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目標制御注入法を用いた全静脈麻酔
Target-Controlled intravenous anesthesia

--当科での実践--


当科では、2000年7月から、目標制御注入法 Target-ControlledIn fusion (以下TCI)ソフトRUGLOOPを用いた全静脈麻酔が日常的に行 われるようになってきました。

● 背景

静脈麻酔薬の血中濃度をリアルタイムでモニターし、その結果に基 づいて投与量を刻々と調節しつつ、一定の薬物血液濃度を維持し、 それにより一定の薬効を期待する麻酔法は理にかなっているように 思える。しかし臨床の場では、薬物濃度のリアルタイムフィードバ ックは技術的に困難であり、少なくとも現時点では不可能に近い。

これに代わって、薬物動態をコンピューターを用いてシュミレーシ ョンし、予測血中濃度を算出し、その結果に基づいて薬物投与量を 制御する方法が考案された。これが目標制御注入法Target-Control led Infusion (TCI)と呼ばれる薬物投与法である。

すでに、欧米ではTCIソフトを搭載したシリンジポンプが臨床使用 されており、本邦でも2001年には発売される予定である。プロポフ ォールを用いた全静脈麻酔はこれまで、「ステップダウン法」と呼 ばれる方法が広く行われてきたが、今後はTCIソフトを用いて、血 中あるいは効果部位の薬物濃度を意識した麻酔管理が主流になると 我々は予想している。
以下に当科での実践を紹介する。

● 準備すべきもの

  1. TCIソフト:RUGLOOP
    RUGLOOPはMichel Struys & Tom De Smet らが開発したTCIソフ トで、フリーソフトである。以下で入手可能。なお、現在作者 らは来春の公開を目指してRUGLOOP II を開発中とのことです。
    http://pkpd.icon.palo-alto.med.va.gov
  2. コンピューター:ウインドウズマシン
    COMポートを有し、ウインドウズ95以上のOSが走るコンピュ ーターであれば、CPUの速度は実際上それ程問題にならない。 当科ではDX4マシンを使っている。
  3. シリンジポンプ:Grasby社製シリンジポンプ3500

  4. インターリンクケーブル:
    コンピューターとシリンジポンプを接続するのに使う。パソコ ンショップなどで売っている。長いほうが取りまわしに便利。 当科では3.5mで2000円程度の物を使っている。

● セットアップ

  1. ダウンロードしたRUGLOOPは圧縮されている(rugloop.zip)。Lhasa などの解凍ソフトを利用してコンピューターにRUGLOOPをインス トールする。デスクトップにRUGLOOPへのショートカットを貼り つけておくと便利です。

  2. シリンジポンプ Graseby3500 の設定 シリンジポンプとコンピューターがインターリンクケーブルを通じて 情報をやりとりできるように、シリンジポンプを設定します。
        シリンジポンプの[on]ボタンを押す。
        液晶画面の[PURGE]の下にあるボタンを押しながら、[BOLUS]ボ
        タンを押す。
        configuration? と液晶画面に表示される。直ちに[START]ボタ
        ンを押すとポンプの設定画面に入ることができる。[START]ボ
        タンを押すのタイミングが遅れると設定画面に入ることはでき
        ない。
        設定画面の[NEXT]と[CHANGE]の下にあるボタンを押しながら次
        々と設定をしていく。当科の設定は以下の通り。
        TERUMO
        LANGUAGE=ENGLISH
        BOLUS BEEP=YES
        PRESET BOLUS=YES
        MASS UNIT=YES
        mg/kg/h=YES
        mg/kg/mn=NO
        μg/kg/h=NO
        μg/kg/mn=YES
        mg/hr=NO
        μg/hr=NO
        LCD CONTRAST=12
        BAUD RATE=9600
        TCI PRESENT=NO
        MAX RATE=1200
    
    すべての設定を終了したら、[STOP]ボタンをおすと設定画面か ら抜け出すことができる。なお、mg/kg/h から μg/hr までの設定 は各施設の実情に合わせて設定してください。BAUD RATE=9600 に設定していないとコンピューターとの通信はできません。

  3. シリンジポンプに空の50mlシリンジを装着する。シリンジポ ンプとコンピューターをインターリンクケーブルでつなぎ、シ リンジポンプの電源をオンにした後、コンピューターを再起動 する。

● ソフトの設定

我々は二つのRUGLOOP画面を立ち上げている。一つはフェンタニル 用であり、今一つはプロポフォール用である。

フェンタニル用ウインドウはシュミレーションモードで運用してお り、フェンタニールをBolus投与するたびに、時を置かずにコンピ ューターにも同投与量を入力し、その効果部位濃度を意識しながら 麻酔管理をしている。

