マーシャル諸島共和国派遣10周年記念企画 
隊員座談会 マーシャルの算数・数学教育事情

司会・編集 12-1 三澤 政俊

*** 参加者とその横顔 ***

11-1 千川原 悦子(小学校教諭 キリ小学校)
 首都マジュロ環礁から遠く離れたキリ島という離島に隊員1人で乗りこんで行ったツワモノ。無線を利用して、放送されたミッドナイト“キリ”は隊員の心のオアシスだった。ちなみに、キリ島の住民の多くは、もとはビキニ環礁にすんでいたが、核実験のため移住させられた人々である。

11-1 辻 章子(小学校教諭 ウォジャ小学校)
 配属先の小学校は首都マジュロだが、中心部から少し離れたところにあるウォジャ小学校で活動。首都にいながら、離島のようなのんびりした雰囲気と不便さを味わえるなかなか魅力的な任地である。学校に畑を作ったり、マーシャル語の九九の歌を作るなど、精力的に活動。


11-1 横山 憲司(小学校教諭 アジャルタケ小学校)
 首都マジュロのアジャルタケ小学校で活動。隊員の間ではセクハラ隊員との汚名を着せられていた。しかし、先生の話をまじめに聞かせ、使い終わった教科書をきちっと並べさせるという、マーシャルの子どもにとってウルトラC並みの事をやってのけさせる、その指導力は見習いたいものがあった。また、12-1のアイドルとしても活躍。

12-S 石井 隆之(無線通信機 ラジオマーシャル)
 首都マジュロのラジオ局で活動。隊員で演じたマーシャル語ミュージカル『桃太郎』の鬼の大将役を演じてから、マーシャルでもすっかりヒールになってしまった。しかし、配属先からの信頼は厚く、よく飲みに誘われている模様。

12-1 落合 千佐子(小学校教諭 ローラ小学校)
 首都マジュロの端っこローラ小学校で活動。相変わらずの、そそっかしさだが、マーシャル人特有の“大きな心”のおかげで、今日まで、隊員活動を継続できている。好奇心は人一倍旺盛で、どんなことにでも、すぐでしゃばってくるが、そのせいでいつも忙しく、首が回らない。

12-1 粂 結美子(数学教師 ジャルート高校)
 マーシャル第2の都市(?)ジャルート環礁で高校生に数学を教えている。見た目は小学生だが、行動がすばやく、怒ると怖い、隊員からも一目置かれた存在。また小さいくせに、テニスがうまい。私(三澤)は、“打倒 粂”を合言葉に1人スクールウォーズにいそしんでいる。

12-1 三澤 政俊(理数科教師 アサンプション高校)
 首都マジュロの私立高校で数学と物理を担当。授業中、子どもからなめられまくっているため、いじめられっこの心境がわかる気がする今日この頃。現在、仕返しを計画中。

〜〜〜 活動を通しての感想 〜〜〜

三 澤: みなさん、お忙しい中、集まっていただいてありがとうございます。これからマーシャルにおける算数・数学教育について自由に、本音で話していただけたらと思います。まず、各自の活動を通しての感想をお聞きしたいと思います。

千河原: 学校に行かない子どもが多く、学校を休みがちになってしまっている。ほかの先生にも学校に行く事が大事だと言いつづけてきたから、良くなってきているが、まだ不充分。継続してやっていく事が重要だと考えている。

辻 : マーシャルの子どもたちはたくましい、自分でなんでもすし、日本で言うところの“生きる力”を持っていると思う。しかし、勉強する態度ができない子どもが多い。分数ができない先生が多いため、どうしても分数ができない子どもも多くなってしまう。割り算も苦手としている。しかし、直感的に何かを見つける能力はあるように思う。素質はあるように感じる。このような環境の中でも数学がよくできる子どもがいるという事実に驚いた。たぶん、すごい天才なんだと思う。

横 山: 算数は基本ができないと次に進めないのに、どんどん次に行ってしまう。そのため、いつまでたっても同じ事の繰り返しになっている。難しい事をどんどんやっていくのではなく。基礎を身に着けさせるべきだと思う。

