社会政策 白木教授

2003年度 前期 問題・模範解答

1、「知的熟練」とはどういうものであり、どのように形成され、どのような意味を持つか説明せよ。

企業の中では、いつでもどこかで変化が起きている。具体的には、製品構成の変化や生産量の変化、新製品の出現、労働者構成の変化などである。こうした企業内の変化や異常に対しては、普段とは違った作業が必要となる。そこでは、いかに早く的確に作業がこなせるかどうかが問題となる。そのためには、作業の方法のみならず、仕事の仕組みや機械の構造を知っておくことが必要である。こうした知識を蓄積することを知的熟練という。 知的熟練を形成する方法としては、次の3つが挙げられる。1つめは、OJTによるものである。これには、低コストで仕事を通じて生きた訓練をすることができるというメリットがある。ただし、機会費用がかかるというデメリットがある。2つめは、社員を幅広い分野に異動させておくことで、色々な知識を身につけさせ、リスクに対して日頃から技能形成をしておくというものである。3つめは、節目節目で持ち場を離れて訓練させる、OFF-JTを行うことである。
今まで、日本の企業においてはすぐれた知的熟練が形成されてきた。そしてこれが、高い競争力のもととなった。将来、より一層のIT化が進めば、知的熟練の必要性がさらに高まることが予想される。その一方で、近年の非正規従業員の増大が知的熟練を阻害するとの指摘もある。そこで、この2つの両立をなし得るような新たな労使関係が求められていくことになるだろう。

2、労働サービスの特殊性について説明し、現代の労働についてマズローやマクレガーの 説を参考にして論ぜよ。

 労働サービスの特殊性を挙げると、以下の4点である。1つめは、労働サービスと労働者は不可分離であるということである。つまり、本人がいなくては労働サービスはなしえないのである。2つめは、労働者に対する非金銭的考慮が重要であるということである。具体的には、人間を取り扱う以上は、環境、密度、時間といった労働過程や賃金、殊遇、昇進などにおける公平性への配慮、さらには性別や年齢などに対する人道上の配慮が必要である。3つめは、競争力上・交渉上のポジションである。労働者は労働サービスの保存ができず、生活資金も少ないため、どうしても弱くなってしまう。そこで、最低賃金法や労働組合法による保護が必要である。4つめは、能力開発の可能性があるということである。
 マズローの研究によれば、人間の欲求には、\戸的欲求安全所属と愛ぞ鞠Лゼ己実現の五段階があるとされる。例外はあるものの、現代の日本においては、労働とは、最低次の欲求である生理的欲求を満たすものではなく、最高時の欲求である自己実現の欲求を満たすためのものになっていると言える。こうした労働には、Laborという単語よりも、より創造的で自主的なニュアンスのあるWorkという単語の方が訳語としてふさわしいだろう。
 また、マクレガーは自著「企業の人間的側面」において、「人間を本来仕事が嫌いな怠け者であり、強制されたり、統制されたりすることではじめて仕事をするものである」という祥論と、「生まれながらに仕事を嫌うということはなく、条件次第では責任を引き受けるばかりか、自ら進んで責任をとろうとする」というY理論の2つに分けた。そして、この「条件」が仕事への動機付けの要因であり、その条件とは、魅力ある目標と責任と自由裁量を与えることであると考えた。目標による管理は、このY理論に基づいた労働者を尊重した考え方であり、今日では多くの企業に取り入れられている。
 マズローやマクレガーの説から分かるように、現代において労働とは、労苦ではなく創造的な仕事へとシフトしている。そしてそのために、労働サービスの特殊性の中でも、特に非金銭的配慮が重要になってきているということができる。

