第21回:名古屋最強!「納屋橋系」の人々(前編)

 世の中には分かり合えるヤツと分かり合えないヤツがいる。分かり合えないヤツらの中には、よくよく話し合ってみるとけっこう分かり合えたりするヤツと、やっぱり分かり合えないヤツがいる。やっぱり分かり合えないヤツらの中には、相手の立場を考慮すればまァ理解できないこともないヤツもいるし、まるで理解できんヤツもいる。まるで理解できんヤツらの中には、そこら辺の事情を汲んでお互い辻褄をあわせつつ付き合ってくれるヤツもいるし、一向に譲る気配のないヤツもいる。譲ろうとしないヤツらの中には、こちらが本音をぶつけるとそれなりに態度を改めてくれるヤツもいるし、相変わらずそんなことまったくお構いなしなヤツもいる。
 それならば、そういうまるっきり、てんで、さっぱり分かり合えないヤツならば関わらないようにすればいいのだろうか?それとも自分の主義主張を曲げてまで彼らを受け入れるよう勤めなければならないのか?オレは辛抱が足らんのか、分かり合えんヤツはすっぱり切り捨ててしまったりするのだけど、しかし世の中というものがこういう禅問答のようなぐるぐるの問いの上に成り立っているのだという事だけはなんとなく分かる。
 例えばこんなことがあった。ある朝会社のそばの自販機にてタバコを購入しようとしていたオレの横を、
後頭部に風車をとりつけたオバちゃんが疾風のごとくピュ〜ッ!と走り抜けていったが、あれは一体なんだったのだろう?その日はポカポカとした陽気に恵まれていたため、一瞬「その筋」の人かとも思ったのだが、しかしそれ以外の服装はごくフツーのものであったし、なによりオバちゃんの表情はきわめてマジメであったので、どうもそうではないらしい。だがこの宇宙人チックなオバちゃんに対し「モシモシしょこのシト!後頭部に風車ついてますよ!」などと声をかけることができるだろうか?こちらとしてはあらヤダ!今朝はなんだか頭に風を感じると思ったら‥‥ゴメンあさぁせ!オホホホ!」てな具合にサラリと受け流してくれれば助かるのだが、もしも「フフフフ‥‥バカめ!これぞ新開発の秘密兵器、風車型回転ノコギリなのじゃあぁぁぁー!」と叫んで突然襲いかかってきたらどうする?何も文句は言えまい。あるいはこのオバちゃん、亭主に浮気がバレてその罰ゲームとしてやらされてるとか、はたまたその正体は風力発電で動くロボットだったとか、そういう止んごとなき理由があった場合、もしヘタにツッコんだりしたら、オバちゃんの心を著しく傷つけてしまうかもしれんではないか?オレは走り去って行くオバちゃんの後ろ姿を、ただ呆然と見つめているよりほかに為すすべもないのであった‥‥。
 このように、我々とは文化習俗を異にする「宇宙人」たちとのコンタクトはつねに激しい苦痛と危険と困難を伴うものなのである。そしてオレの住む名古屋には、彼らが群れをなしている「小宇宙」が、街のド真ん中にポッカリと存在しているのだ!その名も
「納屋橋」!
 名古屋のメイン繁華街といえば「名駅」と「栄」。その二つのちょうど中間に位置するこの地は、オレ自身これまで滅多に近寄ることがなかった。ここには東海地方における東宝の総本山・名宝会館があるのだが、特にここでしか観られない映画があるワケでもなく、しかもこの近辺は深夜になるとガイジンのネエちゃんが大勢街角に立つような危険区域なので、これまで避けてきたのだけど、ある時フトした気まぐれから「久々に名宝で映画観てみっかナ」という気持ちになったのである。

