クマラのファイル集   ワヤン 1

バリ島のワヤン 1、 Ni Wayan Nondri さん 


1994年6月14、15日名古屋・伏見電気文化会館で行われた「バリのワヤン名古屋公演」が開催されました。その前後のヌサンタラ通信53号、54号からの掲載です。


 エキゾチック、夢、トロピカル、神々の島、最後の楽園‥‥‥のバリ島。そんなあこがれの地が今や社員旅行の3泊5日で気軽に行けるようになってしまった。飛行機はいつも満席で、毎日何百ではなく4桁の日本人が降り立つ、まさにディズニーランドに代表されるテーマパークの一つになった感さえある。そんな安売りをする一方で、インドネシア通、バリオタクが増えているのも事実で、以前はキチガイ扱いされていたインドネシア理解者も非常に多くなった。そんな理解者のジャンルにも多様化が見られ、その一つに掲げられるのがワヤン(wayang)である。数年前までは「ワヤン」といっても必ず(影絵芝居)を付けなければならなかったのだが、今では単独で、ただし、一部の人には通じるようになってきた。それもジワジワとである。

初めは「ワヤン」と聞いてもあまり耳障りの良い言葉ではないし、(影絵芝居)と聞けば、これまた子供っぽいと思ってしまう。しかし伝わってくるのは話している相手の「ワヤン」に対するそこはかと知れない情熱である。話しによると「ワヤン」に関しての専門書まである、それも日本語の。なにかワヤンには日本人をも引きつける魅力があるようで、聞き流してはいけないようなものを感じて早10年「日本ワヤン協会」が設立されて20年、その歳月が今回の「ワヤン・クリ・バリ」の日本公演である。

ワヤンなるものをぎこちなくも自分のものにしていくうちに、ワヤン=インドネシアの民俗芸能、ワヤン=インドネシア人の精神構造の根底に宿る、ワヤン=割礼、ワヤン=徹夜上演、ワヤン=‥‥、そして最後にワヤン=ジャワ、ワヤン抜きではジャワは語れないとまでジャワの結びつきが強くなり、その反面近頃のテレビ、ビデオ、映画に代表される大衆娯楽にその座を危ぶまれ、特に若者の関心がここにきて急速にしぼんできたようで、他人事とは思えない危機感さえ感じてしまう。

昨年5月発行のヌサンタラ通信47号、ジョジョックさんのインタビューにも「子供の頃には村1台のラジオにそれもワヤンの中継には全員が耳を傾けた」とある。その場に屋台まで出現するほどの盛況であったそうだ。

私の子供時代にあった人気絶頂の紙芝居も、テレビにその座を奪われ、今では壊滅状態である。ただ紙芝居は影絵芝居と一緒に考えていけないのは、紙芝居は単なる子供対象の娯楽であり(紙芝居屋さんごめんなさい)、コンビニエンスおやつカンパニーであったのですが、影絵芝居にはアドリブを含めた、ダランの一言一句がその社会を左右してしまうほどの老若男女の娯楽兼、情報提供の場でもあったのだ。その衰退が与える影響は‥‥‥‥‥紙芝居の比ではない。

そんなワヤン=ジャワの認識しかない者にとってバリのワヤンは一体何なんだろう。

  1. ジャワのワヤンは徹夜で上演されるがバリは約2〜3時間。
  2. ジャワのワヤンのダラン(人形操作人)は人気があればものすごいスターで高額所得者である
  3. ジャワのワヤンはおもに結婚、割礼の時に上演される(ただし裕福層のみ)。イスラムではないバリには割礼の習慣はないと聞く。
  4. ワヤン編成がジャワは約30人に対しバリは7人。
  5. ジャワのワヤン人形は水牛の皮に緻密な細工、彩色が施され、見た目にも美しく、支柱は水牛の角でできている。これがバリのだと細工もジャワに比べて粗く、一般的に支柱は木になり、水牛の角が曲線でできているのに対して、木だからではなく、ぶっきらぼうに直線となる。ただおもしろいのは、バリの道化役は口がパクパクとよく動くのである。
  6. バンドンを中心としたスンダでは人形が平面から立体になり、幕のない、影ではなく人形をそのまま見せる劇に変化させてオリジナルなものにしている。

