化石論講座 
−1時間目:化石の基礎知識− 
 

 ようこそ、私の研究室へ。

 室長の信楽でございます。今日は、皆さんと化石についてお話していきたいと思います。1時間目は化石の基礎知識ということでお話していきますが、堅苦しいお話ではございませんので、肩の力を抜いて聞いてください。
 

 さて、皆さん。私たちが相手にしようとしている化石とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
 これまでに自然史関係の博物館や科学館で、化石というものを見たことがある方もいらっしゃるかと思います。どのようなものをご覧になったでしょうか。恐竜の骨格やアンモナイト?それとも、生きた化石といわれているカブトガニやシーラカンス?一般に、化石というとそういったイメージを持つ方も多いかと思います。

(アンモナイトの化石)

 化石とは、平たく言えば、大昔の生き物の体などの形が、石などの中に残されたもの(その生き物がいたことの証拠品)のことです。たいていの化石は、岩石の層(地層)の中に閉じ込められた状態で見つかります。化石となって残るのは、ほとんどの場合には貝殻や歯、骨などの硬い骨格の部分で、やわらかな組織のような部分が化石となって残ることは滅多にありません。

 ところで、化石というと、生き物が「石になっちゃった。」という感じがしますが、石化するということは、化石たる必須条件ではありません。例えば、泥が固まったような状態で、まだ石とはいえないような硬さしかないものでものでも化石といいます。化石は、生き物の遺骸が砂や泥の中に埋まって、その砂や泥に圧力がかかって石(泥などが積み重なってできるため、堆積岩という。砂や泥の成分や粒の大きさによって石灰岩、砂岩、泥岩、頁岩などの種類がある。)になることで出来ますが、まだ十分に固まらないうちは、石というにはあまりにもろく、やわらかい化石になっているのです。また、木などが埋まって、そのまま炭化して残った埋もれ木(自然木炭、炭化木)も化石の仲間です。あるいは、皆さんの中で「琥珀(こはく)」というものをご覧になったことがある方がいらっしゃるかもしれませんが、琥珀も木の樹液、つまり松やにのようなものが地中に保存されたもので、化石の仲間です。時には、この琥珀の中に虫などが閉じ込められて化石化することがあり、最近ではこういった琥珀の中の昆虫からDNA(遺伝子)を抽出するという研究もされているそうです。化石という、太古の産物を最新の科学で解明しているのです。興味津々ですね。

(琥珀に閉じ込められた虫)
 

 ところで、化石には2つの種類があります。体化石(body fossil)と生痕化石(trace fossil)というものです。体化石とは、生物の体が化石になったもので、私たちになじみのある化石は、普通、このタイプだと思います。他方、生痕化石とは動物の足跡や巣穴、あるいは糞などが地中に保存されたもので、生き物の体の跡ではないけれども、そういった生き物がいたことの証拠品となるようなものをいいます。生痕化石は、古生物学的には重要な価値のあるものですが、慣れないと見つけることが難しいものです。

(生痕化石:三葉虫が動き回った痕)

 


 さて、では私たちが化石を実際に掘ってきたと考えてみましょう。
 
 化石を掘ってきたときに、その化石はどれくらい昔のものであるか、ということにまず興味がわきますね。
 これを知るためにわかっておきたいのが、「地質年代」というものです。
 簡単な地質年代の表を、差し上げておきますので参考にしてください。
 
−地質年代略図−

現在-−--------------------------------------  
                              完新世Holocene  
                              更新世Pleistocene  
                    第四紀Quaternary(人類)  
          160万年前------------------------------  
                                        鮮新世Pliocene  
                                        中新世Miocene  
                              新第三紀Neogene  
                                        漸新世Oligocene  
                                        始新世Eocene  
                                        暁新世Paleocene  
                              古第三紀Paleogene  
                    第三紀Tertiary(鳥類,哺乳類)  
          新生代Cenozoic  
6600万年前-----------------------------------  
                    白亜紀Creataceous  
                    ジュラ紀Jurrassic(恐竜)   
                    三畳紀Triassic  
          中生代Mesozoic  
2億4500年前----------------------------------  
                    二畳紀Permian(裸子植物)  
                    石炭紀Carboniferous(昆虫)  
                    デボン紀Devonian(両生類)  
                    シルル紀Silurian(陸上植物)  
                    オルドビス紀Ordovician(魚類)  
                    カンブリア紀Cambrian(三葉虫)  
          古生代Pareozoic(これ以降を顕生代Phanerozoicという)  
5億7000万年前---------------------------------  
          原生代Proterozoic(これ以前を先カンブリア時代という)  
25億年前-------------------------------------  
          始生代Archean  
39億年前-------------------------------------  
          Hadean  
46億年前----地球の誕生-------------------------  

 
 ところで、化石の中には「標準(示準)化石」というものがあります。これは、ある時代に特有の生物の化石で、地層の年代を確定するときのメルクマールとなるのです。また、化石などに含まれる放射性炭素やカリウム、アミノ酸などを分析してどれくらい古いものかを調べる科学的年代確定法も最近では行われており、古生物学や考古学をはじめとする分野で目覚しい成果をあげています。
 

 ここで、少し話の方向を変えてみましょう。

 私たち人と「化石」とはどのようの関わりあってきたのでしょうか。

 このことについては、面白い話がたくさんありますが、全てお話していると長くなりますので、その中のいくつかに絞って短くお話致します。
 
 古代ギリシアの哲人たちが化石について思索を巡らせていたこと、クロマニョン人(約3万から1万年前)が化石を採集してアクセサリーにしていたということは、化石というものの魅力を考察する上で注視すべき事実といえましょう。

 また、化石を科学的に説明する理論に貢献したものとしては、画家として世に出る前のレオナルド・ダ・ヴィンチが、土木技師時代に発見した化石について記した手記、朱子(中国の思想家、1130‐1200)が化石の生成過程を見事に言い当てていることなどが注目されます

 非科学的な理屈ですが、「化石」を、神様が生き物の出来そこないを捨てたものだとする説、自然のいたずらの産物であるとする自然遊戯説といった「化石観」は、人間の素朴な感覚に即しているようで、私などは面白く思います。

 そのほかにも、人と化石の関わりを示す面白い例があります。2つほどここでお見せしてしておきましょう。

(アンモナイトの化石で出来た「蛇」:魔除けや装身具に珍重された)

(三葉虫化石のブローチ:19世紀に流行した)
 



 
 さて、いろいろとお話をしておきましたが、1時間目の最後に、簡単に生命の進化ということについてお話しておきたいと思います。とはいっても、難しいお話ではありません。

 結局、ここで私が云いたいのは、化石になってしまった遠い太古の生き物も、万物の霊長を自称する私たち現代人も、ひとつの生命の進化系列によって繋がっているということです。

 中世代に地球上を我が物顔で闊歩していた恐竜たちは、地球環境の変化とともに滅びました。しかしそれは、私たち人間の発展のために必要であったのです。私たちだって、ひょっとしたら何万年か後には滅びているかもしれません。そのあと、もしかしたら、今の人間を超える生命体が、私たちの化石を研究しているかもしれません。

 私たち、化石を調べる者は、常に心のどこかに脈々と続く生命の進化への畏敬と、それに対する謙虚さを持つべきではないかと思うのです。

 饒舌に過ぎるところ、諒とされたく思います。
 

 さて、ずいぶんと長くおしゃべりしてしまいました。1時間目、化石の基礎知識についてのレクチャーはこれで終わります。

 次の時間は、化石を掘るフィールド・ワークについて扱います。時間になりましたら、またこちらの研究室にお越しください

 では、1時間目を終わります。



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