筋違い角入門

3手目に角交換から筋違い角…大会で痛い目にあった方もいるのではないだろうか。
なぜか最近、私が所属していた地区の学生将棋では筋違い角が密かなブームになり、
相手に力を出させずに自分の土俵で戦って、そのまま勝利…という光景も見かける。
実際、私も大会やネット将棋で指しまくって甘い蜜をたくさんごちそうになった。

ではこの筋違い角をどうにかできないものか。振り飛車党は後手と決まった瞬間に
避けられないわけであるが、筋違い角を避けるためだけに得意な振り飛車を放棄して
居飛車…なんていうのは、対局前から白旗を振るようで好きではない。自分の弟子が
振り飛車党で、そんなことをやっていたらそれこそ破門すると思う。そこで、今回は
筋違い角戦法の簡単な紹介と、正々堂々と受けて立つための対策を、私の経験則から
お伝えできればと思う。

 

 

初手から5手進んだ上図。これが基本図である。ここからの変化は非常に莫大なので、
有力な後手の対策を断片的に紹介することにする。そして少し考えてみると、先手が4五角を
打たずに8八銀などとすると…今度は後手から6五角と打つ手が生じる。
振り飛車封じでたまに角交換して銀を上がられることがある。
そんな時はノータイムで角を打っているような気がする。

 さて、ここで後手には@6二銀A5二金右B6二飛C8五角など様々な応手がある。
7四角と指されたこともある。もっと他にもある。どれが最善ということは私程度の力ではわから
ないが、先手にとって(私にとって)一番楽なのはB6二飛である。以下▲3四角△4二飛車
▲5六角とし、△7二銀なら▲8八飛…という具合。何が何でも飛車を振りたい!という人には
申し訳ないが、この変化では飛車を振りにくいと思う。

 

さて、相手が筋違い角の対策を知らない場合、最もオーソドックスに進むのが@6二銀である。
6三の地点と4三の地点を守ったところで、先手は角の引き場所を作る。
そして、よほどのことが無い限り、ギリギリまで3四に居座ってやったほうが気持ちいい。

 

 

相手が腰掛け銀にしてきた上の図。この局面は少し注意が必要である。今後手が△4四歩と
したところであるが、次に△4五歩とつかれると角が急に窮屈になる。ここで角を6七もしくは7八に
引いておいて、以下は玉の囲いに着工する。どちらにするかは基本的には好みである。7八なら
8六歩から活用しやすいし、6七なら角頭のリスクはあるが7五歩で一気に角が大暴れできる。
そして、玉を囲う上で注意すべき点が一つ。観戦していると意外にスルーされてしまいがちな筋である。
次の頁の図を見ていただきたい。

 

 

 

ここで▲3八玉と寄り、一刻も早く美濃囲いを構築したい。その気持ちはよくわかる。
しかし、直ちに△4六歩とついてくるのが少し気になる。△7四角や△4二飛などと絡められるとうるさい。
そこで、ここでは▲5八金左と上がって4筋を補強してから玉を囲う。以下は美濃囲いに囲って、
▲7五歩や▲8六歩をついて角のフットワークと銀の進出で攻める要領である。肝心なのは手損を気にしないことで、
元々自分から角交換して筋違い角を打っているのだから細かいことを気にしてはいけない。

 


腰掛銀と同じように、押さえ込みを狙ってくるのが5筋位取りである。しかしこれはあまり恐れる必要は
無いと思う。対腰掛銀と同じような方針で進めれば、単に5三の歩が5五に移動しているだけで先手への
影響は少ない。将来▲7五歩▲8六歩▲9八角の陣形になったときに、敵陣に角のにらみが直射しやすい
という利点もある。

 

 

後手の対策A5二金右で、▲3四角に△6五角。後手から「なめんなよ。」という声が聞こえてきそうな
相筋違い角である。ここで5八金右などと応じては、△7六角▲8八銀となって手損だけが残る。これでは
不満大だ。そこで、△6五角には▲5六角とぶつける。以下△7六角に▲8八飛で、美濃囲いに囲って左辺の
サバキで勝負。▲5六角には△同角▲同歩△5七角が気になるが、持ち角+1歩得vs馬という戦いになる。
残念ながらこれは避けられない。しかし経験が少ないのは相手も同じ。力でねじ伏せよう。

 

 

 上の図は、後手がA5二金右を選んで、▲3四角に△6四歩とついたところである。この手は筋違い角
破りの決定版とまで言っている人も居るくらいである。狙いは単純、▲6六歩をつかせないことである。
では知らずに6六歩をつくとどうなるか…。すかさず△6五歩とつき返されて、早くも主導権を握られてしまう。
取れば当然△6六角。先手は6六歩とつけないとなるとどうするか。

 

 先に▲8八銀と上り、△6五歩に7七銀。それから6八飛車と振って上の図のようになる。
ここからは機を見て6六歩から逆襲する狙いになるが、5八金左は必ず入れておくべき手だ。
例えば、図から△3二金▲5六角△7二銀に▲6六歩とつくと、以下△同歩▲同銀に△6七歩が痛打となる。

