2001年5月6日                   〈毎週水・日曜日発行〉
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        小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃Memo│71号│
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  おもしろい純文学とエンターテイメントの書き方を考える――
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   ┃           描写と語り            ┃
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 こんにちは。
 連休も今日で終わり。車で大渋滞に巻き込まれた方、お疲れ様です。
 ぼくは友人と会いお酒を飲んで、それ以降はずっと飲んでいました。相変わ
らずです。ヽ(^o^)ノ 
 ところで最初にお知らせしておきます。
       ┌───────────────────┐
       │27日まで発行をお休みさせていただきます│
       └───────────────────┘
 ある資格を取りたいのですが、試験日が20日なんです。どうせ受からないで
しょうけど。
 それと、さまざまな小説の「語り」のこと――考えているのですがまだまと
まっていません。もう少し考える必要がある。(だっていい加減なことを書け
ば読んでくれる人に失礼でしょう、もちろん、そんなに役に立つことを書いて
るとはおもわないのですが(^o^; )まあいちおう責任感ということで。
 また下旬にお会いしましょう。
 それに、週2回発行をしてきましたが、やはりきついですね。すでに溜めて
ある資料をまとめているわけではないので。週1回の発行に戻そうとおもって
います。のんびりやろうよ。
 このメルマガを楽しんでくれている人には申し訳ないですが、よろしく。

       -------------------------------------------

 さて「語り」の諸相をいろいろと考える前に、もう一度描写のこと。


 ぼくらが描写する時に「これで伝わっているだろうか」「うまく書けてない
なあ」と自分の書いたものに不安になるのは、自信を持てないからですね。
 ぼくの場合、「ここ、どう書いたらいいんだろう」っておもうことが多い。
 もっと書き込まなきゃとおもうんだけど、書き方がわからない。

 そんなことを考えていて「こう書きゃいいんじゃない?」とおもっているこ
とを――まとめてみます。

       -------------------------------------------

┌──────────────────────┐
│そのストーリーやプロットにどんな描写が必要か│なんだろうとおもう。
└──────────────────────┘
   ┌───────────────┐
それが│読んでくれる人に何を伝えたいか│とイコールだ。
   └───────────────┘
 そのストーリーやプロットの流れのなかで、そのシーンを選んだことは、そ
れ以外のシーンでは伝えられないとおもったからだ。

 そんなことわかってるよ、って言わないで。意外と書いてる途中は忘れてし
まうものなのだ。


       -------------------------------------------

 前号で、
┌─────────────────────────────────┐
│最初の説明的部分、午後――宿――奥まった部屋――へのカメラの移動は│
│どんどん進んでいいわけです。これにフォーカスを当てる意味を芝木は見│
│出していません。芝木の描きたいのは香屋と有紀の対面のシーンですから│
└─────────────────────────────────┘
 って書いた。これに尽きる。

 描写ってカメラワークだ。何にフォーカスを当てるかだ。
 読者に読んでほしいものにフォーカスを当てる。それが正解。

 <クローズアップ>や<ロングショット>や<俯瞰する>などの感覚――映画でい
うカメラワークは、技術としてある。これを表現の感覚として身につけること。

 そのシーンに、伝えたいこと――の集中した印象を読者に与えるように描く。
 ここで「孤独」なら→見えるように孤独を描く。
 
 それ、プロットに必要なシーンになっている。
 プロットの流れの中に自然にあるわけ。

       -------------------------------------------

 上では「香屋と有紀の対面のシーン」を描きたかった。
 だから京都に着いた時の京都駅から宿までのタクシーの様子や、宿の門構え、
それまでに出会ったり話したりする人のことは書かない。描いても意味がない
わけでしょう。
 ぼくらが日常、習慣的にやっているようなことは描写する意味がないんです。
 あくまで登場人物がそれに意味を見出すようなこと、深い想いを持つものを
描写する、そうでしょう。

 58号――
┌─────────────────────────────────┐
│ わたしは、そのことを考えておくと答えたが、あくまでも相手をなだめ│
│るためだった。すでに心はかたまっていた。そののち、腕時計を見て、暗│
│くなるまえにエステス・パークにいく時間は充分あることを確かめて、警│
│察をあとにした。                         │
│                                 │
│              6                  │
│                                 │
│ ベア湖の駐車場にたどりついたのは、五時をまわったころだった。ショ│
│ーンがそこにいったときとおなじような状況であることに気づく――人け│
│がなかった。湖は凍っており、気温は急速に下がろうとしていた。空はす│
│でに紫色に変わっており、暗くなりかけていた。これな遅い時間では地元│
│の人間や観光客をひきつけるものはあまりなかった。         │
└─────────────────────────────────┘
   と、シーンが飛んでいるのは、そのあいだの経過を描く必要を感じなか
ったからです。伝えたいことがそこにはないので。



       -------------------------------------------

 そういうのは読者にいかに楽しんで読んでもらえるか、のリズムの問題でも
あるわけです。

 描写ってのは、作者にとってすべて意味があるわけです。話者にも。

 そして、伝えたいことを完全に伝えるために描写するわけです。

       -------------------------------------------

 そのためにそのシーンがどう読者に受け取られるか、を考えて描写する。
 ここで、「これを伝えておかなきゃ」って。

       -------------------------------------------

┌─────────────────────────────────┐
│ その電話を朝からずっと待っていた。呼出音が鳴ったのは昼過ぎで、受│
│話器を上げると男の声が興奮気味で言った。             │
│「あなたがドードー鳥の飼育係に選出されました。おめでとうございます│
│  」                               │
│  電話のむこうで何人かが拍手をする音が聞こえる。僕は緊張しながら │
│「謹んでお受けします」と答えた。                 │
│「つきましては明日、動物園まで釆ていただけますでしょうか?」   │
│ 電話の主は丁寧な口調で言った。はいお伺いします、そう答えながら僕│
│は体が震えてくるのがわかった。ついに、ドードー鳥の飼育係に選ばれる│
│という幸運に恵まれたのだ。                    │
│ 動物園は、地下鉄の駅からすこし歩いたところにあった。入口で名前を│
│告げると、無料でなかに入れてくれた。象舎前の広場には紅白の幕が張ら│
│れていて、そのなかで表彰式とパーティが行われた。僕は何人ものひとか│
│ら、おめでとう、と声をかけられ、そのたびに握手を求められた。それは│
│、とても名誉で晴れがましい瞬間だった。              │
│ パーティが終わったとき、ヤマシタナオミという女性が声をかけてきた│
│。彼女は動物園の職員で、明日からはじめるドードー鳥の飼育について説│
│明したいからと、僕をドードー舎の前に案内した。          │
│「ここがあなたの仕事場です」                   │
│ 彼女は鳥の飼育に必要な用具の置き場所とその使用方法を丁寧に説明し│
│てくれたあと、ドードー舎の出入口のところへ行って、扉の開閉方法につ│
│いて話した。                           │
└─────────────────────────────────┘

