登山のテクニック

雪上技術(初心者編)
この技術レポートは、単独での登山や先輩・仲間との登山経験から学んだこと、そして講習会へ参加して勉強したことをまとめたものです。登山靴・アイゼン・ピッケルなど登山用具・道具も年々進化しているのでそれに連動して道具の使い方の部分で登山技術も変わっていきます。このような考え方・技術もあるのだという程度と理解して自分なりの実戦経験を積んで頂きたいものです。(以下長文のため、誤字・脱字ほかいたらない点がありますがご容赦を)

◆雪山登山
 雪山を登る技術は無雪期の登山の延長上です。登る道が不安定で滑りやすい場所になるからそれに対応した道具が増えるので、それを上手く使えればいいということです。
日頃意識して「こう登る・こう下る」などと一歩一歩に考えながら山道を歩いてはいないと思います。急な登山道になればしぜんと手も使って登るでしょうし、斜面に正対して後ろ向きに降ります。無雪期の登山で無理のないしぜんな登り方と下り方ができていれば、それが雪山でもステップワークの基本です。

 このページでは、雪上技術の初心者編として以下のことについて説明します。
 @ピッケル
 Aアイゼン
 B雪上の登降
 C滑落停止技術
 D確保技術(自己確保・簡単なロープワーク)

@ピッケル
  
  ピッケルは   ○硬軟緩急不安定な雪面で歩行の際のバランス保持の役割
 ○転倒時のアンカーブレーキの役割
 ○急な斜面での上り下りのホールド(手がかり)の役割
   といった目的に使われる道具です。

 ●ピッケルは登山形態によって使い分ける時代。これに身長と手の長さ、ピッケルを取り扱う腕力なども考慮して重さを選びます。おおむね
  ・縦走用なら男性は65〜75cm、女性は60〜70cm
  ・登攀用なら男性は50〜60cm、女性は45〜55cm
  くらいを目安に考えて購入します。
 縦走用は最近軽量化志向になっていてあまり腕力のない人でも一日ピッケルを握っていて疲れない程度まで軽くなっています。しかしながら軽量ということは滑落の際に雪面に打ち込む場合には余計に腕力を必要とするので非力な人間では用をなしません。あまり軽いものは雪原ハイキング程度のものと理解しておきます。

 ●ピッケルバンド
  ピッケルバンドは「自分の身からピッケルを離さない・落とさない」という点で重要なモノです。一般的に「肩から袈裟懸け用」と「手首用」の2種類あり、市販されているもので構いませんが、おもに縦走を主体の登山をする場合は「袈裟懸け用」。ピックを刺して手掛りとして登るような「登攀」をする場合は「手首用」のほうが使いやすいです。
肩から袈裟懸けタイプ

手から手へ持ちかえる
時に落とさずに安全
手首用でしかも遊動式のタイプ

ピックを雪面に刺して登る(ピオレトラクション)ようなときに適している


 袈裟懸けの長いピッケルバンドの場合はどうしても胸の前で目障りになることがあります。それが苦になるようなら、ピッケルバンドをザックに付けてしまう方法もあります。
これは雪崩が起きた場合に埋まってしまうと、ピッケルが船でいうイカリの役目を果たしてしまい脱出ができなくなるので、ピッケルバンドをザックに付けていれば、雪崩を察知したらザックごとすべてを放り出すことができます。(このような状況下に陥る前にウエストベルトは前もって外しておきます。特に雪が緩んで雪崩が起きる午後にぶつかる下りや、今は多種な情報で起きた場所の過去例もわかるので、自分の行く山のどの部分で、どの時間が危ないか計画前から机上シュミレーションも可能です。したがって実際に遭遇するかもしれない前に準備として外しておくことは可能ですし、最近の傾向としては下山はウエストベルトを外して下る人が私を含めて増えています)
雪崩を察知したらすべてを放り出して即刻山の最大傾斜線から退避します。巻き込まれた時は泳ぐ姿勢から脱出を試みますが、雪が覆い被さってきたときは両腕で顔前を覆ってわずかながらですが呼吸スペースを確保します。

長いピッケルバンドは「手首用」として巻きたたんで使うこともできます。
樹林帯のラッセルなどで、小枝が完全に埋まりきっていない「やぶ斜面」を登るような場合、長いバンドは引っ掛けやすくて苦労します。シャフトとピッケルヘッドの部分に右図のように巻き付けて使用することもできます。巻き付けた部分を握るので、ピッケルの鉄の部分に直接手が触れる部分が少ないため、低温下では指先が冷たくなりにくい効果もあります。

ピック(ピッケルの先端)を雪面に刺して登るときのピッケルバンドの巻き方と握り方

余分なぶんはシャフトに巻きつけ、最後に2回中へ通して下へバンドを引っ張る

ピッケルバンドをしっかり巻き付けたら、最後の輪の部分へ矢印のように下から手首を入れる。

バンドごとシャフトを握る


○手首用+長めのスリングを使い自作袈裟懸けで兼用ピッケルバンドにする
手首用のピッケルバンドに、市販されているソウンスリング(120cm以上のもの)か又は切り売りのテープを結んでスリングとして使用し、「スリップノット」を利用して袈裟懸けにして、袈裟懸け&手首の兼用とすることもできます。長いスリングとカラビナは携帯していればアイデア次第でなにかと重宝します。
手首用バンドとの繋ぎはカラビナで連結する

       ↑スリップノット
完成図

※ピッケル・バンドに限らず山の道具は購入したら、マニュアルや山道具屋の店員に教わった使い方のみを守って使うことに限定せずに、使い勝手の良いように自分で考えて工夫して使うことを心がけたいものです。


 ●歩行時のピッケルの持ち方
 基本は親指と人差指でつまみ、中指・薬指・小指の3本で握る
ピックを前にして持つとき

○この方法は持ちやすくて腕の疲労が少ない
○急傾斜の登りのときにピックを雪面に刺してホールド(手掛り)にできる→ダガーポジション 次項「B雪上の登降」を参照
×滑落時の停止態勢に入るためにはピックを後ろに持ち替えなければならない
×下降時に尻餅スリップしたときの滑落初期停止の打ち込みができない
ピックを後ろにして持つとき

