アッパーに消えろ大作戦


天怒りて雷光を轟かせ、怒涛の雨は滂沱の涙のごとく川へ落ち激流となって山を削る・・・
2001年夏、私はついにあのアッパー川辺をカヤックにて下らんと豪雨の中、ランドアース変態ガイド白鳥のジュンの運転する車中で武者震いをプルプルさせていた。私の隣には今年の始めに冷凍錦川をともに下ったM隊長とMIYA隊員が強張った面持ちで座っている。「naosan!水多いですよ!カヌーライフ(カヤッカー愛読雑誌)の事故報告に載らんでくださいよ・・」と白鳥のジュンが軽口をたたく。しかも、「naosan・・・球磨川ではちょっとは知られたパドラーであった・・・」などと架空の記事を諳んじ始めたので私は切れた。今日の私にはシャレになってない!白鳥のジュンの頭をグーで引っぱたき「ばかぁ〜〜」と叫んだのであった・・・


わが胸を突き抜く雷光アッパー記念日(naosan心の俳句)


スタート地点についても雨は降り続く、川の水は茶色く修羅の如くに流れ行く。どんなに増水しても透きとおっていたあの川辺がこんな色になるほどに・・・・・

本日はラフト8艇(だったと思う・・)に、カヤック3艇、ダッキー1艇。カヤックには私とM隊長、MIYA隊員・・・そして・・・・ダッキーにはnaosan’sエンジェルスのエンジェルI子と、エンジェルカズピ〜・・無謀だぁ〜〜!!


私の説得も聞かず、とにかく、行きたいやりたいと言う彼女らに、ラフトサポートを完全にすれば大丈夫だろう。というSIGE尊師の判断でダッキー参加となった・・・私でさえ、ここにくるまで六年という(あんたは、いも引いてただけだろうと言うご意見もあるが・・)歳月がかかったと言うに・・・勇気と根性は認めるが・・・


荒野へと旅立つ子らの背中を抱く(naosan心の俳句)


カヤック軍団は誰もが皆、アッパーは初体験であった(カヤックでは・・・)。SIGE尊師がラフトからコースを指示すると言う事で一番手に私が、その後を他の3艇がついてくるという配列。
スタートすぐにメガホール!!通称、蛇篭(じゃかご)の瀬、川幅いっぱいの落ち込み、そして、右側には巨大な蛇篭(河川の護岸に使う円筒形のかごに石を詰めたもの)が埋まっており、ここで負傷したカヤッカーは数知れず、右岸を避けろいう尊氏の指示を受け思いっきり左に・・ガリっ・・・左にもあるよぉ〜〜蛇篭!!しかし、無事下り終える・・・・


瀬はどんどんスケールを増す。球磨川の二俣の大波が本流の中に当たり前のようにある。ちょっとでかい瀬など、目の前に水の高層ビルができるほどにダイナミックな波が立つ。あまりの緊張か沈脱を繰り返すMIYA隊員は、沈脱の疲れとラフトに助けてもらう心苦しさの為、傍目から見ててももう限界状態・・・私にも経験があるので良くわかる。なんせ、私だってこのアッパー川辺の前では自分のことでいっぱい、いっぱいなのだ。
そして、次の難所ドカンの瀬の前で、MIYA隊員はリタイア。よくやった。偉い!私は六年かかったと言うのに(かかりすぎだ!!)・・・・


naosan六年柿八年(naosan心の俳句・・なのか?)


強烈なドカンの瀬をドカ〜〜ンと大波喰らいながらもクリア!後ろを見ると、エンジェルス達のダッキーが下ってきた。ドカ〜〜ンと大波食らってひっくり返る!!その瞬間!!無人のダッキーは空に旅立たんとするロケットの如く、はたまた、天に神々しくそそり立つ柴立姫神社の御神体の如くにまっすぐと立ち上がる・・・皆一斉に驚嘆の声を上げた。
流れてきた二人をラフトがレスキュー・・・「私達、やっぱり、早すぎたのかなぁ??」問い掛けてくるエンジェルI子・・・今ごろ気付いたか・・・しかし、この後、エンジェルI子に最大の試練が待っている事を、その時誰も知る由はなかった・・・もちろん本人も・・・


ツアーはやがて川辺川ダム建設予定地に(ダム建設反対!!)・・・ここで、ラフトもカヤックも降りて偵察、SIGE尊氏に事こまやかにコース取りを岸から教えてもらう。通称チーママ、捕まると怖いホールである。ちょっとテクニカルなコースである。瀬の下のエディにラフトがレスキュー体勢を組んだのを見て、一番手に私が下る。アドレナリンをフルに放出させながらクリア!!そして、この後に本日最大のホール、ビックママが待っている。私は後方から来る同志達を見守るって・・・ひっくり返ってるよ!!!M隊長そして、ダッキーエンジェルスも見事チーママに捕まりひっくり返されてしまったのだ!!流れてくる三人!!しかし、エンジェルI子だけが違う方向に流れ、消えた・・・キーパーに捕まったのだ!!


