2001年3月18日                     〈毎週日曜日発行〉
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   ┃ 小説を書くときの「核」のようなものを考えなきゃ……  ┃
   ┃     「なぜ、その小説を書きたいのか?」      ┃
   ┃       強い動機――               ┃
   ┃       読者への「ウリ」のようなもの       ┃  
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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 こんにちは。
 上に書いたようなことを考えたんです。

 自分にとって、書き慣れた世界を書くのは面白くないだろう。(いや、それ
でもいいんですが)
 主に純文学のことを言っているんですが……僕は純文学畑でずっと書いてき
て、モチーフやテーマが自分の身近にある問題意識だった。それ、ちょっと反
省したものだから。(#^.^#)

       -------------------------------------------

 読者にとって、自分と同じような作者が同じようなレベルで作った小説って
面白いものだろうか。インパクトがないんじゃないか。

       -------------------------------------------

 こうおもったのは長野まゆみの『夏至南風』(カーチィベイ)を読んだから
です。この本はどろどろの少年愛の物語。

 メル友のYちゃん(こう言っていいとおもう。ごめんね。m(_ _)m 彼女は、
今年、高校を卒業した。おめでとう)が、『夏期休暇』と『夏至南風』を友だ
ちと話していて気になったので買った、って書いてあったから。
「『夏期休暇』のほうは、べつに夏休みを楽しんでいるふうでもなくって……」
「『夏至南風』は意味もなく人が死んで……って、これ、ぜったい意味なくと
おもう……でも、こういうの好きです」って書いてあって。
 興味をひかれたんです。で、読んでみようとおもった。

       -------------------------------------------

 長野まゆみは今まで『少年アリス』(88年文藝賞受賞作)しか読んだことな
かった。

       -------------------------------------------

 『少年アリス』は不思議な小説です。初めて読んだとき、そのシュールな感
覚についていけなかった……
 その粗筋って、こうです。

    蜜蜂(名前です)がアリスを誘いに来る。兄に借りた色鉛筆を
   教室に忘れてきたので取りに行こうというのだ。耳丸(犬です)
   もいっしょに。
    夜の学校。理科室では授業が行われている。覗き見をしていた
   彼らは逃げ出すが、アリスは教師に捕まってしまう。
    図工室で夜空の星の準備をした後、教師に押されて空中に浮か
   ぶことになる。天幕の修理だ。
    修理を終えた少年たちは理科室の戸棚に並べられた卵の殻の中
   に帰る。鳥の子供たちだったのだ。
    無理に教師に卵の中に入れられてしまったアリスは、戻ってき
   た蜜蜂に助けを求めるが――蜜蜂は教師に追い払われてしまう。
    蜜蜂は噴水池のところで白鳥の卵を拾う。
    明くる日、アリスは学校に現れない。蜜蜂は、今夜はどうしても
   探しだそうと決心する。
    夜である。教室ではアリスが人の子であることがわかって……

             以下――略――


 メルヘンですね。
 宮沢賢治的世界を下敷きにした幻想的な世界。

       -------------------------------------------

 長野まゆみの人となりと、作品については――


「長野まゆみ、人と作品」
http://www07.u-page.so-net.ne.jp/tg7/kijibato/allnagano.htm
 に詳しい作品リストがあります。
 それと、すばらしい感想も。

       -------------------------------------------

 長野まゆみの世界は、少年の世界です。
 まだ性という形で分化しない過渡期の無機質な少年という世界。それを幻想
的に描く。

 そこから世界を再構成する。
 そういう世界の見方を知りたい。

       -------------------------------------------

 長野まゆみはずっと漫画家を目指して漫画を描いてきた過去を持っています。

       -------------------------------------------

 ここ30年、萩尾望都のように「少年」を中心とした一連の〈少女〉たちのた
めの物語を作り出してきた少女漫画。

 長野まゆみが圧倒的に10代の女子中・高校生に人気があり、若い女の人たち
に支持されている理由がわかる。

       -------------------------------------------

 性を持たない――つまり、他者とのコミュニケーションにおいて共同する原
理から追放された過渡期の少年たちは、むしろ恋愛という幻想を持たないこと
によって誰からも自我を侵食されない。
 過渡期であることによって危うい自我であることは確かですが。

       -------------------------------------------

 少年を描く長野まゆみの小説は、普通の小説でいう「現実性」を必要とはし
てないんです。
 表現は「少年性」を描くことに特化され、小説的現実には現実社会のルール
とは違う規範が持ち込まれる。
 それこそ少年世界のリアリティだから。

       -------------------------------------------

 擬古的な表記。
 変わった名前。美しく危ういもの。

 これらの人工的に作られた少年世界――鮮やかです。
 それにメタファーの象徴性とその利用。

       -------------------------------------------

 どうなのかな。
 ぼくはまだ図書館から借りてきた『テレヴィジョン・シティ』『賢治先生』
『銀河電燈譜』を読んでない。
 今、読みかけの『サマー・キャンプ』もまだだ。
 ある程度、読み終えたら、長野まゆみ世界への理解が深まるだろう。

 それに長野作品は、幻想的なものばかりではない。
 通常の少年愛的恋愛小説もあるし。
 感覚的なものを描きたいだけで書かれた話もある。

       -------------------------------------------

 ぼくが学びたいのは、そういう幻想的な世界を成立させるための技術だ。
 世界を再構成し、語るときのその距離のとり方というか。
 自分の中にあるリアリティのほうが現実社会のリアリティに勝る。そういう
リアリティを描き出す方法を知りたい。

       -------------------------------------------

『物語の体操』にも書かれてあったように、(P120)「テレビゲームのよう
に小説が作られてしまう」時代がすでに来ているのでしょう。(必ずしも否定
的に捉えるのではなく)

 かって日本文学が、純文学という社会的自我、リアリティにこだわっている
あいだに、新しい現代的リアリティ――「揺らぐ曖昧な自我」という個人の存
在から発するリアリティが、小説の世界を浸食しているということです。
 個人の自我は限りなく分化して。

 そういえば「さあ、ゲームの始まりです」と殺人を軽々と為してしまうリア
リティが現実だともいえる。

 吉本ばななが登場したときに、「漫画が描けないから小説家になった」と言
っていた。そのときにもう現在の状況など予測可能だったといえる。
 平野啓一郎の『日蝕』は限りなくRPGだともいわれています。
『バトルロワイヤル』にいたっては設定そのものがゲームの世界ではないか。
 見渡せば、そういう新しい小説の書かれ方が為されているのです。


       -------------------------------------------

 そして、問題は、自分が「何を書きたいのか」に戻ってきます。
 何が「好き」で、何を「伝えたいのか」

       -------------------------------------------

 また、最近、メルマガが長くなり過ぎだ。で、このへんにします。
 いろいろ考えながら……次号に。また。



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         ……書くときのお薬になる言葉……
:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:**:*:*:
 もちろん私は読んでくれる人の心を何かしらの形で震わすようにと思って小
説を書いているけれど、でも本当は自分のために書いている日記と変わらなく
て、ただ書きたいというエゴなのだと思う。

  (自伝エッセイ)『愛憎のイナズマ』山本文緒――オール讀物3月号から
:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:**:*:*:
……………………………………………………………………………………………
  ☆ミ         ★☆彡     ☆ミ       
            ☆ミ                           ☆ミ
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2001年3月25日                     〈毎週日曜日発行〉
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           長野まゆみ、を読む 2
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   ┃       大胆な設定で世界を構築せよ        ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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 こんにちは。

 前号で「ぼくはまだ図書館から借りてきた『テレヴィジョン・シティ』『賢
治先生』『銀河電燈譜』を読んでない。今、読みかけの『サマー・キャンプ』
もまだだ」って書いたんだけど、『サマー・キャンプ』だけは読みました。
 それで長野まゆみをわかったなんていうつもりはないけれど、教えられるも
のはいっぱいあった。

『賢治先生』と『銀河電燈譜』は読み始めたら早いだろう。どちらも宮沢賢治
の童話の設定を作り直した話なのでわかりやすいだろう。
『テレヴィジョン・シティ』のほうはSF。長野まゆみの世界なんだろうとい
う気がする(これは勘)。時間がかかるだろう。でも読みますよ。

 じつは『永遠の仔』を読んでいた。
 感想――うーん、テレビドラマと同じという印象。テレビドラマのほうが小
説に忠実だったのか……。俳優さんの顔がちらついて困った。
 なぜミステリー仕立てにしたんだろう。そんな疑問がある。
 児童虐待というテーマは純文学的なんだ。それを無理にミステリーの構成に
することでインパクトが弱くなったのではないか。
 こういう感想は必ずしも正解ということではないけれど。
 
       -------------------------------------------

 それで『サマー・キャンプ』です。

 これを読んで、こうおもった。
┌─────┐
│設定する力│――舞台を作り登場人物を動かす――というものがあるのでは
└─────┘         ないか、と考えています。

 それが、物語を物語るということなのだと。

 学んだことはこうです。「大胆に設定を作るべきだ」

       -------------------------------------------

 プロットの飛躍――。
 自分が作った人物の行動を追うことをプロット作りの中心にするのではない。
そういう現実(社会)のリアリティを前提としたプロット作りでなく、話を物
語る者の都合(そういう言い方が許されれば)で、プロットやストーリーを作
っていく――そんな仕方を持った小説というのがあるんだなあとおもった。
『サマー・キャンプ』(文藝春秋社 2000年刊)はそういう小説だ。

 現実離れしたプロット。(もちろん近未来を舞台にしたSFだってことはあ
るけどそれでこう言っているのじゃない)
 現実のリアリティというものをプロットの基礎としないという意味です。

 この小説はSFで(いい意味で)おとぎ話なんだね。でも妙にリアルだ、リ
アリティはある。

 物語を物語る者の視点で登場人物を設定し、舞台を作る。
 その物語る者の視点が前面に出てきている。
     
     たとえば、109Pで MIDORIと会っている。別れた後です
     ぐ辰(トキ)の車が近づいてくる。会話が始まる。そう
     いう展開の仕方。
     これって、わけのわからないまま読者は読まされてしま
     う。もちろん後で、常にトキが温(ハル)を監視してい
     る理由は明らかにされるのだが。

       -------------------------------------------

 こういう強引な展開、構成。
 これって意外と心地よいものです。

 この世には、様々な読者がいて、それぞれが小説を読むことで自分の欲求に
あったものを受け取りたいと思っている。おのおのの立場がありそれぞれの状
況がある。(辛い、苦しい、慰められたい。温かい気持ちになりたい。スリル
を味わいたい。娯楽として楽しみたい――)

 だからその欲求に応じて様々な小説が書かれて当然だ。

 すべての読者を満足させるものを書けるはずがない。
 物語を物語る者は、「わかってもらえる読者」に「自分の好きなもの」を書
いて提供する――
「自分の好きなもの」を描くために、大胆に設定し、自分の舞台を作るべきだ。

       -------------------------------------------

『サマー・キャンプ』は、女性アレルギーのハルと、他人の顔を覚えることが
できない(個体を識別できない)ABITASーC1という新人類が存在する、
という設定がなされた世界です。

       -------------------------------------------

 長野まゆみは少年を描くことによって男性的なものを拒否するのですが、同
じように男性との恋愛を描かないで同性愛的世界を描く松浦理英子とは、ちょ
っと違う気がする。(これはふとおもったので)
 松浦理英子は現実のリアリティを描く。作品には、
     『葬儀の日』『ナチュラル・ウーマン』『親指Pの修業時代』
                  (以上、河出文庫)
     『優しい去勢のために』(筑摩文庫)というエッセイもある。

『親指Pの修業時代』はグロテスク・リアリズムで描かれている。
    詳しくは、
  http://member.nifty.ne.jp/lifestudies/library01/oyayubi.htm
        で書評が読めます。

 ふとおもったのは、この男性原理主義社会を拒否するには、同じように幻想
的なものの方向へ行かなければならないのだろう、と感じたからです。
 何かそこに共通のものがあるだろうとおもうのです。

       -------------------------------------------

 で、その大胆な世界は何で保証されているかと――

 それは、「小道具」と「世界設定」だとおもうんですね。
 それと「ビジュアルな表現」です。

┌───────┐
│小道具としては│
└───────┘

○ハルの自転車(バイク)
○ルビのリップ・グロス。あるいはスレンテスのシリンダー。
○手にはめるトルク。
○フィンガー・チップ・マッサージ

┌──────┐
│設定としては│
└──────┘

○女性アレルギー
○ABITASーC1という新人類
○秘密、謎に満ちた家族関係
○トキという男とも女とも寝る両性具有的存在
○ヒワ子という医学に関わる存在
○事件を起こす役割のルビ