 しかし、これがそもそもの間違いであった。

 知人よりちょっといい評判を聞いていた『サトラレ』を観ようと、名駅より納屋橋方面に向かうその道すがら、オレの目に極彩色の映画ポスターが目に飛び込んできた。

「和泉聖治監督・的場浩司主演『鬼極道』!破滅の宿命を背負った二人の男が駆けぬけた壮絶な行きざま!絶賛上映中!」

 ‥‥って、ナニぃ!?こんなメジャー系大劇場で、こともあろうにVシネを上映!?んなアホな!?と、一瞬我が目を疑ったが‥‥違った。そのポスターの隣に細ぉ〜〜〜い路地が一本あって、その奥、そのさらにずぅ〜〜〜っと奥に、赤い文字で「邦画・洋画・世界の映画・特選楽しい3本立て上映!」と書かれたボロっちい建物がたっているのであった‥‥そう、それこそが今回紹介する恐怖のファッションスポット、「柴田系」に次ぐ新たなトレンドの中心‥‥「納屋橋劇場」なのだぁぁぁー!
 あぁ‥‥もしも後々あんな恐怖体験をすると分かっていたなら、断じて足を踏み入れたりはしなかったろうに‥‥しかしその時のオレの心に迷いはなかった。『ぴあ』はおろか新聞の映画欄にも載ってはいず、盛り場の真ん中でVシネ系の作品を細々と上映しているこのアッパレ極まりない劇場に、オレが行かずして誰が行く!?しかも邦画、洋画はともかく「世界の映画」とはなんとも心強い限りではないか!さも「ウチが娯楽の殿堂よ!」と言わんばかりではないか!ちなみに今回のプログラム、Vシネ1本&ポルノ2本!
世界をナメ切っとる!急遽変更!コレ観よーっと!意気揚々チケットを購入、なんと3本立てで1100円!安いなんてもんじゃない!濡れ手に粟だ!ちなみに敬老割引は1000円!たった100円ぽっちの「敬老」!道徳すらもナメ切っとる!ますます心強いじゃないか!オレは実にすがすがしい気分になり、力強くガッ!とドアを開けると‥‥ななななんと!そこにはミニスカートをはいた40代そこそこのオッチャンが!‥‥いやいや、いかん!この納屋橋は市内でも名うての危険区域、何が起こっても不思議はない。そんなの百も承知で入ったハズなのに、しょっぱなからこんなことでメゲてどうする!?第一、ここではオレの方が「宇宙人」ではないか!彼らの風俗習慣に従うのが物の道理だろう。偏見など筋違いもはなはだしい!オレはこのミニスカ・パトオッチャンを軽い会釈でサラリとかわし、今まさにお目当ての『鬼極道』が上映されている場内に入っていった。
 しかし‥‥中に入ってフト気付く。ン?‥‥なんかここの空気、どうも変だ‥‥気のせいだかちょっと煙いような‥‥と、あたりを見回してみれば‥‥なんとココ、
喫煙自由!つーか目の前に「禁煙」の表示があかあかと光っているのに、オッチャンたちはどこ吹く風で一斉にスパスパ吸っている!床は一面吸い殻だらけ!‥‥いやいや、いかん!いかんぞ!ここは飯場のオッチャンたちが清く正しい大衆娯楽を求めてくる場所。人生のセンパイたちに世間一般のくだらない規範を求めてどうする!?ファック消防条例!表面ばっかり麗々しく着飾って、場内はおろかロビーでも喫煙者は隅に追いやられ、その上女性割引だ女性専用席だのと、男を追い出すことしか考えてない今どきのオシャレ系ミニシアターやシネコンなんぞに比べりゃ、ここはまさに男のための男の楽園ではないか!?吸ったれ吸ったれ!男の意地で燃やしたれ!オレはためらうことなく、ポッケからタバコを取り出し火をつけた。
 しかし‥‥どうもおかしい。一服して気がついたのだけど、ここの空気、なにもタバコのせいばかりではないらしい‥‥なんか
熱いのだ。変換ミスではないよ。周りの気温はむしろ肌寒いぐらい。でもなんだろう?館内全体がなにやら異様な熱気に包まれているのだ‥‥だがオレはその事により一層の頼もしさを感じてしまった。ウム、けっこうじゃないか!やはり娯楽の基本はセックス&バイオレンス!エンターテイメントに国境なし!みんなVシネやポルノをそんなにも愛しているのだね!オレはこんな古き良き空間が21世紀の現在まで残されていたことに感動を禁じえず、彼ら同様胸を熱くするのだった。