○下降やトラバースの転滑落時、また尻餅ちスリップなどをした時にすぐにピックを打ち込むことができ滑落初期停止態勢に入れる
×急斜面の登りには対応できない





以上からピッケルは通常、登りの時はピックは前、下りのときは後ろのほうが適しているといえます。

しかしながら、これも色々なケースで適しているとは言えないことがあります。

▲下りで前のめりに転倒する場合
▲急な斜面の登りでバランスを崩して真後ろへ反り返って転倒した場合

→このような場合はセオリーと逆の持ち方のほうが早く刺せます。

▲右手ではうまく扱えますが左手では扱えない人の場合
▲滑落などの時に自ら反転する動作に得意側・不得意側のある場合

→このような人の場合はピックを刺す方向も決まってしまうので持ち方も一定になります。

軟雪・湿雪ではピックを刺しても効かない場合もあります。

→この場合はシャフトを刺します

▲斜面が急になり雪が不安定な場合
→ピッケルを真横へ向けて登ります  右図参照


●ピッケルのシャフトの支持方向
上図のようにピッケルのシャフトは上から見ると丸棒ではなく
横が平たい楕円形です。これは平たい部分を雪面の上下の
向きに刺せば縦方向よりも面積が広いわけでシャフトの支
持力がより得られます。
通常の登り降りにピッケルをバランス杖として利用する場合
はピッケルは縦向きに使うわけですが、斜面が急になり雪
が不安定な場合はピッケルはしっかりと刺して手掛り(ホー
ルド)として利用するようになりますから、ピックの向きは真
横へ向けて刺します。そしてピックの向きは自分の体より遠
いほう(外側)へ向けると安全です。

※ピッケルを横向きに刺すことは、Dの確保技術にも使いますの
で忘れずに。

したがってピッケルの持ち方は、杓子定規に考えずにケース・バイ・ケースの柔軟な対応で、自分が扱いやすい・取り回しやすいように使うことを基本に考えます。
実際はピッケルワークよりもアイゼンワーク(歩行技術)のほうが重要で、これがきちんとできればピッケルはいつでも雪面へ打ち込める態勢をとりながら歩行できるのです。→次項の「クロスボディポジション」参


Aアイゼン(クランポン)

  アイゼンは、普通言われる「アイゼン」と、軽アイゼンがあります。8本爪以下が軽アイゼンです。
 アイゼンは積雪期から春の雪山、残雪期まで使えます。軽アイゼンは冬の低山や夏の雪渓歩きなどに使われます。ただ最近は夏の雪渓でも北ア剣岳などでは滑落事故が相次いでいます。ある程度斜度のある雪渓には前爪のある10本或いは12本の「アイゼン」でないと登降が難しいです。ですから自分の技量も考慮して計画段階で的確な選択が求められます。
アイゼンにはワンタッチ装着式とベルト装着式がありますが、ワンタッチ式は主にプラスチックブーツに適していて、ベルト式は冬山革靴用と考えていいです。

現在、アイゼンの性能は以前に比べて著しく良くなりました。雪山・冬期岩壁登攀・アイスクライミングなど冬期の登山形態によって登山靴も細分化してきていますし、アイゼンもそれに適合したものが作られています。
アイゼンの性能が良くなったので、それまでの雪上歩行の考え方が変わりました。
右図のようなポピュラーなプラスチック登山靴&アイゼンの組み合わせですと、プラスチック登山靴は足首関節部分の柔軟性があまりないので、雪斜面に「フラットに登降する」ことが革製登山靴に比べて難しくなりました。しかしながらその分アイゼンの性能が向上しているのでフラット登降でなくても雪面に滑ることなく登り下りができるようになりました。技術書などでは基本はフラットで登ると説明していますが、実際の雪上ではキックで蹴りこんで(踏みこんで)アイゼンを効かせて登るのが主流になってきています。

     プラスチック登山靴
     &ワンタッチアイゼン

クロスボディポジション
・アイゼンワークがしっかりできれば、雪山の縦走などではピッケルをバランス杖として使うことはしなくても可能になります。
右の図のように、いつもピッケルを滑落停止に備えた姿勢に持ちながら歩行が可能になります。
(クロスボディポジション)
・ピッケルをバランス杖として頼りすぎて、荷重を掛けすぎて逆にバランスを崩して転倒〜滑落などということもなくなります。
また、新雪期や残雪期などではピッケルを刺しても根元まで入ってしまうこともあり、ピッケルがバランス杖としては役に立ちません。この場合は埋まりの少ないストックのほうが適していて、これとアイゼンワークで登降するほうが安全で楽です。

アイゼン・ダンゴに注意!
気温や雪の質によってアイゼンには雪が付着します。足裏がダンゴ状態になり歩行が大変危険になります。歩いていて足が不安定だな?ちょっと重たくなったかな?と感じたらすぐに足を直視して確認し、ピッケルのシャフトでコンコンっとアイゼン脇をたたいて雪ダンゴを落とします。
このような雪がアイゼンに付着するのを防止する「スノー・プレート」を前もってアイゼンに付けて置くこともできます。割と効果はあるものですが、雪の吹き飛ばされてしまっている稜線や岩稜地帯などを歩行したあとではこのプレートの表面が荒れて凹凸ができて雪が付着することがあります。そうなればやがて雪ダンゴ状態になります。道具を過信せず自分の感覚と直視の確認を励行していきたいです。

アイゼンワークは、次項「雪上の登降」と関連しているのでそちらで説明します。


B雪上の登降

□登り

 ●キックステップ
 雪上の歩行は、山の斜度と雪の質(新雪から結氷化したものまで)によって、足さばきの動作を変えて対応します。基本はすべてキックステップと理解します
ただし、ここでいうキックステップは単に雪につま先を蹴りこむ動作のみを言うのではなく、雪面に足底をフラットに置きながら登る方法であっても、雪をしっかりとキックして踏むと理解し、すべてキックステップと考えます。


 ●雪面の登り方  
  
@ フラット・キック 
 足裏全面を雪面へ効かせる登り方で、おもに傾斜が緩い雪面の場合の登り方
軟らかい雪のとき
硬い雪のとき
 
A フロントポイント・キック 
爪先を利用して登る方法で傾斜が急
なとき膝を支点として雪面に蹴りこむ
B フロントポイント&フラットの複合技
急斜面でしかも軟雪の場合の方法

軟雪で1回の蹴りこみでは足掛りがしっかりできない場合は2度3度と蹴りこみ&踏み込みでステップを固める。ただし踏み込みは、崩れやすいので、なるべく最初に踏み込んだ荷重以上は力を加えない。


 
C ニープレス&フラット(2段踏み込み)  
 新雪に近い積雪の場合は、雪を膝で踏み込んで固めてステップを作り、その後フラットに踏み込んで登ります。(ラッセルの典型的な技術)