     (いちおう挙げてみたけれど見方を変えればまだまだあるはず)

       -------------------------------------------
┌────────────┐
│ビジュアルな表現としては│
└────────────┘
 ルビをふった古典的な言葉遣い。それによって雰囲気を作り出しています。
挙げてみましょう。

 自転車(バイク)・介意(かま)わない人・掴(つか)まらず・綱(リード)
 灰紫色(チャコール)・惚(とぼ)ける・後部座席(リアシート)傍(かた
 わら)・科白(せりふ)・電子音(ブザ)・躰(からだ)
    1〜5ページまででこうです。
    まだまだ、です。こういうビジュアルな表現のオンパレードです。
 洋盃(タンブラー)・卓子(テーブル)・手巾(ハンカチ)・気(アウラ)
 天色(そらいろ)・彼処(あすこ)・鋏(ハサミ)・抽斗(ひきだし)……

 もう止めましょうね。つまり、長野まゆみの世界がこういう表現で支えられ
ているということ。

       -------------------------------------------

 それに服装の描写もすごい。細かくわかるように描いてある。

トキの描写。
┌─────────────────────────────────┐
│いたって無頓着に服を選ぶ男で、趣味の善し悪しも日によって落差が激し│
│い。けさは、濃紺の麻ニットにスモークブルーのボトムだ。学生風に同系│
│色をそろえるのは、いささか単純すぎる。しかしそれを平然と着て、まち│
│がいなく似合っていた。                      │
└─────────────────────────────────┘
MIDORIの描写。
┌─────────────────────────────────┐
│肩をあらわにした茶系のカットソーの下へ、ザクロや芥子(けし)のもよ│
│うをあしらったエスニック風の古着を身につけている。趣味がいいのか悪│
│いのか、よくわからない服装だ。                  │
└─────────────────────────────────┘

 他にも人物が出てきて服装の描写をするところはたくさんあります。それぞ
れが、服装でキャラクターを表せるような描写です。うまい。

       -------------------------------------------

 こういう、設定を保証するものがあって、長野まゆみの世界は強固に作られ
ているのですね。

 最近、メルマガの文章が長くなる傾向にあるので、この辺で。
 以下、次号に続きます。では、また日曜日に。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
           ……元気になる言葉……
:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:**:*:*:
つげさんも読者から石を売っているとか、食うや食わずの貧しい生活をしてい
ると思われているらしい。私もつげさんを個人的に存じあげているわけではな
いが、少なくとも「無能の人」であるはずがない。
「私小説風」な表現で描くと、本当のことだと解釈するらしい。読者は純情な
のだな。

  『義男の青春・別離』つげ義春(新潮文庫)解説――
            近藤ようこ「夢とチボーの彼岸」から
:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:**:*:*:
……………………………………………………………………………………………
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2001年4月1日                     〈毎週日曜日発行〉
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            長野まゆみを読む 3
   ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
   ┃   『サマー・キャンプ』の粗筋を書きだしてみる    ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
----------------------------------------------------------------------
 こんにちは。お会いできて幸せです。
 もう4月になりました。暖かいですね。

 62号の続きです。前号ではどういう舞台を設定するかが世界を作る、という
ことを言いました。『サマー・キャンプ』は、それに意識的です。

       -------------------------------------------

 大体の粗筋を書きましょう。あの設定からプロットの流れが作られ、どうい
う謎がストーリーを形作っていくのかを見ることができるはずです。あの奇妙
な登場人物たちがからみ合うことで。
 登場人物そのものがいちばん重要な設定だとぼくはおもう。
 350枚の作品なので、すごく長くなるけど一度に掲載したほうがいいとおも
う。読んでください。


       -------------------------------------------


1章)
 学期末試験に学校へ行こうとした温(ハル)は自転車がパンクしているのに
気づく。表通りに出たハルにワゴン車が近づいてくる。辰(トキ)が運転して
いる。トキはハルの家に出入りする獣医で美形だから近づく女たちも多い。学
校まで送るトキはハルを口説こうとする。
 下校するハルにABITASーC1の少年が話しかけてくる。個人の顔を覚
えられない症状で、男性のみに発症するが、知能は高い。
 ハルは人同士の愛情を信じていない。そういうハルには申し分のない家族に
囲まれている。ただ、女性アレルギーなのだ。母や姉とは同居していない。


2章)
 生徒たちがたむろする物産センターで、ハルは、一人の少年に話しかけられ
る。サマー・キャンプに行かされるのが嫌なので同居させてくれないか、と言
うのだ。ハル自身が叔母のヒワ子の居候なのだ。突然の停電で蒸し暑くなった
ので、ハルは「シャツを脱げよ」と言う。少年の体には手術跡があった。「ぼ
くは男として変じゃないですか」手にトルクをはめている。意識障害か、とハ
ルはおもう。ルビと名乗った少年との同居を受け入れる。抱きしめてキスをす
る。


3章)
 同居を始めたルビは無口だ。ハルはナイフで脅す。ルビをもて遊ぶがヘテロ
だと信じている自分の部分が思わず反応してしまったので驚く。
 今日もルビは犬のハービイによりそって裸で寝ている。まだ男にも女にもど
ちらにもなれそうな未分化な躰。ハービイの餌を食ったらしい。
 ヒワ子が現れる。ABITASーC1の患者が無精子かどうか、検査をした
と言う。ハルは居候させてもらっている代わりに食事の面倒を見ている。「リ
ゾットをお願い」その間にヒワ子はルビにマッサージを施す。「鏡島家の男に
は宿命的な身体の欠陥がある」女性を妊娠させにくいのだ。「今度、新しい薬
を試してみる?」ハルはヒワ子の薬でかろうじて女性アレルギーを抑えている
のだ。
 ハービイの散歩にルビをつれて出たハルは、エレヴェエタのところで母親の
操江に会う。「ルビは石和(トキ)さんに預かってもらっているのよ。どうし
て連れ出すの? 弟だという意識もないのに」と連れ去る。


4章)
 ハービイの散歩に行ったハルは喉が乾き、ドラッグストアに立ち寄った。財
布がないことに気づく。「いっしょに会計してあげる」ルビだった。「おまえ
が財布をとったんだろう」と詰めよるハルに、ルビは女言葉で話す。なぜ女言
葉を使うんだ。「だって女だからよ」「リップグロスだけはお願い、欲しいの」
ストアに商品を返しに行って戻ってくるとバイクとルビが消えていた。ハービ
イが倒れていた。
 ハルはトキに連絡する。ハービイを診察したトキはツボを刺激されて寝てい
るだけだという。
「ルビはトキの息子なんだろう」ハルはトキをなじる。「おれがそんなヘマを
するとおもうか」「ヒワ子に聞いてみろよ」トキはヒワ子に電話をする。「わ
たしは子供ができない躰なのよ。誤解しないで」とハルは言われる。
「おとなの問題に口を挟むな」トキはハルを叱責する。
 落ち込んだハルにトキが唇を近づけてくる。「やめろよ。おれは……ヘテロ
だ」「おれのは趣味でなくこんな性分に生まれついているんだよ。それがわか
っていて、こういう状況に自分を置いているということは自己責任が生じるん
だよ。呼び出したのはそっちだ」ツボを押さえられたハルは躰が動かなくなる。
トキは「おまえの脳がおれを受け入れている」証拠だと言う。目を瞑れと言わ
れたハルは意識がなくなる。


5章)
 自宅で目を覚ましたハルは躰がだるい。
「どうして自転車を放り出しておくのよ」ヒワ子に言われたハルは愛車を玄関
まで運び込む。後からヒワ子が抱きつく。それは、女性アレルギーのハルにか
まい、敗北感を与えるためだ。「お昼の食べ残ししかないの」「ごめん、今、
起きたところなんだ」「トキが来ていたでしょう、キスマークができてる」と
からかう。
 電話がなる。景(ケイ、姉である)が来るらしい。ヒワ子が部屋を移ってと
言う。ルビが診察に来たのよ、と言う。ルビの性自認は女の子だと聞かされる。
「ルビは男でじゃないか――ヒワ子が女であるように」突然、ひっぱたかれ
る。「あんたは軽く考え過ぎよ。どうせわたしが子供が出来ない躰とうち明け
たことも重大だとは思っていないんでしょう」「鏡島家の女よりはましだと思
っているのでしょう」「そんなアレルギーがなんだっていうのよ」「あんたは
兄との遺伝的なつながりはないのよ」ハルにはショックだった。攻撃されてい
るとしか思えない。「出て……いけ……って言えよ」心臓が波打ち、崩れ落ち
る。トキの混乱ぶりを見て、ヒワ子は態度を和らげる。泣いているハルをヒワ
子は手当てし慰める。「あなたは自覚はないだろうけど2週間前に現れて、私
の留守に納戸に住みついたのよ。ルビはルビで意識が混濁してるし……」ハル
には何を言われているのかわからない。
 インターホンが鳴る。ケイが来た。ルビを連れている。「この子はあんたと
いたいらしいの」ケイはいつもハルに辛辣だ。「あんたはこれから宿命に翻弄
されるのよ」ハルは立ち去るケイを追いかけていく。「宿命って何だよ」「ヒ
ワ子さんから聞きなさいよ。ひとつだけ教えてあげる、パパは鏡島家とは血縁
関係はないの。ドナーの精子と卵子で代理母から生まれたの。それを祖母が生
んだことにして戸籍を出したの」鏡島家の直系は女だけという。「おれも、お
やじと同じだと言いたいのか」「そうよ。でも自棄になったりしないでね。あ
んたの役目、仕事があるんだから」「……仕事」
 部屋に戻ると、ルビはハービイのそばでパズルゲームをしていた。
「あの子、本来は右ききなのよ」「トルクで抑制してるんだろう」「知ってた
の」
 ヒワ子の視線を感じる。「ハルってよくわからないのよね。どんなふうに抱
かれたがっているか。男の意識のねじれは最初に母親の支配を受けることから
始まるのよ。でも、母親に抱かれたことがないハルはどうなのかしら、本能な
んてないの」ヒワ子はハルを絨毯の上にねじ伏せる。酔ったときのヒワ子の腕
力は強い。ハルはあっさり降参する。


6章)
 物産センターで休んでいるとルビが現れる。メロンネクターの代金を払おう
とするが財布がない。「おまえが盗ったのはわかってるんだ。出せよ」「ポケ
ットの中を裏返しにして見せろ」「いいわよ。でも恥をかくのはハルじゃない
かしら」女言葉の時のルビは饒舌だ。ポケットからリップグロスとハンカチと
シリンダーの容器が落ちる。「変わった容器だな」「勝手に触らないで」
 拾得物のアナウンスがある。出向いたハルは財布を受け取る。
「奢って欲しいものがあるんだけど」振り向いたハルにルビはキスをする。
 わかった。ルビが財布を盗み、拾ったものとして届け出たのが真相だ。ハル
はルビの頬を叩く。ルビは泣き出す。窓辺へ駆け寄る。ハルはネクターをルビ
に持っていってやる。「腫れてる……の」ハルはルビの頬に手を当てる。「冷
たくて気持ちがいい」「ねえ、ハルのアウラ(気)は天色なの。でも、ハルは
私に気づいてくれなかった」「ルビのアウラは何色なんだ」「嫌いな人のアウ
ラは見えないのよ」「ルビは自分が嫌いなのか」「こんな自分は私じゃない。
医師(せんせい)や両親がいちいち指図する、右利きなのに直そうとしたり…
…いちばん我慢できないのはトイレやお風呂の入り方まで……でも、医師が正
しいこともわかっている……こんな躰は……いらない……」ハルは泣いて震え
ているルビの背中をさすってやる。「もう一度、してくれる」ハルはキスをす
る。「潮味がする……」ルビはリップグロスを唇にぬる。「ふたりが同じ味が
したら相性がいいってことなの」「もう一度しようか」「子供だましのキスな
ら、もういいの。私、妹じゃない」ルビは怒ったように手摺りを下りて走り出
した。「どこに行くんだ」「トイレよ。ついて来ないで」ルビは女子トイレに
駆けこむ。ハルは、ルビは意識障害だとおもう。
 ルビはトキの家がある駅まで行くという。地下鉄に乗ったルビは急に黙り込
んだ。「ハルに知って欲しかった……私はずっと女の子でいたかったの、でも
それだとハルが気づいてくれない、だから……男の子になろうと思った」「で
も……ハルはあの人のことしか考えないの……可哀そうな子どもだった人のこ
としか……」ハルの手をふりほどいてルビは、改札口を駆けて行ってしまう。