 しかし‥‥って、いい加減しつこいね、どうも。でもなんだかやっぱりちょっと変である。というのもここにいるオッチャンの約3分の2は客席に座って映画を観ているのだけども、あとの人たちはなぜか通路にズラ〜っ!と並んで、スクリーンではなく
客席の方を見つめているのだ。なんだアレ?座る場所を探しているのか?にしては館内けっこう空きが目立つし‥‥?ア、わかった!そう、ここは日夜犯罪が多発するデンジャラスゾーン、昼なお暗い映画館ならばなおさらのことだ。きっとオッチャンたちは自警団を組んで、交代で見張りをしているんだ!ウン、きっとそーだ!いやぁ〜そこまでしてこの納屋橋劇場の伝統を守ろうとは!なんだァ!全然心配することなかったじゃんよ!何から何までゆきとどいていて、なんだか申し訳ない気分すらしてきたナ。どうかこの若僧もぬけぬけとその恩恵に預かることを許してほしい。大好きなVシネに目もくれず、一心不乱に「見張り」を続ける彼らに対して心の中で手をあわせつつも、オレはすっかり安堵しきって映画鑑賞に専念した。
 急遽変更で予定外に観てしまった『鬼極道』だったが、これがまた思いがけず面白い作品で、オレはすっかり得トク気分を満喫したのだが、ここでまたしても意外な事実が!この納屋橋劇場、普通の映画館と違い、
映画の合間の休憩時間というものがない。一本が終了しても続けざまに次の作品の上映が始まるのだ。ずーっとタレ流しっぱなしで、当然、場内は暗いまんま。なんでや?‥‥ま、別にいっか、そんなの。タバコも吸えるんだし、仮にトイレかなんかで一時中座するにしても、Vシネやポルノはストーリーが分からなくなるなんてことないもんネ。じゃ、次いってみよかァ!などと気をとりなおし、再び映画鑑賞に専念しようとしたその時!場内の雰囲気が一変した。それまで通路でウロウロしていた「自警団」のオッチャンたちが、一斉に席につきはじめたのである!
 ‥‥相変わらずネタフリが長くなってしまったけど、みなさんもうお気付きでしょうか?まだ分からない?中には「コレのどこンとこが恐怖体験なんだ?」といら立ちを憶えている人もいることでしょう。よろしい‥‥ならばここで、
この納屋橋劇場の恐怖の実態をお目にかけよう!
 オレは周囲の激変ぶりになにがなんだかわからず、ただ呆然とするだけだったが、しかしその時もやはり、あくまで好意的な解釈をすることにした。ア、なんだ。この人たちはきっとVシネではなくポルノの方がお目当てで、「自警団」も選手交代ってワケね。あー納得。そんじゃみなさんお疲れさまでした!どうぞごゆっくり御鑑賞下さい!‥‥って、あら?なぜか今度は誰も席を立とうとしない‥‥代わりの人たちはどこ?ン?どこなの?‥‥などとうろたえている矢先、「自警団」の任を解かれたオッチャンのひとりが、オレの隣の席にドッカと腰をおろした。何このオッチャンは?他にも空いてる席いっぱいあンのに、なんであえてここに座るの?ちょっとジャマなんだけどナ‥‥オッチャンはそんなオレの疑問に答えることもなく、