3、失業者と失業率、ならびに雇用保険制度の改正について説明し、失業問題について考 えることを述べよ。

 失業者とは就業者以外の者で働く能力があり、かつ求職活動を行っている者のことである。就業者とは調査週間中に収入を伴う仕事に1時間以上従事した者のことを言う。失業率とは失業者数を労働力人口(就業者+失業者)で割ったものに100を掛けた数値である。労働力人口とは、15歳以上で働く意志と能力を持つ者の総計である。現在の日本における失業率は5%を超えており、これは過去最高水準を更新し続けている。
 雇用保険制度という言葉は、1975年以降に使われ始めた言葉で、それ以前は失業保険制度と呼ばれていた。その内容は、「失業等給付」と、「雇用保険3事業」から成り立っている。雇用保険3事業とは、雇用安定事業、能力開発事業、雇用福祉事業である。2001年4月施行の大幅な改正では、基本手当の給付体系や再就職手当の給付額、雇用保険料率などが改正された。
 失業率の5%強という数字は、あくまでも平均値であり、統計上では若年者と中高年者の失業率が顕著である。というのも、コスト削減のために30代〜40代にかけての企業内教育訓練を受けた人的資源を失うよりは、入社して間もない若年者を解雇するほうが企業にとっては合理的だからである。とは言え若年者の解雇は一時的にはコスト削減に貢献するかもしれないが、長期的に考えると将来性がなく、将来の日本の労働市場が懸念される。
 この5%という数字も、求職をあきらめた人や集計方法上の問題(ちょっとでも働けば失業者にカウントされない)などを含めない数字であるので、実態はさらに深刻なものであると考えられる。早期の雇用拡大政策が期待されるが、従来の財政政策・金融政策はもはや有効に機能しなくなっており、新たな手段を探さねばならないだろう。

  4、外部労働市場と内部労働市場の違いについて述べよ。

 労働市場とは、労働サービスが取引商品として取り扱われている生産要素市場である。ここで売買されている労働は、金銭の対価としての労働であり、例えば家事労働などは含まない。労働市場は、企業の外で取引される労働市場である外部労働市場と、企業の中で取引される内部労働市場とに大別される。
 外部労働市場においては、労働サービスを供給する個人と、労働サービスを需要する企業との間で取引が行われる。本来ならば、この需要と供給が均衡するように賃金が決定されるはずであるが、賃金は下方硬直性を持っているので、失業が生じるのである。
 内部労働市場とは、こうしたものとは異なり、企業の中の規約や慣行に基づく配置転換や昇進などが、労働力の配分や賃金形成に大きな影響を及ぼしているものである。これの典型的な対象は、大企業の正社員である。
 IT革命とグローバル化が進む中で、日本の雇用システムを見直すべきであるとの意見もある。しかし、そもそも雇用システムは各国独自のものであるとの意見もある。確かに、日本の雇用システムは過去の産業構造の変化に円滑に対応してきた。今後も、日本の雇用システムの強みを活かし、柔軟な内部労働市場を確保するとともに、外部労働市場における円滑な労働移動によってミスマッチの解消を図っていくべきである。が、それとともに、国際化への対応もより一層求められることになるだろう。

5、労働力率曲線の男女別の違いについて述べよ。

 労働力率とは、15歳以上人口のうち、どれくらいが労働市場に参加しているのかを表すものである。これは、労働力人口を15歳以上人口で割ったものに100をかけることで求められる。
 男女別の違いについて見ていくと、男性の労働力率がほとんど変化していないのに対して、女性の労働力率は激しい変化を見せているということができる。
 女性の労働力率(曲線)の変化を時代別に見ていくと、まず、戦後、ゆるやかな下降が見られる。これは、女性が働きやすい農林業部門のシェア低下が原因であると考えられる。次に、オイルショック直後の急激な低下が目につくが、これは、不況によるリストラによって、特に女性が解雇対象となり、就業意欲を喪失してしまったためであると考えられる。さらに、1979年以降には女性の労働力率の上昇が見られる。これは、経済が低成長になり世帯所得が減ったことで、それを補い、消費水準を維持向上するために女性の就業の必要性があったことと、パートタイム就業の機会が拡大したことが原因である。
 年齢階級による比較を見ると、男性の労働力率曲線は、ほぼ世界共通で逆U字型を描く。それに対して、女性の労働力率曲線は、日本とイギリスのみに当てはまるのであるが、M字型を描く。これは、中年時が育児期に当たるので、就業との両立が困難であることが原因である。また、M字型の右側の山の部分、すなわち高齢者層の労働力率は景気変動に敏感であり、浮動層が多いということを意味している。