※特に雪の密度がなくてフカフカやサラサラした雪質の場合は、胸前の雪をピッケル&手で膝前にかき溜めてそれを膝でプレスしてステップを作り、そしてフラット登り。



 ●登りのアイゼンの使い方

 1.原則はフラット・キック  /フラット・キック図参照
 2.傾斜が強くなるにつれて爪先を逆ハの字に開くようにします
   (足裏の重心は両足ともインサイド)
 3.さらに急になったらフロントポイント・キック
    
足跡にみるアイゼンの足運び

傾斜が緩い
フラット・キック

傾斜が少し急
逆ハの字フラット

左よりもっと急
フラット+フロント

とても急な斜面
フロントキックのみ

   ※注意点
   ・両足は肩幅ぐらいに開き、スパッツをアイゼンに引っ掛けないように注意する
    (常に足を開き気味にすることを意識すれば、肩幅程度に開いている)
   ・長時間フロントポイント・キックを行なうとふくらはぎが張るので、片足を開いて
    踵を雪面に置き体重を預けることで休む

岩と雪のミックスした登山道での特殊な登り方
岩と雪のミックスしたところでは、岩にフラット・キックが効かずに危険なことがあります。この場合はアイゼンの前爪2本で立ち込むか、次の爪2本を加えて4本の支持で立ち込んで登ります。

前歯2本で立ち込む

前歯+次の歯4本で立ち込む

爪先立ちの姿勢になりますが、かかとは上げずに立ち込むと安定して登れます。



●ピッケルと足の運び

 1.ピッケル、右足、左足の3点のうち、常に2点は雪面から動かさないで行動します
(※ただし、アイゼンワークが上達すればこの範疇ではありません→クロスボディポジション)

   ・運びの順番例
  ピッケルを雪面に刺す→右足を1歩→左足を1歩→ピッケルを刺す→右足→左足・・・・・・といった手順の繰り返し。ピッケルを刺す行為と同時にどちらかの足を踏み出すと、移動している最中が雪面に対して1点での支持力ということになり不安定で危険です。1・2・3・1・2・3と面倒なようですが拍子を刻んで歩行します。

 2.急な斜面のトラバース(水平移動)は、斜面に正対してカニ歩き
右への移動例→

@ピッケルを刺す
A右足を1歩右へ
B左足を1歩右へ
(右足のあったポイントへ)

ピッケルを刺す場所は
今の右足の場所Aと、A
で1歩踏み込む場所B
との正三角をなす場所


 ●ジグザグの登行

 1.急斜面が長く続くときには、雪面の傾斜に対してジグザグの歩行を行います
 2.原則はフラット・キックですが、両足とも常に山側のステップに重心を置きます→次項の下り編−エッジ角付け参照
 3.谷側の足は開き気味で、最大傾斜に対し直角もしくは少し谷側に向けるまで足を開くと安定します
 4.山側の足は斜上する方向へ向けます
 5.方向転換↓
@山側の一歩分先に ピッケルを打ち込む

A谷側の足を方向転換する場所の一歩先へ踏み出す

B山側の足をその場で踏みかえる

CAで踏み出した足を方向転換して進む方向へ踏み出す

※谷側の足は爪先が最大傾斜線に対し直角に向く位開く


より急な斜面でのジグザク登りの足さばき(斜登高)↓
Bピッケルと踏み出した足
とでしっかりとバランスをと
りながら山側の足を出す







A谷側の足を山側の足よ
り上にクロスして踏み出す



@山側斜面やや前方に
ピッケルをしっかり刺す

▲トラバース・ジグザグ斜登高の注
意点
降雪後の雪面で、トラバース歩行、或
いはジグザク歩行を行なうと、雪の斜
面に真一文字orジグザクに溝をつけて
登ることになります。これは溝によって
雪面を切ることになるので、大きな雪
の斜面全体で「表面張力の作用」で留
まっていた雪を溝より下の箇所から切
ってしまっていることになり雪崩を誘発
しやすくなります。自分の足元下の位
置が発生地点なので、自分が雪崩に
巻き込まれることは少ないですが、後
続で登っている人間がいる場合は危険
なので登り方にも注意を要します。


 ●急斜面、雪壁の登り方
  無雪期の登山道では岩場・鎖場など急な場所になれば手と足を使って登ることになります。雪山も同じで斜面が急になれば手と足を使って登ります。ピッケルはいままで「バランス維持道具」として使っていたのに対して、「登る補助道具(登攀具)」として使用することになります。前項のトラバースやジグザグ登りが危険でできない場合は直線的に登らざるをえないので必然的に最大傾斜角の斜面→急傾斜の斜面を登ることになります。従って同様の登り方が求められます。

急斜面、雪壁の登り方は雪質の硬軟によってピッケルの取り扱いが変わります。大別して以下の4つの場面を想定して説明します。
@硬い(ピックしか刺さらない)
Aやや硬い(同上よりも軟らかいが、シャフトはあまり刺さらない)
B通常(シャフトが刺さる)
Cやわらかい(同上だが効きが悪くて用をなさない)

@硬い場合(ピオレトラクション)/アイゼンワークはフロントポイント・キック
■打ち込み方
後方に大きく振りかぶって、最初は肩を中心にスウィング〜ピッケルの重量を利用しながら肘を出し、最後に手首を出して「手首のスナップ」を効かせながら打ち込みます。もう片方の手は雪面に添えてバランスをとります。
打ち込んで登る際はシャフトの先端は雪面に付け、片方の手はピッケルの頭の部分に手を沿えて登ります−図A。手に力を入れる場合は手前に引かず斜面と平行から鉛直方向へ。
また、打ち込むポイントは斜面に正対して真中だと安定します−図B
ビオレトラクション
片手も添える

図A
真中に打込む

図B


Aやや硬い(ダガーポジション)/アイゼンワークはフロントポイント・キック
 ダガーポジションはシャフトの付け根の部分を持って雪面にピックを差し込む方法で、持ち方は下図aのような形が一般的です。他にも微妙に違う持ち方がありますが、要はピックを雪面に刺し込んでピッケルのヘッド部分をホールド(手かがり)としてできれば形にこだわる必要はありません。
雪面が@よりも軟らかいということは、雪面に刺したピックの部分の支持力は引っ張り荷重を掛けられるほどあまり期待できないです。その分しっかりとしたアイゼンワークが要求されます。雪質が@よりも軟らかいのでフロントポイント・キックがより深く刺さります。従って足場を冷静に蹴りこんで確認しながら登ります。