プロポフォール用ウインドウはリアルモードで運用しており、麻酔 科医が希望する効果部位濃度あるいは血漿濃度をRUGLOOPに入力す ると、RUGLOOPは設定された濃度に達するようにシリンジポンプを 駆動し、その後は設定濃度を維持するように自動的にプロポフォー ルの投与速度を調節する。

以下に順を追って設定を説明する。

●フェンタニル用ウインドの設定(シュミレーションモード)

RUGLOOPを起動すると、起動画面が現れる(起動画面はこちら)。

[Options]タブをクリックし出てくるプルダウンメニューから [Simulation mode]を選択する。次に画面右上に表示される [I agree]ボタンを押すとタイトルバーに Configuration dialog, Please check and correct when nesessary と書かれたウインドウ が開く(設定ウインドウはこちら)。

患者氏名、身長、体重、年齢を入力し、性別を選ぶ。 データは患者氏名のファイル名で保存されるので、 我々はフェンタニールのデータであることを明示するために、 「yamada tarou fen」 などとしている。 [Bolus/infusion]のラジオボタンをマークし、Drugの欄で[Fentanyl] を選び、Kinetic setの欄では[Scott,not weight adjusted]を選ぶ。

[Start]ボタンをクリックすると薬剤投与画面に変わる。

Bolus/infusion のボックスが白くなっており[0.00]と表示されて いる。ここにマウスを動かしワンクリックするとボックスが青くな り、黄色のカーソルが点滅している。ここに投与するフェンタニル の量を入力する。単位mcgになっているので、たとえば、フェンタ ニルを2ml投与するならば、100と入力し、エンターキーを叩くと、 シュミレーションプログラムが作動し始める。
青のラインは血漿中の濃度、赤のラインは効果部位の濃度を表している。

●プロポフォール用ウインドウの設定(リアルモード)

フェンタニルのシュミレーション画面から[File]タブをクリックし、 出てくるプルダウンメニューから[New]を選択し、新しいRUGLOOPの 画面を呼び出す。

[Options]タブをクリックし出てくるプルダウンメニューから[Real mode]を選択する。次に画面右上に表示される[I agree]ボタンを 押すと、タイトルバーに Configuration dialog,Please check and correct when nesessary と書かれたウインドウが開く(設定ウイ ンドウはこちら)。

患者氏名、身長、体重を入力し、性別を選ぶ。プロポフォール用のファイ ルであることを明示するために、我々は患者氏名を「yamada tarou pro」 などとしている。なお、体重に関しては、肥満者であっても実体重 をそのまま入力しています。

Infusion pump の設定欄で[Graseby3400]を選択する。COMポートの選択では 使用するコンピューターにより、Com1かCom2を選ぶ。

[open loop, effect site steering]のラジオボタンをマークし、 Drugの欄で [Propofol] を選び、Kinetic setの欄では[Marsh-Schnider time to peak 1.6] を選び、[start]をクリックする。

薬剤投与画面が現れる。ダイアログボックスに質問が出てくるので、 次々に答えていく。

Put new syringe in the pump.When necessary, turn the pump on and/or acknowledge the selected syringe on the

[OK]をクリックする。

Pump found
Purge dialog:place syringe in pump and carefully seat syringe clamp. When done,press OK button.

[OK]をクリックする。

Do you want to purge the line?

ラインを薬剤で満たしたいならば[Yes]を、 すでに満たされてあるならば[No]を選択する。
シリンジポンプの遊びを取るために、我々は[Yes]にしている。 [Yes]にすると、ポンプが200ml/hで薬剤を押し始める。

Purging...press STOP button to stop

薬剤がラインを満たしたならば[STOP]を押す。

Current volume in syringe?(mls)

青く反転したボックスに[0.00]と表示されているので、[Delete]キ ーを押してゼロを消したあとに現在シリンジに充填されているプロ ポフォールの量を入力し(たとえば50)リターンキーをたたく。

Press start to start the program

[Start]ボタンをクリックするとプログラムが走り始める。

Effectsite concenration のボックスが白くなっており[0.00]と表 示されている。ここにマウスを動かしワンクリックするとボックス が青くなり、黄色のカーソルが点滅している。ここに希望する効果 部位濃度を入力する。たとえば、[1.0]と入力し、エンターキーを 叩くと、ポンプが作動し始める。