時々、見え隠れするI子のヘルメット・・見えたと思うとすぐ引き込まれる。緊張感が立ち込める。なす術もなく右往左往する私。あわただしく動くガイド達の大声が響く!!その時、I子がキーパーから抜けた!流れてくる彼女をレスキューするラフト!茫然自失としたI子。時間としては一分半と言ったところだったが、彼女にとっては数時間に感じただろう。事前にキーパーに捕まった際は身体を丸めボールのようになって身体を守り、本流の下の流れで吐き出されるまで待てという事をガイド達に教えられていたので、そのとおりにしていたのだと言う。大したもんだ。何にせよ、死ぬほど怖かっただろう。しかし、良い経験だ。己を知ることは大切なことなのだ。頑張れI子。



増水川辺の色。こんな色のアッパーはじめて見た。 アドレナリンダダ漏れ状態のnaosan・・・



そして、私にも最大の試練が訪れた・・・ダッキーエンジェルス救出したラフトはビッグママの待つ約1kmも続く激しい瀬をドンドン流れていき、無人となった暴走ダッキーを追いかけSIGE尊氏のラフトも流れていく・・・・
ふと気付くと、最大の瀬を前に私と水出しを済ませたM隊長の二人だけが取り残された・・・
「naosan・・・どうします・・・・?」満面に不安をのせて隊長が問う・・・
「どうするって・・・行くしかないんじゃない・・」脳みそが真っ白な灰に覆われ始めてきた私・・・
眉間にしわを寄せる二人・・・苦悩と絶望という名の絵画があるなら、今の二人の風景はまさに二科展出品も夢ではないだろう・・・


我と来て下ろう下流のお友達(naosan心の俳句)
 落ちたる涙 流れよ運べあの人へ(naosan魂の俳句)


その時、希望の光が私の目に飛び込んできた!たった、一艇であるがラフトが残っている!ガイドはスーパーガイドと誉れの高い日本語が不得意なチェケラッチョジャキーンである。彼に全ての希望を託し私は問う!


「チェケラッチョ!ここはどう行けばいいんだ!?」
「ここはですね、1Kmくらい大きい瀬が続いてですね!最後にジャンボな落ち込み(ビッグママ)があります!僕らはその真ん中ジャキーンと落ちますけどnaosan達はその左側を行ってください!僕についてきてください!ブリブリブリー!!」
「よくわかった!ジャキ〜ン!ブリブリブリー!!」
チェケラッチョのラフトを追って、荒れ狂う波に飛び出す二人!ホセメンドーサの待つリングに向かう二人のジョー・・・


おっさんよタオルを投げたらぶっ殺す(naosan心の俳句)


荒波と至るところに点在するホール!かつてないほどに緊張しまくってコース取りをする私!永遠に続くのではないかと思える程の長い瀬。後ろからついて来ているであろう隊長を振り返る余裕さえない・・・

やがて前方に大きく盛り上がッたホールが見えて来た!お前がビッグママか!そのど真ん中を落ちていくチェケラッチョラフト!私はその左側に方向を修正し落ちた!ゴーッという水音が耳をつんざく!落ちてすぐの横波をもろにくらいひっくり返る!ロールで起き上がるとなぜか周りにラフトのお客さんが流れている!ラフトから落っこちたのだな・・・私の船に群がる人々、芥川龍之介の蜘蛛の糸のような心持。スマン、助けてあげたいが俺もイッパイイッパイなのだ・・・罪悪感を感じる間もなくスーパーガイドはお客さんをレスキューし始めたので隊長の事を思い出し振り返る!

何と隊長はビッグママをど真ん中から下ってきた!案の定ひっくり返る!捕まっている!必死にロールを繰り返すが上がらない!そのうちホールから抜け流れにのったがロールが上がらない。数えてはいなかったが10回近くロールを試みたのではないだろうか・・・・すごい根性だ!沈脱してきた隊長がいきなりウォーと吼えた!すわ!脱臼でもしたのではと近づく私に聞こえてきた隊長の言葉は・・・悔しい〜〜!・・・・涙の向こうに隊長が見えた・・・


濁流に響きし遠吠え雨上がる(naosan心の俳句)


最大の難所を越え、リラックスムードで下る私。しかし、波は高く激しい瀬は続く。やっと、ランチポイントについて昼食。雨も上がり、青空も見えて来た。太陽がのぞけば心も晴れる。ここからはそれほどの難所もなく下れる。

本来ならアッパー川辺、至上最強にして最悪の難所、堰堤越え、そして、恐怖の観音の瀬という身の毛もよだつ場所が最後の最後に待っているのだが、あまりの増水のため本日は行けません!・・・(行くとしても絶対ポテージするつもりなのだが)だから、もうここからは勝ったも同然!!リタイアしていたMIYA隊員も復活し下り始める。


やがて、ゴーゴーという音が聞こえ始め、堰堤が近づいてきた事を知らせる。堰堤前でゴール!同志達と熱い握手。恐怖の連続であったろう、エンジェルス達を抱擁(セクハラじゃないよ)・・・エンジェルカズピーも凹んだI子もよく頑張った。これから一生懸命精進して、また、ここをカヤックで一緒に下ろうな。「みんなおめでとう」とSIGE尊氏も手を差し出してくれた。六年の悲願、ここに達成!!私は堰堤から続く観音の瀬を眺めながら、轟々とトグロをまく白波を見つめ、ここは見なかった事にしよう、ここは存在しない事にしよう・・・そう、熱く心に誓うのであった・・・・


ランチポイントでリラックスする隊長&naosan お着替え中、記念写真に写りこんでしまった
お茶目なnaosan