 帰宅すると、ヒワ子は風邪をひいて調子が悪そうだった。今日もドナーの検
査をしていたらしい。
「新しい薬よ。試したら」ハルは通信機で相手を選び出し出かける。


7章)
 以前にMIDORIとどこで逢ったのか思い出せなかった。頭が空っぽで、自分の
容姿にしか興味のない女だ。退屈なキスをした。ハルは深い静けさにとらわれ
ていた。薬の影響か。「帰ろうかな」MIDORIはさっさと帰っていった。ハルは
トキの言っていたフィンガー・チップ・マッサージのことを考えた。
 苛立って道を歩いていると横付する車がある。トキだ。
「仕切り直しならつきあうぜ」「よけいなお世話だ」
「その薬をヒワ子に教えたのはおれだ。今に全身に麻痺が広がる」その言葉通
り、ハルは道に倒れ込んだ。トキはハルを車に乗せる。トキの家に着く。
「まったくおまえは素直な患者だな、医者の思惑通りになるんだからな」「安
心しろ、麻痺する成分なんか含まれてない。暗示にかかっているだけだ」ハル
はずっとトイレに行きたかった。「ほら、これを使え」渡されたのはボールだ。
用を足すと色が変わる。犬の訓練用だ。くやしいが……
 ハルはこのあいだのトキの行動をせめる。「おまえの妄想だ。しっかりしろ。
おれは何もしていない」「家には来たろ」「ハービイを送り届けただけだ、つ
いでにおまえを部屋に運んだ。今日も脱走したハービイを送ったところだ」
「脱走癖のあるのはおふくろの犬のクリイムだよ」「人を非難する前に自分を
疑ってみろ。一匹の犬を二匹のように勘違いしているおまえは始末に悪い」
 なぜ、自分を混乱させるようなことをトキは言うんだとハルはおもう。
「ルビはここにいるんだろう。息子だって認めろ」
「何の話しているんだ」ハルは奥の部屋を調べようとする。「その部屋は、不
在の住人の部屋だ。入るなら覚悟がいる」
 部屋はシンプルだがトキの趣味ではない。「ゲストルームだ」トキは言う。
「ある人間に錯覚を与えてずっとここで暮らしていたかのように思いこますた
めの部屋だ」人は成長の過程で、性自認と躰のあいだで混乱が起こることがあ
る、それを矯正するとトキは言う。
「誰の話をしてるんだ。さっぱりわからない」「躰でわからせてやってもいい
ぜ」トキはハルにまた暗示をかける。ハルは躰が動かなくなる。「このボール
を使って壁の的に当てる訓練をしろ。そうすれば暗示が解ける」トキの家の犬
が的を外れたボールを銜えてハルに渡す。「もっと熱心にやれ」
 トキは自分の生い立ちのことを話す。
 裸になったトキの胸にはルビと同じような縫合跡があった。
 12歳で施設から引き取られたトキはこの部屋に住むことになった。父親は養
父としてトキを引き取った。「それがおまえの祖父だ」
 トキには父親から受け継いだ肉体的宿命があった。「おれはトイレの躾をや
り直すはめになった。嫌だった。自傷した。それを止めさせるために父親は利
き腕にトルクをはめた」「トキが泣く姿なんか想像できない」「誰だって突然
おとなになるわけじゃないぜ……行けよ。もうこの家に来るな」


8章)
 家に帰ったハルはルビを連れたケイの訪問を受ける。「ルビはあんたの近く
にいたいらしいわ」近づきすぎてる。ハルはアレルギーが起こることにおびえ
る。「馬鹿ね。何も起こらないわよ」ケイはハルにキスをする。何も起こらな
い。「ヒワ子さんとも起こらないでしょう。秘密を教えてあげるわ」ケイはハ
ルの部屋へ勝手に入っていく。
「祖父やパパが子供の出来にくい体質だってことは知ってるわよね。鏡島家は
そういう男性を選んで家族の一員にしてきたの」「それにあんたはABITA
SーC1なの。まだらな症状だけどね」ハルは格別ショックも受けなかった。
「鏡島家の直系の人間は性別の判断がつきにくい状態で生まれてくるのよ。た
だ、鏡島家では女として戸籍を届け出るの。どちらの性にも分化しない肉体で
生まれてくる。12歳頃、ホルモンの影響で女性化が始まる、でも卵巣や子宮は
ないわ。下降しない精巣が躰の中にあるの。機能的には男だけれど世間的には
女として通すの。表向きは母系家族だけどほんとうは父系ってわけ。子どもは
ドナーの卵子を受精させ、代理母を利用する、この特異な体質は遺伝するから
永遠にくり返されるってわけ」
 とケイは話す。
「ヒワ子さんはね、私の遺伝上の父親なの。ママはパパの受精卵だと思いこん
でヒワ子さんの子供を産んだのよ。鏡島家の男はママのような女を引きこむた
めの疑似餌ってわけ」「服を脱ぎなさいよ。あんたがどれだけの疑似餌か知っ
ておきたいわ」「ルビを居候だと思っているのはあんただけよ。寝てみたの?」
 ハルはもううんざりだった。扉を蹴って「出て行け」と叫んだ。
「ルビも染色体異常で二次性徴を起こして混乱しているのよ。あんたも極端よ
ね。男の特徴を示し始めた途端、認識できるんだもの。ルビは私たちの弟でず
っと家にいたわ。石和先生のところにいたあんたのほうが突発的にヒワ子さん
の家に押しかけたのよ。性自認は女の子だったルビを一時的に石和先生のとこ
ろに預けたの。それであんたがおかしくなるなんてね」
 喉の渇きを治めようとしたハルはネクターを飲もうとした。だが、タンブラ
ーが床に落ちた。
「薬が効いてきたようね。どう、私の躰が女だと思えるかどうか試してほしい
の」
 そこへヒワ子が現れる。「何をしているの」「心配ないわよ、カルテにある
薬を使っただけだから」ヒワ子の平手打ちがケイに飛んだ。「あんたを後継者
にはしないわよ。患者の情報を治療目的でなしに洩らすことは許されないの」
「私、ハルの親がほんとうは誰か知っているわよ。ヒワ子さんか石和先生のど
ちらが父母かはわからないけれど……石和先生も、もとはルビと同じような躰
だったなんて……」
 ハルを介護したヒワ子はケイをねじ伏せた。
「私のフィンガー・チップ・マッサージの侮らないで」ヒワ子はやすやすとケ
イの服を脱がす。「そんなにハルが好きなの。あきらめなさい。ハルはねこう
いう躰に反応しないの。彼のヘテロって、性表現にじゃないの、同姓のほうが
いいの。性表現が男で生殖器は女。限られた相手しか受け付けないの」


9章)
 ハルは怠さの中で目を覚ました。
 昨夜の奇妙な夢がリアルに蘇った。ケイがハルにのしかかってきて、それが
ヒワ子に入れ替わった。夢である確証がほしかった。

「クリイム、どこなの」庭先で母親の操江の声がする。茂みから現れたのはハ
ービイだ。操江はもう一匹の犬を連れている。トキの家にいた犬だ。ハルは不
安にかられる。
 リビングルームに行くとルビが倒れていた。息遣いがおかしい。父とヒワ子
を呼び出そうとするが手術中だ。トキに連絡を入れる。トキは湾岸の処理施設
にいた。ルビがシリンダーの容器ことを教える。喘息の噴霧器だったのだ。慎
重に吸入させる。
 トキが来た。トキはルビの様子に安堵したようだったが、腕や手に軽い火傷
を負い、服も煤けている。「……なんで」「死にたかったんだよ」
 ヒワ子から電話がある。トキの様子を伝えると「勝手に死になさいと言って
やって……」トキが出ていき、車を発進させた。ハルは助手席に乗りこむ。ト
キはアクセルを踏みこむ。猫を避けようとして車は急停止する。ハルはダッシ
ュボードに顔をぶつけ、血だらけになる。「じっとしてろ」トキが応急手当を
する。
「トキはヒワ子のなんなんだよ」「おれは助手……だった、あの頃、彼女は医
師資格をとり生殖医療の専門医になった。ハルの受精卵も作り出した。おれは
その場にいたんだ」「恋愛感情は」「あったかもしれない」……
 トキは口移しでハルに薬を飲ませる。ハルは眠りこんだ。


10章)
 海浜公園でハルは目を覚ました。通信機が鳴っている。ヒワ子だった。
「病人をほったらかしてどうしたのよ。トキは」「勝手に死ねと言ったのはヒ
ワ子だろ」「あんたのような子どもに言われたら思い直すかとおもったのよ」
ハルの、止めてやれよという言葉に、ヒワ子は「彼を救うのは私じゃない、他
の誰かよ」と言う。「私が学生だった頃、父の指示で女を探りに行ったの。そ
れがトキの母親。女には女の子がいたわ。今のルビにそっくりな……」「ルビ
の父親はトキ……」「望んでそうなったわけじゃないわ、相手の女は酔ってト
キを夫と間違えたの。逃げ出せなかった。パートナーが出かけた後、その寝台
に寝てたから」 相手の女が誰かはハルにわかった。トキが父親のパートナー
だったから。「だいたい、ハルが悪いのよ。あなたの家出が躰に執着をもたな
い人間にこの世と縁を切る口実を与えたのよ」

 タクシーで処理場へ向かった。
 処理された不燃物は白い羽根のようになり、ダクトから噴出する。自然発火
を促すプールが並んでいる。そのひとつの底にトキがいた。降りていって腕を
とると冷たい。日射病にやられている。ハルは消火栓のノズルをトキに向けた。
「死に損ない……」買ってあったボトルの水を飲ませてやる。「人が死ぬのは、
見たくないんだよ」「医者になるやつが何を言ってる……」「おれは決めてな
いぜ」「ヒワ子が決めてる」「なんでヒワ子が」「親って……そういうもんだ
ろう」
 トキは、ヒワ子の精子細胞を培養してハルが生まれたと話す。未受精卵はト
キのを利用した……
「おれが死のうが生きようがおまえには関係ないだろう」ハルは子供の頃、そ
うしていたように膝を抱えて座り込んだ。「なんで……なんで……おれが、責
められるんだ……たしかに子どもで、未熟で……」のろのろと立ち上がったト
キはハルを抱擁した。

 ふたりが見学デッキに登ったとたん、通信機が鳴り出した。ヒワ子だ。トキ
に渡す。トキは普段と変わりない様子で話している。にわかに腹立たしくなっ
たハルはトキを殴ろうとする。だが、地面に引き倒された。トキは唇を重ねて
きた。ハルはとっくに躰の力を抜いていた。
「おれのところに来いよ。ヒワ子が気を利かせてバイクを届けてくれたそうだ」
「おれはヘテロだって言ってるだろう。何度言えば気が済むんだ」
「冗談だよ」
 トキが運転する車は鏡島家のある区へ向かった。家の近くで大型乗用車とす
れ違った。操江が運転している。ややかしこまった服装のケイとルビが後部座
席にいる。それとテリアが一匹。母と子が出かけていく、ありふれた光景。ル
ビが操江に何事が話しかけ、操江も笑顔で答える。ルビの表情や仕草は物産セ
ンターで話しかけてきたときの少年のものだ。
「……これがすべての答えか」「言ってくれよ。……ほんとうは……おれの頭
がおかしいんだろう」
「世の中、正気だと思いこんでいるヤツのほうが怪しいもんだぜ」とトキは言
う。「おまえのその狂いかたは、好きだぜ」
 抱きしめてくるトキの躰は意外なほど心地よくハルを捉えた。懐かしい感触
でもある。
「もう終わりにするだろう」「……なにを」「おまえの、サマー・キャンプだ
よ」車は高層住宅街へ向けて走り始めた。


