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三年の檻



第六回雑文祭投稿作品

縛り:題名は「三年」で始まること(例: 三年目の浮気)
「口から飛び出す」「内心そうだと思い込んでいた」「大会」を、この順序で雑文中に含めること。



 僕は、どうやら周囲の他の人間より頭が良いらしい。
 実際の所、僕の頭は悪くないだろう。取りあえずであれば、何でもソツなくこなせる。馬鹿でもないし、運痴でもない。
 テストで満点をとれる訳じゃないけど、ちゃんと授業が下らないと理解できるから。
 もっと、ハッキリ言うなら僕の頭が良いんじゃなくて、周囲にいる連中が馬鹿なのだ。
 クチャクチャと噛み続けられる、味をなくしたチューインガムのように幼稚な会話。ただひたすら制御の利かない機械の様に同じ事だけを繰り返す日常。
 反吐が出るようなミエミエの煽動を個性だと信じて受け入れる姿。他人からの受け売りをさも自分のものであるかのように振舞うおこがましさ。
 何も産み出さず、与えられている事を特権だと信じる駄菓子のような甘い精神。形のないものが一番だと言い、同じ口で小遣いをねだる。
 僕は、そんな連中が大嫌いだ。
 僕は、そんな連中を相手にしない。
 だけど、アイツらは違う。アイツらは馬鹿だから、自分が一番でありたいと思ってる。そんな力もなく、努力もしないくせに。
 だからアイツらは事あるごとに、自分達に組しない者を攻撃しようとする。陰湿に、徒党を組んで。
 いわれのない迫害を受ける事が嫌で、アイツらに加わる者も少なくない。「仕方ない」なんて言葉が、連中の口から飛び出す。だけど内心は迎合している事だろう。
 僕は、そんな連中も好きになれない。
 僕は、そんな連中を守りたいとは思わない。
 あの子だけは違う。
 あの子は、屈託なく僕に笑ってくれる。
 僕のただひとつの心配は、あの下らない連中が攻撃する矛先が、彼女に向かないかと言う事だけだ。
 あの子は、あんまり利口じゃない。何の個性も知性も持たない連中と付き合っているのは仕方ないだろう。
 でも、関わってはいけないような詰まらない連中にまで関わる。それも、その素行を注意するなんて一番やっちゃいけない行為を。
 あんな馬鹿な連中は、死ぬまで馬鹿だ。生涯治ることはないのだから。
 そんな連中の神経を逆撫でするような真似はするべきではない。だけど、彼女はまだ幼稚な正義感と現実を照らし合わせる術を持ち合わせていないのだ。
 それでも、男子連中が「あの女が気に食わない」とか「犯して黙らせてやる」なんて言っている内は平気だと思っていた。
 何故ならアイツらは口先だけで気風を切るが、行動力なんか持ち合わせていない。度胸もなければ、知性も、計画性も、連帯感も皆無だ。
 ただの妄想を知性だと錯覚し、都合のいい夢想が計画だと信じ、馴れ合い、傷を舐め合い、心の中で見下し合うことが連帯感だと信じている。
 だから、そんな事を囁き合っている間は平気だと思っていた。内心そうだと思い込んでいた。何も起きやしない。
 だけど、事情が変わった。
 女子連中が動き出したのだ。これは最悪の事態だった。
 馬鹿な連中に行動力などない。行動力はないが、群れをなして自分たちの勝手な常識を押し通すのが得意なのだ。
 赤信号も皆で渡れば怖くないなんてのが、その最たる例で、そんな非常識が蔓延する事によって、数少ない正常な人間までもがそれに感染していく。
 特に、女子はその才能に長け、群れて自分たちのルールを振りかざす。
 それでも感化されない人間を、全員で迫害する。自分たちが間違っているかどうかなどはどうでも良く、ただ愚かしい遺伝子のように、自分のコピーを増やす事だけを考え、それに属さない異分子を排除するのだ。
 彼女は、異分子だと認識された。
