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作者推奨図書


近代史に関する専門書・一般向け問わず幅広く、作者の独断と偏見で紹介します。


尾形勇・岸本美緒 編
『新版世界各国史3 中国史』
東京・山川出版社、1998年6月(3500円)

 日本では最も新しい中国通史の一つである同書は古代文明から中華人民共和国の現在までの歩みを網羅する総合的な著作である。分量もそこそこで、中国史を通覧するには便利であり、何よりも巻末の索引や年表は言うに及ばず、参考文献に対してもある程度解説が施されており、中国史の入門書としても優れている。日本の若手の研究者が各時代ごとの執筆を担当しているというのにも注目できる。ただし、学術的要素が強すぎて記述が無味乾燥になってしまっており、そのため一般の人には馴染めない個所が多々あるのも否めない。それでも、中国史の整理のためにもお手軽な一冊であることは間違いない。
 近代部分は清末と民国期の二つに分かれており、担当者はそれぞれ並木頼寿、久保亨の両氏である。
 清末は「第六章 動揺する中華帝国」と題され、四節に分かれている。第一節はアヘン問題の発生前後からアヘン戦争や太平天国、第二次アヘン戦争などによって、清朝支配体制が徐々に崩壊していく過程を描いている。第二節は、太平天国を含め、それ前後に各地で勃発した内乱の蔓延という情勢の下で、清朝中央政局の動向に目を配りつつも、中国の「地方の時代」に突入していく過程を分析、第三節では、洋務運動や変法運動によって、中華帝国としての大勢を立て直すと同時に、意識的・無意識的に近代国家の建設に対する構想が育まれてきたこと、この過程は十九世紀70年代以降の辺境地における中華帝国としての存在の危機、日清戦争によって更に高まった「亡国」観、それが義和団の乱及び八カ国聯軍の進軍によって頂点に達した、という中で進展していったことを説明している。第四節は清末の新政から革命へという一連の動きをまとめている。非常に簡潔にまとめられ、読みやすく理解しやすい通史的読み物になっている。
 民国期は「第七章 中華復興の試み」に該当する。題名の通り、中華の復興という観点から複雑な民国史を比較的分かりやすく紐解いていることには好感が持てる。三民主義を例にとって、「共和制を主な内容とする民権主義と社会改良を意味する民生主義の二者は、民族主義との関連で理解されることが多かった。政治的民主主義や基本的人権の保障にしても、それ自体に独自の価値が見出されたわけではなく、中華復興という民族主義的な目標を達成するためには近代的な政治制度である共和制を採用しなければならない、と考えられたのである」(P369)と説明、辛亥革命そのものも、それ以後の民国史の流れも、すべて「民族主義」と無縁ではないことを強調することで、民国史の特異性を表現する。また、例えば「軍閥」という言葉を容易に使うのを避け、それに説明を加えたり、袁世凱に対する肯定的見直しが進められているのは、最新学術成果を取り入れた結果だともいえる。中央の財源確保という点から、袁世凱と蒋介石を比較し、前者を「外債に依拠しようとして失敗」、後者を「税収増加に全力を傾注」することで、「権力基盤の確立に成功していく」とし、国民政府による関税自主権の 回復も主権回復という民族的悲願のほかにより現実的な中央政府の財源確保という問題をはらんでいたことを示唆している。こうした観点や表現も興味深い。更に注目すべき点としては、久保氏は最も早くから近代史における「半植民地半封建」という概念に異議を唱えていた人で、当然この章には同概念は一切使われていないことであろう。それでいて、民国史における中国と列強の関係、近代性と前近代性を比較的すっきりと説明している点は、敬服させられる。
 両章ともまだまだ問題は少なくないが、最新の学術成果を取り入れた清末民国期の通史として仕上がっており、今後の議論の根本材料として提供されるものとして評価できるのではないだろう。
過去ログ1: 入江昭著・興梠一郎訳 『日中関係・この百年』
過去ログ2: 横山宏章著 『孫文と袁世凱−中華統合の夢』
過去ログ3: 陳瞬臣著 『アヘン戦争』
過去ログ4: 古市宙三著 『中国の近代』



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