- 疼痛のメカニズム -

臨床実習小課題 2000.06.08(木)



■ はじめに

疼痛は臨床の場において頻繁に対応しなければならない愁訴である.

疼痛の発生原因は骨・関節に起因するものや神経圧迫によるものなど様々であるが、いずれにしても患者が表現する疼痛感覚は何らかの侵害刺激に対して身体が反応している状態、つまり身体組織の構造や機能が正常から逸脱していることを知らせるサインととらえることができる.


したがって、その反応として生じている疼痛を単に抑えてしまおうとすることは必ずしも適当ではなく、そのサインがどのような刺激によって出現しているのかよく検索する必要がある.

そこで今回、疼痛が発生する生理学的機序を再確認するとともに、臨床の場で見られる疼痛に対して如何にアプローチしていくか検討することを目的として以下のサマリーを作製することにした。



■ 疼痛の分類

@痛みを伝達する神経系による分類

末梢性の痛み

peripheral pain

表在性:皮膚・粘膜などに刺激があるときの痛み.(superficical

深在性:内臓・関節・胸腹膜などに刺激があるときの痛み.(deep

投射性:刺激と離れた部位に感じられる痛み.(referred

中枢性の痛み

central pain

脊髄・脳幹・視床皮質などに与えられた刺激が原因となる痛み.

(投射するものもある)

心因性の痛み

psychogenic pain

器質性の刺激の原因が見当たらない場合の痛み.

A伝達される速度による分類

一次痛(first pain

二次痛(second pain

感じ方

鋭い、刺すような痛み

(鋭痛:sharp pain

鈍い、疼くような痛み

(鈍痛:dull pain

局在性

明確

不明確

受容器

高閾値機械受容器

侵害熱受容器

ポリモーダル受容器

適刺激

侵害的機械刺激

侵害的熱刺激

熱・機械的・化学的刺激の

すべて

一次求心線維

主にAδ線維

皮膚ではC線維

深部組織ではAδ及びC線維

B痛みの発生様式による分類

 a)侵害受容性疼痛

   外部または内部から侵害刺激が加えられ、その刺激によって侵害受容器が興奮したときに起こる.

 b)神経系異常による痛み

   侵害受容器を経由せず、神経系が自発的に興奮して起こる.

  例:幻肢痛、末梢神経損傷後の求心路遮断痛、椎間板ヘルニアでの坐骨神経痛etc….

 c)心因性の痛み

   侵害刺激がないか、もしくはあっても通常では痛みを感じない軽微な刺激を強い痛みと感じる.

  慢性腰痛・肩周囲痛・頭痛などに関連しているといわれている.




■ 疼痛発生機序

@疼痛の発生
疼痛は簡単にいうと『受容器−神経伝導路−中枢』という経路上で起こり、この経路のどこかに加わった刺激によりインパルスが発生すると中枢に伝えられ痛みとして知覚される.

@疼痛の発生
疼痛は簡単にいうと『受容器−神経伝導路−中枢』という経路上で起こり、この経路のどこかに加わった刺激によりインパルスが発生すると中枢に伝えられ痛みとして知覚される.

a)受容器から生じる痛み
痛みを感知する受容器に加わった様々な刺激によって起こる.

物理刺激

機械刺激(強い温熱・寒冷・光・電気etc…)

化学刺激

内因性発痛物質

ブラジキニン,プロスタグランジン,セロトニン,ヒスタミンetc….

外因性発痛物質

生体外から送りこまれるもの

b)神経伝導路で生じる痛み

 神経線維に加わる物理的刺激・化学的刺激によってインパルスが生じたもの.

 肘を打ったときにはしる痛みや神経根圧迫症状など.

c)中枢で生じる痛み

 皮質・視床・脳幹・脊髄などの刺激で疼痛を起こすもの.強い不快感を伴う激しい痛みとなる.

 視床痛・Dejerine-Roussy症候群など.

最も一般的なのは…
体に組織を侵害するほどの強い刺激(=侵害刺激)が加わることで、皮下組織内に発痛物質と呼ばれる化学物質が産生され、これが痛覚の受容器である自由神経終末に作用して痛みが発現する.


A疼痛の受容器
痛みの受容器は、強い刺激、45℃以上の温刺激、組織を傷害する化学物質などの侵害刺激に特異

的に反応する受容器である.侵害刺激を適刺激とするため侵害受容器(nociceptor)と呼ばれている.

侵害受容器は以下のように2種類に大別される.

a)高閾値機械受容器
≪特徴≫
侵害性機械刺激に対し強度に応じた反応を示す.
繰り返し刺激で反応は減弱する.
刺激が終了すれば後発射を示さない.

b)ポリモーダル受容器
≪特徴≫
非侵害刺激から侵害刺激まで広い範囲で刺激強度に応じて反応する.
侵害刺激を繰り返し与えると反応性が増大し閾値の低下がみられる.
刺激中止後の後発射が長時間持続する.