 

 

この△6七歩は、▲同角なら△6六飛車で銀がタダ、▲同飛なら△8八角が生じる。
この形で▲6六歩から逆襲するときには、必ず▲5八金左を入れてからにしてもらいたい。

ただ、△6四歩に▲8八銀と上がった瞬間に△6五角と打たれる恐れがある。
これは紹介済みの相筋違い角と似てはいるが、▲8八銀と上がってしまっているため▲8八飛と回れない。
…というわけで、結局はこれも力でねじ伏せるわけで、6四歩が筋違い角対策の決定版だと言われる所以だと思っている。

 

 

さて、ようやくC8五角の解説に入るわけだが、実は私が先手を持って一番うれしい変化でもある。
これも相筋違い角と似たようなものであるが、6三の地点を受けながら7六歩を掠め取ろうと言う狙いである。
これには▲7八飛とする一手。対して△3二飛と回ってくれば、歩を取らない相筋違い角+相振り飛車となり、これも力将棋で一局。

では、後手が△3三銀としてきた場合はどうなるだろうか。

 

 

ここでは▲7五歩が当然の一手。対して後手は6四歩か6二銀に分かれる。
後手が最善を尽くせばじっくりした戦いになるのだが、先手が最もうまくいく順を紹介しておこう。

 図から▲7五歩△6四歩となった局面で、次の手を考えていただきたい。

 

 

 

 いきなり開戦、▲7四歩が気持ちいい。△同歩だと▲8六歩としてから▲6三角成なので、図から△同角と取るが、
▲同飛△同歩▲6三角成として次の図。

 

 

先手だけ馬を作って歩をパクパクとれそうな上に、後手の飛車が完全に遊んでいる。
そして『序盤は飛車よりも角』という格言を思い出すような先手の陣形。飛車の打ち込みが皆無で、
誰が見ても先手優勢である。こうなれば多少の力の差はひっくり返るだろう。

もちろん、ここまでうまくいくことは滅多にない。しかし私自身、インターネット対局において23手で快勝したことがある。
一応付け加えておくと、当然相手は有段者である。

 

以上で@6二銀A5二金右B6二飛C8五角までの対策を紹介し終えた。

しかしもう一つ、筋違い角を指す上でどうしても避けては通れない後手の対策がある。何年か前の竜王戦1組で、
鈴木−羽生戦で出現した形である。

 

上の図は私の実戦で、後手が右金の動きを保留して腰掛銀に構え、4筋の位を取った形である。4三金が見るからに怪しい。
そう、後手の狙いは△2二飛車と回ることである。先手の角の動きを4筋の位で封じ、玉頭で戦いを起こす狙いで、高田流にも
似た押さえ込みの方針である。この後無条件に飛車回りから2筋の歩交換を許しては、先手が勝ちにくいだろう。筋違い角戦では、
基本的に後手に序盤で無条件の歩交換を許してはいけない。

そこで、図から△2五歩に対してとっさの思いつきで指した手が好手だった。▲3六歩である。
以下は△2二飛に▲3七銀として、相振り飛車でも有力な矢倉を目指す。

 

 

こうなれば後手からも手を出しにくく、先手は左辺の充実を図ればよい。
対局中はこれで『羽生システム』の対策も万全か!と思っていた。事実、この対局自体も私の勝利に終わった。
しかし、感想戦で本局の結論を覆す修正手順が発見されたのである。

 

上の図は前頁の再掲である。ここで△2五歩は、▲3六歩で先手に矢倉に組む権利を与えることは解説した。
他に△3三桂に対しては、左辺に手をかけておいて△2五歩の瞬間に▲3六歩を狙えばよい。
では、この局面で△2二飛車はどうだろうか…。

 

 

どうもこれで▲3六歩とはつけなくなっている。ここでつくと、△2五銀のような手があり、以下▲3七銀△3二飛車となり、
矢倉には組めない。矢倉に組めなくて即負けというわけではないが…。△3四銀や△4三金を見たら、▲3八銀を思いとどまって、
穴熊を目指すほうが有力かもしれない。ただ、それ自体実戦で現れたことが無いので、この形は今後の研究課題ということで紹介を
終えさせていただきたい。別の言い方をすれば、筋違い角をされたときにはこの形が最も有力だ…ということである。
筋違い角に悩んでいる方は研究されてみるのもいいかもしれない。

 

 

筋違い角アレルギーの方へもう一つ簡単な対策を提供しよう。ただし、これは後手が良いというわけではない。
上の図は、先手が▲6六歩と角の引き場所を作ったのに対して、△8四角としたところである。
無条件に歩を取らせるわけにはいかないので、▲6八飛。そして△9五角。12手目にして準王手飛車が発生した。
これを無理なく避ける手段は無いが、1歩得+持ち駒角vs持ち駒飛車という戦いで、互角としかいいようが無い。

