京都のカフェ   大阪のカフェ   奈良のカフェ   神戸のカフェ   ホームへ

京都カフェ >> 5.一乗寺エリア
カフェ猫町
猫町の店内
京都市左京区一乗寺築田町100-5
tel. 075-722-8307
open 12:00〜22:30(LO)  火休+不定休
市バス上終町京都造形芸術前より徒歩3分

京都サブカルチャーの担い手、恵文社一乗寺店から白川通を歩くこと25分、鉄板に<猫町>と店名を彫り込んだ看板の前にたどりつきました。どことなく東南アジアと宮沢賢治の入り交じった香りがする入り口。たっぷりの観葉植物のかたわらを通って店内に入ると、JBLのスピーカーから流れる物憂いジャズに迎えられました。

座席の中心となるのは、ダークブラウンの木でできた幅広いカウンター。窓側にはエスニック調の布をかぶせた大テーブルと長いベンチがあって、初めてのお客さまでも居心地が良さそう。ひとまずその大テーブルを自分の席としました。

表紙に布を貼ったメニューから注文したのは、マンデリンSGピーベリー(\500)といちぢくの赤ワイン煮・ココナッツアイスクリーム添え(\650)。他にも猫町パフェ(\700)や猫町風カレー(\1000・15:00まで)、国産きつき紅茶(匂い桜華入り、またはべにたちあわせ \630)など、そそられる品書きが多数。カフェタイムなので食事メニューは少なかったのですが、表の看板には、ダイニングバーとしても重宝しそうな美味しいメニューが並んでいました。

目の前の長い木のベンチを眺めると、二つ並んだミルクティー色と微妙なココア色のシルクのクッションが、壁に飾られた大きな絵と同じ色調でした。ふりむいた壁には小さな木の額が二つ(写真一番下)。不思議な魅力を湛えた絵で、お店のかたに尋ねると、萩原朔太郎の『猫町』の挿絵を描いたアーティスト市川曜子さんの作品とのこと。見覚えのある画風だと思ったら、悲しくて救われない絵本『焼かれた魚』の絵を描いた人でもありました。

…そう、そんなわけで店名は、想像通り朔太郎の小品に由来するのです。○○年前、大学の講義でも取り上げられたことのある懐かしい幻想譚。薬物の幻覚によって、あるいは単純にいつもの道を反対から歩くことによって、見慣れた日常の町からいきなり異空間にコトリと落ちてしまって猫だらけの町にぶつかるお話です。

ちょうど恵文社で岩波文庫の『猫町』をみつけたので、ここで読もうと買い求め、深いコクのあるコーヒーを飲みながら、すでにほとんど忘れている文章をたどりました。

…人は私の物語を冷笑して、詩人の病的な錯覚であり、愚にもつかない妄想の幻影だと言う。だが私は、たしかに猫ばかりの住んでる町、猫が人間の姿をして、街路に群集している町を見たのである。 (『猫町』 萩原朔太郎)

お店のかたに、文庫の見返しのページにひとこと書いていただきました。ひょっとしたら今までにお客さまから受けたリクエストの中で、一番困惑する依頼だったかもしれません。

この建物はもとは何だったのですか、と尋ねたら「鉄板焼き屋さんだったんですよ」と微笑がかえってきました。その名残りでカウンターの幅が広いのだと。
「入り口の階段のところに、鉄板を彫った看板をご覧になったと思いますが、実はあれも再利用で(笑)」

香り高いコーヒーとスウィーツ、青いソファの横の猫町文庫、考えをかき乱さない静かな音楽、陰影に富む落ち着いた空間。猫町には私がカフェに求めるものが揃っていました。観光客にとってはいささか退屈な通りの横道にぽっかり空いた猫町。それは朔太郎が迷い込んだ空間に、よく似ているようでした。
(2003年10月)

猫町の入り口
入り口すぐの青いソファ。
ステンドグラスごしに
猫の眼のような緑の光が
さしこんでいました。
猫町
いちぢく猫町の壁
市川曜子さんの絵

▲京都のカフェindex
文章・画像の無断転載はご遠慮ください。 関西カフェ四都物語