図a


図b
ピッケルを刺し込む場所は、真ん中ではなく肩前でも良いです。空いたもう片方のては雪面に添えて両手でバランスを取りながら(図b)「確実なアイゼンワーク」で登ります。

B通常(シャフトが刺さる)

シャフトが刺さる程度の雪質の場合はピッケルの持ち方は2通りあります。ひとつはピッケルのヘッドを持って刺す−図1。
もうひとつはピッケルが全部雪面に刺さらない時にシャフトの部分を持って斜面に刺す−図2。
この登り方は、両方ともピックが不用意に身に当たると危険なので身体に遠い方向→ピックの向きを外側へ向けます。/足はフロントポイント・キック。

 まず最初に下図1の方法を試みます。シャフトの根元まで刺さりが悪い時は同じポイントで2度3度刺し直しの力を加えます。それでも無理な場合は刺った最深部分で手をシャフトにスライドして「雪面と密着した部分のシャフト」を握り、そこを最終支持点として登ります(ダブルシャフトという)。ダブルシャフトを行なった場合は、その上が雪質が極端に変わるわけではないので、次の一手も最初からダブルシャフトで刺します。雪面にシャフトを刺したら握っている手はピッタリと雪面に付けて左右前後に絶対動かさないで登ります。
図1

通常の刺し方
図2

ダブルシャフト

雪面への刺し方は斜面に正対してからだの真中上付近です。胸前ではちょっと低すぎます。また刺したあとに内側へひねるように力を加えると安定します(ダブルシャフトの場合はひねらない)。刺す角度は鉛直方向から少し前方。あまり急な斜面ですと鉛直方向に刺したピッケルは効かないし、かといって斜面に垂直でも効きません。その斜面の傾斜に応じて角度を変えて刺してみて1回1回ひきつけてピッケルが効いていることを確認しながら、これを支持点=手掛り(ホールド)として登ります。もう一方の手は雪面に手のまま刺せるなら刺してバランスをとり、刺さらないならフラットで雪面に添えてバランスをとります。

▲三角バランス
 @〜Bまでの登る方法は概ね「三角バランス」の方法が基礎となります。ピッケル1本のときは上が頂点の三角形のかたちで、2本持って登る場合は逆三角形のかたちで登ります。
ここでは初心者向けのテクニックとして通常装備・・・ピッケル1本での登りを考えます。
ちょっと余談ですが・・・手と足で登る斜度というのはすでに登攀(とうはん)→クライミングの領域です。いまはフリークライミングがクライミングとして一般的に浸透していますし認識されています。フリークライミングは手と足を使って登る行為をいかに効率的に上手くできるか、手順・動作などが体系化されています。つまり登る行為のすべての基本がここにあります。雪の斜面を登る技術も例外ではないので、フリークライミングの技術の応用と考えて、室内の人工壁等で登り方を練習しておけば雪山の登攀も効率よく登れます。

図1 三角バランス

図2 
フロントポイント・キックの要領
図3
雪面に蹴りこむ際は真っ直ぐで構いませんが、足を刺したあとには膝を少し内側に寄せてほんの少し内股気味になります。これによってアイゼンの前爪内側ポイントを雪面に効かせてステップと全体のバランスが安定します。

 上の図で見てもらうとわかりますが、雪の急斜面を登るスタイルは図1のよう片手(または両手)と両足で三角形を形成し、この形で登るとバランスが安定します。

ただこの方法にも辛いところがあります。常にフロントポイント・キックでの登りなので、ふくらはぎが疲労します。これを休み休み解消しながら登らないと長丁場は登れません。
こういった場合に使う技術にフリークライミングのレスト(休憩)の姿勢があります。図4&図5。
打ち込んだピッケルから垂直一直線上の真下に足がくるようにします。例えば図1から休みの体勢に移行したいのなら、ピッケルは動かさずに右足をピッケルの正中線真下に蹴りこみます。蹴りこんだ右足はなるべくひねらずに、右腰を斜面に近づけて左向きになり左足は軽く雪面に付けるだけの姿勢で休みます。

図4



図5
逆足を休めたければピッケルを左手に持ち替えて、右足の箇所に左足を置いてまったく逆向きになります。蹴り込んでいる足が安定していれば図5のように蹴り込んだ足を深く曲げて尻を乗せてしまうとより効果的に休めます。
また、挿しているピッケがしっかりしている場合−ホールドが確実な場合は、図4-a及び図5-aのように、山側と逆の手でピッケルを握り、体のひねりを加えた休む体形になれれば、より楽にレストできます。
これらの方法は、足のふくらはぎ(筋肉)を休めるために、身体の骨格(腕・肩・脊柱)を利用してこれを一直線にすることと、体のひねりなどを利用して「骨・関節で休む」技術です。

図4-a

図5-a


とはいうものの、終始ピッケルを握っていると、手の握力部分の筋
肉は使ってしまいます。これは右図のように疲れてきたらピッケルを
握る手を離して、ピッケル・バンドを利用して手首に全体の荷重を掛
ければ、手の握る筋肉も少し休めることができます


Cやわらかい(ピッケルが用をなさない)

この場合は雪が安定していないので、技術云々よりも実際は登山を諦めて下山の算段を考えたほうが良いです。しかし何日か山に入り、登らないと降りられない場合はラッセルしかありません。
ピッケルは真一文字に持って胸前の雪をかいて足元にためて膝前で踏み固めます。(ニープレス)その後フロントポイント・キック、または逆ハの字など、すべてを併用して登ります。

<注意>
あまり横幅を広くラッセルしません。(なるべく雪面を傷つけないということ)。



□下り
 雪の有る無しに関係なく登山の事故の多くは下りで発生しています。登りは体力とスタミナを必要とするのに対して、下りは技術。これを理解しないで登りだけで下りの余力を残さずに体力を消耗してしまったり、「下りは楽だ」と気を緩めて歩いて注意力が散漫になったときに思わぬ落とし穴が待っています。いかに上手く下れるか?・・・これは樹林帯・岩稜帯・沢筋帯など色々変化のある登山道に対応して、上から下へ降りる「位置エネルギー」を技術でコントロールしなければいけないので、登る技術よりもはるかに難しいです。ましてや雪山などでは滑りやすい条件が全てそろっていますし、登りは手と足を使って登れたとしても下りはロープがないと下れないようなところも出てきます。「登山は下りが核心なのだ」ということを肝に命じてください。