ポリモーダル受容器は皮膚のみならず骨格筋、関節、内臓諸器官と広く全身に分布している.

形態的に高閾値侵害受容器はシュワン鞘を持った小胞を持つ神経終末であり、ポリモーダル受容器は自由神経終末であるとされている.


■ 疼痛伝導路

@上行性伝導路
一般に痛覚は以下の機序を辿るとされており、刺激の種類によって伝導神経線維が区別され、それぞれで異なる経路を通る.

a)first painの場合

 侵害刺激を自由神経終末で受容

           ↓

 Aδ線維:fast and pricking pain

  (伝導速度11〜15msec

           ↓

                脊髄後角

           ↓

       外側脊髄視床路

           ↓

      視床後外腹側核(VPL)

           ↓

         内包後脚

           ↓

          大脳皮質体性感覚野


b)second painの場合

 侵害刺激を自由神経終末で受容

           ↓

 C線維:slow and burning pain

    (伝導速度1〜2msec

           ↓

         脊髄後角

           ↓

    前脊髄視床路・脊髄網様体

           ↓

    視床髄板内核・視床下部

           ↓

         大脳皮質

A
疼痛抑制機構


 a)薬物による抑制

   疼痛を抑制する代表的な薬物にモルヒネがある.

 モルヒネは中枢神経系のオピオイド受容体に結合して疼痛の情報伝導を遮断し鎮痛作用を発現.

  ※オピオイド受容体は中脳中心灰白質、扁桃核、尾状核、視床下部、脊髄後角等に広く分布.

 b)内因性オピオイド物質による抑制

   内因性オピオイド物質とは、生体内に存在しオピオイド受容体に結合してモルヒネ様作用を発現する
  物質の総称である.

 エンドルフィンやエンケファリンが代表で、下垂体や脳実質の中に存在している.

 これらは特異的にオピオイド受容体と結合して鎮痛作用を発現するため、モルヒネ様ペプチドとも呼ばれる.


c)通電刺激による抑制

  第3脳室周辺部、中心灰白質、延髄縫線核、傍巨大細胞網様核を通電刺激すると鎮痛効果が得られる.
 
  これを刺激による鎮痛法(
stimulation produced analgesia=SPA)という.

 d)gate control

末梢神経の中で太い線維(Aβ)が興奮すると、膠様質細胞が促通され、細い線維(Aδ,C)からの中枢伝達がシナプス前抑制される.

逆に細い線維の興奮は、膠様質細胞を抑制するためシナプス前抑制が脱抑制される.

太い線維と細い線維の興奮の程度によって中枢への関門が開閉される.

(L:太い神経線維,S:細い神経線維,SG:膠様質細胞,T:中枢伝達細胞)


e)下行性疼痛抑制系

 皮膚などからの信号が中枢に伝えられた後、逆に脊髄を下行し痛覚情報の伝達を抑制する機構.

 脊髄後角において侵害性一次ニューロンから上行性ニューロンへの伝達を抑制しているもので、

    抑制性の伝達物質はセロトニンおよびノルアドレナリンである.

 ※疼痛に対する経皮的電気刺激(TENS)や鍼治療の作用機序もこの抑制系賦活が関与.




■ 疼痛の評価

@評価目的
a)その時点での疼痛の程度を客観化する.

b)経時的な変化による理学療法の効果を判定する.

c)疼痛の原因を探る.


A評価方法
問診・運動検査・触診検査の手順で評価を行う.

≪問診≫
a)どのような肢位や動作時に痛みが出現するのか?
b)痛みの部位は?
c)痛みの質は?
d)痛みの程度は?

・MPQ(McGill Pain Questionnaire
 =患者が疼痛を表現する言葉.例えば「チクチク」「つき通すような」などの45表現を点数化する質問表であり、
   信頼性が高い.

・VAS(Visual Analog Scale
 =10cmの直線を引き、0cmが全く疼痛がない場合、10cmが今まで経験したなかで最も激しい痛みとして、
   現在の疼痛を直線上に示させる視覚的評価方法.

  急性期の評価方法としては妥当だが、慢性痛に対する評価としては信頼性が低い.

・フェイススケール(Faces Pain Rating Scale
 =「疼痛がなく、幸せな顔をしている」表情から「我慢できない疼痛で涙が出ている」表情まで6種 類の
   顔面の表情を選択させる方法.

  子どもに質問するときに便利であり、短時間で評価できる利点がある.