●我々の実践

Target-Controlled intravenous anesthesiaを行う前に、RUGLOOP を開発されたグループが著した以下の論文を読むことをお勧めしま す。

Comparison of plasma compartment versus two methods for effect compartment-controlled target-controlled infusion for propofol
Anesthesiology 2000;92:399-406

我々は前述の様に、2つのウインドウ(フェンタニル用とプロポフォール用)を 立ち上げ、前者はシュミレーションモード、後者はリアルモードで運用している。 画面の切り替えは[Window]タブから[ruglp1]や[ruglp2]を選ぶと、 それぞれのウインドウを単独で見ることができます。あるいは、 [Cascade]を選べば、二つのウインドウを同時に表示することもでき ます(個々のウインドウは小さくなる)。

現在当科では、上記論文で紹介されているKinetic setを用い、 効果部位濃度を標的としてプロポフォールを投与しています。

フェンタニルを100mcgほど投与した後、プロポフォールの効果部位 濃度を1.0mcg/mlに設定しRUGLOOPを走らせます。患者の様子を見な がら、1.5mcg/mlにあげ、入眠が得られない場合は2.0mcg/mlにあげ ます。

多くの人では2.0mcg/ml程度で入眠しますが、若い人や緊張の強い 人では3.5mcg/ml程度まで必要とする事があります。効果部位濃度 を徐々に上げていくのは、血圧の過剰な低下を避けるためです。

挿管は2.5-3.5mcg/ml程度の効果部位濃度で可能となる場合が多い ようです。

執刀前にフェンタニルを100mcg程度投与し、プロポフォール濃度は 4mcg/ml程度まで段階的にあげておきます。硬膜外を併用している ときにはもっと低い値でも乗り切れます。

術中はバイタルサイン、瞳孔、流涙、発汗などを総合的に判断し、 薬剤をタイトレーションします。
フェンタニルは効果部位濃度が1.0ng/ml以下にならないように追加投与します。
プロポフォールは10%程度ずつ下げていきます。たとえば、執刀時4.0mcg/mlまで上げて、 落ち着いているようであれば、3.6mcg/mlに下げます。次は 3.3mcg /mlに減らすといった具合です。ただし、術中覚醒を予防するため、 入眠時の効果部位濃度(多くの人では2.0mcg/ml前後)以下には下 げないようにしています。

閉創まぎわまでにプロポフォールを入眠時の濃度まで下げておき、 閉創終了後にプロポフォール濃度を0.0mcg/mlにします。

これまでの経験では、プロポフォール中止から、呼名開眼までは8+/-7分。 呼名開眼時のフェンタニルとプロポフォールの効果部位濃度は それぞれ1.0+/-0.19ng/ml、1.36+/-0.37mcg/mlでした。

● 注意

RUGLOOPの使用にあたっては、プログラムのヘルプに書かれた記載 をよく読んで、自己の責任においてお使い下さい。また空シリンジ を使って、納得できるまで十分に実験と練習を繰り返してから臨床 にお使い下さい。

実際の麻酔管理にあたっては、予測濃度のみを麻酔深度の目安にす るのは危険です。薬物の効果には個人差、年齢差などがあることを 念頭におき、バイタルサインや患者の様子を子細に観察し、タイト レーションにつとめる必要があります。

● 最後に

これまでの、ステップダウン法による静脈麻酔は、ナビゲーション システムのない車で目的地まで行くようなものです。機器の進歩に より、ガス麻酔が呼気麻酔薬濃度を意識した管理になってきました。 同様に、静脈麻酔も血中あるいは効果部位濃度を意識したTCIに よる麻酔管理が今後主流になっていくだろうと我々は考えています。

●おまけ

RUGLOOPを走らせると、Cのルートディレクトリに患者氏名を冠にした ファイルが3つできます。たとえは、2000年11月21日に 患者氏名の欄にyamada tarou fenと入力した場合には
yamadataroufen20001121.err
yamadataroufen20001121.pk
yamadataroufen20001121.rgl
という3つのファイルができ、このうち、拡張子が[rgl]のファイ ルはエクセルなどの表計算ソフトに読みこむことができ、薬物濃度 をグラフ化することができます。

RUGLOOPを日常的に使っていると、C のルートディレクトリにたくさん ファイルがたまります。ルートディレクトリに置けるファイル数には 限界があるため、最悪の場合、RUGLOOPが走らなくなります。
RUGLOOPDATAなどと名前を付けたフォルダを作っておき、 時々これらのファイルを移動しておくと、よいでしょう。

藤原幹人、下馬場睦
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