等などである。バリでは芸能も多種多様で、ガムランを筆頭に、ケチャックダンス、バロンダンス、レゴンダンス、毎日各地日替わりで楽しめ、観光ツアーのパンフレットにもワヤンはなかなか顔を覗かせない。ジャワのワヤン、ボロブドゥールに対して、日本人にはバリで見るべきもの、所があまりに多いのだ。ついでにロブスターまで安くておいしい。

これまでの結論から言えば、バリのワヤンはジャワのそれに比べ、規模、知名度、内容にはうんと水をあけられている。何でも「特別」とか「一番」とか「宮廷」が大好きな忙しくて時間のない日本人がワヤンを理解するにはジャワのものを見れば十分である。バリを知るにはもっと他のものを見たほうがちょっとstayの日本人にはふさわしく、バリのワヤンなど見るのは時間の無駄使いである。これほどまで言い切るのはどうかと思うが。

それがである。

この1月、インドネシア、ジャカルタへ行った折、せっかくだからノンドリさんに会ってみようとバリに寄ってみた。日本ワヤン協会のおすすめのワヤンだから多分素晴らしいのだろうけど、ジャワのワヤンを呼ぶには大所帯で予算から見てかなり大変である。そこで規模の小さいバリで代用(?)と勘ぐってしまうのが私の悪いクセ。

今回団長を務められるイサックさんの案内で彼女の住むスカワティーへ伺いました。第一の興味は女性のダランであること。そして昼はお米屋さんをしていることである。そのお米屋さんで働く姿を見たかったのである。「夕方5時には店を閉めるから、4時半はどうだろう。それまでは彼女も仕事をしているし、仕事の邪魔をしてはいけない」というイサックさんの配慮である。スカワティーはウブッドからデンパサール方面へ戻ること車で約10分、いつもなにげなしに通り過ぎていた所で、ちょっとした市場がある。以前はここでゴムゾウリを買ったり、皆のためにピサンゴレンを買ったのだが、誰一人それを食べてくれなかったのを思い出した。

市場は建て替え工事中で以前の賑わいはないのだが、彼女の店はメイン通りから50mほど入ったところにごく普通のインドネシアの店としてあった。店頭には数種類の米に豆類、油、砂糖、調味料、乾物などが並び、そして並びの店もこれまた同じようなものを扱うごくありふれた店なのである。ここでもイサックさんの奥様は気配りからか、彼女から砂糖を買い求める。ノンドリさんも買わなくってもいいのにと、これはおいしくないからとか、お金は受け取れないとのやり取りをしている。この当たりは日本と全く同じである。そうこうしているうちに常連客がやって来て、なにやら買い求める、のんびりした商い風景である。ちょっとお米やさんでの写真を1枚というと、はにかんで恥ずかしそうに振舞い、喜んで写真に収まる普通のインドネシア人とはちょっと違う、どちらかといえば日本人によく似ている仕草である。

はっきりいって普通のおばさんである。

彼女の家は店から100mも行った、メイン通りの1本裏にあるこれまたごく普通のバリの家である。赤レンガの塀に囲まれ、敷地内に何棟かの家があり、誰がどの家族かわからないややこしそうな構造のである。

程なく店を閉めて帰ってきたノンドリさん、相変わらず微笑を絶やさない。決して作り笑顔ではなく、心優しさを覚える。そんなノンドリさんにごくごく平凡なインタビューをお願いした。いつもながら、バリでは家族関係に悩まされる。今回来日のメンバーは彼女の亡き夫のファミリー7人ということだ。中でも彼女の3人の子供もグンデル奏者で参加するという。

彼女の亡き夫であるイ・クトゥ・マドゥラさんは若くしてその才能を表し、不動の地位にという矢先、あっけなく交通事故で他界された。29歳。末の息子はまだ余りに小さく、全く父親の顔を知らないという。彼もすでに高校生である。長男はアスティー(芸術学校)、次男はウダヤナ大学に通っている。

女性のダランは珍しいと思いますが、ノンドリさんの他にもいらっしゃいますか?