6、人材派遣法のこれまでの規制緩和の過程と、紹介予定派遣制度について説明せよ。

労働者派遣法は、高度成長に伴う請け負いサービスの進展、低成長になって求められるサービス経済化・減量経営などに対応するために1985年に制定された。それ以前は、職業安定法44条で労働者派遣は禁止されていた。この制定により、特定の技能を必要とする16の業務についての労働者派遣が自由化された。その後、1994年には、60歳以上の高齢者については原則自由になった。そして、96年の12月には対象業務が16から26へと拡大された。さらに、99年12月には派遣期間は1年とするなどの一部の制限はあるものの、対象業務が原則自由化された。
紹介予定派遣制度は、将来の社員採用を前提に、いわば見極め期間として、求職者が派遣労働者として一定期間働いた後、派遣先と求職者の双方が合意した場合に、派遣元を通じて、派遣先企業に人材紹介がなされ、採用に至るというシステムである。これは、入社後のミスマッチの解消に役立つことが期待されており、テンプ・ツー・パーム制度とも呼ばれる。これは、2000年の12月に施行されるに至ったものである。


2003年度学年末

1、「一般熟練」と「特殊熟練」について図を用いて説明せよ

人的資本が修得する技能には、一般的熟練と企業特殊熟練の二種類がある。一般熟練とは、ほかの企業や社会一般で通用するスキルを身につけることであり、語学やパソコン技能などがこれにあたる。企業特殊熟練とは、その企業の中でのみ通用する技能を身につけることであり、その企業特有の技能や仕事のやり方がこれにあたる。ちなみに、一般熟練を作る訓練を一般熟練、企業特殊熟練を作る訓練を企業特殊訓練という。
 これらは、学校教育・職業訓練施設・企業内訓練などにより形成されるが、ここで問題となるのが育成にかかる費用を誰が負担し、スキルアップで得た収益を誰が受け取るかという問題である。
 (レジュメA 図2)企業特殊訓練において、何もトレーニングを受けない場合の賃金はA→F→Kと推移する。訓練をした場合、鬼においては訓練のコスト分だけ生産性は下がりVMP1となるが、挟においては能力が上昇するため生産性はVMP2となる。よって、賃金はC→D→H→Iという推移を取るはずである。しかし、企業特殊熟練は当該企業でしか通用しないので、もし転職をすれば労働者の生産性はVMP0に、賃金はW0に下がってしまう。よって企業は賃金を下げるインセンティブを持ち、挟の賃金はW2に決定される。このように挟に賃金が上昇するシステムにおいては、労働者は鬼において訓練のコストを一部負担することを受け入れるため、鬼の賃金はW1と決定される。結局賃金はB→E→G→Jと推移することになる。
 以上から、企業特殊訓練の費用と収益は労働者と企業の双方でシェアすることになる。費用のABEFを労働者が、BCDEを企業が負担し、収益のFGJKを労働者が、GHIJを企業が享受する。
 (レジュメA 図1)一般熟練は転職後も生産性を維持するため、挟においては企業は生産性にみあった賃金を支払わなければならない。そして、転職のリスクのため企業側は訓練費用を負担しない。よって、賃金はBCEFと推移し、費用、収益ともに労働者のみが負担、享受することになる。