----------------------------------------------------------------------

 お疲れさまでした。
 このぐちゃぐちゃのプロット――謎に満ちた展開。粗筋を書くだけでも考え
抜かれた世界設定だなとおもう。長くなりましたので、分析は次号に。また。
 そして、やっぱり長くなると読むのが辛いとおもう。メルマガは。で、次号
からはもっと気楽に読めるように書いていきたいと考えています。今回は、し
ようがないのでこれでね。では、また日曜日に。(#^.^#)ニコニコ  

----------------------------------------------------------------------
           ……元気になる言葉……
:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:**:*:*:
この作品は一年前の暮れ、文藝春秋の執筆室で書きはじめた。そしてこの一年
間、清里で、軽井沢で、あるいは自宅や図書館で書きつないだ。これを書く作
業は僕にとって、まさに旅そのものだった。

       ――薄井ゆうじ 「青の時間」ハルキ文庫後書き
:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:*:**:*:*:
……………………………………………………………………………………………
       ★☆彡        ☆。..*.・'
 ☆ミ       
            ☆ミ                           ☆ミ
    SAO  ヾ(^^ )
     我等は皆、片翼だけの天使――
           抱き合わなければ、飛ぶことはできない。
  E-mail: YHY11050@nifty.ne.jp
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 ■バックナンバー、伝言板があります。
  本の感想、自分のホームページの宣伝、こんなことをした、こうおもう、
  何でも書ける場所です。小説についてお話ししましょう。
       http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Himawari/2181/
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2001年4月8日                     〈毎週日曜日発行〉
─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
  ☆彡..*.・'                   ┌──┐
        小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃Memo│64号│
        ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛    └──┘ ★彡.・'
  おもしろい純文学とエンターテイメントの書き方を考える Mail Magazine 
─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─
----------------------------------------------------------------------
   ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓  
   ┃    ・メルマガについて考えて――          ┃
   ┃    ・設定が謎を生み出す              ┃
   ┃    ・魅力ある人間が魅力ある小説世界を作り出す   ┃  
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
----------------------------------------------------------------------
 こんにちは。暖かいですね。関西では桜が満開です。
 一昨日かな、吉野の桜を見に行こうとおもってバイクで走っていったら間違
って高野山へ行ってしまった。「それでもいいや」って金剛峰寺の前を走り抜
ける。門前町なんだ。つづら折りの山道を通って帰ってきた。気分転換になり
ました。
 バイクを持っている人にはいい季節だ。ツーリングにまた行こうとおもって
る。
       -------------------------------------------

 ところで、このあいだから「このメルマガって読みにくいんじゃないかなあ」
って考えていて……前号のように長くなるとね……それでもっと気楽に読める
ものにしたらどうだろう、って考えた。
 週二回発行にして、糸井重里の『ほぼ日刊糸井新聞』のように、(アドレス
はここです――おもしろいです。
     http://www.1101.com/index0.html
 でも、ぼくにはそんなに豊富なコンテンツはないしなあ……週二回発行もき
ついかもしれない)
 まあ、しかたがない。
 このように今まで通り週一回発行で続けていこう。でも、タイトルはちょっ
と変えました。
 だいたいぼくは結論を求めすぎるよ。それで書くことが大げさに構えること
になる。なんか真面目になり過ぎだ。「小説ってなに? どう書けばいいの?」
って考えることはいいけれど。
 でも構えて重くなりすぎるのはよくないね。
 もっと「ふとした疑問」など、素直にそのまま書いていきたい。まとめたり
すること、いらないんだ。それにたいする結論もいらない。正直におもったこ
とを口にする。それで読んでくれている人といっしょに考えていく――そんな
在り方がいい。「ヤマなし、オチなし、意味なし」のやおい――そんなやおい
メルマガ、でいい。(もちろん、毎回のテーマはあるけど……それの結論は無
理に出さなくていいということです)
 答えがわかっている人は教えてくれたらいいし――掲示板に書き込んでくれ
たら。
 メルマガの読者は今1894人です。
 でもね、折りに触れメールをいただける人が3〜4人。掲示板に書き込んで
くれる人が……○○人。
 自然に日記のようにお喋りする感じで書き込んでくれたらいいんだよ。(ち
ょっとそれ、難しいか……面倒臭いってこともあるだろうなあ)
 でもね、そういう自然な感じを望んでいます。誰がリーダーシップをとるこ
ともなく、グループとして群れることもなく、何も目指さない、お互いに励ま
し合う関係というか――ぼくの理想は「君子の交わりは淡きこと水の如し」な
んです。ヽ(^o^)ノ 

       -------------------------------------------

 で、63号の続き、ですね――(^_^; 前書きが長くなりました。

 ぼくは正直『サマー・キャンプ』の設定の作り方に感動したんです。
 世界設定があるから謎が生まれプロットができあがっていく――それにすご
く目が開かれたというか。
「設定そのものが、謎を生み出す」そして自然にストーリーができあがるだろ
う。

       -------------------------------------------

 この小説のテーマは、アイデンティティを探す旅、なのだ――
 難しい言葉で言うと「アイデンティティの不在」をテーマとした小説です。
あるいは、「性の闘い」なのです。または「いかに他人と通じ合うこと」を為
し得るか。(性におけるコミュニケーションといってもいい)

 鏡島家の女の境遇、男の境遇から、そう読みとったんです、ぼくは。そう感
じるように描かれてある。でも、ひとつの小説から何を読みとるか、感じ取る
かはそれぞれの読者の勝手だからいろんな感想を持つ人がいて……当然です。
ぼくと違う感じ方をする人がいてそれでいい。
 ハルが視点人物だから彼の感じる疑問、わからない謎をいっしょになって考
えていくとそんなふうに感じてしまう。
――これ、設定からきている。そういう世界の設定が為されている。

       -------------------------------------------

┌────────────────────┐
│ハルが女性にたいしてアレルギーであること│
└────────────────────┘
 これ、重要な設定。テーマを担っています。
 ハル自身は自分をヘテロだと信じこんでいるのですが――。それが壊されて
いく。3章。ルビにたいして興奮しとまどう。5章。ヒワ子がハルに抱きつい
てもアレルギーが発症しない。8章ではケイがハルにキスをします。そしてな
ぜアレルギーが出ないのか謎を解き明かします。鏡島家の秘密の歴史です。
 そしていつもハルを口説くトキという存在。トキは、「お前は男とのほうが
合っているんだよ」と常に言います。

 女性アレルギーはプロットをすすめる力になってる――これって何だ、って
ことで話は進んでいくわけですね。
 これを作者が作ったことで、異様な、謎に満ちた世界が展開できるわけです。
 何故、女性アレルギーなのかを、答えを知った後でも、読者は納得はするの
ですが(小説世界の整合性)、これが実際に読者や作者が住む現実の世界のリ
アリティとどう関わってくるのかについて、考えることになります。そうした
不思議な感覚が残るんです。「女性と抱き合えない男ってなんだ?」と。「そ
ういう男の子が現実にいたらどうなんだろう」「ジェンダーってなんだろう」
 小説をきっかけにして現実のことを考えることになる。
 それが余韻となって読者の心のなかに残ります。
 そういうものが――テーマの「深さ」なんじゃないだろうか。


 そういえば、主人公の叔母であるヒワ子は、
┌────────────────────────┐
│ハルのアレルギーを治す薬を処方する医者(保護者)│としてあります。
└────────────────────────┘
 このヒワ子の存在も重要でしょう。
 本来、男でありながら女性として生きる存在。
 ケイもそうなのですが、ヒワ子はハルの父親なんですから。ケイは主人公に
秘密を解き明かす役割として小説に現れますが(意外と単純)、ヒワ子は矛盾
した存在です。ハルの出生の秘密にも荷担してるし、保護者であるということ
も言いにくいし……男のジェンダーなんですが女の肉体という複雑な存在。彼
女が医者なのもいい設定です。男と女の結びつきを操作できる。ふとおもった
のですが、この小説世界の神的存在。じゃ、トキはキリストでしょうか。ハル
は――この世界の不調和分子、ユダでしょうか。こんなふうに一方的な妄想を
押しつけてはいけないな。でもそうおもえるほどそれぞれの存在が際立ってい
る――でしょう?
 そんなふうに妄想が広がるのも小説を読む楽しみです。

 それぞれの登場人物を一定のパターン、類型になぞらえるのも、構成を作る
ときのヒントになります。

┌───────────────┐
│ABITASーC1という新人類│は、ハルの混乱した曖昧さをメタファー
└───────────────┘にしたものでしょう。
 これを作ることで、小説世界はリアリティを増しています。そういう新人類
がいる世界って異様でおもしろいとおもいませんか。

       -------------------------------------------

 秘密、謎に満ちた家族関係は、秘密が明らかにされ、「ハルの居場所はどこ
なんだ」ということに徐々に集約されてきます。
 これ、アイデンティティはどこで確保されるかってことですよね。ハルは己
の秘密を明らかにされたことで行く場所がなくなるから、です。


┌────────────┐ ┌──────────────┐
│トキという両性具有的存在│と│ルビという自己の性に悩む存在│
└────────────┘ └──────────────┘
 もおもしろいですね。

 そうなんです。ぼくは小説に描かれた人間にまず感動するんです。この人た
ちがどう生きるかに興味があります。
 それに「魅力ある人間を作り出すことが小説の設定のすべてだ」っておもっ
ているところがある。
 人間がドラマを作り出す。
 矛盾を抱え悩み行動する人間が魅力的だ。そいつらが魅力的な小説世界を作
り出す。
 トキは常に「お前は何者か」とハルに問いかけてきます。その独特のホモ的
嗜好でハルを口説き落とそうとするし。
 ルビはハルにとって自己の分身的な存在であることは確かです。



 登場人物がドラマを作り出しストーリーを動かしていくところで、テーマと
いうものが浮かび上がってくるのじゃないでしょうか?
(読者の好き嫌いはあるにせよドラマに巻き込まれて読んでしまうってことが)


       -------------------------------------------

 ぼくはこの不思議な世界で、ジェンダー[gender](生物学的な性別を示す
セックスに対して、社会的・文化的に形成される性別)のテーマを感じ取りま
した。たぶん作者はこれを言いたかったのだとおもう。

 P71にこうあります。
┌─────────────────────────────────┐
│「躰の機能と、意識は必ずしも一致しないってことさ。おまえは、自分を│
│へテロだと意識している。だが、躰はどうだ。女には近づけもしないのに│
│、男にはあっさり降伏する。それはつまり、おまえの脳は、男を選んでい│
│るってことぢゃないか、」                     │
│「こじつけだ。おれの信頼を裏切るのかよ。辰の私生活がどうあれ、獣医│
│としての腕には敬意をはらってたんだ。……もう二度と尊敬しないからな│
│、」                               │
│「おまえに恨まれるなら、本望だぜ、」               │
└─────────────────────────────────┘

 また、P109では「女の感性」というか「身体論」ですね。また「愛撫する
こと抱き合うことで何が為せるのか」ということではコミュニケーション論で
もあるでしょう。
┌─────────────────────────────────┐
│ 女は、男の身ぶりの模倣しかできないと辰は云う。男が味わう興奮を想│
│像するかたちでしか、興奮をおぼえない。女は想像することによって体験│
│し、そのとおりに脳の化学物質をつくりだす。それが、感性と呼ばれるも│
│のの正体だ。                           │
│ 実態のないものを解き明かそうとすれば、当然あいまいになる。男の興│
│奮や快楽の要素にくらべ、女のそれは個人差が大きいように見える。だが│
│、彼女たちはそもそも、外からの働きかけなど必要としない。感応するよ│
│うに見えても、それは彼女が演技に酔っているだけだ。        │
└─────────────────────────────────┘

