登山衣料の基礎知識

 登山に限らず、アウトドアでの衣料計画の基本は「重ね着」。
重量に制限がある以上、洗濯物をためるなんて世俗感覚はもってのほか、毎日オシャレに着替えるなんて贅沢を意味します。
 登山は基本的に着たきり雀である。
 判で押した様に、登山用品店推奨のウールの山シャツにニッカーボッカーを着込む必要はない。雨の確立の低い時や、穏やかな夏日に上記の衣服では暑苦しく疲れてしまう。
 大切なのは、その時の条件によって手持ちの少ない衣料を上手に使い、快適なスタイルをつくり出すことなのだ。
 では、何を持参するか。何を購入するか。その前に無駄なものを持っていったり買わないためにも、素材について一通りの知識を身につけておきたい。

【素材の基礎知識】

ウール系素材 :アウトドアウェアの素材はもともとウールが基本だった。繊維が堅くて耐久性に富む。ウールは汗をかいて濡れても、コットンのように吸水しないし、肌に触れていると繊維の末端は乾いて暖かかった。未脱脂のウールは発水性と伸縮性に優れていて、保温性もある。やはり羊毛だから毛皮並みの機能だと思っていた。でも、ヘビーデューティの代名詞たる米軍のセーターなんてバルキーで重かったよ。
 ウールは今だ強い人気があって、縮みを補正したウォッシャブルウールのシャツなんて麻のようにさらっとしている。自分の場合、ウールのセーターやソックスなんか一回り大きいサイズを買って、洗濯してわざと縮めちゃう。そのほうが目が積んでちょっとやそっとじゃ穴が開かないし、風を通しにくくなるのだ。もちろん冬用にしている。

 山シャツにしてもセーターにしてもウールの入手しやすさにはまだまだだけど、交織や混紡、合成繊維の進出でこれに変わる素材がどんどん開発されている。合成繊維や素材名も耳慣れないものが増えてきているが、主に2大別でき、以下の様に特徴をまとめることができる。

アクリル系素材 :もともと親水性があり、水に濡れやすい。保温性をもってウールの代用繊維とされるが、耐久性に劣った。

ポリエステル系素材:デュポン社ではダクロン、東レではテトロンと呼称が変わる。シルクやコットンの肌触りにいかに近付けるかを目標に開発が進んだ。ナイロンの1/10の吸湿性が特徴で、本来の吸水性は低い。

保温性素材
  • ウィックロンハイバルキー(アクリル):ウール代用繊維。弾力に富み従来のアクリル毛糸よりへたりにくい。ウールより総体的に軽い。セーター、山シャツなど。
  • ウィックロンプラス(アクリル):ウールより吸水するが、コットンの様に浸透せず表面で拡散するため乾燥速度が早い。パイルソックスなど。
  • ポーラーテック(ポリエステル):フリース素材の代表。軽量ながら保温性が高く、毛玉になりにくい。
  • マイクロドライ(ポリエステル):第2世代フリース素材。静電気抑制、抗菌効果が追加された。
  • シャミース(ポリエステル):マイクロフリースより薄く、肌触りがよい。高密度繊維のためフリースよりも風を通しにくい。薄手のアウター、中間着など。
  • オーロン(アクリル):ウール代用繊維の先駆け。ウールより乾きやすく、軽く、保温性に富む。様々なものに使われている。
  • クロロファイバ−:ポリプロピレン(ポリ塩化ビニール)素材。吸水性はほとんどない。ウールの下着より薄手で軽く、保温性と速乾性に富む。下着素材。