なぜかやや上気したような面持ちで、じーっとオレの顔を見つめている。もしかしてこの人ポルノ映画通で、講釈でも一席おっぱじめるつもりなんだろうか?そこまでサービスしてくれなくてもいいんだが‥‥あ、あら?え?何?お?あ?えぇぇぇーっ!?なんとこのオッチャン、おもむろにオレの脚をなでさすり始めたのである!ちょ、ちょっとアンタ!オレなんにも悪いことしてないのに!別に他人のサイフ盗んだりしてませんよ!人違い!ひとちがいですぅぅぅ!そう叫ぼうとしたその時!オレの目に信じられない光景が飛び込んできた!前列に座っているオッチャン2名が、互いに熱い抱擁をかわしつつディープキスを‥‥!ピギャァァァー!だが今はそんな他人の事をかまっていられない!隣のオッチャンはなおも激しい勢いで、オレの「中心部」めがけて手をすべらせようとしているじゃないか‥‥!プギョォォォー!し、しかーし!自分の事ばっかりにもかまっていられない!なんとオレの斜め横に座っている別のオッチャンは、もうすでにもう一人のオッチャンの真っ黒いチンコをピロ〜ン!と取り出して思いっきり口に頬ばり、シャブシャブしちゃってるじゃーないか!しかも同じ光景が場内のいたるところで!オレの周りにいる全員が全員「吸ったれ吸ったれ!男の意地で燃やしたれ!」と言わんばかりの熱烈さ‥‥!ポゲェェェー!ペギュゥゥゥー!パギョォォォー!オレはこの時ほとんどナミダ目であったが、これがかえってマズかったらしい。隣のオッチャンはそんなオレの苦悶の表情に「処女の香り」を感じたらしく、ポッポー!と鼻息荒く本格的に襲ってきた!オレはもう矢も盾もたまらず、オッチャンの手を振払ってロビーへと一目散に飛び出していった‥‥。
 ‥‥そう、そうなのだ!オレはここに至り、ようやく事態のすべてを把握した。全国的にポルノ専門館がいわゆる「ハッテン場」と化していることは前々から人のウワサで聞いていたが、ココもまたそのひとつであり、しかも
ホモ専用の所なのだ!そもそもココはなぜVシネだけ、もしくはポルノだけ上映しないのか?オレはそれを「いにしえよりの大衆娯楽の伝統」などという甘ったるい見方で捉えていたが、それは大きな間違いだった。つまりこの納屋橋劇場は「男に男を見せるための映画館」だったのだ!そう言えば、昔から「健さん&千葉ちゃんホモ疑惑!」などという記事が『サブ』や『薔薇族』の誌面をにぎわせていた事実もあるじゃないか?またポルノ映画についても、彼らは女優ではなく、男優のほうを見ていたのである。彼らはVシネの上映中は通路から客席をながめて理想のパートナーを探し、終わると同時にお好みの男性のもとに行き、暗黙の了解のうちにシャブシャブをしはじめる。場内がずっと暗いのもそのためで、言ってみりゃポルノの時間は「チークタイム」みたいなモンだ。
 あと、オレはさっきから彼らのことをオッチャンオッチャンと呼んでいるが、誤解のないように言っておこう。オッチャンと一口に言ってもその年齢層はさまざまだが、彼らは断じて30代や40代の若いオッチャンではない。
ほとんど全員50代から60代、ヘタすりゃ70ぐらいイッちゃってるんじゃないかと思う‥‥。「中高年の性」というだけで、オレ的にはそうとうセンセーショナルな話題なのに、その上ホモとなれば、一体どうすりゃいい!?オレごとき若僧の手にはとても扱いきれんじゃないか!?つーか、オレはなんでここにいるんだろ!?なにかの罰ゲームなのだろうか!?ぐぅぅ‥‥おウチに帰りたい‥‥帰りたいよォォォ〜!ブヒィィィ〜!
 再び気になってカーテンごしに中の様子をのぞいてみると、そこはもうすでに濃密ムード満開!‥‥
ハッテン‥‥しちゃったのネ、キミたち‥‥‥‥‥‥‥‥もォォォーヤダぁぁぁーっ!ボクおウチ帰るーっ!あと2本残ってるけど、そんなのどーでもいい!もーおウチ帰るーっ!おウチ帰っちゃうもー!知ーらないから知ーらないから!そして劇場のドアを開け、コケつまろびつ、ほうほうの体で逃げ出したオレの目の前には、バカでかい文字で書かれたこんなカンバンが立ちふさがっていた‥‥。

「ありがとうございました!また来週もどうぞ!」

 ‥‥明日なきこの闘いに、はたして「来週」はあるのだろうか!?待て!次号!

(2001.05.02)

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