 P124ではジェンダーをトキの口を借りて説明しています。
┌─────────────────────────────────┐
│「今のような問題は、人間にも起こる。しかも、生まれた後に脳が発達す│
│る人間の場合、事態はもっと深刻だ。男が、女のようにしか排泄できない│
│としたら、かなり不自由だろう。でも世の中には、男でありながら、男の│
│ようには排泄できない者もいるんだ。」               │
│「……なんで、」                         │
│ ルビの訴えと、微妙に浸透しあう。                │
│「それが、不快だから。意識が胎児のうちに生まれるのか出生後なのか、│
│それすら解決していないのに、生まれたとたんに曖昧さは排除される。根│
│拠もなく、何もかもを乱暴に性別でふりわけようとするんだ。たいていは│
│、性表現に相応しい性別をあたえ、本人も自然になじむか、それを強いら│
│れる。ところが性表現には、さまざまなバリエーションがある。未熟な状│
│態で生まれてくるんだから当然だ。したがって、性自認と性表現の混乱は│
│起こるべくして起こるってわけさ。問題は、そういう子どもにたいする周│
│囲の扱いだ。……たとえば、ここみたいな室をあてがって、右利きを左利│
│きに、あるいはその逆に矯正するような調子で解決しようとする。環境に│
│馴れさえすれば、与えられた条件を受け入れるだろうと考えるんだ。」 │
│「……誰の話をしている……ンだよ。……さっぱり解らない、」    │
│「だから、くどい話だと云ったろう。お希みなら、躰を使って、もっとよ│
│く解らせてやってもいいぜ、」                   │
└─────────────────────────────────┘
 これらの文章の中に作者の思想をぼくは読みとったんです。


       -------------------------------------------

 それに伏線がうまく使われています。たくさん伏線になっているものがある
のですが(ドックフードなど)重要な意味を持っているのは、

1)トルク
 は2章でハルが初めてルビに会うシーンに出てくるし、5章でもヒワ子が話
 すし、7章のトキの告白にも出てくる。この神経を抑制する道具。

2)フィンガー・チップ・マッサージは「愛撫すること」が「相手の肉体的な
  自由を奪ってしまう」という二重の複雑な意味を持ったものとして登場し
  ていますね。3章。8章。


 これらのトルクやマッサージなどの小道具があることで抑制と解放というキ
ーワードが小説の全編にまき散らされ、(ハルのが大事にしているバイクもそ
うです)小説世界をより深めているのじゃないでしょうか。



       -------------------------------------------

『サマー・キャンプ』はぼくには魅力的な小説でした。小説世界の設定の重要
さを教えてくれたからです。他の長野まゆみの小説はあまりのめり込むことも
なかったけれど。

 またご意見を聞かせてくださったら幸いです。

 今、メルマガに書くことを考えているのは、
1 (心理学の本を読んで)人物像と仕草の関わりを書く。
2 小説の構成をするときに、みんなどうしているんだろうということ。
  シナリオを書くようにまず書いているのかな……そして詳しく描写を加え
  ていく書き方で? このへんを考えてみたいとおもうこと。
3 視点(描写の視線です)のこと。これを考えたい。

       -------------------------------------------

 あと、ぼくはなかなか集中できない。書く意欲はあっても先延ばしにしてし
まう。「もっと集中力を高めるにはどうすればいいんだろう」という問題意識
を持っているんです。(まあ、そんなことは初心者の問題と言ってしまえばそ
うなんですけれど)怠け者ですね。(^_^; 
 では、また日曜日に。

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2001年4月15日                   〈毎週水・日曜日発行〉
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 こんにちは。
 全面的にリニューアルしようと決めました。これからは気負わずに書いて週
2回発行にします。カードのように一号一項目。さてできるかどうか、挑戦。
 だいたい役に立つことを書かなくちゃと考えて理論的、説得的な文章を作る
ことに頭を悩ませていたのでそれをやめます。もっとエッセイ的に。普段ふと
おもったこと、そんなところから「小説、こう書けばいいじゃないか」という
方向へ書けたらいいとおもうので。(読んでくれる人、減るかなあ)でもいい
よね、ここに小説を書きたい一人の男がいるっていうことを読み取ってもらえ
ば、何か伝えあうものがあるとおもうんだ。
 で、「君子の交わりは淡きこと水の如し」なんだけど、お話しできるのを楽
しみにしています。

 今日おもったこと。

   ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
   ┃       キーワード的表現を作ろう         ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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 前号で、長野まゆみの思想、「ここで出てるんじゃないか」というところ引
用しました。P71、P109、P124です。こうおもえるところ、いっぱいあるん
です。
 たぶん小説家が小説家である以上、自分のテーマを追求していったらそれが
表現になって出てくる――ということだとおもう。
「こういうことを訴えたいんだ、読者に伝えたい」ってこと、書かずにいられ
ない。それが小説を書く者の密かに目指していたところだから。

       -------------------------------------------

 読者はそれをキーワードとして、また、印象に残るシーンとして受け取る。

       -------------------------------------------

 小説を読むときに、読者は「この小説で作者は言いたいことは何だろう?」
って考えて読んでない?
 それにうまくはまると、キーワード的な文章が出てきたときに感動する。作
者がしかけた世界にはまるわけです。

 それってそんなに難しいことではないとおもうんだ。
 作者が自分の世界をしっかり持っていると、読者はそれにのせられるのだか
ら。

 このベストセラーの村上春樹の物語――「ノルウェイの森」(講談社文庫)
のP10。
┌─────────────────────────────────┐
│しかしその風景の中には人の姿は見えない。誰もいない。直子もいないし│
│、僕もいない。我々はいったいどこに消えてしまったんだろう、と僕は思│
│う。どうしてこんなことが起りうるんだろう、と。あれほど大事そうに見│
│えたものは、彼女やそのときの僕や僕の世界は、みんなどこに行ってしま│
│ったんだろう、と。そう、僕には直子の顔を今すぐ思いだすことさえでき│
│ないのだ。僕が手にしているのは人影のない背景だけなのだ。     │
└─────────────────────────────────┘
 ここで、最初にこの物語がどこの次元から語られているのか、作者はどうお
もっているのか、が読者に知らされているわけです。それがあるから安心して
身を委ねていける。
 村上春樹はそれまでも「失ったもの」「二度と帰ってこないもの」をテーマ
として小説を書いてきたし、それが彼の思想でもある(とぼくはおもうんです
が)。

 そして、最後のシーンへ――
┌─────────────────────────────────┐
│ 僕は受話器を持ったまま顔を上げ、電話ボックスのまわりをぐるりと見│
│まわしてみた。僕は今どこにいるのだ? でもそこがどこなのか僕にはわ│
│からなかった。見当もつかなかった。いったいここはどこなんだ? 僕の│
│目にうつるのはいずこへともなく歩きすぎていく無数の人々の姿だけだっ│
│た。僕はどこでもない場所のまん中から緑を呼びつづけていた。    │
└─────────────────────────────────┘
と、決着していくわけです。

       -------------------------------------------

 この印象に残るシーンとか、キーワードになる文章、言葉とかは、べつに純
文学でなくても、小説なら必ずあるはずです。
 それが見つからないとうことは読者にとってあまり興味を持てる小説じゃな
かったということなのかもしれない。作者がそこまで自分の世界を深めて書い
ていなかったと――いうことかも。

       -------------------------------------------

 探偵小説。
 みんなは知っているとおもうけど、R・チャンドラーが作り出したフィリッ
プ・マーロウが言う「しっかりしていなければ生きてゆけない。優しくなれな
かったら生きている資格がない」というフレーズはあまりに有名。(ぼく、読
んでないからちゃんとしたこと言えない。(^_^; また読みます)
 チャンドラーについてはここで詳しい。
         http://www1.neweb.ne.jp/wa/phil/

       -------------------------------------------

 それで、それで、こんなことを書くのはどうかともおもうんだけれども……
 SM小説の名作「O嬢の物語」ポーリーヌ・レアージュ作(河出文庫・角川
文庫・講談社文庫……こんなに文庫になっているなんて知らなかった)
 で、訳は澁澤龍彦のを持っているんだけれど……これを書いた作者は優秀な
編集者だそうです。ずいぶんと誰が書いたか秘密だったんだけどね、女の人ら
しい。
 全体をマゾヒズムの思想が貫いていて、読み応えがあります。

 もちろん最終的には性癖の問題なんだけれど、人間を考えるときにそういう
のを無視できないんだ。人間の存在って何か――を深く考えさせられます。ぼ
くはポルノとして読むけど(それも間違いじゃない)

 なぜこんなにも名作になったのか、ということを考えてみれば、それまでこ
んなに真剣に真っ正直に正面から書いた作品はなかったということなんだろう。

       -------------------------------------------

 どんな小説も深い世界に至る窓口としてあるということなんだとおもう。



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 このメルマガを読んでいただいている MASARU さんが(最近伝言板でもおな
じみ)ぶんりき文庫から作品を出版されました。ぼくは読んだけどさわやかな
青春小説です。で、宣伝しますね。
    タイトルは『欠けた季節』
    詳しい説明は http://www3.ocn.ne.jp/~masaru1/
                        にあります。

 大きな書店には置いています。在庫がなく取り寄せる場合は、
   出版社:彩図社(さいずしゃ)
   ISBN:4-88392-147-6 C0193
   書名:欠けた季節
   著者:MASARU(まさる)
   定価:540円(税別)          だそう。

   ★インターネットでも申し込めます。
    http://www.saiz.co.jp/search/index.html

 仲間から作家が出るのはいいことですね。拍手!

 では、今度は18日に。

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2001年4月18日                   〈毎週水・日曜日発行〉
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   ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
   ┃       印象と描写で風景描写を創る        ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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 こんにちは。
 もともと怠け者でいつも問題を先送りにする性格なんで、小説を書こうとす
ると――まず How To から入ってしまう。どう書けばいいのか――ばかりを考
えてしまうんです。それが解決しないことには小説を書き始めることができな
い……なんなんでしょうね、こんな性格。(_ _)

「How To」本が好きなのは性分だからしかたないとしてもね。
「おい、おい、いいかげん、書かなきゃ始まらないぞ!」って内心の声、聞こ
えてきます。もう、反省ばかり。

 でも、おかげで、メルマガを発行できてる、か……(^o^)
 書き始めることですよね。(うん、そうだ、がんばろう!)

       -------------------------------------------
 
 でも、その前に、もう一度初めから見直してみようとおもって……
                 (あらら、ふにゃ〜、です(^o^; )

「描写」のことです。(これ、しばらくメルマガのテーマになるかなあ)
……いつか「描写するなかで自分を解放し」遊びたい、とおもうんです。

       -------------------------------------------

 で、くり返しますが(おなじみ)小説の部品は、会話と描写と説明です。
 基本的に小説は描写で作られます。だから描写のことを考えるのは大切なこ
と。もちろん、説明だって難しいですが――これ、また、メルマガのテーマに。


 これまでのメルマガ、47号〜49号で、描写のことを考えているわけですが、
概括的で、基本としてはこれでいいんだけれど、よくわかるとはいい難い。の
で、具体的な例を出していって考えてみようとおもうのです。


 描写には、
1 風景描写(48号のテーマ)
2 人物描写(49号のテーマ)
3 心理描写(47号のテーマ)
4 行動描写(51号のテーマに近いかな……)     があります。

 これらを、描写ということで、一緒くたに考えるからわかりにくいんですね。
 それぞれ描写だけれどみんな違う。

       -------------------------------------------

 人物に関してはじょじょに読者にわかってもらうしかないでしょう。
 服装はすぐ描写できるけど(性格があらわれるのでこれがいちばん)
     (「性格について」は、またテーマにして書きます)

 心理については、自由間接話法で書くのがいい。

 行動描写については、映像が目に浮かぶように描写する、というのが基本。

       -------------------------------------------

 で、風景描写においては――

 視線の移動は、
        大→小へ
        遠→近へ
              というのが法則でしょう。

48号でこう書いています。
┌─────────────────────────────────┐
│┌────────┐                       │
││視線の動きが大事│です。                    │
│└────────┘                       │
│それが独立した物としてある風景に動きを作り出すのです。      │
│                                 │
│ まず、全体を見る。その総体的な印象を描写する。そして、視点を絞っ│
│ていく。……                           │
│                                 │
│ ぼくらが印象的な風景を見た場合にどうだったか、考えてください。 │
│ まず「美しい」とか「すげえな」とかの感想が先に来るでしょう。……│
│頭のなかで総括した印象、感想がまず浮かび上がってくる。      │
│ そういうものなんですね、人間は。                │
│ そういう人間の生理に合っているんです。まず、全体の印象を前に置く│
│のは。                              │
│                                 │
│ 総体的な印象から徐々に複雑な集中した描写へと移る。       │
│   --------------------------------------------------     │
│                                 │
│ 人間の五感ですね。                       │
│ その具体的な感覚を描写のなかに入れると風景は際立ちます。    │
└─────────────────────────────────┘

       -------------------------------------------

「作文に強くなる」馬場博治著(岩波ジュニア新書)という本を読んだのです
が、そこのP181に、“印象文と描写文”というのがあるんです。
 印象文は「感じ」を中心に書く。感じたことを書く。
 描写文はものそのものを詳しく写生していく。

