登山のテクニック

山の事故の値段 ・ 山岳保険
■山の事故の値段

山で事故・遭難にあったらどのくらいの費用が掛かるのでしょう?

●民間ヘリコプターによる救助の場合

これは私が山岳会でリーダー部長をしていたときに会員が遭った実際の事故です。(この資料は労山より公開済)

■鹿島槍ヶ岳滑落事故遭難救助費用明細 (1997.5)

1.北アルプス遭対協出動費
  @隊員出動手当(1名)            30,000円
  A同上者の保険料               19,000円

2.ヘリコプターチャーター代         1,050,000円

3.事故現場での協力者への謝礼        83,748円
  ・救出時に使用したロープ、カラビナ、スリング、シュラフカバーなど。

                ▲救助費用合計1,182,748円

4.入院・通院費(頭蓋骨骨折で入院28日・通院21日)
  ・基金から支払われた治療費額は308,000円

このときの事故は、先に登っていた人からの落石があたり滑落したようです。現場に居合わせた登山者と、携帯電話の連絡によってヘリコプターで飛来した救助隊員1名で滑落現場からヘリに収納可能な場所まで引き上げたそうです。
民間ヘリコプターに救助してもらいましたが、このとき別の山域(穂高・涸沢)でも事故があり、その救助のついでにこちらも救助されたということでしたので、ヘリコプターの空輸料+スタンバイ料の部分は折半で幾分割安になったようです。

具体的な遭難救助における民間ヘリコプターの料金は以下のようになっています
  (東邦航空・松本営業所)

 @チャーター料   511,500円/時間
  (遭難現場での救助作業料金) 

 A空輸料       467,900円/時間
  (遭難現場近くのヘリポートまでの回送料金)

 Bスタンバイ料   300,000円/件 
  (通常物輸業務を中断して遭難救助に向かうため、物輸依頼主への補償と調整費用、
  パイロット・整備士などの調整料) 

 C滞留料      297,000円/時間
  (機体が現場近くのヘリポートへ入ったが、天候や遭難現場での救助活動で待機が3時間を
   越えた場合、1日2時間分を限度として請求されます)

 D夜間滞留料    71,700円/泊
  (滞留が夜間に及び1泊あたりの料金)

したがって滞留・夜間滞留などを考慮しないで、とりあえず1時間遭難救助や捜索活動をやってもらうと @+A+Bで 1,279,400円也 


●民間ヘリコプターの救助を使わずに救助された時
(私の会での事故例ではなく知人の会の事故例です)

■北八ヶ岳遭難救助費用明細 (1998.2)

1.南佐久地区遭対協出動費(15名出動)
  @隊員出動手当(15名分) 30,000×15名=450,000円
  A同上者の冬期危険手当  10,000×15名=150,000円
  B指揮者手当(7名分)    10,000×7名=70,000円
  C保険料                         84,420円
  D救助使用装備品(破損・消耗)購入費用      80,000円
  (カッパ・スパッツ・ワカン・手袋・ガスボンベなど)
  E諸経費  レンタカー・マイクロバス3台・乗用車2台/燃料費込
                                130,000円
  F通信費                          5,000円
  G食事代(行動食を含む)                70,000円

2.勤労者山岳連盟救助隊出動費(12名出動)
  @交通費・燃料費 (東京〜八ヶ岳)          88,143円
  A装備・食費・宿泊費                  129,064円
  B救助隊日当(8名分) 5,000円×8名×2日= 80,000円

3.関係者への謝礼                     44,993円

                     ▲救助費用合計1,381,620円

冬期でも山小屋が営業している北八ヶ岳は天気がよければ雪山初心者でも夏山気分で楽しめます。この遭難は初日が渋の湯〜黒百合ヒュッテ(泊)・2日目中山峠〜ニュウ〜しらびそ小屋へ行く途中で降雪と樹林帯の中でルートを見失いビバーク。翌日も行動できずに無線での救助依頼により出動でした。
この数字をみると民間ヘリコプターの救助を依頼しなくても、山麓の遭難対策協議会の出動を仰ぐと15名×1日で100万を越える費用が掛かりました。
雪山ではなくても記憶に新しい03年5月末の群馬の山で親娘が遭難−無事救出されたケースなどは捜索に出動した人員も多数ですし連日でしたから後始末の数字は桁違いだと思われます。