私を含めてギャニアールに3人とタバナンに2人

女性が5人ということは、バリ島だけで一体全体何人のダランがいるのだろう。

どうしてダランに?

「好きだからと」 

と簡単明瞭な答えが返ってくる。その一言にすべて集約されていると彼女の顔から伺えた。

子供の頃からワヤンの中で育ち、ワヤンが好きで好きでたまらない。結婚した相手もこれまたダラン、私の実家もワヤンの家系だし、この家も代々ワヤンの家系ですから、子供がしっかりダランを受け継いでくれるまでは。私はその過程にあるので、別に苦痛でもないですよ。

三つ子の魂なんとやらで、人形の名前に始まり、物語り、会話もすべて空暗記、場面場面もすっかり頭の中に染み付いていたのかもしれない。しかしバリ島民の多くもまたワヤンに関しては玄人はだし、多くの観客の前で演じるにはそれなりの努力も必要である。

小さい子供3人を抱えて大変だったでしょ。

兄や弟からも勉強しました。でもワヤンは好きなことだし、ごく普通の生活の中で、自然にダランになりました。

インドネシアの場合、別に保育園に預けなくても大きな家族の中で、皆が見守ってくれるので、日本ほど大変ではないと思うのだが、それでも大変には違いない。

店は1人で?

はい、少しは手伝ってもらうけど

いつもは何時に起きますか?

5時に起きて、5時半に店を開けます。

すがバリ時間、とっても早いのですが、店は何時まで?

夕方5時に店を閉めて帰ってきます。

ワヤンがある時はどうですか?

食事をとって休憩してから、8時半頃呼ばれたところに出かけていきます。

それはこの辺ですか?

呼ばれればどこへでも行きますよ。

そうすると帰りは随分遅いですね。

遠いところだとすごく遅くなります。それにウパチャラ(儀式)の後に上演しますから、ウパチャラが長引けばますます遅くなってしまいます。普通は10時とか11時に始まりますが、遅い時には午前1時なんてこともあります。それから2〜3時間ですから。

それは大変ですね。

ちょっと疲れますが、でも好きなことだから、うれしい。趣味みたいなものですよ。

その次の朝も早くから?

さすがにゆっくり起きますけど。

ワヤンだけで生計は?

それは無理ですよ。

失礼ですが1回お願いするといくらですか?

別に決まっていません。場所によっては心からワヤンをすることもあります。

つまりノーギャラで?

別のワヤン好きの青年から聞いた話ですが、ビジネス、例えば観光客向けであればしっかりいただく。一般の場合は頂いた金額を見て、その家に応じて一部を返したり、半分返したり、時には全額返すこともあるそうです。その時には儀礼用の箱があり、その箱を受け取ったら、中味を見て、相手に応じてこの箱から受け取り、その箱を返す。昔は中国の古銭を使っていたようです。「昨日私はトッペンを踊ってきましたが、お金より、神に対して皆の前で踊ることの方がうれしい。ワヤンも同じですがまだダランの方は勉強中です。」とのこと。話している間中、彼の目は輝いていました。

今までに海外公演は?

西ドイツへ1回

例えばホテルでの観光客向けの上演に抵抗はありませんか?

別に構いません。客が一人だろうと大勢だろうと問題はありません。

そもそもワヤンはどんな時に上演しますか?