 これは薄井ゆうじの「ドードー鳥の飼育」(集英社 1998年)の発端、冒頭
の部分ですが作品自体は93年「野生時代」6月号に掲載されたものです。

 薄井ゆうじについては、ここ。オフィシャルサイト。
 http://www.jali.or.jp/usi/index2.html


 どれだけ省略して描かれているかわかるでしょう。
 まず作者は最初にドードー鳥を飼育するという選ばれた恍惚を伝えたかった。
そのために説明という形をとらずに描写を選んだ。
 そのほうが読者に「ん、なんだ?」って興味を持たせる意味もあった。
 そこに彼女が登場する。
 それまでの過程なんかいいんだ。

 ここでは描写は極力抑えられ、プロットを展開するほうに向けられています。
だってそれが作者の望んだことだもの。

       -------------------------------------------

 こうなると、「語り」の世界へ一歩踏み込んだのかもしれませんね。

       -------------------------------------------

 描写にはいろいろやり方があります。
 ファンタジー小説なら人物描写――その魅力と会話で、読者を惹きつけるべ
きでしょう。
 歴史、時代小説なら舞台をまず納得させることが必要だ。
 純文学なら現代的なリアリティを。
 探偵小説ならスピーディな展開とスリルを。

 つまり作者が伝えたいもの、狙いがそれぞれ違う。それによって描写の質も
量も違う。だから書き方が違う。
 いちばん重要なのは読者を惹きつける描き方、表現。そうでしょう?


       -------------------------------------------


 描写はつとめて映像的です。
 その映像的部分と、作者がプロットを組み立てたテーマとの兼ね合い。その
まあ言えば説明的部分とをどうドッキングさせるか、が「語り」だとおもう。

       -------------------------------------------

┌─────────────────────────────────┐
│ ことグレイヴズエンド学院の問題となると彼がまったく受けつけないこ│
│とを母は知っていた。「われわれ町民の利益をないがしろにしてもらって│
│は困る」彼はかつて町民集会で言った。「連中の利益とは別なんだ」これ│
│はスクアムスコット川を拡げ、この塩水の川の干潮時の泥をさらって、ボ│
│ートクルー用のレースコースを整備したいという学院側の要求に関しての│
│発言である。これまで何艘ものシェルボートが干潮時に泥にはまっていた│
│。学院が拡張を望んだ場所は塩水の及ぶ沼沢地が半島のように突き出てい│
│るところで、ミーニー御影石採石場と境を接していた。完全に利用価値の│
│ない土地だったが、ミーニー氏の所有になっていて、学院が泥をさらいた│
│がっていることに怒っていた――「それもたかがレクリエイションのため│
│に!」                              │
│「泥の話をしているのであって、御影石をどうこうしようというのではあ│
│りませんよ」と学院の代表は言った。                │
│「おれたちのことと連中のこととは別だと言ってるんだ!」ミーニー氏は│
│怒鳴った。それほ名高い町民集会として記録に残っている。グレイヴズエ│
│ンドで町民集会が評判になるためには、はでな論戦がありさえすればよか│
│った。結局スクアムスコット川は拡げられ、川底の泥が浚渫された。――│
└─────────────────────────────────┘
 J・アーヴィングの「オウエンのために祈りを」P47です。
 サイトはここ。
        http://www2u.biglobe.ne.jp/~pin1978/index.htm


 で、ここでは、ミーニー氏の町民集会での様子を描写することが核としてあ
って、主人公「ぼく」の記憶、感想が付けられているわけなんです。
 描写と説明。要約――まとめ。
 プロットを押し進めるエピソードとしてミーニー氏の町民集会が使われてい
るといっても間違いじゃない。

 こうなると文章はどちらのために選ばれているのか。話者のため?――描写
するため? それで表現は選ばれる。
 作者と、その作りあげるドラマとの距離があるんだとおもう。


       -------------------------------------------

 こうして、描くことが、ますます語ることに近づいていくのかもしれません。

       -------------------------------------------


 では次号からはさまざまな「語り方」を見てみたいとおもいます。
 それまで。また。

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2001年5月27日                     〈毎日曜日発行〉
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   ┃「語る」前にまず「構成を作る」「プロットを作る」    ┃
   ┃            必要があるだろうから、そのまとめ┃
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 こんにちは、お久しぶりです。
  ちょっと休ませていただいておりました。また始めます。
「小説の作り方!」なんて大それたタイトルでメルマガを書いてるけど、次に
書こうとする小説のプロットも満足に作ってないぼくとしては恥ずかしい。
  大口はたたけないです。
  でもこのメルマガの方針と目標だから書かなきゃ。
  ですからですね、反面教師として受け取って、消化してくれたらいい。

      ──────────────────────

 今回、上のタイトルを掲げたのは、「語り」のことを考察する前にもう一度、
プロットを作る、粗筋を作る、構成するってことをまとめておこうとおもった
んです。
 そして、実際、描写とかを作り出すこととの関わりを考えたいからです。

      ──────────────────────

         ┌──────┐
 小説を作る作業は│さあ、書くぞ│って決意して机の前に座るところから、
始まります。   └──────┘

 それで思い出して欲しいのですが、このメルマガでは、

1) 18〜21号でアイディア、発想、モチーフを得る方法を。
2) 24号で、5W1Hからストーリーを発想する方法を。
3) 25、26号ではエピソードの作り方を。
4) 27、28号では構成の仕方。
5) 29号ではシナリオの「箱書き」をヒントに考えました。

 これらを読み返してもらえば、発想しモチーフを得、粗筋を書き構成する、
ということはできるはずなんです。(ぼくも読み返しますから(^o^; )


 そういうことを頭に入れた上で、
       ┌───────────┐
       │構成、プロットの作り方│です。
       └───────────┘

  1 まず、もわもわあとした気持ちを紙に書いて、文章にすること。
    書きたいな、っておもうことを――
       形をつくることです。それが重大。そこから始めなくてはなりません。

    2 書きたいことを並べてみること。
       「こういうのが書きたい」ってあるでしょう。
       あるいは、小説など読んで「こんなの書いてみたい」ってのがあるで
    しょう。
    書き出してみることなんです。

  3 そしてたくさんのメモが生まれる。
       「こうあるべきだ」
       「こうしたらおもしろいんじゃないか」
       「この小説のテーマは何だろう」
       「訴えたいことは何だろう」

    たくさん考え続けること、それしか方法はないんです。
      
    4 そして、粗筋、プロットを書き上げること。
      
       だいたい、ざっとした文章でまとめる。
       それ、話になっているでしょうか?
    ひとつの文章として書き出しておもしろいか。
       もっと詳しくすればおもしろくならないか?
       どの部分を強調するか?
      
