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2002年10月6日

      
がんばれ、オザワ!

 久しぶりに、小澤征爾の振るマーラーの第9番を見ながらこれを書いている。彼が長年にわたり主席指揮者・音楽監督を務めてきたボストン交響楽団を離れ、今秋からウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任するにあたり、ボストンの市民へのお別れを告げるラストコンサートのビデオである。4月20日に行われたコンサートのステージに立つ彼を、聴衆はスタンディング・オーベーションで迎えた。指揮台の手すりに手を添えて聴衆の拍手に応える彼の風貌は、その髪型のせいもあって最近ますます獅子のごとくである。拍手が終わり指揮台に立った小澤は、しばらく目を閉じて精神を集中させる。そして、これから作り上げる別れの音楽への研ぎ澄まされた鋭い光と、どこか優しげな落日の陽光の宿る眼差しでオーケストラを見つめつつ、指揮棒を持たない右手を振り下ろす。マーラーの白鳥の歌とも言うべき第9の第一楽章の弦のピッチカートが流れ出す。同じマーラーでも、ユダヤ的な色彩の希薄な、野卑なところのない清潔な旋律が流れて行く。これは、小澤の才能を認めて世に送り出してくれた故バーンスタインがベルリンを振った「泣き・うめきの第9」の対極にある演奏と言っていいだろう。同じメルロのワインでも、サン=テミリオンとカリフォルニアでは明らかに個性が異なるのと同じである。オーケストラがテロワールだとすれば、さしずめ指揮者は醸造家と言えようか。毒を抜かれたマーラーへの好みは分かれそうである。

 ところで、ウィーン国立歌劇場といえば、劇場スズメのうるさい所として知られている。戦後間もなく就任したカール・ベームも、その後を継いだヘルベルト・フォン・カラヤンも、権謀術数渦巻く世界の中でスズメたちにブーイングを浴びせられながら劇場を去らざるを得なかった。ベームは以後フリーの指揮者として世界を股に活躍をし、カラヤンはイギリスのフィルハーモニアで再起を期してやがてクラシック音楽界に君臨した。今回、東洋のオザワに声がかかったのはなぜだかは知らない。彼のオペラ指揮者としての経歴を見れば、はたして独墺系の曲を振れるのか心配である。ロシアものは得意だけれど、モーツァルト、ウエェーバー、ワーグナーは大丈夫だろうか。あるいは、ベルディやプッチーニなどのイタものも振れるだろうか。これまでそういう作曲家達の作品を録音してきていないのだから。

 もっとも、この程度の心配はとっくに彼も承知の上であろうから、どういう演奏をするか楽しみではあるけれど。国立歌劇場のオーケストラはウィーン・フィルとして演奏活動をしていて、小澤も毎年のように客演しているし、そのニュー・イヤー・コンサートにも立ったことがあるので、まったく初めての顔合わせではないのだから、とんでもないことになったりはしないだろう。はるばるニッポンからやってきた音楽監督を、劇場スズメたちがどんな歓待をするか、注目である。ウィーンの連中をアッと言わせるような演奏をしてほしいと願わないではいられない。
                                 三河屋敬白

 
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