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人類と文明の未来

 南西諸島の各地には、毎年遠く海の彼方から神が渡来して、豊穰や幸福をもたらすという「ニライ・カナイ」の伝承や信仰があります。

 ニライ・カナイとは、そうした神がやって来る海の彼方の理想郷を意味するのですが、島の東部に位置する集落では東の彼方であったり、島の西部に位置する集落では西の彼方であったり、更には海底や天空であったりとか、ニライ・カナイの方角は、地域や時代によっても大きく異なります。

 『沖縄大百科事典』(沖縄タイムス社/1983年)によると、ニライ・カナイは「にるや・かなや」「ぎらい・かない」などと発音されることもあり、地域によってはニロー,ニレ一,ニッラなどの方言もあるようです。
 ニライ・カナイに対する人々のイメージは、必ずしも理想郷や幸福の根源としてのみ捉えているわけではなく、ときには悪しきもの、災いなどをもたらすものの住む世界という意味もあったようです。
 『おもろさうし』など祭祀歌謡集の中には、ニライ・カナイが東方の海の彼方にあるという表現も見られますが、各地域の祭祀儀礼の中では、ニライ・カナイの方向は西や南西など、村落の立地に左右されているように思われます。更に、海の彼方という水平的な志向だけでなく、たとえば多良間島において「ニッラ」は地底深きところと認識されているなど、ときには海の底や空の彼方というように、その方位性には広い振幅を持っているようです。

 ポリネシアなど南国の島々の先住民の間では、「いつの日か、祖先が船に宝物をどっさり積んでやって来る」という所謂、cargo cult(積み荷信仰)がしばしば見られます。ニライ・カナイもそれにかなり似た要素もあるのですが、cargo cult が豊穰や幸福だけを運んでくるのに対し、ニライ・カナイは時には飢饉や病気など凶事を運んでくることがあるという点で決定的に違います。例えば、病魔に対して「ニライ・カナイの国へ帰れ」と言うこともあるようです。

 つまり、「ニライ・カナイ」とは、唯の理想郷ではなく、遥か彼方に存在する人間界とは隔絶された「異界」であり、人間界の様々な出来事は、ニライ・カナイからやって来る様々な神々によって引き起こされるという「アニミズム」を土台に、神によってもたらされる豊穰と幸福が続き、飢饉や病魔がやって来ないように、との願いを込めた様々な信仰や神事が地域特異的に分化してきたのではないでしょうか。

 沖縄県立博物館に問合せたところ、ニライ・カナイの研究は、主として、各地域を個別に訪問し、聞き取り調査を行うようなフィールドワークに頼っており、未だ、体系化できていないのが現状とのこと。多くの島嶼からなる沖縄の文化は極めて多様に分化しており、水稲栽培技術の伝来など、様々な謎の解明にも今後更に時間がかかりそうです。与那国の海底遺跡も気になります。

 更に古代に目を転じると、山下町洞人や港川人をはじめ、沖縄諸島からは化石人骨出土遺跡が6カ所知られており、新石器時代のかなり古い時期(約7000年前)にはヒトが一時的にも生活を営んでいたことが判明しており、縄文中期後半から縄文後期にはヒトが環境に適応し、生活が定着していたと考えられています。

 とても興味深いことに、化石人骨や風葬墓人骨の構造解析により、沖縄諸島の中で「古代宮古島人」だけが、頭蓋骨の構造的特徴が異なっていることが、琉球大学医学部・土肥直美助教授のグループの研究から明らかになってきました。民俗学者の間では、宮古島は沖縄諸島の中でも特異な文化を持っていると考えられてきたのですが、自然人類学的にも宮古の特異性が示されたことになります。

 守礼の邦・沖縄は、ますます未知の Miracle World ですね!

98/06/06 by Nobuaki
nobkf@geocities.co.jp

【参考書】

* 「ニライML(nirai-ml)」 過去ログより

「海を渡る神々−死と再生の原郷信仰−」
 (外間守善・著/角川選書306/1999年5月31日初版)

南西諸島固有の文化と捉えられがちな「ニライカナイ」の思想を、アイヌやポリネシアの cargo cult のみならず、クレタ島やエジプトなどにも触れ、世界中の「島嶼(とうしょ)」という自然環境の中で普遍的に見られるものとして、初めて位置づけた点がとても面白い。 また、「竜宮」や「黄泉」との関連についての解説は極めて興味深い。 本書の前身ともいえる 「沖縄の歴史と文化」(外間守善/中公新書/1986年) の中でも紹介されているニライの語義の説明はかなりシャープです。

「ニ(根=中心を表わす名詞)」
「ラ(地理的空間を表わす接尾辞)」
「イ(方を表わす接尾辞)」

よって、「ニライ」とは、「(我々がそこから来たところの)根源のある方」と解釈できそうです。

99/07/06 by Nobuaki
nobkf@geocities.co.jp

【参考 web site】

* 「おきなわ郷土村」
 ニライカナイの拝所など

* 「塩屋湾のウンガミ」(琉球新報)
 国指定重要無形民俗文化財。「ノロ」や「カミンチュ」と呼ぶ村の神女たちの祭祀組織によって伝承されている。ニライカナイの来訪神を迎え、祝福と五穀豊穣を祈願する神遊びを行った後、海に神を送る行事。

* 「沖縄の文学」
 「おもろさうし」などの詳説(京都市立西京商業高等学校)

* 「琉球の人々の生活」
 八重山「アカマタ・クロマタ祭り」、沖縄本島「ウンジャミ祭り」,「シヌグ祭り」など解説

* 「沖縄の民俗学的位置づけ」
 「おもろ概説(外間守善)」「オモロの世界(西郷信綱)」紹介など

* 「頭蓋の非計測形質からみた奄美・沖縄の人びと 」
 日本人類学会・日本民族学会連合大会(1996年)

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