    5 「これでいこう」となったらもう少し詳しく構成する。
       この部分の起承転結はなんだろう?
       何に焦点を当てるか。どこにスポットライトを当てるか。
       どんなシーンを作ればいいか。

    6 シーンというものを起承転結で考える。
      そのためにどんな要約、説明が必要か。

┌─────────────────────────────────┐
│この6はこういう理由があるからです。               │
│29号で書いたのですが、一つの小シークェンスも起承転結で出来ているか│
│らです。                             │
│そう考えることで、描く内容がはっきりしてくる。          │
└─────────────────────────────────┘
┌─────────────────────────────────┐
│物語には、起承転結がある。プロットにも起承転結がある。      │
│    起にも起承転結がある                      │
│    承にも起承転結がある                      │
│    転にも起承転結がある                      │
│    結にも起承転結がある                      │
│                                    │
│    そして、それぞれのシーンにも起承転結がある。          │
│                                    │
│その起承転結の部分のいちばんおもしろいところをシーンにする。   │
│そのシーンは小さなお話だ。だから起や承を、詳しく描かなくていい部分│
│を要約、説明で済ます。                      │
└─────────────────────────────────┘

  7 そのシーンで何が起きているのか?

    それを元にしてもう一度構成し直す。見直してみる。

  8 また、プロット、構成を立てるのといっしょに、読者がここで何を感
    じるだろうかの予想表を作る。
    プロットと読者の反応を並列して考えるわけです。

      ──────────────────────

 プロットとは「何を描写し語り」何を語らないかを知っていく作業ともいえ
ます。
 無駄なおもしろくない部分、読者の興味を惹きそうもない部分は要約する。
  つまり、おもしろい部分だけを描写するのだ。
 小説ってそういうものじゃないでしょうか?(作者の思い込み?(^o^; )


 プロット、粗筋を読んでみて、それがおもしろくなかったら書き直さねばな
らないでしょう。
 それは構成そのものがおもしろくないからだとおもうのですね。


┌─────────────────────────────────┐
│           どの視点から語るか             │
└─────────────────────────────────┘

 そして、どこの視点から語るか、を決めなければなりません。
 一人称で語るか、三人称で語るか?

 一人称はドラマに巻き込まれた「私」の視点だから、ドラマとの距離が近い。
「私」というのはドラマに巻き込まれる人物という設定だから「私」の見方が
ドラマを作るんです。
 ですから基本的に一人称の語りはどんな作品を見ても、同じレベルで捉えら
れるはずです。
     「GO」にしても
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062100541/qid=990886497/sr=1-
1/249-8858443-7043510
     「リセット」にしても
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4104066044/qid=990886688/sr=1-
21/249-8858443-7043510
     「コンセント」にしても
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4877289658/qid=990886776/sr=1-
1/249-8858443-7043510
 もちろんJ・アーヴィングでもです。
     http://www2u.biglobe.ne.jp/~pin1978/index.htm


 それに比べて、三人称はドラマとの距離が離れている。ドラマを批判的にク
ールに見る視点だ、というより主観がないのだ。ひとりの観客の視点なのです。
 それは活動写真の弁士のような役割かもしれない。
 古典になっている(大衆小説)を読んだことがありますか?
 このあいだ、おもしろいプロットを作る参考になるかもしれないとおもって
ディケンズを読み始めたけど……だめだった、やっぱり古くさい。(神の視点
が)

 視点については42号「話者と視点を考える2」をまた読んでください。
 作者のモチーフへの距離の取り方が、どんな描写をするかに関わってくると
おもう。

       ──────────────────────


 ぼくが考え実行している方法はこういうのですが、それぞれが構成の仕方を
持っているとおもうんですね。

 で、もっといい方法があれば教えてください。
  掲示板=guestbookに書き込んでくれたらいいですし、またご意見など聞か
せてください。そうすればずいぶんと他の人にも参考になるとおもう。


 どういうふうに構成し何を伝えたいかということが、どこまで描写するのか
ということにつながっていくとおもいます。
 エンターテイメントなら、純文学的描写は邪魔になるだけだし。
 どういうふうに描写のフォーカスを当てていくのか、ってことでしょう。
 そういうことを具体的に次号で、小説の部分を引用しながら、書いていきた
いとおもっています。
 では、6月3日に、また。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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 個人的にメールをいただいてもいいんだけれど(とてもありがとう)、ぼく
は、無職、フーテン、流れ者、他人を愛せないひねくれ者、偏った思想の持ち
主、常識はずれの怠け者、非生活者だから話してもおもしろくないかも。

 で、メールマガジンへのご意見、ご感想をもたれたら「GUESTBOOK」
(ちょっとタイトルを変えました。もっと多くの人に自由に書き込んで欲しい
から)に書き込んでくれたらありがたいです。そのほうが書き込んでくれる人
にとっても人間関係は広がるとおもいます。

 メールアドレスはいらないように設定しています。そのほうが気負いなく本
音で書いていただけるんじゃないかとおもうので。どんな意見も感想もありが
たいものです。また、小説のことに囚われず自由になんでも書き込んでくれた
らいいのです。もちろんネチケットは守って――

 ぼくの掲示板への考え方――ちょっと寄って書き込む、そんなひっそりした
場所でいいとおもうんです。それぞれがそれぞれで生きているんだから。群れ
ることなしにね。セクト主義はいらない。自立した個人の集まり――それがぼ
くの理想。でも人と声をかけあううれしさってあるでしょう――砂漠を歩いて
いて人に出会った時のように。おおげさにじゃなく、さりげないそういう自然
さを。そうして時々思い出す友だちになれたらいいな。そういう場所。

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2001年6月3日                      〈日曜日発行〉
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 こんにちは。
 小説、書かれていますか? ぼくはまだまだだけど……でもできるよ。はず
ね。(^_^) まあ、「人生、結果がすべてだ」って考えがあって、結果に表れ
ないものは無視される傾向にあるけど――ぼくはそうおもわないな。
 でもねえ、碇シンジじゃないけど「逃げちゃだめだ」――なんだ。

 大半のかたが趣味で小説を書いているとおもう。書かなくちゃならないとい
う義務はない。けれど「こういうことを誰かに伝えたい」っておもって書き始
めたんだから、書かないと自分を裏切ることになる。途中で放り出したら自分
に自信を無くしてしまう。それがいちばん精神衛生上悪いよ。だから書こう。
自分との約束を果たそう。

 もちろん、あまり真面目に深刻になることなんてなくて、テーマもモチーフ
も人それぞれだから、「読んで楽しんでくれたらいい」とか「こんなんおもし
ろいんじゃない」ってレベルで書いてもOKだ、っておもう。
 純文学を書きたい人は純文学を、エンターテイメントを書きたい人はエンタ
ーテイメントを。新人賞に応募したい人は応募を。――それなりにね。

 ぼくはもともと純文学畑なので、このメルマガではいちおう文藝賞、オール
讀物新人賞、小説すばる新人賞――などに応募できるぐらいの描く技術を目指
したい。そういう方針。できるはず。

