慈久庵
(南阿佐ヶ谷)



蕎麦通が一度は来るべき修行場。


この店を良くいうのは簡単だ。蕎麦を始めとする食事は最高である。
この店を悪く言うのも簡単だ。ひたすら無愛想な客あしらいは他に類例を見ない。
とにかく個性が突出しております。
ということで、日曜に自転車飛ばしていってまいりました。
電車なら丸の内線の南阿佐ヶ谷かJRの阿佐ヶ谷から杉並区役所を目指す。杉並区っていうのは商店街も充実してるし住みやすいわけですが、その中でも阿佐ヶ谷という街はいいと思う。町全体に活気がある。歩いている若い夫婦もいちいち幸せそうだし、野良猫までどこか楽しげだ。
で、区役所の後ろ側の路地にもぐりこんで探すと、小さいながらどっしりとした黒い戸と青い麻の暖簾は、はっきり言って客を拒んでいる。ここをくぐるのに覚悟を決めさせられるのだ。腹に力を入れて戸を引くと中から静寂と沈黙が流れ出してくる。な・なんなんだ、この雰囲気は。そう、「いらっしゃいませ〜」という言葉はここには無いのだ。席は自分で勝手に見つけて座らねばならない。席についたら周りを見渡してみよう。しーんとした店内に6つばかりあるテーブルで、やはり神妙で緊張した面持ちで蕎麦を待つ客たち。それぞれ歴戦の勇者で、私は日本全国蕎麦食べ歩いて30年です、と背中が言っているおじさんや、私の蕎麦打つ腕はプロ級です、という職人顔が並ぶが、一様におとなしい。客同志で互いにプレッシャーをかけあっているような雰囲気もある。
としばらくして、奥から無音無表情無愛想の黒ずくめのマダムが出てくる(音も無く主人が出てくることも・・)。名物です。すっと差し出されたメニューの表紙には・・・
 ・そば湯を味わっていただくため、お茶も水も出しません
 ・携帯電話は禁止、禁煙
と厳命してあります。ははっという感じでメニューを受け取るわけです。中を見ると、またこれが高くて「せいろ」がなんと1300円。種蕎麦も各種あるが2000円を越えるのも珍しくない。酒も1000円オーバー当然で、慈久庵特選酒はなんと一杯1900円。きゃー・・・。息絶え絶えに「せいろ」と発音すると、マダムは「はい」と一言言って奥の板場へ消えて行く。その後無音。果たしてちゃんと料理を作っているのだろうか・・・と不安になるほど奥には気配がない。きっと中では神事に近い動きで蕎麦が作られているに違いない。
待つことしばし。かなり。で、厳かに出された蕎麦は、はっきりとした個性を持つ。細めの透明感のある生地に白い荒い粒と黒い粒が浮かんでいる。白い粒は蕎麦の芯の方。黒いのが甘皮。一口つゆをつけずに口中に投げ入れれば、見事としか言いようがない蕎麦の味と香りが沸き立ってくる。うまいじゃないかぁ。うっかり二口三口とつゆ無しで食べてしまう。いかんいかん、つゆも味わわなければ。ほんのちょっとだけつゆにつけて食べればこれまた絶妙。きりっと濃く締まった感じの静かなつゆなのです。量はそれほど多くないのであっという間に食べてしまった・・・。しかしもう一枚頼む余裕は私にはありまへん。
さて、メニューに書いてあった、自慢のそば湯は・・・薄いタイプ。苦言を呈するなら、つゆは猪口に入っただけなので、足りない。もうちょっと飲ませて、お願い。
で、お勘定。板場暖簾の奥まで歩いていくとマダムが無表情に「1360円」と・・。名物だと思えば腹も立ちません(笑)。店を出る前にもう一組アベックが入ってきた。マダム奥で仕事してて出ていかない。「あのー」と叫ぶアベックの彼氏。マダム返事しない。「すみませーん」と悲痛に叫ぶ彼氏。まだ返事はない。ちょっと可哀想になって、私は今立った席へ2人をお誘いしました。合掌。
(2000/3)


03-3314-6077
東京都杉並区阿佐ヶ谷南1-15-18
11:50〜14:30,17:30〜19:30(月第3火水休)


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2000/3 ちゃぶち