 作者は「あるところは描写し、あるところは印象をというふうに、二つは混
ざりあいながら文がつくられていきます。いい文章はそのバランスがよくとれ
ているものです」と、言います。
 ものを描写しながら、自分の感じたことを挿入していくんです。

 では、引用を。――長野まゆみ
(あいかわらず(^o^; でもぼくは「サマー・キャンプ」に感動したので……)

       -------------------------------------------

 ハルがハービイを散歩に連れて行く場面です。
┌─────────────────────────────────┐
│ 川べりの緑地帯を上流へ一キロほどさかのぼって橋を渡り、対岸の小径│
│を抜けて出発点へ戻る。そのコースを周回するのが、ハービイの日課だ。│
│温はレイクブルーの愛車を快調に飛ばして、ところどころ緩い起伏をなす│
│緑地帯を走った。小径の幅は広く、人も犬も、自転車も通り抜けできる。│
│ほどよく茂ったユリノキや鈴懸が、酷暑に弱い犬種の運動にはちょうどい│
│い木蔭となった。                         │
│ 河口に近いこのあたりの川幅はひろく、附近には高層の住宅群が林立す│
│る。対岸には、区画ごとにプラントやジオデシックドームなどの建造物が│
│見えた。突堤にならぶ風力発竜のプロペラは、海風を受けていっせいに回│
│っている。                            │
└─────────────────────────────────┘

 P121でのトキのマンションの謎の室の様子。
┌─────────────────────────────────┐
│ 壁紙と窓掛けは、それぞれ柔らかな乳白の濃淡で揃えてある。寝台と机│
│、読書用と思われるソファ、それに戸棚を配置しただけの簡素な室だ。そ│
│のぶん、敷物やクッションの布使いには凝っている。独り用の寝台には古│
│めかしい香色の布をかぶせてあった。柄にそって綿を詰めた二重織りで、│
│水仙をかたどったもようが膨らんで見えた。クッションはフラノや別珍ま│
│たは繻子などの布に包まれ、フリンジや襞づかいも濃やかに、それぞれふ│
│さわしい場処に置いてある。                    │
│ 机上や書棚には、紳士向けのカタログ雑誌じみた小道具が目立った。稀│
│少種を蒐めた甲虫類の標本や、精緻な細工の置き時計、復刻デザインの天│
│眼鏡。模型の部品や釣り針などもある。そのほか読みさしの本や、使いか│
│けの洋墨、屑籠の反故紙。机の上の、やや乱雑におかれた書類、真鍮の文│
│鎮の照り、腕時計の硝子蓋……。                  │
│ それらを辰の父の遺品だと判断するのは容易かったが、あまりにも淡泊│
│な気配が、温を怪しませた。故人の愛用品には、万年筆のペン先の摩耗に│
│見るような持ち主の癖が自然にあらわれる。だが、この室の道具には何も│
│刻まれていない。古めかしくはあっても、特定の誰かの存在の徴がなかっ│
│た。綿密に作りあげた舞台装置のようなのだ。            │
└─────────────────────────────────┘

       -------------------------------------------

 具体的な描写のなかに、印象、感想、説明が入り、緊張感がある。メリハリ
がきいているとおもう。

       -------------------------------------------

「伝えたいこと」が伝わっているんです。
 要するに文章には「書きたいこと」がある。その目的があって、そのために
文章は奉仕する。そのための描写です。

 まあ、そう杓子定規に考えなくても、川べりの風景の開放感と近未来の感じ、
謎の部屋の不気味さ、を書きたかった、でもいい。

       -------------------------------------------

 ところで、描写っていうのはすぐれて「視線」のことだとおもうのです。
 映像として具体的に描写する、イメージを作るというのは。

 視線について考えるのは次号に。

 では、また日曜日に。

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   ┃         イメージを固める          ┃   
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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 三寒四温の春――今日、大阪は雨。肌寒いです。暖かかったり寒かったり、
春はこんなものですよね。風邪をひいたりしないよう気をつけて。
 しばらくお酒を飲み過ぎて壊れておりました。(-_-)☆\(^○^) 飲み過ぎ
ると鬱になる……だめですねえー。

       -------------------------------------------

 小説を書く、創るっていうことは、職人さんがこつこつと仕事をするような
もの。言葉の職人さん、だ。そうおもう。

 小説を書くのは一人ででしかできない。どう書けばいいのか考えるのは苦し
い。けれど一人ででもできるから魅力があるともいえる。
 その技術、工夫はそれぞれ違うだろうけど、このメルマガではぼくなりにそ
れを追求していきます。

       -------------------------------------------

 いつも物語を空想しそれが自分の中にある人は、書き始めたら簡単に魅力的
な作品を生むことが出来るんだろう。

       -------------------------------------------

 20歳代の若いうちに小説を書いてデビューできる人、はそういうコツを掴ん
だ人なんだ。ちょっとうらやましい。
 それで……平野啓一郎の紹介サイトのURL書いておきますね。

☆『日蝕について』 http://fukuoka.cool.ne.jp/koto_fish/dic/dic.shtml
 『一月物語』   http://page.freett.com/flower17/index.htm

 そういえば中年になってから小説を書いて小説家になった人もいる……思い
出した!『氷点』を書いた三浦綾子です。そのURL。

  ☆『ハートのしみ』 http://homepage1.nifty.com/hamashon/index.htm

 だから若いから中年だからじゃないですね。
 特に三浦綾子は小説を書いてみようと思い立って、ただ一冊、小説作法の本
を読んで、書いた。それが朝日新聞社の一千万円懸賞小説に入選したのです。
 一冊しか読まなかったんだ。それだけで入選するなんて……すごいことです。
 彼女の持っていた想いと書く技術がストレートに結びついたからでしょう。

「どう書けばいいのか」はそれぞれがおもうところです。

       -------------------------------------------

「小説、みんなどう書いてるの? どう考えてるの?」っていうのは、知って
るとはおもうけれど、『作家でごはん!』
         http://www2u.biglobe.ne.jp/~hfk/
         の「創作意見室」などで活発にたたかわされてるいます。

 それにYAHOO!→「文学」→掲示板
     http://messages.yahoo.co.jp/yahoo/Arts/Literature/index.html
                   でも。

 そういうのも参考にしながら、ぼくなりの「技術」をこのメルマガで書いて
いきたい……

       -------------------------------------------

 前号で描写する時に「印象」と「ものの描写」で書くんだ、ってことを言い
ました。

 自分が頭の中で考えた、浮かんだイメージを言葉に直すなんてたいへんなこ
とです。読者にそのイメージを伝えたいんだから。
 そのために「細部まで想像しておかなければならない」のはもちろんですが、
いくら細かいことを詳しく描いたからといって、伝わるとは限らないのです。

┌──────────────┐
│まず全体の印象を大まかに掴む│
└──────────────┘
 何かというと――「白い」とか「暗い」とかです。
 つまりそのイメージが表す雰囲気、ムードを決めてしまう。
 全体の印象を「こうしよう」と決めるのです。
                ┌─────────┐
 何故だというと、それがあなたが│読者に伝えたいこと│だからです。
                └─────────┘
 悪人を描くなら悪いイメージで固める。
 瞳なら――純真な黒い瞳もあれば、底意地が悪そうに光る瞳もある。
 どんなふうにでも、その見方によって、描けるはずです。

 人は初めての人に会った時、第一印象の15秒で「こいつはこんなやつ」と決
めるそうです。
 先入観で持っているイメージというのがあるんですね。
 それを当てはめる。

 描写もそうなんです。
 相手の悪いところを探せば、悪人は描ける。


       -------------------------------------------

 上は、人物描写についてですが、風景描写についてもそういえます。
 風景の見え方は登場人物の心理が反映します。
 白い――純粋さ、すがすがしさ、生き生きした、開放感……
 暗い――恐怖、不気味、不安、孤独……

 そういうふうに言葉についてくるイメージがあるんです。
 ですから「白い」ものを集中して描くようにする。「暗い」ものを集中して
描くようにする。そうすればその言葉から喚起されるイメージで覆われる。

 ものを描くって、そういうことなんだとおもうんです。
 闇、を描くなら、闇をイメージするものを思い浮かべてください。影になっ
ているビル。路上の人影。暗いマンホールの穴。黒雲に覆われた空。
 (ちょっと貧弱なイメージですみません<(_ _)>)

       -------------------------------------------

 最初に頭に浮かんだイメージがありますね、それが何を意味しているのかを
徹底的に考えましょう。
 そして、描き出す「もの」のそのすべてのイメージが、最初に掴んだ意味に
向かって焦点を合わせていくようにする。

 そのイメージに集中していくように、ものを作り出していく。具体的に。
 読者の受ける印象が単一な印象になるようにイメージを作り出していく。


 物語る時に「ここでこれを伝えたい」というのがありますよね。その場面、
その人物、そのプロット上で伝えたいこと。
 じつは、難しく考えることはないとおもうんです……「ここでこう展開させ
るんだから、こんな印象を読者に持って欲しい」っていうことだとおもうんで
す。
 あれもこれもと描きすぎてぼやけた印象にならないようにしよう、というこ
となんです。


       -------------------------------------------

 ここまでは「もの」の描写について考えました。
 さて、じっさいに作者が描写するには、どの角度から見るか――具体的な
「場所」で視点(話者の目ん玉)がどこにあるかわかっていなければ、描写で
きないでしょう。
 それを次号に考えたいとおもいます。

 引用もなかったので、わかりにくかったのではという反省があるので今度は
もう少し具体的に書きます。では、また25日に。

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2001年4月25日                   〈毎週水・日曜日発行〉
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   ┃     どこから、どの角度で描写するのか       ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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 二日酔いで頭が痛くって……うまく書けるかどうか――って、泣きを入れた
ところで視点の話。
 どこから、どんな角度で見てるか、がないと描写できないでしょう。
         ┌──────────┐
         │「目ん玉」が存在する│
         └──────────┘

 そこから見えるものを描くのだ。それが描写。

       -------------------------------------------
1)
 一人称は簡単でしょう。
「ぼく」や「私」が視点人物でぼくの目が見たものを描く。「ぼく」や「私」
がそのシーンの中でどの位置にいるかはわかる。
 歩いていても、会話していても、机の前に座っていても、電車に乗っていて
も、自分の存在がある限り、どの位置から見ているのかは明解です。

2)
 問題は三人称です。
 話者は人間じゃないので物理的存在を持ちません。それにこいつは自由に行
動できる。登場人物の心の中に入り込んだり、外から見たりする。
 一人の登場人物に憑依して「思うこと」を語ったり、それぞれの登場人物を
外から描いたりする。
 心理にも風景にも立ち会う。客観的な話し手、立会人。幽霊みたいな存在と
いおうか。

       -------------------------------------------

1)
 正確にいうと、一人称には「神の視点」と「主人公」の視点があります。

「主人公の視点」はドラマに巻き込まれた「ぼく」や「私」が事件の経過を語
り描くもの。これは立場がはっきりしているので語りやすい。

「神=作者の視点」
 はすべてを知っている作者が自由にドラマを語る。登場人物のこいつがこの
場所でこんな気持ちでこんなことをした、ってすべて知っているのです。だか
ら語れる。ドラマがどうなっていくかもすべてお見通し。
 ただ、「作者の視点」は作者が登場人物ではないので、姿がない者が語ると
いうことで、三人称の視点に似ています。それで混同されやすいけれど、違い
は、作者がドラマ世界を創っている責任があるということ。すべてを知り、す
べてを語らなければならないということ。
 欠点は、登場人物がしばしば作者の操り人形になり、読者からそう思われや
すいということかなー。それとドラマ世界の魅力が作者が作り出す力量と等価
なこと。

2)
 三人称の話者は自由です。客観的無人格のこの幽霊的話者は、あるシーンで
は視点人物の視点によりそい、ある時は離れ、ドラマに自由に参加します。
 客観的にシビアなところから事件を見れる、それが利点でしょう。
 人間が卑小化し、部品化された今の現実世界では、神の視点のように合理的
に世界を理解し表現することができません。
 三人称の話者は、神の視点から生まれ、より自由に発展させたものだといえ
るんだ、とおもうんです。

       -------------------------------------------

 人称については理解するのが面倒でややこしい。それにそんな知識的なこと
ばかりを探求してもね。(^o^; 
 ですから「話者と視点を考える」41号42号を参照してください。