 ファンタジー、推理小説、SFも(取りあげたいとはおもうけど)ちょっと
まだ勉強不足で、幅を広げないと、とはおもっています。今のところは手に取
る機会が少ないだけで。

      ──────────────────────

 どんな小説でも基本的原理は同じだとおもっているんです。よほど実験的、
前衛的な小説でない限りね。
 小説の原理――「語り」の構造は同じだ。

 誰かが語り、読者が受け取る。言葉で伝える、表現する根本は変わりない。

 で、前書きはもういいよね。
 73号を始めます。

      ──────────────────────


 小説は単純な定義で言える。
 主人公がどうおもい、行動したか、だ。――その話、物語、です。


      ──────────────────────

 前号では5W1Hのことを強調しました。それにはこういう意味があるんで
す。(小説論のまとめ――もうこんなこと何回も書かないようにしよう)

 5W1Hというのは、「誰が いつ どこで なぜ 何を したか」という
こと。これが文章の基本、小説の基本です。
 この5W1Hを時間の経過に従って物語ること。それが小説ではストーリー
だ。
 5W1Hの本質は、
┌─────────────────────────────────┐
│誰が ――読者から見て魅力的な人間。テーマに果敢に立ち向かう奴。 │
│いつ ――時代背景。その時代の意味(を探る)。          │
│どこで――場所。その「場所」の意味。               │
│なぜ ――主人公の理想、欲望、目標、葛藤。問題提起。       │
│何を ――事件。モチーフ。その問題の具体的立ち表れ。       │
│したか――行動(困難。対立。人間関係として)           │
└─────────────────────────────────┘

 小説は読者に「「これからどうなるの?」という好奇心を抱かせ、波瀾万丈
の展開で満足させること。《なぜ?―→どうしたか》を語るもの。

 小説はある人物(主人公)の行動を描いていく。
 そのためにシーンが作られる。シーンを並べたものが小説だ。
 シーンを時間の経過の中で描くことで、作者が「読者に訴えたい、伝えたい
こと」を、読者は発見しわかり、テーマを考え、共感するのだ。
 だから「読者にとって意味がある」シーンが大事なんです。

 展開をおもしろくするのが構成です。展開の妙だ。テーマをどれだけ掘り下
げるか。困難と対立、謎と解明の流れ。

 構成には作者の「どこまでテーマにせまったか」という力量が表れている。
 まあ言い方を変えれば、おもしろい展開を作ることで、作者が読者にどれだ
けのことが伝えられたかということなんだけど……だけど、このテーマという
のは「楽しい話を物語りたい」というのでもいいんだよ。(^_^)

   ┌──────┐
 で、│小説とは何か│って定義を云々するのはもういい、ですよねえ。
   └──────┘
(重要だけど、わかってしまえば)そんなん、うざったい。
 そういうことを書いた基本編はもう終わっているので、「どう描くか」って
応用編が今のメルマガのテーマです。

      ──────────────────────

 ――語りの場所。

 前号で言いたかったことは、
┌─────────────────────────────────┐
│       シーンも起承転結の法則から逃れられない       │
└─────────────────────────────────┘
                            ってこと。


 この号のサンプルとして取りあげるのは、30号でプロットを書き出した高村
薫の短編集「地を這う虫」1993(文藝春秋)です。(何回も考えたほうがその
意味がわかるとおもうので)



 ファーストシーンは、仕分け場。

○仕分け場
  コンクリートをゲジゲジが這っている。
  どこに行こうとしているのか、省三は見守った。
  右へ、左へと這い回る、それなりの秩序を持っているはず。
  手帳に「ゲジゲジを見た」と書きつける。
  トラックヤードに4トントラックが入ってくる。
  顔を出すと、若いのが二人でケースを下ろし始める。
(一人が)「お宅ら、目がどこに付いてんだ! ホールコーン二十ケースと書
 いて あっただろう。こいつはクリームコーンだぞ、出し直せ!」
  出荷ミスだ。
省三「申し訳ないです」
  倉庫へ走る。

○倉庫
  倉庫にはさまざまな商品のケースが積まれているが、駆けつけてみると、
  混じって積んである。
  舌打ちしながら、積み替え始めた。
  
  トラックが出ていった後、また手帳に書きつける。「本日の失態。仕分け
  の不備。犯人を探し出して厳重注意すること……」



      ──────────────────────

 高村薫ほどスティーブン・キングのように描写を積み上げてリアリティを出
していく作家はいない。それで取りあげたかったのです。描写を積み上げる書
き方をする人に向けて。

 上の粗筋のようなものは、こんなふうに完成作品となっている。
┌─────────────────────────────────┐
│ 出涸らしのお茶でも一杯すすろうと、軍手を外したときだった。足元の│
│コンクリートを一匹のゲジゲジが這っているのに気付いた。体長三センチ│
│ほどの小さなやつだ。                       │
│ 仕分け場のコンクリート床は、剥がしたガムテープやビニール紐の残骸│
│、送り状などの紙クズをきれいに掃き清めたところだった。虫にとっては│
│障害物もない、海ほど広い平坦な場所で、ゲジゲジがどこへ行こうとして│
│いるのか、省三はちょつと見守った。                │
│ ゆっくりと蠕動運動をくりかえす虫の進路は、何を探しているのか、行│
│きつ戻りつ遅々として定まらない。だが、自然の摂理で生きている虫に、│
│自分の行き先が分からないということはない以上、こいつは本能に従って│
│、こうして右へ左へと這い回っているに違いなかった。そこには、虫なり│
│の秩序もあるはずだ。                       │
│ 省三は軍手を外した手で、いつもポケットに入れている小さな手帳を取│
│り出した。それは完全に習慣の一部となった、素早くなめらかな動作だっ│
│た。手帳は、そうして四六時中出し入れされているせいで、ポロポロにな│
│っている。省三はそれに一行、『ゲジゲジを見た』と書きつけた。   │
│ 倉庫前のトラックヤードに、ブレーキの音をきしませて白い四トン車が│
│入ってくる。車体に某食品問屋の赤いロゴマーク。          │
│ 嫌な予感がして仕分け場から顔を出すと、案の定、トラックから降りて│
│きた若いのが二人、荷台からダンボールケースを次々に放り出し始めた。│
│出荷ミスだ。                           │
│ 一人が省三の方へ怒鳴った。                   │
│「お宅ら、目がどこに付いてんだ!ホールコーン二十ケースと書いてあっ│
│ただろう。こいつはクリームコーンだぞ、出し直せ!」        │
│ 朝、その食品問屋からファックスで届いた出荷指示書は、省三も見た。│
│たしかにホールコーン缶詰と書いてあった。倉庫から商品を出した奴が寝│
│ぼけていたのだ。                         │
│「申し訳ないです」と一言謝って、省三は辺りを見回し、もう営業時間が│
│過ぎていることを思い出し、結局自分ひとりしか残っていないと分かって│
│、倉庫へ走った。                         │
│ 天井高十メートル、床面積四百坪の倉庸には、四社五百種類のさまざま│
│な商品のケースが分類されて詰まっている。それぞれの商品の置き場所は│
│決まっていて、棚に札が貼ってある。それらのすべての位置が、省三の頭│
│には入っていた。ところが、駆けつけてみると、ホールコーンの置き場所│
│にクリームコーンが積んである。しかも、下四段はホールコーンで、上三│
│段に載っているのがクリームコーンという有り様だった。       │
│「こんな積み方をしやがって!」                  │
│ 誰もいない倉庫で商品の山に怒鳴りちらしながら、省三は重いダンボー│
│ルケースの積み替えを始めた。苛々し、無性に腹が立ってきた。腹立たし│
│いのはただ、いい加減な商品の積み方だったが、さらにコーン缶詰の下で│
│壊れかけたパレット一枚を発見し、棚から剥がれそうになっている商品名│
│札を見つけたときには、鳥肌さえ立ってきた。この世界で、無秩序こそは│
│浪費と混乱と過ちと悪の始まりなのだ。               │
│ 積み替えたホールコーン缶詰二十ケースを乗せてトラックが出ていった│
│後、省三の手帳はまた新たな数行で埋まった。『本日の失態。仕分けの不│
│備。犯人を探し出して厳重注意すること……』            │
└─────────────────────────────────┘


