Last Update:2002/10/25

 |その1|その2その3

東京発10:20。朝とも昼とも言えないその時間に僕は東京を離れた。ここからほんの一時の積極的現実逃避が始まる。のぞみ号は無機質に僕を抱え去った。




− 京都 其の一 −
 
京都。古の都。
しかし、降り立った巨大なターミナルステーションは、さながら鉄で出来た巨大な鳥篭であった。一昔前に夢見られていたメトロポリスの象徴の如く、高く吹き抜けの天井は鉄の格子に覆われ、秋にしては強い日射しがその隙間から人々の頬を射る。
京都。古の都。





青く高い空に迎えられ、眼前の京都タワーを睨みつつ、京都の地を踏む。時刻は昼を少しまわっていた。
− 昼食にしようか。
道もわからぬまま、ただ気の向く方へと歩を進める。幾台かの車が通り過ぎた向こう側に、こじんまりとしたうどん屋が見える。
− あそこにするか。
「ちから」という屋号を記したのれんをくぐると、涼しげな空間があった。中程の席に着くと、少し足の悪い中年の女店員が注文をとりにきた。
− たぬきうどんをひとつ。
「たぬきはきざみあげにあんかけですけどよろしいですか?」
メニューには「京風たぬきうどん あんかけ」と書いてあった。東京のたぬきうどんと非なるものだろうとは想像していた。僕の言葉のイントネーションから女店員はわざわざ確認してくれたのであろう。
− ええ。それで。
冷水で口を湿らし、煙草を一本。読売新聞の関西版を斜め読みしている僅かの間に、うどんが運ばれてきた。
「はい、おまちどお。」



うどんの上にはきざまれたあげ。きつねうどんである。汁があんかけになってたぬきに化けるらしい。味はやはり薄味。しかし美味。額に汗しながら食した。見回すと店内の幾箇所にうちわが備え付けられている。うどんを汗しながら食す客をいつも優しく迎えてくれるのであろう。安らぐ空間である。


腹を充たした後、散歩をきめこむ。車が幾台も走り過ぎる大通りに面してその門はあった。街の喧噪を背に門をくぐると、時空を越えた壮大な光景が僕を圧倒した。



東本願寺。現存する木造建築では最大とも言われるその佇まいは威風堂々、厳しいまなざしを僕に向けていた。
堂内に入ると外の暑さが嘘のような涼しさである。自然と会話する声はひそみ、その静けさに吸い込まれていく。ふと柱に触れてみる。それはひんやりと冷たく、物言わぬままそこに立つ。全てを見、全てを聞き、時間をも飲み込みそこに立ち続ける。二十一世紀という飽和した時代に生きる僕らに、「時」というものの凄味を教えてくれる。だが、しかし−。
東本願寺よ何を思う。幾度かの再建を経、彼はそこに在り続ける。形あるものがいつしか朽ちていく理の中で、与えられた運命とは無関係にこの時代にその姿をさらし続ける。電磁波にまみれ、不自然な暑さに包まれながらも、歴史の代名詞たるべく、今なおそこに在る。
東本願寺よ。歴史よ。君は何を思う。

− 早く死なせてくれ。楽にしてくれ。

遠くでそんな声が聞こえた気がした。

滅んでいく意味。遺すことの意義。西本願寺は現在改修工事中であるという。
「時」を共存させることの功罪。僕はこの数日で何度かそのことについて考えを巡らすこととなる。
京都という街の難解さに早くも触れた気がした。


15:00頃ホテルにチェックインをする。
少しの休憩を取り、再び京都駅へ向かう。今夜は大阪へと足を伸ばすことにしたのだ。


 

− 大阪 −
 
京都駅からJR京都線で大阪駅まで。梅田駅で地下鉄御堂筋線に乗り換えてなんば駅へ。
道頓堀川に戎橋にナンパ小僧に心斎橋筋 − THIS IS 大阪である。





有名なグリコの看板を見据えつつ、橋の真ん中に立ってみる。ここが幾万もの熱気が川に飛び込んでいった場所だと思うと、なにやら微笑ましい。
「元気がいいね。」月並みだがそれがこの街の第一印象だ。飛び交う大阪弁にドハデなネオンもその要因の一つであろうが、何かこう、街の底から染み出てくる熱というものを感じずにはいられない。自然と顔も火照ってしまう。
− 梅田行きの切符買って
ウルフルズの大阪ストラットを口ずさみながら通りを歩く。くいだおれ人形やかに道楽のかに等、名物オブジェが目に飛び込んでくる。思ったよりも街は狭いようだ。その分濃縮された熱が道端にすら生み落とされている。



晩飯はお好み焼きと決めていた。「千房」という、先日TVのバラエティーショーで話題になった店へ向かった。「千房」には鉄板神がいるらしく、その神の考案したというお好み焼きを食してみたかったのだ。



「千房」はすぐに見つかった。晩飯には少し早い時間にのれんをくぐる。
「いらっしゃいませー。ご注文をどうぞー。」
端々に感じられる関西訛も心地よく、元気な若い女店員さんがオーダーを取りに来る。
鉄板神の「黒豚天」と軽いサイズの「ぼちぼち焼」を注文してみた。



うむ、旨し。「黒豚天」は胡椒の効いた刺激のある味。「ぼちぼち焼」はオーソドックスなそれ。いずれも旨いが、僕には「ぼちぼち焼き」のやわらかな食感が好みであった。なにせビールがよくすすむ。旨い証である。暫しここで酔いを楽しんだ。
帰途、たこ焼きを買う。ここにも大阪らしい洒落の効いた一コマがあった。二軒の屋台がまさしく軒を並べているのだが、片や「元祖」で片や「本家」である。そしてその看板には「隣の店とは一切関係ありません」との断り。なんとも憎いではないか。笑みを含みつつ本家の方を食したのだが、たこが大きいのには感激した。




大阪の会社員達と共に終電近くの電車に乗り込む。金曜日の夜ではあったが、思ったほどの混雑はなかった。
ほろ酔いで京都のホテルへと戻りそのまま就寝する。「今」と「昔」を実感し、ちょこモリ紀行第一日目が終了した。


                                             続く 


 

MENU


Copyright (C) 2000-2002 "The"下町ブラザーズ,All rights reserved