあり、おかしいと思います。 その他、表現の問題がそのまま解釈の問題となりますので、いろいろ問題があると思います。また、私はこのような文書を訳したのは初めてですので、初歩的な間違いや思い違いもあるかもしれません。お気づきの点がありましたら、どうかご教示ください。 なお、一通り訳し終わった後で日本私立大学協会による訳があることを知り、参照することができました。関係者に感謝いたします。 最後になりましたが、さまざまな助言を頂いた福祉社会学部の長谷川豊先生にお礼を申し上げます。

    1999年1月28日京都府立大学文学部西洋文学専攻金澤 哲