ウパチャラはオダラン(寺院の祭り)、オトナン(妊娠六ヶ月)、ポトンギーギー(成人式に歯をヤスリで削る儀式)、アベン(火葬)のときなどです。

物語は?

マハーバラタからがほとんどです。

ラーマヤナもですね。

そうですが私はまだラーマヤナを演じたことがありません。マハーバラタなら25以上の演目が可能ですが。というのもマハーバラタは7人編成でいいのですが、ラーマヤナになると15人メンバーが必要になってきます。

音楽はその演目で決まっているのですか?

グンデルは泣いている場面では泣いている様に、戦いの場面ではそのように演奏します。

ダランはスクリーンの前であぐらをかき、左に人形を入れる箱を置きます。そして組んだ右足には大きな鋲を指で挟み、人形の木箱の側面をバンバン叩き、場面を盛り上げたり、場面の変化を知らせたり、後ろのグンデルにも合図を送ったりしています。特に戦いの場面ではその効果は絶大です。

ワヤンの光源は何を燃やしているのですか?

ミニャッククラパ(ヤシ油)です。カチャンタナ(ピーナッツ)油でもいいのですが、ヤシに比べ酸っぱい臭いがするのと、ススがものすごい。

例えば電気の光でもいいのですか?

私には関係ありません。西ドイツの時も電気でしましたから。

名古屋の会場でもバリと同じように裸火を使えるように現在交渉中ですが、規制の厳しい日本、ことに建物の中では難しいようです。現在その可能性は五分五分といったところ、裸火もいいのですが危険も伴いますので、これは当日まで未定です。裸火より電気の方が影が安定してきれいに見えるという意見もあります。それに会場が電気文化会館ですから。ただし京都の会場は重要文化財のあるところですから、裸火は厳禁。

今回の取材で改めて感じたのは、バリの芸能はケチャックダンスやバロンダンスもいいけれど、我々日本人が目にして感動するものは、ほとんどが観光用であり、案外何度も見ていると、そのうちに手抜きがわかってしまう。それに比べて、ワヤンとかトッペン(仮面劇、踊り)はバリの一般大衆が見ているだけに、技術的にも手が抜けないというよりも切磋琢磨の世界である。そもそもバリにおける儀式にはワヤンとトッペンは欠く事ができないそうです。もし儀式に予算の都合上呼ぶことができない場合などは、せめてその真似事をしないと事が運ばないのである。レゴン等の踊りはそれに追加するのである。それほどまでにバリの社会で今でも重要な地位を占めているワヤン、これからはバリの社会、文化もこれを基本に考えよう。

バリで行われているワヤンは、昔イスラムを嫌って、ジャワからバリに移動した時にいっしょにもたらされたものである。その後ジャワのワヤンは王宮によって発展してきたものであるが、どうもバリのは規模から言って、当時のジャワのスタイルをそのまま残しているようだ。実際、会話部分はバリ語を使うが、物語の筋は古代ジャワ語であるカウィ語を使う。そういうことはバリのワヤンはジャワのワヤンよりも古く、原型なのかもしれない。元祖!ワヤン。

クタとかサヌール、ヌサドアでバリはきれいだ、すばらしいなどとほざいていたのは一体何だったのだろう。ケチャやバロンダンスは日本料理で言うところのしゃぶしゃぶ、スキヤキであり、ワヤンやトッペンは味噌汁に梅干だったようだ。どうもバリ好きになる前に一度はワヤンとトッペンを見なければその資格はないのではないかと思ってしまいました。

今日も島のあちこちでワヤンが上演されているはず。次回バリへ行ったらワヤンにトッペンも要チェック。その気になれば第六感に引き寄せられてワヤンを見るチャンスに出会うかもしれません。今でも生活に密着しているワヤンを。


 

1.クマラのメニュー  (日本語・インドネシア語)

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3. 今月のメニュー選び上手 次回の参考にして下さい。

 

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00/02/15