    吸水拡散性素材
  • テクノファイン(ポリエステル):吸水性が高いが、肌面に接する部分は乾いた感じがする。伸縮性があり、耐久性に富む。
  • ウィックロン(ポリエステル):コットンより吸水性に富むが蒸発性が高いため、濡れても冷たさを感じにくい。ポロシャツなど伸縮性のある物向き。
  • クールマックス(ポリエステル):コットンに似た肌触り。洗濯耐久性があり、コットンより縮みにくく、型くずれしにくい。吸収拡散性が高い。
  • ジオライン(ポリエステル):クロロファイバーを超える第2世代下着素材。抗菌処理、親水処理を施した。汗を素早く吸い、速乾性、保温性に富む。
  •  なんかすごいカタカナばかり並んで、似たり寄ったりなんですが、とどのつまりはアクリル100%かポリエステル100%の化繊である。繊維断面や形状などにミクロン単位の工夫をして、快適性をプラスしたものなのだ。
     ただの化繊でも、織り方の工夫でさらっとした肌触りから起毛して暖かいものなどが沢山ある。だから、小屋泊まりの短い山行や標高の低い山なら、そんなに深刻になって最初から高価な素材にこだわることはない。タンスの中に今あるもので、ウールや化繊であれば間に合わせることができるものがきっとあるはずだ。

     とりあえず、化繊のジャージ(トレパン?)で行動したっていい。長期山行によってさらなる軽量化対策とか、寒いとか冷たいと思ったら次回どうするか考えればよい。ニッカーボッカーを買ったって、登山以外で使い道がないのが悲しいよね。
     コットン100%が絶対ダメというわけでもないから、初めての山行なら普通の下着でいいんじゃないか。冷たさを味わってみて、夏山で小屋泊まりなら、荷物に余裕があれば着替を持参すればよい。ノンアイロンタイプのワイシャツだって、65/35や60/40の混紡。濡れても乾きやすい素材だ。農作業のおばちゃん達がよく旦那さんのお古を使っている。日射しを反射して意外と涼しいんだって。ワイシャツまんまはかっこわるいけれど、ボタンダウンのカラーシャツなら見てくれは山シャツと変わらない。土砂降りや疲労凍死にあう危険のない山行ならばこんな普段着だって良いのだ。
     別項で述べた雨具と靴下は別として、コットン以外の旅行着でとにかく経験してみること。そうすれば次から自分にとって何が必要かが確実に解る。


    【ブランドまめ知識】

     アウトドアブランド名って1980年代にタケノコの様に林立して、物凄い勢いで増えたよね。今、何種類ぐらいあるのだろう。老舗のいくつかは、かつては輸入品が高価だったし、国内であまり生産されていないものもあったから、それなりの信頼性があったのだけど。現在は物流が発達して何でも安く簡単に手に入る時代。要するにブランドにそうこだわる必要はなくなったってことなんですよ。5cm四方のネームタグにお金を払うなんて勿体無いと思わない?

     以下のブランドについては、参考までに母体会社名を記してみた。
      タラスブルバ(アシックス)、ジェーンリバー(アシックス)、
      ラテラ(ゴ−ルドウィン)、ティンバーライン(ダイワ精工)、
      インターリスモ(ミズノ)、ホールアース(デサント)、
      アーサーズビーイング(西武スポーツ)

     などなど、大手スポーツメーカーの登山用ブランドがいくつかある。
    ってことは、大手の他の製品、ジョギングウェアやテニスウェア、ゴルフウェアなどにも、同じ素材で同じ機能を持つ衣類が作られているってことです。素材革命はなにも登山の世界に限ったことではありません。
     つまり、何もアウトドア・登山用品専門店でノースフェースやモンベルの、クールマックスやウィックロン素材のポロシャツをせいぜい定価の1割引きで買わなくとも、同じ素材のポロシャツがミズノやデサント、ナイキやアディダスでも量販店に行けば半額でいくらでも手に入るのです。釣り用ウェアーにも同じ性能のものが進出しているしね。

     もちろん別項で先述した様に、登山用品ならではの工夫がされているものもある。例えば女性用下着なんかそうらしいね。スポーツブラなんてコットンでなければどれでも同じだろうなんて思っていたら、やっぱり違うらしい。某スポーツメーカーのものは、肩紐の継ぎ目位置が、運悪くザックのストラップでこすれる位置にあったものだから、両肩がずるむけちゃったと聞きました。下着の縫い目は前(胸の上)あたりに来るものの方が良い。

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