下り方は雪のある・なしに関係なく基本は変わりません。傾斜が緩い下りならフラットに足を置きながら一直線に降りられますし、それが難しい傾斜になればジグザクに傾斜を緩めて降ります。もっと急傾斜の場所になれば斜面に正対して後ろ向きに手も使って降ります。雪山の場合はこれに雪質の判断が必要になります。アイゼンが必要な硬さなのか?アイゼンをしないほうが安全なのか?
雪面に足を置く場合、アイゼンがある・なしでは下り方が若干変わります。ここでまず、雪の下り斜面での足裏の特性を考えます。

●足裏部位の特性 (足の力を上手く雪面に効かせるには?)
 スキーをやったことのある人ならより理解が得られやすいでしょうが、雪の斜面に対して止めること、逆にスピードが乗ること、などの動作の時の足裏の重心の掛け方は図のようになっています。

止まる

止まる

加速する
斜線の部分に重心を乗せている

エッジ角付け
 登山靴では足裏全体での斜面への摩擦を除くと、スキーと同じで靴の内と外の両脇の部位を使えば雪の斜面に対して抵抗をより生じさせることができ、かかとに重心を乗せてしまったときはスピードが加速して硬い雪の場合は真後ろへ転倒〜滑落ということになります。

止まる

止まる

加速する(止まらない)
斜線の部分に重心を乗せている

◆足の力を上手く雪面に伝えるには、以下の点に留意します

@足裏全面を雪面に対してフラットに置いて効かせる方法 (フリクション→足裏と雪との摩擦の利用)
A足の内側(インポイント)・外側(アウトポイント)の部分を効かせる方法(上記例で説明したスキーで言うエッジの部分→カド付けの利用)
B急傾斜な登り下りの際には、つま先を雪面に蹴りこんで効かせる(フロントポイントの利用)

つまり、足裏全面・両サイド・つま先が重要だと理解します。
(特に両サイドのポイントは転倒時の初期停止姿勢や確保技術への応用などに有効なので忘れずに)

※降雪後に自分が先頭でラッセルする登山をしない限り、実際の雪山では先行者の踏み跡「トレース」がある場合が多いです。冬でも人気の山域ではしっかりした「登山道」と化しています。(左上図)
このようなトレース道を登降する場合はフラット・キックが基本ですが、エッジ角付けの心得を忘れずに、雪面に上手く足の力を伝えるため両足ともに山側の足裏に重心を置きます
つまり左下図で、これは歩行を後ろから見た拡大図ですが右足の右側(アウトサイドポイント)と左足の右側(インサイドポイント)に重心を置くことになります。
ただし雪道が歩行に耐えるしっかりしたものではない場合(歩く度に崩れてしまうこともある)は、この図で左足をなるべく右足前へ踏み出して一直線に歩くような工夫も必要で、なるべく谷側斜面へは足を置かないこと。
また、特に女性に多いO脚の人は要注意で谷側斜面の外側に重心を無意識に置いてしまうことがあります。左下図×印部分。この場合は足場が崩れやすくて転倒〜滑落しやすいです。足さばき(ステップワーク)は一歩一歩に神経を使ってあくまでも「山側に重心」を置きながら慎重に歩行します。

●下り方
 何度も言うようですが下りは難しいです。滑落事故の殆どが下りやトラバースで起こっています。また場所は稜線かその近辺が多いです。ただ事故の起きやすい場所というのは技術的に難しい場所ではなく、それを通過したあとの一見なんでもないようにみえる所で起きる傾向が強いです。つまり技術的に厳しい場所では気持ちも集中していますし、一歩一歩、一手一手を慎重にゆっくり降りる動作を行うので事故につながることも少ないです。技術的に未熟な人間の事故は山へ行く以前の問題なので技術の習得に反復練習あるのみですが、ある程度技術を習得した人で事故を起こす人は、どこまでが厳しい場所なのかどこからが安全地帯なのかの判断が曖昧で安全地帯の認識を間違えています。滑落の危険のない平地まで降りてこないと安全地帯はないのだという気持ちで臨んでもらいたいものです。

 下りの基本は雪面に対してフラット・キックですが、登山靴は足首の関節部分の柔軟性がありません。フラットを意識しすぎると身体の重心が前方へいってしまい前のめりに転倒ということもありますし、逆にそれを意識しすぎて重心を後方に置いてピッケルもやや後方に刺しながら下るとバランスを崩して尻餅ち転倒〜滑落になります。従って雪質の条件次第ですが、下り斜面での足裏全面の摩擦を使ったフラット・キック下降にも限界があります。フラット下降で滑ったり、難儀や危険を感じたら「エッジ角付け」・・・つまり足裏特性の両サイドを意識して使う下降に切り替えたほうが安全に下れます。

 ○雪が比較的軟らかい場合でアイゼンを装着しないで降りられる場合
 緩い傾斜が大前提ですがアイゼンを使っても意味がない→かえって使っていて雪の中に隠れた石を引っ掛けたり、常時装着し過ぎて下降していると膝と腿への負担が掛かる場合・・・フラット・キックよりも「かかとを立てて」鉛直方向により近い前方へキック(踏む)して降ります−下図@↓ これの状況はクルブシからスネあたりまでのラッセル直下降を想定してもらいます。

図@

図A

アイゼンを用いない下降でジクザグに降りる場合は、鉛直方向に水平で靴の山側サイドに重心を掛けて踏み込みます。上図↑A (足裏の特性−エッジ角付け)
またアイゼンを用いないで下降する場合は、ピッケルを雪面に突いて降りるより、クロスボディポジションで初期停止動作(→次項滑落停止欄参照)に備えた態勢で下降します。
※雪質によっては一回でステップが切れないくらいの場合があります。その場合はアイゼンを使用します。(ピッケルもしっかり刺して降ります)

 ○雪がしまっていて上記のような下りができない場合はアイゼンを装着します。


@直下降は必ずフラット・キック(鉛直方向に荷重を掛ける)
A膝関節を軟らかく使い、膝で体重を受け止めない(つっぱらない)
B足が接面に着き、ショックが来た瞬間、体重を支えられる範囲で膝の力を抜く


※ジグザグ下降やトラバースのときもフラット・キック主体ですが、谷側の足は爪先が最大傾斜線に平行に向くぐらい開いて歩行すると安定します。山側の足の重心はエッジ角付け。

アイゼンによるトラバースの足運び
アイゼンによる斜下降の足運び

ピッケルは雪面に刺して「歩行が安定する」のなら刺したほうが良いですが、刺しても効果がなくてかえってバランスを崩しそうになる雪質なら、クロスボディポジションで持ち、いつでも雪面にピックを打ち込める態勢で下降します。