2、海外派遣の帰任問題とその対応策について論ぜよ

 海外派遣は、仕事と家庭生活の双方に重大な影響をもたらす。
 機械振興協会研究所が1990年に行ったアンケートによると、仕事上のメリットとしては、視野が広がった、外国人との折衝に自信がついた、本社を客観的に見られるようになった、といった意見が多い。一方デメリットとしては、〆膿靴両霾鵑冒造なった、⊃μ蛙觜埔紊寮嫻いよび権限が小さくなった、F本での仕事の進め方になじめない、ぜ卞發凌楊が薄くなった、コこ阿任侶亳海役に立たない、昇進の遅れ、といった順にランクされている。日本から遠く離れているうちに社内人脈を含むさまざまな情報から置き去りにされ、また仕事の仕方も現地化しすぎて日本のそれに不適応を示すようになるのである。さらに、帰国後は進出先で与えられていたほどの地位も仕事も与えられない。また、2001年に行われた「第四回海外派遣勤務者の職業と生活に関する調査結果」(日本労働研究機構海外情報部計画調査課)によると、海外での経験が役に立たないという意見が3位に浮上している。これは海外派遣に含まれた人材育成の効果を生かすことができていないということであり、企業にとっても損失といえるだろう。
 海外派遣者は派遣先で、トップ・マネジメントやミドル・マネジメントとして重い責任や大きな権限を経験する。これらを遺憾なく発揮できるような帰任後のポストを用意することが重要だろう。
 家庭生活におけるメリットとしては、国際感覚や語学力の向上といった文化的側面に関する意見が大半を占め、一方デメリットとしては住宅取得などの資産形成上の不利、子供の教育問題の二つが過半数を占める。海外派遣者の平均年齢は40歳代前半であり、ちょうど資産形成や子供の教育問題を抱えやすい時期にあたるのだ。上述の日本労働研究機構の調査によれば、海外派遣者のうち単身赴任(家族全員残留)が28.7%と、その割合は1993年調査の不安でも「子供の教育問題」(36.8%)が最も多い。
 派遣地域によっては、日本国内と同様の教育を維持することは難しいだろう。派遣者の選抜を慎重に行い、家族の帰任後の再適応を支援することが重要だろう。

3、65歳定年と定年廃止について賛否の立場を明らかにして論ぜよ

 現在年金支給開始年齢は段階的に引き上げられつつある。(定額部分については2013年どまでに、報酬比例部分については2025年度までに65歳に引き上げられる(女性については5年遅れで引き上げられる)予定である)これに対し、1998年4月の高年齢者雇用安定法で60歳定年は義務化されているものの、65歳までの雇用の確保については努力義務とされている。実態としても、「原則として希望者全員を対象として少なくとも65歳まで働ける場を確保する企業」は全体の約30%に満たないことが、2003年の厚生労働省「雇用管理調査」によりわかっている(レジュメE 図4-1)
 諸外国と比較してもわが国の高齢者の就労意欲は非常に高く、60歳代前半の男性の労働力率は70%を超えているといわれる。公的年金の至急年齢引き上げや高齢者層の再就職が極めて困難な現状を考えると、せめて希望者全員が少なくとも65歳までは働くことのできる雇用システムの確立が必要といえるだろう。さらに高齢者雇用確保は、少子化が進み若年労働力が大幅に減少する中で、高齢者が可能な限り社会の支えとして役割を果たすこととなり、今後のわが国経済社会の活力維持にも資することになると考えられる。
 他方、最近では労働市場からの引退は労働者自らが選択すべきものであり、不当に低く設定された定年は年齢による差別であるとして、定年制廃止への提案も有力になっている。
 しかし定年制を禁止すると、定年制の有する事実上の雇用保障機能(定年年齢を定めることにより、企業がその年齢までは雇用し続けようと努力する機能)が失われ、高齢者の雇用機会の確保にかえって悪影響を及ぼすおそれがある。また、年齢差別という概念は、誰もが高齢期を迎えるという意味で、純然たる差別とは異なるものであることから、その禁止の実現に向けては社会や雇用のシステムとの関係を考慮し多角的に考える必要がある。
とすれば、現時点における定年制廃止の一括的強制は、わが国の実情に反した対応といえ、むしろ募集・採用時の年齢制限についてその是正を図ったり、現行の定年制を活用しつつ高齢者の雇用機会の確保を図るといった方法が現実的かつ効果的であろう。
 以上から、定年制廃止は現時点では時期尚早であり、65歳定年制の普及を推進すべきと考える。