粂 : 高校2,3年生の数学のを担当してきたが、内容は日本の中学校レベル。文章題ができない。かんたんな計算はけっこうやるけど、ちょっと応用問題になるとできない。基礎は小学校で教えてほしい。クラスは優秀な子どもと、そうでない子どもで別れているが、できないクラスは鉛筆すら持ってこない生徒がいる。

石 井: 教師ではないので、みなさんとちょっと違う立場になると思う。回路図を追う時など、数学の知識が不可欠なんだけど、四則演算すらまともにできない。そのため算数の授業をはじめたが、ぜんぜんできないのであきらめた。大人が相手なので難しい面がある。ただ、すごいのは、これでレベルが低いわけではない。経験でできている部分がたくさんある。なぜこれがわかるのに、算数ができないのか不思議、と感じる場面が何度かあった。経験で数学をしている。

落 合: 子どもたちにとって、母語で算数を勉強できないのが難しい。教科書は英語のため、英語からマーシャル語に変換しなければならないのが、かわいそう。教えるとき、日本語でなら面白く教えられるのに、マーシャル語では、まだうまく算数を教えられない。私ももどかしいが、生徒ももどかしいと思う。もどかしい1年だった。

三 澤: 割り算、少数の計算、分数ができない子どもが多い。はじめは小学校の先生の怠けだと思っていた。しかし、小学校を何回か見学させてもらったが、現時点でのマーシャルの小学生に算数を教える事の難しさを感じた。しかし、小学校で基礎を身につけてくれないと、自分が高校で教える意味が無い。

〜〜〜 なぜマーシャルの子どもは算数ができないのか? 〜〜〜

三 澤: なぜマーシャルの子どもたちは算数・数学が苦手だと思いますか。

横 山: 数学は生活の中から来ている。例えば取ってきた魚をみんなで平等に分けるにはどうすればいいかなど。複雑な社会ではもっと複雑な数学が必要になる。マーシャルの文化の中では分数は必要とされていない。しかし、授業中に分数が突然でてくる、生活とぜんぜん密着していない。なぜ、日本人が数学ができるかというと概念に戻れるからじゃないかな。

落 合: 私は概念だけではないと思う。例えば九九のように、訓練によるものが大きいと思う。数学には粘り強さなども必要。面白さもいっしょに教えられればいいのだけど、マーシャル語では難しい面がある。

辻 : 日本だと子どもは勉強が仕事、数学ができる事が大人の証というように考えられているし、子どももそのように考えているところがある。しかし、マーシャル人は違う。釣りができる人がすごいとおもわれるし、数学ができても未来が見えてこない。勉強に対する意識が違うと思う。

千川原: 例えば、おやつ分けをするとき、日本ならきっちり分ける必要があるため、数学が必要になってくる。しかし、マーシャルではおおざっぱに分けるから数学が必要とされていない。

辻 : 平等の概念が日本人とマーシャル人とで違う。
 
三 澤: 確かによく働く子と働かない子で、おやつが同じ量なら、本当の意味で平等ではない。

石 井: マーシャルは勉強すれば金が稼げる社会じゃない。

落 合: 社会も勉強ができる人が、すごいとはしていない。勉強できる人が、そのままいい生活になるとは限らないから。

三 澤: マーシャルではどこの大学でどんな勉強をしてこようが、酋長関係者がいい仕事につく傾向がある。そうではなくて、数学ができる人、電気の知識のある人が電気関係の職につくべきで、血縁者関係で、決めるべきではない。

石 井: でも、日本みたいに成績がすべての社会ではだめだと思う。

落 合: たしかに、勉強だけで評価しては駄目だけど、実力あれば、それに見合った職につけるようになればいいと思う。

〜〜〜 なぜ数学を勉強するのか? 〜〜〜

石 井: みなさんの意見を聞いて思ったのですが、なぜ数学が必要だと思いますか? 職種で見れば、私は絶対に必要なのですが。

千川原: 考える道筋、論理の練習。分数の計算でも練習になる。マーシャルの小学校では訓練が足りない。訓練すれば鍛えたれるのに。

石 井: どうして日本人は数学が得意なのでしょうか。

三 澤: 先生の熱意の違いもあるのじゃないか。日本だったら先生も必死で子どもに九九を覚えさせるでしょう。それこそ、危機感を持って。マーシャル人の先生にそこまで危機迫るものは無いように思う。