≪運動検査≫
関節運動(自動・他動)操作により関節内または関節周辺の軟部組織(関節包・靭帯・筋・皮膚など)
内圧を上昇させたり、力学的歪みをおこしたりして、運動痛を誘発する検査.

この検査時に認める痛みは筋に起因することが多く、その分類は以下の通りである.

※収縮痛や短縮痛を誘発させるためには痛みを発現していると思われる筋の起始と停止を最大限に近づけるように動かす.


≪触診検査≫
痛みの原発部位に対し経皮的に拇指で圧迫を加える.
圧迫を加える方向・程度をいろいろ変化させて、最も痛みの程度の強い部位を決定し、その正確な解剖学的部位、
痛みの種類、拇指に感じ取れる痛みの性状、放散痛の範囲、関連痛の部位、範囲
を調べる.
 




■ 疼痛へのアプローチ

臨床の場でよく見られるのは筋が痛みの原因となっているケースである.
筋が痛みの原因となるのは、原発性の場合と、筋スパズムが生じそれが長期化した場合である.

a)原発性の場合

 筋の損傷が完全に治癒せずに筋硬結として残り、それに機械的刺激が加わって運動痛を生じる.

b)筋スパズムの場合

 しばしば痛みによって交感神経活動が亢進するため血管収縮が起こり、筋は虚血に陥りやすい.

 虚血になれば持続収縮(スパズム)は強い痛みを発し、さらに反射性スパズムと交感神経活動を

 助長することになる.

 筋スパズムが長期化すれば、悪循環により筋自体が痛みの原因となる.

 また虚血が続けば筋組織が損傷され、筋硬結が生じる可能性がある.

よって理学療法では、筋スパズム及び筋硬結を除去することと炎症に対処することが基本となる.

 

≪急性痛に対する理学療法≫
@安静 
A鎮痛 
B循環の維持 
C精神的リラックス

・痛みが筋スパズムとの悪循環の要因にならないように配慮する.

・初期の鎮痛には寒冷療法がよく用いられる.⇒RICEの理論

・炎症部以外は自動運動を行う.⇒循環を維持するため

・患者が不安感を持たないように配慮する.

≪慢性運動痛に対する理学療法≫
筋硬結は筋組織の慢性炎症及び化学的な自動収縮と推測される.

自然治癒しないのは虚血による栄養とエネルギーの枯渇のためと考えられる.

そのため理学療法では循環を改善するようアプローチしていく.

また、筋スパズムに対しては、初期には痛みの悪循環を断ち切ることが重要であるが、長期化したものは筋硬結と同様に考える.

@深部温熱

 一般にホットパックが処方されることが多いが、深達性に富むのは超音波療法と赤外線療法である.

A機械的刺激

 スパズムを有する筋や筋硬結に対して、圧迫と揉ねつを加える.

筋硬結部では強い痛みを発生するが、痛みによって神経性炎症と下行性疼痛抑制の駆動が期待できる.また圧迫と揉ねつは組織に微細な損傷を与えて急性炎症反応を起こすため、血管の拡張・病的組織の貪食が期待できる.

B筋のストレッチング

 a)一般的方法

  筋の起始部と停止部を遠ざける方法.

  利点:容易に実施できる.

  欠点:伸長程度が関節可動域に依存するため十分に伸長できない場合がある.

 b)直接的方法

  筋線維に対して圧迫や揉ねつを加える方法.

  まず直接法でストレッチを加え、その後一般的方法でストレッチを行うのが効果的.




■ まとめ

以上、疼痛のメカニズムからアプローチまで概論を述べてきた.

疼痛の種類や原因は多種多様であるが、いずれにせよ疼痛があると運動療法を円滑に進められず患者の治療意欲を低下させる恐れがあるため、その病態と患者主訴は常に留意しておく必要がある.

今回は疼痛の概要を述べるにとどまったが、後にまた機会があればより深く筋痛メカニズムを勉強するとともに、中枢疾患に見られる視床痛などいくつかの症状に範囲を狭めて学んでみたい.

〜主要参考文献〜

                      ・石川齋:理学療法技術ガイド.文公堂,1998

                      ・吉元洋一:理学療法評価法.神陵文庫,1996

                      ・千住秀明:運動療法T.神陵文庫,1995

                      ・松村譲兒:イラスト解剖学.中外医学者,1998

                      ・石川友衛:神経生理学.医歯薬出版,1998

                      ・馬場元毅:絵でみる脳と神経.医学書院,

                      ・PTジャーナル.第33巻第7号,1999−7

                      ・PTジャーナル.第23巻第8号,1989−8

                      ・神経進歩.Vol42,NO3,1998−6





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