 この圧倒的なリアリティ。(ぼくはこんなの好きだけど)(^-^)
 高村薫のFANページ「HEAT WAVE」です。
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/9686/takamura/
takamura.html

      ──────────────────────


 作品を書こうとする場合、何かイメージ(映像)が浮かんできますよね。そ
れを掬い上げる。

 とっかかりの粗筋はどう書くでしょうか?

○仕分け場で、省三が休憩している。
                    ――と書くかもしれませんね。
 また、
○省三がゲジゲジを見つける。
                    ――と書くかもしれない。

○ゲジゲジはどこへ行くかもわからず動いている
                    ――と書くかもしれません。

      ──────────────────────

 まだ完成品となる前の粗筋ってそうなんです。

 そうして熟考して、少し長く詳しく、こう書かれていくようになるかもしれ
ない。

┌─────────────────────────────────┐
│ 仕分け場で休憩していた省三は、コンクリートを這っているゲジゲジを│
│見つけた。                            │
│ どこに行こうとしているのか――省三は見守った。         │
│ ゲジゲジは右へ左へと這い回っている。床はそれまで作業してできた剥│
│がしたガムテープやビニール紐の残骸を掃除したばかりだったのできれい│
│だ。                               │
│ 省三はポケットから手帳を出し「ゲジゲジを見た」と書きつけた。  │
│                                 │
│ その時、トラックヤードに四トントラックが入ってくるのに気づいた。│
│ 出ていくと運転手と助手がダンボールケースを下ろし始めている。  │
│「お宅ら、目がどこに付いてんだ! ホールコーン二十ケースと書いてあ│
│っただろう。こいつはクリームコーンだぞ、出し直せ!」       │
│ 出荷ミスだ。                          │
│「申し訳ないです」省三は倉庫に走った。              │
│                                 │
│ 倉庫にはさまざまな商品のケースが積まれている。天井は高く、棚には│
│それぞれの得意先に分けて商品のケースが積んであるはずだ。     │
│ だが、省三がその棚の前に立つとケースが混じっているのがわかった。│
│「くそ!」                            │
│ 省三は舌打ちをして、ケースを積み替え始めた。          │
│                                 │
│ トラックが出て行ってしまうと、省三は手帳を取り出して書きつけた。│
│『本日の失態。仕分けの不備。犯人を探し出して厳重注意すること……』│
└─────────────────────────────────┘

 ちょっとは作品らしくなってきました?
 でもね、これって、粗筋を書いただけです。なにも描写されてない。
 会話はそのまま使ってあるので、まあリアルだし、いちおうシーンも出来て
るわけですが……(^o^; 

 ぼくなんかだと、これにちょっと書き加えて満足してしまうことが多かった
ですね。もっとつっこんで描写するってことが出来ない、それでまあいいやと
おもってしまう。諦めてしまう。
 それじゃ、だめなんですよね。

 省三の気持ちが全然伝わってこないし、どういう場でなぜそうなっているの
か、まったく書かれていない。
 このエピソードの、シーンの意味がなんなのか、読者にとっておもしろいの
かも不明です。

 突っ込んで描写出来ないっていうのは、主人公を描き切れてないってことで
す。ただ話として書かれたってだけで。


      ──────────────────────

 それに比べて高村薫の圧倒的なリアリティ。なぜそこにいて、どういう生き
方をしているのかが伝わってきます。

 単に細部が具体的に描写されているからだけじゃないんです。
 このゲジゲジは伏線であり省三そのものなんですね。ですから、エピローグ
にも虫が(蟻ですが)登場する。リアリティとはそういうことまで考えて描写
されていることなんですね。

      ──────────────────────

    「神は細部に宿る」

 細部が具体的に描写されなければならないんです。そこから始まる――
 でもエンターテイメントの場合、どんどん省略し描写されるということもあ
る。
 それでも小説を書く基本的態度としては、主人公がそこにいて意味のある行
為をしていること、が作者にわかっていなければならないんです。
 どんな描写をめざす者であれ、作者はすべてを知っていなければならない。

      ──────────────────────


 具体的に話者の視線がどこに向かっているか見てみましょう。

1 まず、出涸らしのお茶を飲んでいた省三が足元の床を這っているゲジゲジ
  に気づきます。
2 コンクリートの床は掃き清めたところだったので障害物はない。
3 省三の心理は海を想います。虫の気持ちになります。見守っている省三を
  話者は描写します。
4 省三の気持ちはますます虫に同化して行きます。
5 視線は省三に戻って――ポケットから手帳を取り出します。もう習慣とな
  っている、と説明されています。

6 そこで読者は「なぜ?」という謎を提示されているのですね。
  このなんでも手帳に書きつけてしまう男は謎です。
  それに、そこからドラマが始まることが予感されます。

7 次の行――トラックヤードにトラックが入ってきて次のシーンに移ります。
  場面転換。省三の仕事の内容が描写されて行きます。

      ──────────────────────

 この、省三が虫を見つけて手帳に記録する、ってことが、
┌─────────────────────────────────┐
│       小さなドラマであり、起承転結なのです        │
└─────────────────────────────────┘

 シーンも起承転結です。
        腕一本挙げるのにも起承転結がある。

 具体的に描写することで、主人公がどうおもい、どう行為するかが見えてく
る。
 そのための細部の描写。心理の表現です。
 語らなければ読者に伝わらない。伝えたいことを語らなければ読者は受け取
れない。

