
警察と自衛隊の階級比較
(2002年10月25日)
警察と自衛隊というのは、同じ武装組織なので比較されがちではあるが、階級に関しては違うシステムを使用しているから単純には比較できないが、あらゆる観点から比較したいと思う。
まず、比較を困難にしているのが、防衛庁・自衛隊の序列というのが出鱈目だからである。警察の場合、警察庁長官・警視総監から巡査まできちんとあらゆる職域に補職されており、かつ、事務官・技官という警察官外もその体系に組み込まれているが、自衛隊の場合は、政治職(ようするに、内閣総理大臣が任命するポスト)以外は事務官・技官・自衛官は総て自衛隊員といっておきながらそれぞれの思惑から、よく使う言葉が同格である。有事組織において同格というのはいささか困りものだが、そういうことを無視して、ばしばし比較したいとおもう。
まず、本来なら、第一軍と呼ばれる、武装組織の根源というか、始祖みたいなところがあるのだが、日本には残念ながらない。大概の国においては、陸軍が第一軍でそこから警察が分かれていくのだが、日本の場合は武士というところまで遡ってしまうので、警察と軍隊というのは最初から別組織として誕生した。大久保利通を親玉に頂く内務省系が警察、西郷隆盛を親玉に頂く陸軍。ちなみに、海軍は明らかに、大本営の構成からみて、陸軍より格下である。山縣有朋や意外と大山巌は策士で、警察を陸軍の下に置こうと画策した形跡はいくつもみられる。後に元勲と呼ばれるクラスの軍人が警視総監に着任したり、内務大臣に着任したりしている一方、大久保利通や伊藤博文という元勲クラスの文官から統帥権を守ろうと躍起になった。
そんなこんなで、安定期をむかえ第2次大戦が終わるまでは人事交流というものは全くなかった。敢えて言うなら、東條英機大将が首相と同時に内務大臣を兼任して、“オイ、警視総監”と呼んだというのは有名なはなしだ。ちなみに、東條大将の真面目さは嫌いではないが、エピソードとしてあげただけである。そんなこんなで、終戦をむかえて、時期にばらつきはあるものの、内務省・陸海軍は解体された。もちろん、警察事務は平時有事に関係なくあるので、形は変えつつも警察は存続しつづけた。国防事務はしばらく停止させられてしまった。そんなこんなで、しばらくして、国防事務が復活することになった際、旧内務官僚系警察官と旧軍人、GHQ内部においても、それぞれの派にわかれて水面下の争いがおこなわれたが、結果をいうと警察が勝利して国防事務は警察官の指導の下におこなわれることになった。警察予備隊がめでたく結成されることになった。そこで、背広組はもちろんのこと、制服組のトップにも警察官が補職されることになった。機動隊の隊長が、栄えあるといわれる第1連隊連隊長に補職されている。だから、陸上自衛隊頭号師団頭号連隊の歴史を遡ると警察官が出てきてしまう。明治時代にもなかったことである。ある意味、現代日本における第一軍は警察であるといっても過言ではない。
いろいろと、前書きが長くなったが、総論は必要なので書いた。では、具体的に比較してみよう。
まず、戦前で言うところの大元帥とは、内閣総理大臣である。では、陸・海軍大臣はだれだろうと考えると、防衛庁長官である。次に、参謀総長・軍令部総長はだれかと考えると、それも、防衛庁長官である。統幕議長や各自幕僚長をあげたいところだが、大元帥を補佐するとはされていない、あくまで防衛庁長官を補佐するとされているからである。戦前も、統帥部はあくまで補佐機関であるが、実質上は指揮命令を代理にするという形で発していたから、防衛庁長官は戦前でいうところの、軍政および統帥部のトップである。この防衛庁長官の警察におけるカウンターパートナーは、警察庁長官である。防衛庁長官は国務大臣が充てられいることを考えると、カウンターパートナーは国家公安委員長かなとも思うが、防衛庁長官と国務大臣というのは別身分ということを認識しなくてはならない。国務大臣という資格はあくまで内閣の構成員という資格であり、国防事務のトップということとなんら関係ない。よって、警察事務のトップは警察庁長官、国防事務のトップは防衛庁長官ということになる。国家公安委員会というのは、あくまで、警察管理事務が仕事なのであって、警察事務が仕事なのではない。検察事務のトップは検事総長に思われているが、法務事務のトップである法務大臣に検察指揮権もあたえられているし、人事権等も与えられているから、あくまで、検察事務のトップは法務大臣である。この点、警察事務に関して介入できる国務大臣は存在しない。総理大臣が警察法71条に基づき緊急事態の宣言を、国家公安委員会の勧告に従って行った時に限り、総理大臣のみが期間限定で介入することができるのみである。
警察事務におけるナンバー2は、警視総監なのであるが、国防事務におけるナンバー2は副長官である。また、警察事務におけるナンバー3は警察庁次長であるが、ここに自衛隊員のトップである防衛事務次官をあげることができる。長官政務官という政治職もあるが、あくまで、長官と一心同体とみてよいだろう。このあたりの根拠を他にあげるとしたら、警察庁長官と警視総監の任命形式が通常の公務員と全く違うかれである。