落 合: なぜ、数学を勉強しようと思うのか。

粂 : 私は数学が好きだし、解けた時の喜びを知っているから。こういう喜びを味わえるように、マーシャルの子どもにもがんばってもらいたい。

三 澤: 私も数学は面白いと思いますよ。私は、もともと数学は好きではなかった。理科が好きな少年だった。大学に入り、物理学を勉強するようになってから、必要にせままれて数学を勉強するようになった。そしたら数学の面白さがわかってきた。

辻 : マーシャル人は教会にいくことは熱心だけど、彼らは勉強に必要性を感じていないから。

〜〜〜 マーシャルから小学校隊員がいなくなる? 〜〜〜

三 澤: ちょっと話題を変えて。今後、小学校隊員の人数が削減されるかもしれないと言うことですが、私は小学校に隊員が入っていないのに、高校で隊員が入っても意味がないと思っています。その事についてどうでしょうか。

辻 : 私は後任の要請をしなかった。JOCVをどう使うか考えてほしかった。私たちは単にマーシャル人の変わりをやっているのに過ぎなかったように思う。また、地方政府が財政難でJOCVの家賃を払えない状態でもある。1校に1人ではなく、2校に1人でもいいのではないかと思う。

三 澤: 辻さんがいなくなったことで学校は変わりましたか。

辻 : マーシャル人教師にとって高学年のクラスは難しくて教えられない。困っていたが、どうするかいろいろ考えているようだった。また、マーシャル人教師の取り組み方が1年目と2年目では違った。自分にいろいろ聞いているようになってきた。

横 山: やはりJOCVを取りたい事は取りたいようだが、住居費の問題が大きい。

三 澤: 住居費の問題で後任を取れないということはおかしいと思う。特に横山さんの家は豪華すぎる。

辻 : 前の調整員の方針で今のような家の水準になっている。

横 山: 文部大臣、先生たちは後任をほしがっているという事はうれしいんだけど。

〜〜〜 隊員は何をすべきか? 〜〜〜

落 合: 今後、隊員は何をすべきだと考えますか。

横 山: JOCV主催の勉強コンテストみたいの開いたら。賞金の200ドルぐらい出してあげるよ。

落 合: じゃあ、名前は“横山杯”で。

横 山: 見ていて頭がいいなあと感じる人っているよね。マーシャルは頭のいい人をアメリカに行かせたままにしちゃいけないよね。アメリカでしっかり勉強してきたら、戻ってきて、マーシャルのためにがんばってもらいたい。

粂 : 優秀な先生を作りたい。

横 山: マーシャル短大の夏季講習で小学校の先生向けの講義がやっているよね。本当に子どもみたいに喜んで工作とかしているけど。その時にJOCVが、それを授業とどう結びつけるかアドバイスできたらいいと思う。

辻 : だんだんと、マーシャル人だけでやるようになってきている。ハワイなどに勉強に行っている。低学年の子どもはマーシャル人の方が頼もしい。日本の子どもは何でもすぐに、先生に聞いてくるから。

三 澤: 最近ちょっと感動した事は、私の高校の先生のなかにJOCVの教え子がいる。その先生はまじめに授業に取り組んでいる。ピクニックに行っても隠れてビールを飲んだりしていない。私の学校はカトリック系なので酒を飲んだら怒られるんだよね。

横 山: 三澤君よりいいじゃない。

〜〜〜 最後に 〜〜〜

三 澤: 今回はいろいろな話が聞けてよかったと思います。どうもありがとうございました。

横 山: 20年後ぐらいに、このヤコエを読んで、先生たちは割り算もできなかったのかといえるようになっていたらうれしい。まあ何か、困った事があったら連絡するように。

辻 : がんばってね。

〜〜〜 終 〜〜〜

この他にも、たくさん楽しい話を聞かせていただいたのですが、紙面の都合上省略させていただきました。座談会に参加してくださった方々、どうもありがとうございました。


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