 それに確かに「語ること」「喋ること」の快楽というものがあるとおもう。

      ──────────────────────

 小説は、1回で完成作を作ることができるなんてない、とおもうんですね。
天才でもない限り。
 粗筋から始まって、何回も考え、見直し、細部を整えていき、いらないとこ
ろは削り、書き加えて、推敲して作品は出来上がるものだとおもう。

 そこでその人物が何をやっているのかという意味でのイメージを深めていく
こと。



           (長くなったので続きは次号10日に)また。
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2001年6月10日                        〈毎日曜日発行〉
─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
   ☆彡..*.・'                   ┌──┐
          小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃応用編│74号│
          ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛   └──┘ ★彡.・'
       おもしろい純文学をめざして――
              「描く」技術を考えるMail Magazine
─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
                今週のテーマ
     ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
     ┃   物語か? 現実リアルか? その間にあるだろう  ┃
     ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
         様々な小説があり様々な描写のやり方がありま
         す。その描写の違いはどこから出てくるのか?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 おはようございます。今日土曜日は晴です。さあ、メルマガを書こう――

 このあいだGUESTBOOKに書き込みがあったんですが……「技術を云々して
も書くことにつながらない」みたいなこと。
 だけどね、たしかにタイトルで「技術」って表現を使っているけれど、これは職人
さんへの尊敬を込めて言っているので、むしろ今は、どう小説を捉えるかみたいな原
理的なことを考えているってレベルぐらいにしかいない、とおもっています。

 ひとりの初心者が悪戦苦闘して小説に取り組んでいる姿を思い描いてもらったらい
い。このメルマガは、ああじゃないかな、こうじゃないかな、って記録なんですね。
 そう思って読んでくれたらいいので(そんなにたいしたメルマガじゃない)――で
も他人がどう考えているか、は読んでくれているかたが小説を考える時のヒントぐら
いにはなるだろうと。そういう想いで(そうなれば幸せ)

 講釈をたれる奴ほど、実際には何も出来ない――それはほんとうです……
 いずれは「技術」に行き着きたいです。(そうあって欲しい…… (^o^; )今は小
説を書くこととメルマガを発行することを平行してやっていきたい。いつかは書くこ
ともなくなるだろうし。
 それでまたまたタイトル部分をリニューアルしました。エンターテイメントまでっ
ていうのは誇大広告になってしまうから。それ、大ボラになってる。

        ──────────────────────

 応用編を書き始めて少し流れがぎくしゃくしてるように見えます?
 54号までは基本編――今まで読んだ小説作法の本から学んだことをまとめただけだ
からまとまっているのですが。
 それで、ちょっとまとめてみますね。

┌────────────────┐
│55号〜73号までは何を書いてきたか│
└────────────────┘

 55号からの応用編は実際に小説を書こうとする過程、現場で、そこで実際に起こっ
てくるだろう「問題」――どう書けばいいのか、どう考えればいいのかを考えている
んです。(いやあ、基本的なことしか書いてない小説作法の本だけを読んで、すぐ書
ける人はすごいなあ、とおもいますけれど…… )

 メルマガ応用編はこういうテーマで書いてきました。
┌────────────────────────────────────┐
│55号 シーンを生み出すものってなんだろう                │
│56号 シーンとシーンをつなぐ接着剤とは                 │
│57号 シーンとシーンをつなぐもの                    │
│58号 「行動」をピックアップし「心理」と「説明」で流れを作っていく   │
│59号 シーンで何をやるか意識する。上手な会話を作る           │
└────────────────────────────────────┘
 まず、ぼくらが小説を書こうとするときに最初に頭に浮かぶのはシーンなので、そ
れをどう繋げていくのかを考えたわけです。

┌────────────────────────────────────┐
│60号 「物語の体操」(朝日新聞社)大塚英志、の紹介           │
└────────────────────────────────────┘
 プロット作り――のヒントになるだろうとおもって「物語の体操」を紹介。

┌────────────────────────────────────┐
│61号 書くときの「核」「ウリ」になるものを考えよう           │
│62号 大胆な設定で世界を構築せよ                    │
│63号 「サマー・キャンプ」の粗筋を書きだしてみる            │
│64号 設定が謎を生み出し、魅力ある人物が小説世界を作り出す       │
│65号 キーワード的表現を                        │
└────────────────────────────────────┘
 物語の設定というものはどうあるべきかを考えた。長野まゆみの「サマー・キャン
プ」をサンプルに取りあげて、設定の大事さを書いた。

┌────────────────────────────────────┐
│66号 印象と描写で風景描写を作る                    │
│67号 イメージを固める                         │
│68号 どこから、どの角度で描写するのか                 │
│69号 カメラワークで描写する                      │
└────────────────────────────────────┘
「描写」をいかにするか、どう拵えるか、というテーマで考えた。映像的に描写する
ことがこれで出来るとおもう。

┌────────────────────────────────────┐
│70号 小説は「語り場」だ                        │
│71号 描写と語ることの関係                       │
└────────────────────────────────────┘
 ここに来て、語る(描写し説明する)ために、何を取りあげ何を省略すればいいの
かをテーマにもってきた。

┌────────────────────────────────────┐
│72号 「語る」前に。「構成、プロットを作る」ことのまとめ        │
│73号 粗筋から「描写の快楽」に向けて                  │
└────────────────────────────────────┘
「起承転結」という原理でシーンを解剖した。「起承転結」はストーリーを作る原理
だけれど、シーンにも適用されるのだということを。


 ここまで来ました。ストーリー(粗筋)を作る作業は、何を描写し何を描写しない
かだということ。何をピックアップし何を省略するか、という事と同じだということ。


        ──────────────────────


 で、今回のテーマ。いろんな描写があるけれど、どう考えたらいいのか。

 ぼくはいちおう小説を書いていて、そこでは自分なりの描写をしています。
 だけど、いろんな描写のやり方があるって、本を読んでいて感じるんです。どんな
描写をしたらいいんだろうか?って疑問が湧いてきた。