       -------------------------------------------

 描写について考えてるんだった、ですね。
 目ん玉はカメラとみなせます。
        ┌──────────┐
 要するに描写は│カメラワークなんです│
        └──────────┘
 象徴的な心理描写もあるけれど、大概は映像的、具体的描写です。
 読者を映画を観ているような気にさせる、のが描写の基本でしょう。

 映像で捉えることができる、
           風景描写
           人物描写
           行動描写  はこれで書けるはずです。

       -------------------------------------------



 映像的な描写のあいだに登場人物の感覚や心理を挟んでいってドラマにテン
ポとメリハリをつけていく。


       -------------------------------------------

「サマー・キャンプ」から引用した文章を分析してみよう。

┌─────────────────────────────────┐
│1)川べりの緑地帯を上流へ一キロほどさかのぼって橋を渡り、対岸の小│
│  径を抜けて出発点へ戻る。そのコースを周回するのが、ハービイの日│
│  課だ。                            │
│2)温はレイクブルーの愛車を快調に飛ばして、ところどころ緩い起伏を│
│  なす緑地帯を走った。                     │
│3)小径の幅は広く、人も犬も、自転車も通り抜けできる。      │
│4)ほどよく茂ったユリノキや鈴懸が、酷暑に弱い犬種の運動にはちょう│
│  どいい木蔭となった。                     │
│5)河口に近いこのあたりの川幅はひろく、附近には高層の住宅群が林立│
│  する。                            │
│6)対岸には、区画ごとにプラントやジオデシックドームなどの建造物が│
│  見えた。                           │
│7)突堤にならぶ風力発竜のプロペラは、海風を受けていっせいに回って│
│  いる。                            │
└─────────────────────────────────┘

1) これは日課を説明している文章。前半は具体的に書いてある。読者の頭
   の中で絵が描けます。その具体性がいい。説明もこのように具体的に。

2) カメラは、愛車にで飛ばしている温をそんなに近くからではなく、たぶ
   ん横から捉えている。

3) ここではカメラは温の目と重なっているようにみえます。読者の実感と
   して温といっしょによりそって走っているようです。

4) カメラは斜め上を向きます。木の影、涼しさ、五感も動員されそうです。
   それに心理的な想いも(ちょうどいい木陰)述べられて。

5) カメラは目を転じます。辺りを見渡します。遠くを見ます。高層住宅が
   目に入ります。

6) カメラはずっと遠くを見ます。対岸です。

7) その対岸の突堤でしょうか? あるいは自分が進んでいく方向の……遠
   くにある風景です。(いっせいに回っている)ことで風があることがわ
   かります。五感です。


 やはり、描写がいいですね。五感を繰り出した感覚的な描写。カメラは自然
に無理なく動きながら温の目ともなって(3から以降はカメラの視点と温の視
線とが混じり溶け合ったような)体験できるんですね。

 こういうスムーズで自然な動きのある描写。
 カメラが次々にフォーカスを当てていく。登場人物の横からせまり、また登
場人物の目と同化して視線を移動してゆく。
 五感を利用した感覚的な表現をしていくことで、その描写のあいだに登場人
物心の理的なものが紛れ込んでくる。登場人物の心理を伺うことができる。

       -------------------------------------------


 描写はカメラワークだとおもう。

 ちょっと長くなったので、風景描写や人物描写や行動描写を、カメラワーク
の観点から考察するのは次号に。いろいろ引用していきたいとおもう。
 では29日に、また。

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2001年4月29日                   〈毎週水・日曜日発行〉
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   ┃        カメラワークで描写する         ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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 5号でこう書きました。
          ★     ★     ★

「映画のようにシーンを並べていくだけで小説はできる」
 これは小説作りの絶対的な秘訣。――自分の作り出そうとする世界を、映画
のように観ている、観客の一人だと自分を仮定して、小説を書く。そのシーン
(場面)を捕まえ描写する。

「映像のように書け」とは、三田誠広のアドバイスです。
 そのシーンでは主人公は孤独で、状況は絶望的のように見える。それを「彼
は孤独で絶望的な気分だった」などと言葉で説明してはだめ。それを映像で捉
える。五感(匂い、音、感触、肌触り)を総動員して描く。

       -------------------------------------------      

「風景、風物、人の行動、できごとなどを、しっかりとみて、的確に表現する
ことである。小説は、ある意味では、文章の力をかりて、映画のように、イメ
ージ(映像)づくりをしてゆく芸術なので、カメラと似た、対象への把握が必
要でもある。もっとも、小説の場合は、心理描写という特殊な方法もあるので、
その点では有利であるけれども」
                「小説の書き方」(講談社) 伊藤桂一

       -------------------------------------------

 小説の作り方はこれに尽きるはず。映像で捉えられる「描写」はこれに尽き
ます。

 ただ、小説のおもしろさは後で言うように優れて「語り」のおもしろさ、で
もありますね。語りのことも考えてみたい。



       -------------------------------------------
┌─────────────────────────────────┐
│ 抜けるような青空だ。                      │
│ 上空は雲一つなく澄みわたり、刺すような日差しが地上に降り注いでい│
│る。                               │
│ ブロックを積み重ねただけで造られた小さな家の前に洗濯物が干してあ│
│る。紐にぶら下げられた数枚の白いシャツが、強い風にばたばたと音を立│
│ててはためいている。                       │
│ その洗濯物の下では、壊れた水道管から水が吹き出している。霧状に吹│
│き出した水は、小さな虹を架けながら落下し、乾ききった地面にじわじわ│
│と黒い染みを広げている。                     │
│ その染みの先に、女がうつ伏せに倒れている。           │
│ 女は右腕を壊れた水道管の方に差し伸べるような格好で死んでいる。後│
│頭部はばっくりと割れ、そこから流れ出た血は、女の頭の回りに血溜まり│
│を作っている。羽音をたてて、ハエが女の頭に群がる。        │
│ 女の横には、一歳になるかならないかの赤ん坊が手足をひきつらせた格│
│好で、目と口を大きく開けたまま仰向けに横たわっている。 近くに、い│
│くつもの死体が転がっている。                   │
└─────────────────────────────────┘
            「パレスチナから来た少女」大石直紀(光文社)

 第2回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作のプロローグ。1ページ目です。

 まず、目線は空――上を見ている。
 日差しを追って地上に下りてくる。家の前、干されてある洗濯物へ。何か?
シャツだ。
 その下の水道管に気づく。水が吹き出していて小さな虹ができてる。
 その先に視線は進む、染みを作って流れる水。
 うつ伏せに倒れている女――クローズアップ――手を差し伸べるように――
死んでいる……割れた後頭部、流れ出た血――ハエにフォーカスする。
 目を転じると横には死んだ赤ん坊。視線は広がる――周りにはいくつもの死
体が転がっている……

 視線の動きがスムーズです。大から小へ。上から下へ。焦点を合わしたもの
から周りへと視線が移動しています。視線の移動が自然であればあるほど、読
み手はその文章に引かれていくのです。


       -------------------------------------------

 風景描写は意外と簡単ですよね。
 カメラの位置がそんなに動いていないからです。ひとつの固定した位置から
見える風景を描いている。

 カメラが動く――カメラワークがある時は難しいか?

       -------------------------------------------

┌─────────────────────────────────┐
│ 薄暗いホテルの中から、中東特有の刺すような強い日差しが照りつける│
│歩道に出た沙也は、眩しさに思わず目を細めた。数秒間そのまま佇み、眩│
│しさにいくらか慣れたところで、沙也はホテル前の通りを、正面に聾える│
│城壁に向かって歩き出した。通りにはイスラエル兵の姿は見えない。  │
│ 雑貨屋の軒先に座っている二人の老人の前を通り過ぎ、道なりに真っ直│
│ぐ歩く。五十メートル程歩いて曲がり角の近くまで来たとき、沙也は少し│
│だけ緊張した。角からいきなり兵士が目の前に現れたらどうしよう、と考│
│えたのだ。沙也は歩調を緩め、恐る恐るといったふうに角を右に曲がった│
│。そしてホッと小さく息をついた。近くに兵士の姿はない。      │
│ 目の前に屋台が二つ並んでいた。一つはタバコの星台、もう一つはパン│
│の屋台だ。沙也は機内食を食べて以来、何も口にしていないのを思い出し│
│た。兵士の姿が見えないことで緊張感が緩んだせいか、沙也は急に空腹を│
│感じ始めた。パンの屋台の前で立ち止まる。輪投げに使う輪のような形を│
│した固そうなパンが、新聞紙の上に並べられている。店番をしているのは│
│、中学生ぐらいの年齢の少年だ。                  │
│ 沙也は、一つくれ、というように人差し指を一本立て、ポケットから紙│
│幣を出した。少年は渋い表情で何か言ったが、沙也はもちろん何を言って│
│いるのかわからない。少年は怒ったような顔つきで同じ言葉を繰り返した│
│が、沙也が……                          │
└─────────────────────────────────┘
                      106ページです。

 ホテル前の歩道に出てきた沙也を捉えています。おそらく正面から。眩しさ
に目を細める沙也。
「ホテルの前の通りを」――ここでカメラは動き出します。沙也が歩き出すか
ら。横に、カメラは張り付きます。沙也の目線の先、「城壁」――カメラは沙
也の目線と重なります。行く手に城壁がある。
 周りを見渡します。「イスラエル兵の姿は見えない」これは沙也の心理に入
り込んでいる。どれだけ沙也が緊張し、何を恐れているかがわかる。
 カメラは沙也に重なりながら少し離れて横にいます。「雑貨屋の前の二人の
老人」に目を留める。「道なりに真っ直ぐ歩く」ここでも沙也のそばにカメラ
はいながら少し離れて沙也の行動を追っている。
「五十メートル程歩いて曲がり角の近くまで来たとき」カメラは沙也を捉えま
す。カメラは沙也の前に回ったようです。
「緊張」した様子は描かれていませんが、読者の頭の中に想像することができ
ます。
「目の前に兵士が現れたら」と、ここで、カメラは沙也の心理に入り込みます。
沙也の想像のイメージを映し出す。
「沙也は歩調を緩め」――またカメラは沙也の外へ出ました。外から沙也を捉
えます。「角を右に曲がった」――これは沙也の視点から見てです。カメラは
沙也を捉えながら沙也の視点に重なり合い進むのです。「ホッと小さく息をつ
いた」で沙也を見、「兵士の姿はない」でまた、心理に入り込みます。
 周りを見渡しましょう。
「目の前に屋台が二つ並んでいた」――沙也の視点から見ているのです。
「何も口にしていない……」で心理の中に入り込みます。
「パン屋の前で立ち止まる」ここでまたいったん、カメラは外に出て沙也を見
ています。
「輪投げに使う輪のような形をした固そうなパンが」――沙也の視線の先にカ
メラはフォーカスを合わせます。そして「店番をしているのは」でいったん合
わせたフォーカスを解き、屋台の全体を見ます。

「沙也は、一つくれ、というように人差し指を一本立て」
 ここでまたカメラは沙也の行動を、そばから見ています――

        ★     ★

 もういいでしょう。
 カメラが沙也に寄り添いながらまた沙也をも捉えていく――そのカメラワー
ク。

       -------------------------------------------

 五感で捉える心理の描写を挟みながら、カメラがいかに動き、移動し視線を
変えていくか、フォーカスを当てていくか、が描写なんだ。


       -------------------------------------------

 少し引用しただけで長くなりました。
 次号も描写のシーンを考えていきます。




 閑話休題 1.
 J・アーヴィングの「オウエンのために祈りを」(新潮社 1999)上巻の半
分まで読んだ。「ぼく」の子供時代……オウエンがいかにぼくに影響を与えた
か……を語る。
 クリスマスのイエス誕生劇のところ。少しわかりにくい。「なぜこういう話
をアーヴィングはするのかなあ」……後書きを読む。どうやらこの本はアーヴ
ィングの宗教への想いをテーマにしているらしい。
 日本人には西洋の人たちがどれだけキリスト教や他の宗教に縛られているか
想像もつかない。彼らにとって宗教とは生活そのもの、規範そのもの。道徳も
生きる方向もそこから生まれてくる。
 そのクリスマス劇の前に教会を変えたことが書かれてある。改宗。そういう
ことなのか――宗教――「神」をめぐる話なのだ。
 