※あまり急斜面な場合は、斜面に正対してフロントポイン・キックで降ります。足で蹴りこんだステップの穴に手を入れてホールド(手掛り)としてバランスを取りながら降ります。
ピッケルの打ち込みは急斜面登りの時の要領と同じでしっかりと確実に行ないます

トラバースの場合も同様ですが、急傾斜下りのトラバースは危険なのでなるべく避けます。真っ直ぐ下ったあとで傾斜が緩くなってからトラバースをするか、下降する前にトラバースをしておくかを判断します。場所によってはロープを出すほうが安全な場合もあります。


●グリセード
登山道具の使いやすさもあって最近はめったにやらない技術ですが、残雪期や夏の北アの雪渓などでスピーディーに下降したい時には有効で、これができる雪質の場合はピッケルの代用で杖になるぐらいの多少頑丈な木の棒などでも可能です。
この技術は「滑る&止まる」といった足裏の特性を理解するのに適していて、加えて転倒した時に滑落を止める足技の習得にもつながるので体得したいものです。
グリセードは足裏を滑らして下降する技術ですから、練習はアイゼンを付けなくても下降できる雪質・傾斜で行なうのが望ましいです。
●スタンディング・グリセード(スピィーディーな下降)
@足幅は常に15cm以上開けるように意識する
A靴底を滑らすように下降する。
B制動は滑らせている足をハノ字にして足裏の両内側に重心を置けばすれば多少は強弱が効く(スキーのボーゲンの要領)
C止まる場合左右どちらかの方向を向いて前後に足を開き(山側の足が前)、足裏の重心を山側に置いて「エッジ角付け」で止まる−図A

ピッケルは転倒してもすぐ刺せるようにピックを後ろ側に持つ。

図A スタンディング・グリセードの滑らし方と止め方、及び止まるスタイル

滑らす

右向きで止める

左向きで止める

転倒したらすぐにピッケルを刺せる姿勢で
行なう。ピッケルを持っている手が山側に
来るように足裏のブレーキを掛ける。
上図のように左手にピッケルを持っていれ
ば左向きに止める。右手なら右向き止まり
自分の刺しやすい手にピッケルを持ってそ
方向に曲がればよい。

○グリセード
@スタンディング・グリセードよりも山側斜面にバランスを預けます 足は左右に開かなくても良いです
Aピッケルをからだの脇に。ピックは外側に向けてスピツェ(ピッケルシャフトの先端)を自分より後方の雪面に押し付けて、両足とスピツェの三点(バランス的には二点)で身体を支えます
B滑らせ方、止まり方はスタンディングと同じ。ただしピッケルでスピード調節が可能です。

最初のうちは腕の力をかなり使ってスピードを制御しながら滑ることでしょうが、慣れてくればスピードにも対応してピッケルにあまり頼らなく滑ることができるようになります。



C滑落停止技術

 雪上訓練の主な目的は「滑落停止訓練」です。今まで述べてきた登ること降りることの技術「ピッケル及びアイゼンワーク」は、自分の技術レベルに応じたグレードの山と季節に、実際に反復実習を行なえばいいですし、上手くできるようになればステップアップしていくような取り組みもできます。しかしながら滑落停止はそうはいきません。毎回の登山でやっていたら命がいくつあっても足りません。訓練で習得しなくてはいけない最も重要な技術です。

日本の登山史に新たな時代を切り開いた登山家に吉尾弘氏がいます。彼の提唱する「滑落初期停止技術」は、長くそれまでの定番の技術法であった「反転式滑落停止技術」よりも、より前の段階で事故を未然に防ぐ、実践的で誰でも容易に停止できる技術であると最近の技術書でもようやく掲載されるようになりました。
日本人は「型または形」にこだわる傾向があります。きれいにカッコ良くすっきりやらなくてはいけない・・・などと能や歌舞伎の見世物のような「型」と同じく「停止姿勢」の形にこだわる。
「滑落停止は滑落した時に反転してピッケルを打ち込み、足はアイゼンを雪面にひっ掛けないようにあげて行なう」 これをすっきりきれいなかたちに行なえるまで何度も反復練習する。実際の登山では大きなザックを背負ったりしていれば反転もそう容易にはできません。
吉尾氏は自分の提唱している技術が、フランスの登山家リオネル・テレイがアルプスの雪山で講習会中になだれに遭遇したときに彼とまわりの数名のみ助かったときの技術と同じだったことに自信をえてこの技術を広めるために努力していました。


滑落初期停止技術
 滑落の停止は転倒または滑落して5m以内が勝負です。これ以上距離がのぴれば加速して止めるのが難しくなります。滑落初期停止技術は滑落する前(転倒した瞬間)または、滑落の初期の段階(加速する)に止めてしまおうという技術で、反転を意識しているあいだに加速してしまう「定番方法」よりも安全です。止まる姿勢はすっきり格好の良いものではありませんが、ようはどんな形であろうと滑落にいたる前に止まればいいので、まずは「滑落初期停止技術」を習得し、それから「反転式停止技術」を練習すれば良いと思います。
滑落初期停止技術は、ピックが刺さりづらいような硬いアイスバーン以外の雪質なら対応は可能です。

 転倒と同時に「滑落停止の基本動作−反転する」ことよりも、まずどんな姿勢であってもピック(orシャフト)を雪面に打ち込みます。尻餅ち・前のめり転倒・後ろ向き転倒・・・などいろんな場面を想定して打ち込む動作の反復練習を行います。そして足もブレーキに使います。特に足のほうが重要で、雪の硬軟で軟らかくなればなるほど足のほうで止まる比率が高くなります。この足技はグリセードの項で紹介した前後に開いて止まる方法で、足裏の山側の「エッジ角付け」の技術を使います。つまり滑落初期停止技術は手法と足技の合わせ技です。

・ピッケルの持ち方は通常通りで登りならピックが前、下りならピックは後ろ。
・持ち手は実際はジグザグ登降の場合ターンの度に頻繁に右左持ち手を替えるわけですが、まずは、持ちやすい手→刺しやすい手→利き手で練習すればいいです。

●右図は下りで尻餅ち転倒をしたときの初期停止法。
尻餅ち転倒した場合、脇を締めてピックを即座に雪面へ打ち込みます。
この際足は山側の足(この図では右足)が前で、両方の足裏ともに山側サイドのエッジ角付けでブレーキをする。