 高村薫のような現実のリアリティに基づいた細密な描写があり、ジュニア小説のよ
うな省略された描写がある。その違いはどこから出てくるのか?って。


        ──────────────────────

 それで、図書館に行き、ジュニア小説を借りてきた。前に氷室冴子とか読んだこと
あるけれど、何を選べばいいかわからない。で、適当に。
 折原みと「君が愛をくれたから」(講談社X文庫)
       http://www.interq.or.jp/mars/hayama-t/mito/mito.html
┌────────────────────────────────────┐
│ あたし、そんなにうぬぼれてないもん。                 │
│ ちゃんと言葉にしてくれなきや、わかんない。              │
│「そりゃ、オレだってけっこーお前のこと……」              │
│                                    │
│ カ――ン!!                              │
│ 冬空に響く快音。                           │
│ ホームラン!?                             │
│ 川沿いのグラウンドから、白い野球ボールが飛んできた。         │
│ ワンッ!! ワンワンワン!!                       │
│ とたんにはしゃいで、ボールを追いかけはじめるサクラと純太。      │
│ どさくさにまぎれて、広夢も犬たちと一緒に走りだす。          │
│「あっ、広夢――――っ!!」                       │
│(今の、続きは?)                           │
│                                    │
│「明日花のバーカ、ここまで来たら教えてやる」              │
│ 照れ屋の男の子が、午後のお日さまの下で手を振った。          │
│「もーっ、広夢!?」                           │
│                                    │
│ 走りだすあたしの胸には、                       │
│ 今、お日さまよりもあたたかな愛がある。                │
│ ねえ、あたし達、                           │
│ みんな、愛されて生まれてきたんだよね。                │
│ だから心に、いっぱい愛をもってるの。                 │
│ だから誰かを、愛することができるんだね。               │
│ それを教えてくれた、男の子と犬たちの後を追いかけながら、       │
│ あたしは、心いっぱい叫んだんだ。                   │
│                                    │
│「ありがとう。                             │
│ 大好きだよ――――!!」                        │
└────────────────────────────────────┘
 ラストシーンです。いいなあ。心があったかくなって満たされた。テーマは単純だ
けど、話は結構複雑。子犬との交流といじめからの回復と恋人を見つける話。
 ぼくが以前行っていた純文学のサークルに、この手の類の作品を持っていったら馬
鹿にされそうだ。けれど、ジュニア小説って結構描くのは難しいとおもうなぁ。


┌────────────────────────────────────┐
│ また剣は柄に、サークレットは中央のちょうど額に当たる箇所に、それぞれ透│
│き通った水晶の珠が填まっていた。                    │
│ いわば装飾性と実用性が見事に調和した古遺物だ。            │
│「ついに」                               │
│ 老人は低くつぶやいた。                        │
│「ついに……この時が来たか」                      │
│ ロープの袖が持ち上がり、細く筋の浮いた枯れ木のような腕が覗く。    │
│ と思うとその指が思いがけないほどのなめらかさをもって流れるように動き、│
│いくつかの印を空中に次々と結んだ。                   │
│ 印を結び終えると、老人は両手をそのまま胸の前で組み、視線をわずかに動か│
│す。                                  │
│ 剣とサークレットのむこう、壇中央の鏡をみた。             │
│ 蔓草をかたどり彫られた枠の中、ぴたりと填まる楕円の鏡。        │
└────────────────────────────────────┘
 丘野ゆうじ「異界の旅人」(集英社スーパーファンタジー文庫)の序章のシーンの
一部分です。
          http://www.geocities.co.jp/Bookend/8622/index.html

┌────────────────────────────────────┐
│ 京也は早稲田にいた。目白台の自宅から、いちばん近い鶴巻町の「橋」を渡っ│
│て「魔界都市」へ入ったのだ。時刻は午前二時。この一時問ほど前にさやかが妖│
│鬼たちに連れ去られたのだが、無論、京也は知らない。           │
│ 彼は憤慨していた。                          │
│「なんつうこった。どこのホテルも店を閉めてやがる。夜になったら化け物が娘│
│をさらいにくるとでもいうのか。もっともおれはその化け物の相手をしにきたん│
│だが」                                 │
│ どこかピソトのはずれた怒り方だが、あながち的はずれでないことは後でわか│
│る。                                  │
│「魔界都市」といっても、新宿の住人すべてが犯罪者ややくざもののわけではな│
│い。魔震のときに九死に一生を得て、もとの土地に住んでいる人たちもいれば、│
│死亡した人の親類縁者が移り住んでくる場合もある。そういう人たちは、自然に│
│、物騒な連中が幅をきかせているところを避けて集まるから、そこには「魔界都│
│市」の数少ない安全圏が形成される。もと早稲田大学の周辺は、その「安全地帯│
│」のひとつだった。                           │
└────────────────────────────────────┘
 菊地秀行「魔界都市〈新宿〉」(ソノラマ文庫)のPART4の冒頭部分です。
      http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Pen/6797/k_index.html  


 これらの描写たち。
 折原みとは一人称で心理的思い入れたっぷりの視点を選びました。
 丘野ゆうじと菊地秀行は三人称の視点。丘野ゆうじはよりそう視点。菊地秀行は神
の視点ですね。

 これら、分解してみればちゃんと心理描写、行動描写、説明、会話と、小説の法則
に則って描かれています。(当たり前か)その描写のやり方なんだ。読者を意識して
為されている。それで極端な省略や、独特の語り口が生まれてくる。

        ──────────────────────

 なぜか?
 それはこういうことだとおもう。

  ┌─────────┐             ┌───┐
  │エンターテイメント│ ←─────────→ │純文学│
  └─────────┘             └───┘
   ファンタジー性強い           リアリティ(現実)性強い
    読者寄りで語る              作者寄りで語る
      物語                    事件
    話者が自由                話者は現実の枠組の中
    テンポを優先                テンポより表現
    描写を簡略化                細密な心理描写
   単純化されたテーマ             複雑化されたテーマ
     類型化                    個別化


 こういうふうに図を描けばわかりやすいのではないでしょうか。
 たいがいの小説はこの図の間のどこかに位置しています。

 基本的に、エンターテイメントでも純文学でも、作品としての重要性は変わりませ
ん。「伝えたいもの」を「伝えていたら」それはいい小説なんです。
 小説の部品も変わらない。描写と説明と会話です。それらの並べ方(構成)、そし
て語り口なんです。


「どういう描写をするか?」ということは、

   1 現実のリアリティに重きを置くのか、それとも、
   2 物語を「語る」ことに重きを置くのか、
                           ということでしょう。

        ──────────────────────


 それは優れて、話者の視点(物語か現実か)の在り方なのです。
 話者の「小説=お話」への視点が、物語を物語ろうという方向を向いているのか、
現実のリアリティを大事にするのか、ということ。

 そして、作者がテーマにどう対処するかということが、小説の設定を決めるでしょ
う。 作者がテーマをどう料理するか。

      1 どういう設定で?
      2 どんな構成で?
      3 どういう話者で?
      4 もちろん、個々のエピソード、素材(モチーフ)を。

 そこから描写のレベルが決まってきます。

 リアリティがあったほうが、作者の「伝えたいこと」を伝えやすいか?
 物語的に語った方が、作者の「伝えたいこと」を伝えやすいか?