4、海外子会社の統括問題・現地化問題について論ぜよ

 従来の日本企業による海外子会社の統括をPerlmutter(1969)の三類型、すなわちエスノセントリック(本国人中心型)、ポリセントリック(現地中心型)、ジオセントリック(地球全体型)になぞらえれば、日本から日本人を派遣するのが通常のパターンとなっていたという意味でエスノセントリックである(レジュメC参照)。では、エスノセントリックな統括にはどのようなメリット、デメリットがあるか。
 まずメリットとしては、グローバル組織の統制と調整が効率よくなされる、将来性豊かなマネージャーに国際経験をつませることができる、本国の豊富な人材を活用できる、全体的な企業目的や政策を子会社に浸透させやすい、などが考えられる。
 他方デメリットとして、現地従業員の昇進可能性の制限、海外子会社の現地社会への適応の困難、コスト高、などが挙げられる。現地従業員は、ブルーカラーとしては雇われてもホワイトカラーとしては雇用されないという状況からモチベーションを保てず、生産性を著しく低下させてしまう。またそのような状況は、現地従業員の企業への定着を阻害するため現地化政策の失敗につながる。そして国内給与の高まりと円高によって、日本人駐在員一人当たりの派遣コストは企業によって大きな負担となる。
 しかし、例えば発展途上国においては、大卒は人数自体が少ない場合や能力に比してプライドやコストが高い場合があるため、単純に現地の大卒の採用を増やすことが妥当でないことが多い。現地の大卒に加え、有能な高卒・短大卒の採用増大や公平な評価制度の創設などを行い、トップ、ミドル・マネジメントに現地のスタッフが採用されるような仕組みを作っていくことが、今後の企業のグローバル化戦略に求められている。

5、二国籍企業の問題点とその対応策について自分の意見を交えて論ぜよ

 多国籍企業という概念は現在様々に解釈されているが、概ね「二カ国以上において所得を生み出す資産を所有する企業」と定義されているようだ。しかし、グローバル化が進み、人材の国際的相互移動をサポートする体制の拡充が求められる現在、多国籍企業という言葉は人材の国際性をも含むと考えることも可能だろう。
 本国籍人材をPCNs(Parent Country Nationals)、現地国籍人材をHCNs(Host Country Nationals)、第三国籍人材をTCNs(Third Country Nationals)という。欧米諸国に比べ、日経の海外子会社はトップ・マネジメント、財政管理責任者、人的資源責任者におけるPCNsの割合が総じて高い(レジュメC表8-1)それは裏返せば、現地国籍人や第三国籍人のマネジャーが少ないことを示している。特に第三国籍人の採用に関してはほとんど皆無であり、その意味から日本の企業は、多国籍(Multi-National)ではなく二国籍(Bi-National)企業であるといえる。(レジュメB 図2参照)。そしてこのようなPCNs>HCNs>TCNsという明らかな序列は、HCNsやTCNsにキャリアの天井を感じさせ、モチベーションや生産性を低下させる危険を有する。またHCNsが企業に定着しないという現地化の失敗を引き起こしやすい。
 いまや人材の国際的流動化は全世界的要請であり、また同質的な人材構成が強い日本企業がグローバル化の流れを生き残るためには多様な人材の登用が必要である。現地でのホワイトカラー雇用を増進し、幹部(候補)国籍の多様化を積極的に行うことで、二国籍企業から脱却することが求められている。
1998年後期試験