さらに、純粋に自衛官と警察官とだけ比較すると、これもまた、やたらと、自衛隊は階級を濫発しすぎという弊害をあげられる。試しに、全階級の揃う警視庁と海上自衛隊を比較すると、わかりやすい。規模はほぼおなじである。海上自衛隊に補職されている海将だけでも、幕僚長海将を除いて13人もいる。警視庁でいったら、副総監から始まって全本庁部長・警察学校長に、方面本部長の3人までが警視監の階級者が充てられることになるが、方面本部長の指定階級は、警視監−警視長−警視正と、警視監より2階級下の者が補職されることになる。
警察官と自衛官は、階級数が違うから一概に比較はできないのだが、責任という観点からみていきたい。警視正と一佐が同じと比較する向きもあるが、警視正は、警視庁だと方面本部長・あるいは部参事官にあてられる。方面本部長だと、第一方面なら指揮下にある警察署は19である、果たして、自衛隊の一佐でここまでの責務があたえられている職はあるのか大変疑問である。警視庁は約45,000人いる組織で、9つの方面にわかれているのだから、本部要員や機動隊を大体一個甲師団分9,000人を割り引いても警視正方面本部長は約4,000人の部下を抱えることになる。陸自の一佐である普通科連隊長でも隷下部隊にこれだけの人員はいないだろう。戦闘団を指揮する場合でもここまで膨らまないであろう。この人数は筆頭陸将補が指揮する旅団規模であろう。一佐が指揮するのは、600人の連隊が最高規模であろう。確かに警視正警察署長がその位の規模を指揮することがあるから、警視正と一佐を比較することは間違いではないが、警視正と陸将補を比較することも間違いではない。
巡査と士を比較するのも間違っている。任期制の自衛官と比較するのもある意味、おかしいのだが、戦前の例をあげるのは、あまりこのまないが、兵というのは、武官ではなく、単に軍隊に所属している臣民なのである。すなわち、公務員ではないのである。それに比し、巡査は立派な文官なのである。また、巡査長は正式な階級ではないという人もあるが、正確には、警察法上の階級ではないだけで、規則による階級なのである。法律を少しでもかじったことがある人なら規則が法源であるということは直ぐにわかるはずである。昭和42年に制定されたもので、自衛隊の曹長よりも遥かに歴史が古いのである。ただ、警察法を改正しなかったのは大変残念なことをしたと思う。自衛隊は特別司法警察事務(警務隊の仕事)にあたるとき、曹以上のものを、警察員に、士のものを巡査にとするとしているが、この司法警察員と司法警察巡査の後者の用語例もまた勘違いを惹き起こす原因になっている。警察官は通常、一般司法警察員・巡査の資格が、階級に応じて勝手に付与されてしまうのだが、巡査と巡査長には司法巡査が、ほかには警察員の資格があたえられるのだが、これは警察官の階級と一見関係ありそうだが、実は関係がないのである。これは、刑事訴訟法を勉強している人でも勘違いしている人が多いからしかたない。ようするに、書類手続き上の資格なのである。例えば、交番にいる巡査は、司法警察巡査の資格なのであるが、転勤なり署内移動で捜査なり交通、あるいは公安の刑事(刑事になるには、一定の教育課程をえなくてはなれない)になると、司法警察員になる。そして、また、交番に戻るなり会計にいくなり刑事でなくなると再び司法巡査にもどる訳である。また、似た事例としてパイロットをあげることができる、自衛隊はパイロット=幹部(三尉)になるが、警察は巡査が、戦前の飛行下士官よろしくヘリを操縦している。
給与体系を基準に比較したり、認証官か否かという基準で比較する節もあるが、あまり有効な比較は出来ない。検事総長や検事長が認証官であるとしているが、国務大臣のように憲法上の認証官ではなく、検察庁法上の認証官なのである。すなわち、お手盛り認証官である。また、こんな認証官を基準としたら、外務省はスーパー官庁になってしまう。また、検察官は、行政庁であるといういいかたがなされる場合もありますが、あくまで、官公署の長としての権限に基づく行政庁でないことに気をつけてもらいたい、市役所にも建築主事という行政庁がごろごろいます。別に役職とは関係ありません、単に、自分の名前をもって意思表示をするくらいの意味合いぐらいしかありません。話が脱線してしまったが、給与を基準にしたら、御歳59才の巡査と比較できる士などは存在しえない。敢えてできるとしたら、まとまった事務単位でナンバーがどのくらいかでの比較しか正確とはいえません。発展途上国の軍隊なんていったら大将・中将なんていうのはごろごろいます。検察事務・外交事務・国防事務という具合です。もちろん、閣議もしくは国会本会議は別格ですけれどもです。だから、総論部分で国防事務と警察事務の比較をしてみたのです。このあたりは行政官庁(意思表示機関としての意味ではなく、組織としての意味)の組織とも関係してくるので詳しくは述べませんが、その事務単位は何かの事務に付随しているものか否かという見極めもおこなわなくてはなりません。