ただし、先手後手共に指すのが難しいのは事実で、筋違い角側の一方的な土俵になることは避けられるだろう。

以下からは筋違い角の『攻めの形』を紹介させていただく。

 

 

上の図は、筋違い角の攻撃態勢としては理想形の一つである。角は6七→7六→9八と移動し、空いたスペースに銀。
ここで後手にも4四角と打つ手などがあり、難しい形勢ではあるが、筋違い角としては形勢互角なら自分の土俵の分満足である。

 

この図は飛車を8八に転回して仕掛けたところである。以下△同歩には▲8五歩と打ち、浮き飛車を狙う。
ここではもちろん、形によっては飛車をぶつける手もある。▲8五歩のとき△6五歩とするくらいだが、
平然と▲8六飛としておき、△6二飛には▲6五歩、△6六歩には▲同飛で大丈夫だ。

このように筋違い角戦法では、偶数の筋の歩は角の引き場所を作るための歩、奇数…特に7筋の歩は攻めの糸口を作るための
歩と覚えていただきたい。7五歩をつくにはタイミングが非常に重要であるが、作戦勝ちになるかどうかの命運を握った位だと言える。

 

 

上の図は、普通に出現しそうな中盤の局面である。ここで筋違い角は華麗なフットワークを見せる。
▲5六角がそれで、△6三銀なら▲7五歩で攻めが続く。▲5六角に△6五歩としそうなものだが、
▲同歩と取っておいて△5五銀のような手には▲7八角から銀を狙っても、▲6四歩とついても先手が勝ちやすいと思う。

最後に、『解説は読んだけど実戦例がないとねぇ。』という方のために、私の将棋を紹介させていただく。
対局場所はインターネット近代将棋道場、対局相手は…女流プロである。

私は筋違い角実戦集の20局記念と称して、近代将棋道場で何年か前まで企画で行われていた『本気一番勝負』に挑戦した。

 

 

上の図は相筋違い角の基本図とも言える局面である。ただ、対局相手の女流プロが「なめんなよ。」と思ったかどうかは定かではない。

 

 

少し手順が進んで上の図。後手の3二角はこの場合の定位置で、玉を安定させながら先手の飛車の動きをけん制している。
少し長い手順を進めるが、▲6八銀△6四歩▲4八玉△3三銀▲3八玉△6二銀▲8六歩△6三銀▲8五歩△7四歩▲7八角
△4二玉▲6七銀△3一玉▲8七角△5四銀▲5六銀△8四歩と進んで次の図。

 

図の△8四歩が先手の隙をついた一手。
この手があるなら、また▲8七角とぶつけるつもりなら▲8五歩は不急どころか不要の一手であった。

以下▲同歩△同飛▲7七桂△7五歩▲6七銀△6五歩▲8五歩と進んで次の図。

 

 

先手は7七桂も6七銀も指した瞬間に狙われる形で苦しい。
対して後手は、玉も安定していて主導権も握っている。当然後手が良い。悪い理由が無い。
だから、じっと△7四飛くらいで以下後手快勝…のはずだった。次の△6六歩が問題だった。
以下、手順を進めると△6六歩▲8四歩△6七歩成▲9六角△8七歩▲同飛△3六歩
▲同歩△4五銀▲7一飛△4二金寄▲4八銀△3七歩▲同桂△3六銀▲8六飛△5四角。

 眠っていた先手の駒たちが全軍躍動して次の図。

 

 

 

 

 次の手は前譜の▲8六飛車からの狙いの一手で、事実上の決め手になったと思う。

ズバリ▲3六飛。振り飛車党なら飛車を豪快に切る手はたまらなく快いはず。

上の図以下▲3六飛△同角▲3二歩△同玉▲4一角成△同金▲4三金△同玉▲4一飛成△4二金▲5二銀△3四玉
▲3五歩△2四玉▲4二龍△1五角▲1六金まで。

 

 

実は▲3七桂と跳ねて3六の歩を取らせたのも、▲3二歩を打つ狙いがあってのことである。
なお、実際は▲1六金のところで後手の時間切れとなり、先手の勝ちとなった。

感想戦もどこか無愛想で…ひょっとして時間切れはわざとかな?なんて邪推もしたが、勝利の余韻が全てを消し去ってくれた。
なお、手の善悪等はとても究明しきれないので、暇な方は悪手や隠れた妙手を研究してみてください。

 

 私自身、ここまで長い研究文を発表するのは初めてである。ゼミの卒業レポートなんてこの半分にも満たない分量である。

そりゃ評定【可】だわな…。

 

では最後に、ここまで読んでくださった方へのお礼として、最も激しい後手の応手を紹介して終わりにさせていただきたい。

 

 

この手は私もまったく経験がない。関西将棋会館の道場で、おじさん相手に子供が指していた手である。
しかしどうしたらいいのかわからない。角成りを放置して自分も筋違い角を打つ…こんな手が存在するからこそ、将棋はやめられない。

 

 

−2006年12月1日、パワプロ13の育成理論を考えながら−    

讃岐和尚

 

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