●上の例は救助・搬出に費やされる金額です。山では自分の過失による事故者(被害者)への損害賠償のケースも考えられます。

一例ですがこんなケースがありました。
自分がリーダーで岩登りのゲレンデで初心者とともに練習をしていて、自分の確保ミスで初心者の滑落を止められずに怪我を負わせてしまった。→裁判所の判決ではリーダーに4300万円の支払いを命じました。
※最近の山岳保険・ハイキング保険には対人・対物の損害賠償を補償するものも多くなりました。


●阪神大震災で地上の交通が遮断されたにもかかわらず空からの救助活動は活躍できたことから、各都道府県では消防・防災ヘリコプターの備えをすすめました。最近は山岳遭難でもこのヘリコプターが活躍しています。
消防・防災航空隊の連絡先 http://www.habataki.org/

消防・防災ヘリは出動費用が税金ですから遭難者側の負担は消耗品程度の請求のみ。機内には救急車並みの医療器具も備えることが可能です。ただし公共のヘリコプターですから天候や山の遭難場所によっては無理に救助は行いませんし、山岳救助に長けた民間のパイロットのような高度な運転・収容・搬送技術が期待できません。怪我の症状が深刻で一刻も早い怪我人の搬送が望まれる場合は民間のヘリコプターに依頼するようになります。
八ヶ岳の山小屋などでは事故の一報が現場からもたらされると「民間ヘリしか呼ばない」と当事者や事故関係者に伝えるそうです。迅速に救助をするのならこれがベストだからでしょう。
別の山での話しですが中高年の登山者の中には怪我をして動けないにもかかわらず民間のヘリコプターが救助に来ると搭乗拒否をする怪我人もいるそうです。

山の事故は高額な金額が計上されます。無所属で登山を楽しんでいる方は山岳保険やハイキング保険などへ加入してほしいものです。また救助する側からすると見ず知らずの人の事故のために仕事を休んでまでも危険な労働に従事します。その人力で空輸できるところまで搬送し、そこで保険の未加入のためにヘリコプターが来ない・・・というケースも聞きます。


■山岳保険

●山岳保険・ハイキング保険
 山岳保険がロープ・アイゼン・ピッケルなど特殊な装備を使う登山にも補償しているのに対し、それを使わないレベルと季節の登山に対応しているのがハイキング保険と考えていいようです。保険への加入方法は
 @既存の山岳会に入会して保険加入する方法
 A都道府県の山岳連盟へ個人会員登録をして保険加入する方法
 B無所属のまま損保会社の保険に加入する方法
 などが考えられます。

@既存の山岳会に入会して保険加入する方法
 手っ取り早く保険に加入するのでしたら既存の山岳会に入会すれば楽です。手続きも何もかもやってもらえますしお金を納めるだけですみます。ただ山岳会に所属すれば会則や規定などがありますから自分の行動に制約が生まれます。メリットとしてはひとりでは行けないところなども含めて仲間と共に山に行くことができる、技術的なことを教えてもらえる、自分が事故の場合には救助体勢をとってもらえる(実際にいち山岳会でとれだけ体勢を組めるかは疑問ですが加盟上部団体の救助隊の出動も考えてのこととして)などがあげられます。現在おおまかに紹介すると山岳会に所属して加入できる保険には
・日本山岳協会に所属して加入する山岳共済http://www.jma-sangaku.or.jp/insurance/index.html
・日本勤労者山岳連盟の加盟山岳会に所属して加入する遭難対策基金http://www.jwaf.jp/fund/index.html
などがあります。事故・捜索・搬送などにはどちらも大差はありませんが、加入金額の割安さと関係者への謝礼など諸経費への支払いも含めて入院・通院など治療に手厚いのは遭難対策基金。対人・対物などの損害賠償にも補償しているのは山岳共済です。(労山遭難対策基金委員会では損害賠償への対応を協議中)

Aこの場合も保険は日本山岳協会を通じて山岳共済に加入になります。煩わしい人間関係や山岳会の規約などを遠慮したい向きにはこの方法があります。ただし日本山岳協会への個人会員登録料として既存の山岳会会費の1/2くらいは支払うことになります。

Bの方法は例として以下のURLをご紹介します

・登山ハイキングの保険(傷害総合保険)
 ●有限会社 クリップス http://www.clipss.co.jp/yama.htm 
  ●木村総合保険事務所http://kshj.co.jp/index.html 

・この保険のオプションで引率者専用の山岳リーダー保険http://www.clipss.co.jp/yamaleaders.htmというものもあります。対人・対物に神経を使う引率者にはいいかもしれません。               


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