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転換性障害

■転換性障害
不安は身体に現れる

 

■転換性障害とは

 転換性障害は、従来は転換性ヒステリーとも呼ばれていた。転換性ヒステリーでは、身体症状が主体だが、もうろう状態、記憶障害(健忘)、痴呆様状態、二重人格などの精神症状がみられるものは解離型ヒステリーと呼ばれる。転換型ヒステリーと解離型ヒステリーとをあわせたものが医学的な意味でのヒステリーなのである。
 DSM-Vからヒステリーという診断名が削除され、従来の解離型ヒステリーは解離性障害とされ、転換型ヒステリーは、身体表現性障害の下位分類のうち、身体化障害、転換性障害、身体表現性(心因性)疼痛障害などとして分割された。なお身体表現性障害とは、身体疾患を疑わせる身体症状を訴えるもの、その症状を説明できるだけの身体的疾患ないしうつ病などの精神的疾患が認められない症候群の総称として命名された。ここに身体表現性障害だけでなく、転換性障害も誕生した。これ以降、臨床の場でもヒステリーという診断名が使用される機会がだんだんと少なくなってきている。

 

■転換性障害の症状

 転換性障害でみられる身体症状を転換症状と呼ぶ。

  1. 随意運動障害
    運動麻痺 : 筋力低下、脱力、失立・失歩、上下肢の麻痺(単麻痺、片麻痺、両側麻痺)、失声、緘黙症、構音障害、嚥下困難
    異常行動 : けいれん発作、後弓反張(ヒステリー弓)、不随意運動(チック様運動、ヒョレア様運動、アテトーゼ様運動、振戦、間代性運動)
  2. 感覚障害
    感覚麻痺 :
     感覚鈍麻・脱出(手袋型、靴下型麻痺)
    感覚器官障害 :
     視覚障害
      視野異常(管状、らせん状の視野狭窄)
      視力低下(ヒステリー盲)
     聴覚障害(ヒステリー聾)
    異常知覚 :
     咽頭部に球状の物がつまる感じ(ヒステリー球)
    知覚過敏 :
     卵巣痛、乳房痛、頭頂部頭痛(ヒステリー標識)
    疼痛

 転換症状は主として随意運動障害、あるいは感覚障害として現れる。運動麻痺はいずれも神経学、生理学、解剖学的法則に従わないことが大きな特徴である。歩行障害も神経内科領域でみられる既知の身体疾患のパターンに一致しない。
 転換症状としてのけいれんは、てんかん発作としての発作型をとらず、四肢、頭部をでたらめにばたばたさせたりするなどして、てんかん発作でみられるような咬舌、転倒による打撲傷などはまれである。しかし、てんかんの大発作との鑑別が容易でない症例もある。
 転換症状としての感覚麻痺は解剖学的な神経支配分布に一致しないことが特徴。
 管状、らせん状に視野が狭窄することもしばしばみられるが、これは視野検査時の暗示効果によるものともいわれる。
 卵巣痛、乳房痛、頭頂部の頭痛などはその部位を押すと激痛を訴えたりするもので、ヒステリー標識と呼ばれてきたが、これも診察時の暗示効果によると考えられている。疼痛は、転換症状としてもっともよくみられるもののひとつである。種々の部位にさまざまな疼痛が出現するが、痛みの性質が奇異で訴えが執拗に続くこともある。しかし疼痛症状は、他の転換症状に比べ、器質的な身体疾患によるものと鑑別が困難なことも少なくない。
 これらの転換症状に葛藤が象徴的に表現されているとみなせることもある。たとえば、失立・失歩が立ちたくない、歩きたくないことの表現であったり、盲目が現実を直視したくないことを表していたり、失声が話したくないことを周囲に抗議している姿であったりするわけである。そのため転換症状を葛藤が象徴化された身体言語(器官言語)とみなすこともできるわけである。

 

■転換性障害の原因(精神病理)と診断

 当然のことながら転換症状がみられることが必須。しかし、この症状だけで転換性障害の診断はつかない。身体症状が器質的な背景のない転換症状であることが疑われても、十分に身体的な検索を行い、器質的な身体疾患をきちんと否定することが必要になってくる。
 しかし、身体疾患が否定されたからといってすぐに転換性障害といえるかというと、それだけではまだ十分ではない。その人が直面している葛藤やストレスなどの心理的要因が転換症状の出現に密接に関連しているという判断が必要なのである。それには、次の点に注目する。
 第一には、転換症状を出すことで心理的葛藤やストレスとなることとたたかう努力を回避できること、つまり疾病へ逃避するという心理機制(一時疾病利得)がみてとれること。
 第二には、二次疾病利得といって、症状によって周囲から同情や関心を得たり、自分のとるべき責任や自分にとって有害な活動を回避したりできるという心理機制がみられること。