4問中3問出題。2,3,4が出題された

1. 「知的熟練」とはどういうものであり、どのように形成されるのか。

2. 下の図を用いて企業特殊訓練と賃金雇用との関連について理論的に説明せよ。

企業内訓練には二種類ある。一般訓練は、会社が変わっても役立つ普遍的な技能を養成するものであり、企業特殊訓練は、その企業独特のノウハウを学ばせるものである。ここで問題となるのが、費用負担と収益の分配である。
 縦軸に限界生産物価値(VMP :Value of Marginal Product)と賃金(w)をとり、鬼は訓練期間、挟は訓練後とする。w0は訓練を受けないときの賃金、VMP1は訓練中のVMP、VMP2は訓練後のVMPを指す。 一般訓練の場合、もし労働者が自分の能力に見合った賃金がもらえないときは(VMP2>w2:w2は訓練後の賃金)、一般訓練はどこでも通用する技能を与えるものだから、より自分の能力を高く買ってくれる企業を求めて労働者は辞めてしまう。この時訓練費用を企業が負担すると、労働者のみが訓練後の全収益を得ることになるため、訓練費用は労働者負担とし、訓練中の収益を企業が得られるようにする。
 企業特殊訓練の場合は、もし訓練費用をすべて労働者の負担にすると(w1=VMP1)、労働者は自分の能力に見合った賃金がもらえていないとき(VMP2>w2)、他では役に立たない技術のため辞めることができず、そのまま働くしかないために、わざわざ費用を払おうとはせず訓練を受けなくなる。逆に企業が訓練費用を負担した場合、第挟に労働者がやめてしまうと投資が無駄になるため、賃金は訓練前より高く(w2>w0)設定されるだろう。しかしこれでは労働者は何の負担もせずに賃金が上がるため、訓練費用の一部を労働者負担とすべきである(w1<w0)。以上のように、訓練費用も訓練後の収益も企業と労働者の双方で分担することになる。
 ここでは企業は労働者に辞められないように、労働者の収益をさらに手厚くする可能性がある。具体的には賃上げ、退職金や企業年金の上昇などが行われ、これが年功賃金と長期雇用の一因となっている。

3. 日本人派遣者を通じた海外子会社の統括体制の限界と対応策、並びにその現地化への含意を述べよ。

 日本に多い海外子会社統括体系である本国人中心型の問題は、以下の四つである。第一は昇進の壁によるモラルの違いである。現地に派遣された日本人がトップポストに就くため、現地人スタッフは昇進が制約され、モラルが低下してしまう。第二は人材不足である。海外でトップマネジメントを行うことのできる優秀な人材は限られているのである。また、発展途上国では現地化政策により、日本人だけでトップマネジメントを取り仕切ることができないという制約もある。第三は海外派遣コストの問題である。派遣人数の増大や日本側の給与水準の上昇、本社の負担能力の低下を反映して派遣コストが上昇している。第四は海外派遣者に対する処遇である。給与や危険手当などの諸手当、子供の教育に関連した家族問題、帰国後のポスト保証などの問題があるため、なかなか希望者が得られないという問題がある。しかし処遇を改善しようとすると、コストが上昇してしまうというジレンマがあり、対策は難しいといえる。
 それではこれら諸問題にどう対応していけばいいのであろうか。派遣者の処遇改善とコストダウンを同時に達成するには、派遣者の少数精鋭化とマネジメントの現地化が必要である。少数精鋭化のためには、国際的マネジメント能力を持つ若手を計画的に育成することが必要である。マネジメントの現地化とは、現地で優秀なローカルスタッフを育成することである。現地化率は、操業期間が長い、日本からの出資が低い、経済発展し人材の蓄積が進んでいる、技術移転の頻度が低い、等の要因があると、一般的に高くなる傾向にある。しかし実際の日本企業では現地人の採用があまり行われない。その理由はまず、優秀な人材は自尊心が強く使いにくいと考えられていること、また、採用しても昇進の壁に直面して、すぐに他に移ってしまうということが挙げられる。このような事態を避け、ローカルスタッフを育成するためには、彼らのキャリア・パスを横と縦に拡張することが必要である。横への拡張とは、ローカルスタッフが逃げていく前に別の地域本社などへ行かせ、そこでキャリアアップする機会を与えることである。縦への拡張とは、上限の高い日本の本社でキャリアアップの機会を与えることである。また、金銭面での処遇改善も一つの方法である。