 陰湿な嫌がらせや隔離が彼女に振りかかる。何とかしてあげたいが、実態の見えない影の弾圧だけに、手の打ちようがない。
 それなのに、やはり彼女は利口じゃない。「そういう陰湿な嫌がらせは止めて」と訴えるのだ。
 それでも止まらない無言の圧力。そして、利口じゃない彼女。彼女は、何の役にも立たない教師に相談したのだ。
 事勿れ主義で薄汚く小利口な教師は、体裁上、いじめを考える答弁大会とやらを開いた。言葉が通じないからこの状況が生まれているという事を考えもせず。それがかえって彼女を苦しめる事になるなんて考えもせずに。
 嫌な予感はしていた。
 偶然、その話が耳に入ってしまうまでは、予感だった。
 だが、それはもう現実だった。
 「あいつ、シメちゃおうよ」
 「男子使ってさ、剥いちゃえば?」
 「それイイね。ケータイで写真でも撮って脅せば大人しくなるんじゃない?」
 コイツらは本気だ。遊びのつもりで、何処からが犯罪かなんて考える知性もなく、ただ、それを命令する。命令された男達は、女に格好の良いトコロを見せたいためだけに、実行する。
 僕は今度こそ彼女を守らなければならない。
 家に帰った僕は、兄の机からナイフを盗み出した。山ほどある中から、全部で七本。
 ナイフは一度刺すと、二度目からの殺傷力が落ちると、兄が得意げに話していた。
 犬猫さえも刺した事のない兄の話を信じる訳ではないが、武器は多い方がいい。
 一人に一本使っても、連中のアタマを押さえるには充分な数だ。
 次の日から、僕は連中と彼女の行動を逐一観察していた。そして数日も経たない内に、その日が訪れたのだ。
 出入りする生徒の少ない、第二校舎の最上階一番奥の女子トイレ。イキがって煙草を吸う連中の大好きな、教師達に放置された空間。
 彼女はそこへ呼びだされた。間違いない。
 もう、ためらう理由なんてなかった。
 一応、トイレの入り口には見張りの女子が一人立っている。
 僕は、さも偶然、そっちに用事があるような振りをして近付き、刺した。
 睨みをきかせてれば、相手がおどおどすると信じているこいつらを刺すのは容易で、思っていたより肉が硬い事に驚く。
 声も出さずにうずくまる見張り。僕は次のナイフを取り出して、女子トイレの中に入った。
 予想通り、彼女と、女が二人と、男が三人いる。
 まだナイフは六本もあるんだ。取りあえず力が強そうなコイツから刺そう。
 一人刺したら、悲鳴が上がった。僕を取り押さえようとする連中と逃げだそうとする連中で、戦力は割れた。僕の方が圧倒的に有利だ。
 止めに来た男も刺したら、そのままナイフを捨てて、逃げ出そうとする男を背中から刺した。
 馬鹿だな。トイレの奥に逃げ道なんてないのに、そっちへ逃げようとしてる女子もいる。
 一人が、パニックして泣き出した。うるさいな。泣けば許されるなんてのは、赤ん坊だけで充分だ。
 取りあえず全員刺して、まだ動けそうなのをもう一回刺した。
 彼女一人が、どうしていいのか、どんな表情をしていいのかわからずに、呆然と立ち尽くしている。
 大丈夫だよ。もう、大丈夫。
 僕も大丈夫だ。僕には正当な理由がある。
 刺された奴らが死んだって、僕は保護されるんだ。
 殺された被害者の名前として、お前らの名前はニュースでデカデカと報道されても、少年法は僕を守る。
 週刊誌は真相を暴き立てようとある事ない事を書き連ねるだろう。お前らの薄汚い常識を、薄汚いマスコミが楽しく飾ってくれる。
 僕の行動も讃えられはしないだろう。暴走する若者とかキレやすい少年とか言われて、三年もすれば、他の事件に揉まれて忘れられる。
 僕はちょうど、その三年を檻の中で大人しくしてれば無罪放免だ。
 だから心配しないで。怖がらなくていい。大丈夫だよ。
 君の事を守るから。
 だから、笑っててよ。



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