 「ヒステリー」という俗語のもつ誤ったイメージから、女性に多くみられるように思われそうだが、転換性障害は女性にやや多い傾向があるものの、著名な差はみられない。また、転換性障害は、どの年代にも発症するが、青年期までに発症する事が多いので、もし中高年以降に初発した場合には、器質的な身体疾患やうつ病との鑑別は必要となってくる。また過大な自己顕示的態度や周囲の注目をひくような言動、被暗示性の高さ、自己中心性などが目立つ人をヒステリー人格ということがあるが、転換性障害はこうした性格特徴をもつ人だけでなく、どんな人にでもおこりうることが強調されている。

 

■他の疾患との合併 ― 解離性障害とうつ病

 合併する疾患のひとつは、解離性障害である。転換性障害では、葛藤が身体症状となって現れるのに対して、この解離性障害では、葛藤がもうろう状態、意識障害、記憶障害などの精神症状となって表れる。この解離性障害と転換性障害を合わせたものが医学的に従来はヒステリーと呼ばれていたものだが、両者には緊密な関係がある。だから、解離性障害の治療も転換性障害の治療に準じることになる。
 もうひとつは、うつ病の合併である。この場合には、転換性障害の発症がうつ病によって説明される場合が少なくない。だから、治療的にはうつ病の治療が優先されることになる。

 

■転換性障害と近縁の病態 ― 身体表現性自律神経機能不全、身体化障害

 今日では、転換症状の内容がだんだんと変化してきているといわれている。つまり、けいれん、失立、失歩といった古典的な転換症状がしだいに背景に退き、かわってめまい、耳鳴り、過呼吸発作、胃腸症状(下痢、吐き気、嘔吐)、動悸、発汗、頻尿などの自律神経症状へとシフトしてきているという指摘がある。これらの自律神経症状は、以前は少なくとも狭義の転換症状には含めなかったが、現在では、広義の転換症状として扱うこともある。心理的葛藤が自律神経症状に「転換」されたとみられる症状は、世界的に使用されている診断基準であるICD-10(WHO国際疾病分類第10回修正)では、身体表現性自律神経機能不全と診断される。これはある見方をすれば、転換性障害と心身症(心理的要因により自律神経系を介して身体症状が変動する身体疾患)の中間に位置するものと考えることもできる。この身体表現性自律神経機能不全においても、心理的葛藤がその発症に関与していることが少なくないので、診断と治療は転換性障害に準じることになるが、自律神経症状に対しては、対症療法的な薬物療法の比重が高くなる。
 身体化障害とは、身体疾患がないにもかかわらず、転換症状のほかにも、胃腸症状・性的・生殖器症状、さまざまな身体部位の疼痛症状など、じつに多彩な身体症状が数年以上にわたって慢性的に認められるものである。通常30歳前に発症するとされている。やはり、心理的葛藤がその発症に関与しているわけだから、診断と治療は転換性障害に準ずることになるが、その定義からの推測されるように転換性障害よりは長期に持続することが少なくない。

 

≪まとめ≫
1.葛藤、ストレス、不安が無意識のうちに身体症状に「転換」されて現れたものが転換性障害である
2.転換性障害の症状(転換症状)には、起立できない(失立)、歩行できない(失歩)、声が出ない(失声)、けいれんなどの随意運動系の症状と痛覚・触覚の麻痺、視覚・聴覚障害、疼痛などの感覚系の症状がある。
3.転換性障害の診断には、まず身体的検査によって器質的な身体疾患を否定することが必要であり、つぎに転換症状の出現に心理的要因が密接に関連しているという判断が必要となる。
4.転換性障害の治療原則は、症状除去のみを性急に求めず、転換症状の発症に関連したと思われる生活状況やそこでの苦悩を十分に理解し、症状出現の基盤にある心理的葛藤を明らかにし、葛藤と症状の関連を洞察できるように援助することである。
5.転換性障害は、解離性障害(葛藤が意識障害、記憶障害などの精神障害となって現れる障害)やうつ病と合併することがある。前者では、転換性障害の治療に準ずる。後者では、うつ病の治療が優先される。

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参考図書  「不安症の時代」  不安・抑うつ臨床研究会  日本評論社


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