4. キャリアと家族生活に関して海外派遣者の置かれた状況について諸問題、対応などを自由に論じよ。

 海外派遣の際に、家族生活は大きな問題となる。派遣者の平均年齢は41、42歳であり、子供の教育問題を抱えやすい。日本では約二割が単身赴任であり、欧米では家族帯同が普通で単身赴任はきわめて少ない。R.Tungによれば、海外派遣者のうち任期途中で帰任・退職した人の比率(失敗率)はアメリカが一番多く、ついでヨーロッパ、日本となっている。Tungは日本の失敗率が少ない原因を文化的要因に求めている。女性(妻)が耐えて泣き言を言わないため、失敗しにくいというのである。しかしこれは違うように思われる。日本では単身赴任が多いために、家族的理由を考える必要はなく、失敗するのは個人的理由によるものなのである。欧米では家族のことを考えなければならないため失敗しやすいのであろう。
 単身赴任はいろいろな弊害をもたらす。家族にとっても本人にとってもそれはマイナスになる。企業は利潤追求集団であるから適材適所で海外派遣や転勤をさせるのは当然かもしれないが、その人の人生を左右する決定でもあるだけに、実行には細心の注意が払わなければならない。

            日本企業の未来(社会政策)

      日本の企業について、一般の人々にとっては常識と認識されることがいくつかある。それは、「終身雇用」であり、「年功序列」であり、「学歴重視」である。日本の企業は、学歴を重視して新人の採用を行い、その後は定年まで働くことを前提に、能力とか実績ではなく、年齢もしくは働いた年数に応じて給料を与える、と広く一般に信じられている。
 しかし、本書は、こうした話が「神話」に過ぎないと主張する。確かに、世間一般の認識に照らし合わせても、終身雇用や年功序列は崩れつつあるというのは正しい見解であると思われる。しかし、日本の企業が欧米の企業に比べて、学歴を重視しないとの言説には、驚きを隠せない人が多いのではないだろうか。
 そもそも、なぜ企業が新人の採用の段階で学歴を重視しているのか。これは決して無根拠なことではない。企業側が新人採用に関して願うことは次の2点に集約される。その2点とは、優秀な人材を確保することと、できるだけコストをかけないことである。
優秀な人材を確保する、との観点からすれば、企業はできるだけ多くの学生の情報を集め、接触したいと考えるであろう。しかし、これでは時間も含めて、莫大なコストがかかってしまう。そこで、企業が注目するのが学歴である。有名、もしくは偏差値の高い、いわゆる一流大学に通っている学生は、高い能力を持っていると推定される。特に、ある一定のことに的確に答える、訓練効率が高いと考えられる。したがって、学歴を重視して採用を行えば、低コストで優秀な人材を確保できることになる。学歴重視の採用は、必ずしも非合理なことではないのだ。
 この考え方によれば、高学歴の者は低学歴の者よりも昇進し、高給を得るはずである。しかし実際は、日本企業は、欧米企業に比べて高学歴者にとっては「損」なのである。この現象の是非はともかくとして、なぜこうした現象が発生するのかを考えてみたい。
 私は、この原因は大学教育にあると考える。日本の大学教育は、特に一流大学の教育は、必ずしも学生の能力を伸ばすものではなく、その結果、「追い越される」という現象が発生していると私は考える。
 しかし、今後はこうした状況は変化していくだろう。もっぱら入社後のOJTによる人材育成を行ってきた日本企業も、大学に実践的な教育を求めるようになってきたからである。こうした要請に加えて、少子化時代を生き抜くために日本の大学教育は変質しつつある。単純に、面倒見がよくなったのである。放任主義の最頂点であった早大政経学部ですら、TOEFL受験を義務化することからも、これは実感できる。
 大学教育の変化の是非はともかくとして、(個人的には反対である)日本の大学も、欧米の大学のように「勉強させる」所へとなり、また、学部教育よりも上の段階である修士・博士教育はさらに一般化していくだろう。その結果、日本企業も高学歴者が「損」とはならないように、つまり、日本企業の欧米化が進んでいくと私は考える。