       -------------------------------------------

 閑話休題 2.
 小説にたいして……その基本的な技術があるだろうってことで、メルマガを
書いているのだが、いつも「そんなこと、無駄じゃないか」って声が心の内部
から聞こえてくる。ぼくは素人で、素人の考えを書きつづっている。あまりに
も浅はかかも……「そんなことより、小説を書けよ」って声。でも、自分のた
めに書いている、ってこともある。
 もう少したったら、小説のプロット作りを考えるところまでいったら、自分
の小説を書き始められるだろう。

 この4年のあいだに書けたのは5編の短編とまとまってない構成の断片。

 アーヴィングもそうだが、村上春樹、大江健三郎、もちろんガルシア・マル
ケスも、多くの作家が「語り」の作家だ。「語る」ことは作家が世界を持って
いる証明だろう。
 語ることは、ドラマ(世界)を説明し要約しどのように思っているかを書く
ことだ。いかに「語る」か、をメルマガで書きたい。それぞれの作家の「語り
方」を知りたいから。


 では、また。もうすぐ5月になりますね。

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   ┃         小説は「語り場」だ          ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
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【どういう視線で語るか=カメラワーク】を考えてきました。
 しかし小説は、前号で取りあげたようにわかりやすい風景描写ばかりで書か
れているわけではないですね。68号、69号で取りあげたのは、そのシーンで描
写する相手が一人の場合だからカメラはその主人公に寄り添えば描写できる、
ってことでした。

 でも、小説には多くの人物が登場し、そういう複数の人物の行動を描かなけ
ればならないことのほうが多い。

       -------------------------------------------

 映画のようにただ見えるものだけを描写すると、小説のドラマとしてはあま
りにも単純、平坦になるでしょう。映画を観ているだけのような印象を受け取
るだけでは読者は満足しないのだ。

       -------------------------------------------

┌───────────────┐
│言葉で心理を描写できるのが小説│
└───────────────┘
 カメラの目を持つ話者が語る。描写する。
 カメラはぶん回され、そのカメラワークは、人物を外から描くかとおもえば、
心の中に入り込み、その想いや記憶を引き出し、あるいは離れて客観的に行動
を描写する。
 その登場人物の周りをカメラは激しく動く。描写し語る。

 多くの作家はそういうことを自然に行っています。

 登場人物の想いや記憶を引き出し、心理を露わにする。
 そのシーンでは「こう思い、こうしていた」そしてプロットの流れの中で次
のシーンでは「こう思い、こうなった」――心理の変化。
 ドラマとは小説においては、心理の変化のことに他ならないから。
 そういうものを描くことこそ描写なんだ。

       -------------------------------------------

 これこそが、小説が映画や漫画と違うところ。
 言葉で何でもできる、微妙な心理を表せる。

           ┌───┐
           │語り場│
           └───┘
 これをNHKのしゃべり場を真似て「語り場」と呼ぼう。
 そう、「語り場」(^o^)
 これ、間違ってはいない。物語を語ることが小説だから。
 「語り」は小説の基本構造だといえる。

 テーマを深めそれにせまるには、作者のたくらみ通りに話者が語る「語る
場」を読者におもしろく読んでもらうことが必要だろう。

 まとめましょう。
 ぼくがいう「語り場」は見えるものを単純に写しとる描写ではなく、風景や
行動や人物の心理(想い、記憶など)が渾然一体となり、それに事件の手際よ
い説明、まとめなどが話者によってなされている段落のこと。
 これ、「語る者=話者」の技術の見せ所だろう。

       -------------------------------------------

 でも会話のシーンだけは登場人物に自由に喋らせて、話者は一歩引いていま
す。(^o^; 登場人物に自由にさせて話者はちょっかいを出さないんですね。

       -------------------------------------------

┌────────────────────┐
│心理を表現するには登場人物の心の声を書く│
└────────────────────┘
 多くの作家が、「心の呟き」を書くことで心理を表しています。

 47号「心理描写を考える」で心理を描写するのは難しいと述べていますが、
概括的にはあれでいい。

 この号で考えているのは一つの描写を作るときの実践的手続き。


       -------------------------------------------

 ええい、理屈をこねていてもしかたない。

 図書館から借りている「雪舞い」芝木好子(新潮社 1987年)から引用して
みます。
 そんなに難しくない「語り」から。
 5ページの最初の出会いのシーンです。
┌─────────────────────────────────┐
│ 弟の病気は肺結核で、気胸療法をしたあと思わしくなく、入院と退院を│
│くりかえしてきた。肺活量が減って、近頃は衰えが目立っている。彼の病│
│気の長い歳月は彼女の生き方を変えてしまった。花巻延の言うままでなけ│
│れば、今日一日も過せなくなっている。               │
│ 寺の庭の外れに紅梅が見えて、咲きはじめている。仰ぎながらそばへゆ│
│くと、誰もいないと思った植込みに男が立っていた。ブレザーを着て、首│
│にしゃれたマフラーを巻いた、上背のある痩せた男である。静かな目でこ│
│ちらを見ている。互いに見知っていて、花巻へくる客だが、馴々しく声を│
│かけあう間柄でもない。彼女は頬を赤らめて会釈した。        │
│「いい朝でございますね」                     │
│ 自分でも妙な挨拶だと思った。                  │
│「大分暖くなったし、この寺は朝がいい」              │
│「香屋先生は写生においでですか」                 │
│ 彼女は男が画帖を手にしているのを見た。             │
│「水仙が咲きはじめたから。この傾斜の下に少し前まで福寿草があったが│
│、まだあるかな」                         │
│「下は畑ですか」                         │
│「いや、墓地です。初めてですか」                 │
│ 彼は有紀がなぜここにいるか、考えているのだった。彼女は、申しおく│
│れましたと言い、近くの慧寿庵の離れへ弟をつれて移ってきたと告げた。│
│「慧寿庵はどこかの料亭の別荘と聞いたが、花巻だったか。ぼくのところ│
│とは露地を隔てて隣り合せだ」                   │
│ 彼女は花巻延に前から聞いていて、挨拶に出向かなければと思っていた│
│が、この出会いはうれしかった。男の背後の紅梅から、外垣の下の川へ目│
│を移した。                            │
│「きれいな流れですが、なんという川でしょう」           │
│「さあ、名はないでしょう。聞いたことがない」           │
│「女が水底に沈んでもですか」                   │
│ ふいだったとみえて、彼は微かに含羞の表情をうかべた。      │
│ 彼女は一枚の日本画を思いうかべていた。二年ほど前に院展で見た絵で│
│香屋雅伸の「雪の幻想」であった。百号の雪景色で、小川が流れている。│
│岸には紅梅の大樹が枝をひろげて、雪をかぶった梅花の紅が満開である。│
│小川には水の流れの中に女が横たわっている。白いきものを着ているのは│
│婚礼の日の女なのだろうか。乱れた髪の下の顔は蒼ざめて、流れにたゆた│
│っている。オフェリアは狂って、花を手にして流れに沈むが、日本の女は│
│精霊にみえて妖しい。この絵は大賞をとり、新聞にも雑誌にも紹介された│
│幽艶な大作で、画家の代表作になった。此処は画家にとっての秘境とみえ│
│る。                               │
│「浅い小川だが、二年あまり前の台風で水が溢れたことがある。それはす│
│ごい勢で上ってきた」                       │
│「家に、水がつきましたか」                    │
│「もう少しのところだった。川は一変するから怖い」         │
│ 彼は散歩のついでらしく歩き出して、紅梅の横の石段を降りていった。│
│正面に地蔵が祀ってある。そのわきを折れてゆくと墓地である。思いがけ│
│なく広い基地で、一基ごとに生垣で区切られて、まわりは大きな木が鬱蒼│
│としている。香屋は自分の庭を歩くようにゆっくり歩いてゆく。木々を渡│
│る風はまだつめたかった。有紀は東京の町中にある寺の狭い墓石の下に眠│
│る両親を思いうかべていた。ほとんど無意識に病気の弟の行く手を見てい│
│た。心の表皮を哀しいものが撫でで過ぎてゆくのを感じた。彼女は画家が│
│いかにも安らかな表情で墓石の間を渡ってゆくあとから、ついていった。│
│花巻での身嗜みと違って、ふだん着の黄色い紬に、化粧らしい化粧もいて│
│いなかった。                           │
└─────────────────────────────────┘

 芝木好子の小説は風景と心理描写の混ぜ合わせ。それに会話が自然できれい
ですね。おちつきます。

 弟が肺結核であること、前から挨拶に行かなければと気になっていたことが
手際よく心理を語ることで説明されていますね。
 それに日本画の記憶。
 話者は有紀の視点に寄り添いながら、その心理に寄り添いながら、見えるも
のを描いています。
 風景、心理、記憶、説明、行動――この渾然一体となった描写、見習うべき
でしょう。うまい。




┌─────────────────────────────────┐
│ 京都へ着いたのは午後であった。御池に近い古びた構えの宿に入ると、│
│すぐ奥まった部屋へ通された。香屋は広い座敷の文机の前から振返った。│
│和服の着流しである。有紀は畳に坐って挨拶をした。         │
│「よく出て来られたね」                      │
│ 彼は心から言った。今のいままで必ず来る、とは考えていなかったのだ│
│。彼女には彼女の意志があるだろう。                │
│「お仕事をしておいでですの」                   │
│ 有紀は自然といつもの声になっていた。彼は昨夜大阪での用事をすませ│
│て、遅く京都の宿へきた。今日は寝過したあと、彼女を待つ間を宿で過し│
│た。女中が茶菓を運んできて、やわらかな京言葉で愛想をいって、下って│
│いった。男と女の出会いに、京の宿の茶庭の見える風情は似つかわしい。│
│「疲れていなければ、あとで南禅寺でも歩いてみようか。明日は朝から好│
│きなところを廻ろう」                       │
│ 彼は雪の舎でみた有紀の憔悴ぶりを気にしていたが、今日の彼女は藍大│
│島の袷に白地の帯を締めて、すっきりしていた。彼はじっと待っていた半│
│日の続きを大切にしようとしている。それは彼女の胸にも伝わってくる。│
│いつも待ち続ける身にとって、たまさかの満足であった。       │
│ 二人はやがて宿を出た。車で南禅寺の境内へくると、時代を経た楼門が│
│現れて、有紀は仰いだ。いきなり過去の時へ遡ってゆきそうに古びて、朽│
│ちてゆく歴史の背景の佗びを漂わせる。楼門へ登ってみるか、と香屋はい│
│ったが、彼女は首を振った。高所へゆくのが怖い。楼門の前方のゆるい傾│
│斜にそって寺へは行かずに、広い敷石道をまわって塀の脇をゆく。花時は│
│終って、人の気配ははとんどない。京都へはよく見えるのですかと問うと│
│、香屋は三月居たこともあると答えた。敷石道をゆっくり歩きながら、男│
│と旅にいることの実感を味わった。                 │
│「静かなところ。ふたりきりの世界を歩けるのね」          │
└─────────────────────────────────┘
                            P216

 最初の説明的部分、午後――宿――奥まった部屋――へのカメラの移動はど
んどん進んでいいわけです。これにフォーカスを当てる意味を芝木は見出して
いません。芝木の描きたいのは香屋と有紀の対面のシーンですから。

 二人の会話のあいだに、話者は香屋の事情を説明し、「風情は似つかわしい」
という言葉で雰囲気を盛り上げていますね。ここは客観的。
「憔悴ぶりを気にしていたが」「すっきりしていた(と見える)」「大切にし
よう」で香屋の心理に入り込み、「彼女の胸にも伝わってくる」と有紀の心理
にとって返します。

 そして南禅寺の楼門を仰ぎ見るところから、有紀の心理に寄り添います。
 風景の描写が心理の状態を表す、という意味を納得する場面です。

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 芝木好子さんは91年に亡くなっておられます。訃報を伝える記事のURLは、
      http://www.yomiuri.co.jp/yomidas/konojune/91/91h6h.htm
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 話者の視点であるカメラ(目ん玉)は、描写する対象に近づいたり離れたり、
とり憑いたりして、語ります。

「語り場」は造語だけれどいい言葉だと満足しているんですよ。

 次号もさまざまな「語り場」を見ていきましょう。
 では。また。

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       ★☆彡        ☆。..*.・'
 ☆ミ       
            ☆ミ                           ☆ミ
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