両足共に山側のエッジを効かす

●尻餅ち転倒も雪質によってはピッケルの刺し方が変わる。
軟らかい雪やシャーベット上の雪などはピックを刺しても効かないので、右図のようにシャフトを刺す。
足はグリセード停止図。ただし開いた股の部分や脇の下などで雪を溜めてそれも滑落への抵抗とします。


●前のめりに転倒した場合

@まずピックを打ち込む

A空いている手はシャフトを握り脇を締めて上体を回転させる

B足はグリセード停止法。なるべく前爪は雪面に付けず横爪のエッジ作用を利用します。
ただし軟雪の場合はピックの支持力も弱るから、逆に足は前爪も利用してブレーキを掛けたほうが良く止まります。



●後ろに転倒した場合

後ろに転倒した場合はピッケルの持ち方によってはすぐ刺す体勢に移るのが難しいものがあります。上図のようにピックを前にした「登りの持ち方」ですと、下図のような技術書に載っている雪面へピックを打ち込む方法を行うにはピッケルを前から後ろ向きに持ち替えてピックの向きを後ろに向けないと対応できません。

そのような機転が転倒時に冷静にできるはずもないので反復練習するわけですが、私の場合はピックを登り方向に向けて登山をしていて後ろへ転倒した場合は、クロスボディ・ポジションのように両手でピッケルを持って「ピックのヘッドのない方向−この図では左側−へ素早く反転しながら打ち込んでいます。下図↓

雪面に刺すことができれば、頭と足の上下を回転させて最終的には下図のように持ってきます。

足はグリセード停止法。横爪エッジ角付けの作用を利用します。雪が軟らかければ前爪のアイゼンを効かせても停止には有効です。

※うしろ向きに転倒して瞬時にピッケルが刺せない場合、あわてずに反転して刺す努力をしますが、無理なら足を開いて雪面へアイゼンを効かす努力も試みます。反転できてうつ伏せで頭から滑り降りるようなら両手を広げて雪への抵抗を試みます。下図↓(雪が柔らかければ有効)。うまく頭が斜面に対して上方で足が下方の向きになれればアイゼンを効かせてグリセード停止を試みて、加速していて無理なら反転して滑落停止を試みる。とにかくなすがままではなく最後まで止める努力をすることです。



●反転式滑落停止技術

いわゆる「滑落停止」の技術です。ピックが刺さりづらい、アイゼンの爪もフラットキックだと雪面に良く刺さらないような「かなり厳しい条件のアイスバーン」などでは、この技術しか止める方法がありません。しかしこれも加速がついたらどうしようもありません。
以下に @スリップ尻餅ち滑落 A前のめり滑落 Bあお向け滑落 の3例をイラストで紹介します。

@スリップ尻餅ち滑落
A前のめり滑落
Bあお向け滑落

・上のどの状況でも、転倒したらピッケルは両手で持ちクロスボディ・ポジションです
・@の時は反転はピックの側へ反転して打ち込みます(図では左側)
・足は雪面に当たってはじかれないように膝を曲げるなどして雪面から持ち上げて離す(特にアイゼンの前爪を注意)
・ピックを打ち込んだ腕は脇を締め、ピッケルのブレードを胸前の位置から離さない。
(初期停止技術のときのような腕を伸ばした態勢では、硬い雪面では弾かれてしまう)
※実践ではザックを背負っているのでバランスが違うし上の図のように典型的な止まり方ができることは少ないです。

上記のような「ピックが刺さりづらい、アイゼンの爪も雪面に良く刺さらない」ような条件に出会える場所は厳冬期の富士山の8合目以上とか、3000メートル以上の稜線であるとか概ね限定されます。したがって初心者の登れる領域ではないので、まずは初心者でも登れる領域で必須の技術を習得し、自らのボディバランス操作を身につけてから反転式滑落停止技術へ向上していければ良いと思います。


D確保技術

 ○自己確保
  雪の斜面では「いつもその場所が滑落の危険がある」ということを忘れないようにします。従って斜面で立ち止まるとき、また休憩する時には自分で自らの安全確保自己確保(セルフビレイ)をします。
斜面においての自己確保(セルフビレイ)は何も難しい技術ではありません。ピッケルを雪面に刺すことで、これで一応自己確保はできています。
右図のようにシャフトを刺すだけで一応自己確保ということになります。ただし、@ピッケルの項の「ピッケルシャフトの支持方向」でも述べたように、ピックを横向きに刺さないとシャフトの抵抗力は得られません。
またピッケルバンドはピックの上を通して刺しておくと、バンドが引っ張られると抜ける方向(上)に力が加わるのでシャフトの支持力を十分に得られません。右図上
雪面に刺して自己確保を行う場合は右図下のようにシャフトに巻き付けてから雪面に刺し込むようにします。

硬い雪面にピックを刺して自己確保する場合。バンドはシャフトにターンして巻き付けます(ピッケルバンドの項参照)





シャフト刺し込んでも効かないような軟雪の場合は、斜面に真一文字にピッケルで溝を作りピッケルを埋めてしまう。

バンドはシャフトの中間から出すことはもちろんですが、バンド用の溝を作ってピッケルを埋めた後に雪の中からバンドが出てくるようにします。バンド用の溝の意味は斜面に対してバンドが平行かそれ以下を保つためです。


休憩のようなある程度の時間をその場所で留まる場合は雪の斜面を少し削って足元を踏み均して安定させます。(→山屋用語でバケツを掘ると言う)。
右図のようにピッケルは斜面に打ち込んでもいいですが、ピッケルバンドが長ければ足元へピッケルを刺してピッケルの頭を踏んでいるのいいです。

また、急斜面でバケツを掘って休止する時、足は山側・谷側に平行に揃えて立っていると谷側のほうが(この図では右足)足場が弱い。できれば図のように前後に「小さく一歩前」で立ち、両足とも山側の足裏エッジに重心を心がけると安全です。


○ロープを使った確保

雪山は毎日のように表情や条件が変わります。時として昨日楽に登れたところが雪の不安定な場所になり、登り下りで難渋して「仲間と確保しあいながら登降する」ほうがより安全なこともあります。ただしこれは各人に「確保する技術がある」という大前提のことです。ロープワークは雪山に限らずアウトドァでは欠かせない知識であり技術です。無雪期でも危険な場所の通過などに初心者を安全にフォローしてあげられますし、ビバークやキャンプに於いても結ぶ技術は重宝します。
ここではロープワークのひとつとして初心者が行なえる雪山登山の簡単な確保を紹介します。実際に練習してみれば必ず相手を確保できますので、練習で自信をつけてもらいたいです。

 ●ハーネス(安全ベルト)なしで確保する
 この技術集は初心者を対象としているので普段ロープを持っての登山をしない人はハーネス(安全ベルト)はまず手元にないでしょうし、また携帯しないでしょうから、それを前提で話を進めます。
確保に使えるロープは8mm程度で20mまたは30mの市販されている「補助ロープ」でいいです。これぐらいはキャンプサイトでの物干しから岩稜縦走・沢登りまで何にでも使えるので機会があれば購入したいものです。
まずロープをからだにつける方法は、簡易的なものならザックのウエストベルトのところへロープを結ぶ方法もありますが、これはウエストベルトが頑丈であるとの条件次第です。
一例ですが以下の図のような形で行ないます。いろいろ結び方もありますが8の字結びぐらいでできる方法を考えてみました。
@ロープの末端をダブルで図のように結び先端に輪を作る
(8の字結びという)

A8の字結びで作った輪にローブを通して腰に巻く


B輪に通したロープを肩から袈裟懸けにして脇から前へ出して輪に通して出来上がり

●実際の確保シュミレーション例
・確保者はピッケルを雪面に刺して自己確保を行い、バケツを掘って足は山側の足(この図では右足)を前にして斜面に横向きで前後に踏んで立つ。
・両者共にロープを結び合って、確保者は確保される人へ伸びるロープを両手で握る。このときオーバー手袋はしないこと。ナイロン製のオーバー手袋やミトン類をしては確保は止まらない。ウールの手袋が良い。
・余っているロープは足元に置くならアイゼンを引っ掛けないように注意する。それか斜面に突起物など無ければ垂れ流しておいてもよい。
・確保される人がバランスを崩して転倒したら、確保者はロープを強く握るが決して引っ張って止めようとはせず、強くしっかり握りながらもロープは5mぐらいは出して、握るてのひらと擦れていくロープとの摩擦で転倒者のエネルギーを吸収して止める。(これをグリップビレイという)

上では、ロープの末端を直接からだに結ぶ方法を紹介しましたが、実は滑落荷重などが掛かると締め付けられて少々痛いです。従ってロープを持参する登山の際には、道具屋に切り売りである幅2センチ程度のナイロンテープを3m程度用意しておくと良いです。これを使って簡易の安全ベルトを作り使用すれば、滑落からロープで停止した時、確保される側のショック・衝撃が腰と尻で吸収できるので痛くありません。
ナイロンテープを右図のように8の字結びで輪にします。
これを使って以下の図@〜Bのようにからだに装着します。ウエストのサイズに個人差があるから輪の大きさもそれにあわせて調整します。
図@
図A
@上の図で作ったテープの輪を尻側から手前へ両腰と股下から出す。

Aカラビナがあれば三方から出したテープの輪を全てカラビナで掛けてまとめる。このカラビナにメインのロープを8の字輪にして掛ければ出来上がり

図B
完成図
Bカラビナが無ければ三方から出したテープの輪をまとめてメインのロープで8の字結びで結ぶ。

この8の字は、最初末端を80cm〜1m位余らせてシングルで8の字結びを作り、余った末端ロープのほうからを三方束ねたテープに通し、その末端を8の字結びの出てきたロープと同じところを通して、「結びのロープと平行して」メインのほうへ持っていって結ぶ。
出来上がりがダブルで作った8の字結びと同じ形ならOK。


●余談ですが切り売りテープは以下のような無雪期の搬送にも使えます―バックストラップ搬送法。上で使うものより1mほど長いと良いです

@事故者をあお向けに寝かせて幅広テープを背中と尻の部分にセットする




A事故者の両足を開けて搬送者は事故者の右手を上にあげ腰のところに自分の肩がくるようにする




B右手は事故者にセットしたテープの片方に通し、左手は事故者から回したテープに通す




C事故者の左足を持ち上げ、自分の左足をその下に深く入れる




D事故者の左手を引き込みながらテープも引っ張って反転し、うつ伏せになる。うつ伏せの状態から搬送者はテープが肩に喰い込むのでタオルなどをあてて静かに立ち上がる




E搬送中は負傷者の両手の扱いに注意する。搬送者の肩越しで胸元でバンダナなどで結んでおくと良い。また負傷者の両足を前に出して、搬送者の下腹部との間にピッケルまたは棒などを入れると比較的楽。




※事故者を降ろす場合は、前かがみになって両手を地面につき、膝をついて四つんばいになる。膝を伸ばして完全に腹ばいになったら右又は左に腰をひねって負傷者をしずかに降ろす。

ただしこの方法は搬送中に背負われる怪我人の尻や腿の部分にストレスを感じさせます。

●背負って搬送するかたちで怪我人にストレスを加えない方法としては、最近、レインウェアやヤッケの上着とザックを利用して搬送する方法が紹介されています。(搬送に使ったウェアは消耗品と考えます)
@ザックとウェアの上着を使った背負い方の、作成方法は、右図のようにザックのストラップの細い部分(赤の部分)にレインウェアの袖口を一重結びでかまわないから縛り付けます。
動けない怪我人の場合は最初からレインウェアのうえに寝かしてしまい、この状態から上の結びを始めると良いです。

Aザックとレインウェアで怪我人を挟み込むような状態にして、レインウェアの左右の腰の部分の裾にゴルフボール大の石を包みながら細引きやスリングの紐でインクノットに固定します。(インクノットはキャンプの簡単ロープワークを参照してください)し、そのスリングをザックの首裏部分のストラップと結びます。


B背負って歩く人は、胸前で負傷者の腕をクロスさせて重ねた腕を、片方の手で持って歩きます。
もう片方の手はフリーハンドとしてバランスを崩してもすぐに手をつけるようします。


完成画像



<注意>
実際の雪上での怪我人搬送は、組立式の搬送用ボートや搬送ソリなどを用いる方法、樹木の生枝を集めてインクノットで束ねて柴ゾリを作る方法、ツエルトやフライシートなどに包んで雪上を滑らす方法、スキーがあればそれを平行に並べて結束してソリを作る方法などがあり、背負っての搬送は歩く雪道が安定してないので搬送者の消耗が激しいことや、搬送するスピードも遅くなるので特殊な条件と場所でない限りあまり用いません。
ごく稀な例として、私は12月の富士山で7合5勺から5合目まで足首を骨折した仲間を背負って搬送したことがあります。このときは3名のみでの搬送だったので、私が背負い、他の2名はロープで上方から確保してもらいながら下りました。


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