        ──────────────────────


 ぼくたちは、自分の好きな作家の影響を受けるものです。たぶんそれが自分にぴた
っと合った描写だからでしょう。
 たとえば、ぼくでいえば、高村薫、中上健次、立松和平、桐野夏生という、リアリ
ティのある作家の系列。
 そしてもうひとつの系列。透明感のある少しおさえた描写の――加納朋子、江國香
織、北村薫、吉本ばなな、重松清。

 それらの作家から描写を学ぶこと。
 手で原稿用紙に書き写すのは、いちばん近道の訓練らしいですよ。

        ──────────────────────

 この号はこれで終わりです。ごめんなさい。また偉そうに書いてしまいましたね。
 いちおう、小説ってなんだろう、なんて考えるから、こんな書き方になってしまう。


 しばらく、粗筋を書いてそれを描写や説明に移行させていく道筋を考えたい。
 そうすれば小説を書いていて詰った時に、「ああそうだった」とあわてなくて済む
のでないか? そんな虫のいいことを考えています。

 いや、いや、そんなん、できるかどうかわからないけど、次号は村上春樹の「蛍」
を解剖してみたいのです。ぼくなりに。
 では、また、です。

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2001年6月17日                        〈毎日曜日発行〉
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   ☆彡..*.・'                   ┌──┐
          小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃応用編│75号│
          ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛   └──┘ ★彡.・'
        悪戦苦闘! おもしろい純文学を書くために、
             「描く」技術を考える Mail Magazine
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                今週のテーマ
     ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
     ┃   粗筋とかプロットの原理は、やっぱり起承転結   ┃
     ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
         粗筋っていうか、「こんなの書いたらおもしろ
         いだろうな」っていうのは浮かびますよね。
         それをちゃんとした物語にしていくのはどうす
         るのか? 
       =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

 おはようございます。
 この一週間、いろんなことを考えていました。大阪児童殺傷事件で犠牲になられた
子供たち、先生のご冥福をお祈りします。残された子供たちの1日も早い心の傷の回
復をお祈りします。

 取り調べのなかで、犯人が罪を免れようと精神障害者を詐称したということが明ら
かになってきたようです。

 今回ほど「精神障害者」という言葉が踊ったことはありません。「精神を病んでい
る人は危険だ」という偏見が助長されるのが怖い。ほとんどの精神障害者はおとなし
く、世間や人間に対して傷つきやすいナイーブな人たちです。ぼくは躁鬱病のひとや
分裂症のひとと知り合いだけれど、普通につきあえる人たちですよ。調子の悪いとき
があっても、自覚してはるみたいだし。

 ぼくは一週間「言葉」について考え続けてきました。
「精神障害者」と一括りにすることなんていけないことです。その言葉だけで分かっ
た気になってしまう――それぞれが別々の想いやイメージを持っているはずなのに。
一括りにされてしまうと、与えられ作られたイメージができあがってしまう。それは、
すごく危険なことです。
 あえて言えば「精神障害者」などはいない。それぞれの精神の病と付き合っている
個人はいるけれどね。みんな病状も違うし個性も違う。ぼくらがそれぞれ違い、それ
ぞれの生き方をしているように。それは普通のことでしょう?
 レッテルを貼ると、わかったような気になって、自分と関係のないものとして遠ざ
けてしまう。

 これはいろんな言葉についてもいえるでしょう。「構造改革」についても。「若者」
についても。「オヤジ」や「ギャル」や「豊かな生活」や「ホームレス」についても。
強烈なイメージを与える言葉の怪しさ。ほんとうは具体的な、その内容が大事なんだ。

 ドアを開けて廊下に出ると、突き当たりの窓の下に置かれている椅子の上で、3日
前から黒猫が丸くなって眠っています。近づくと顔を上げる。猫はいいなあ。猫のよ
うに生きたい。

  -------------------------------------------------------------------------


 ごめんなさい。粗筋の話です。粗筋から描写を生み出す過程を見たい。

 粗筋(プロット)を生み出すときどうされていますか?
 まず、書きたいシーンなど、頭に浮かんでくる。そしてそのシーンに到達するため
に、起承転結で物事を考える。

 ぼくは、いろいろ考えたんだけれど、けっきょく、結論として、ぼうっとした粗筋
からそれを細かくして描写に至る道は、起承転結の原理を応用すればいいんだと考え
ました。
 他にもいろいろ方法はあるかもしれないけれど、もしよければ、また、掲示板に書
き込んでくれたらうれしいです。


           ────────────────


 村上春樹の「蛍」(新潮文庫=蛍・納屋を焼く・その他の短編から 1987年)は、
もちろん、「ノルウェーの森」のもとになった作品です。原稿用紙64枚です。

 テーマは――喪失。コミニュケーションの不全。
 村上春樹論については、立派な論考があるので、ここにどうぞ。
            http://www1.odn.ne.jp/~cag90060/mh/mhrvpt.htm
 また加藤弘一さんの批評は秀逸です。
            http://www.horagai.com/www/txt/haruki2.htm

           ────────────────

 話はわりと単純です。うまくコミュニケーションできない女の子のことを、まず、
村上春樹は書きたいとおもったのでしょう。
 そして時代背景として、あの時代を持ってこなければならなかった。
 そこから「学生寮」が生まれてくる。後にこれはノルウェーの森において、さまざ
まな登場人物を生み出すことになります。

 村上春樹の小説は、優れて、心理のカウンセリングの構造をプロットに持っている
ようです。
 出会いと別れ。喪失と悲しみ。ここでは恋愛とも呼べない淡いふれあいが描かれま
す。出会った時から別れるまでの。

 蛍は象徴的な意味を持っています。最後に蛍を夜に飛ばすシーンを描こうとおもっ
た時に、蛍をくれる同居人という存在が必要だった。
 彼女が静で陰性なら同居人は動で陽性な存在。同じ心理的トラウマの持ち主ですけ
れど。そして僕も心理的トラウマを持っている。「深刻に考えないようにすること」
です。

 僕―― 彼 ――彼女。
 僕――同居人――彼女。

 小説のテーマは、登場人物の関係性としては、同類項のフォームをとるんですよ。

 この潔癖性の同居人を頭の中で創造しえた時、「書ける」と村上春樹はおもったこ
とでしょう。

 恋愛の話――出会ってから別れるまでを書こうと決めた。
 登場人物は、僕、彼、彼女、同居人。

(起) まず、彼女との出会いを書こう、いや、それなら同居人が先か?
(承) そして彼女とのデート。季節ごとに親密になっていく。
    彼女の誕生日――泣く彼女。僕は彼女を抱く。
(転) 彼女から手紙が来る。
(結) 蛍を放つ。

 設定は――象徴としての蛍。何も告げない自殺。
 トラウマとしての――潔癖性。歩き続ける、喋り続けること。友だちがいないこと。
 小道具として、夜の国旗。地図、ラジオ体操。空気の物質化。手紙。……


           ────────────────

 村上春樹は構成を、学生寮→同居人→彼女との出会い→回想→デート→誕生日→手
紙→蛍を放つ、としました。

 もちろんどこから始めてもいいわけですが、「宿命的な時間の流れ」と「喪失の必
然性」を際立たせるために、前号の表でいう「物語」の方向で語るほうがいいとおも
ったのでしょう。読者にとっては極めて自然に受け取れる「物語形式」の時間の流れ
です。

┌───────────────────────────────┐
│まず、学生寮のことを書かなければならないから、出だしは決まる。│
│同居人の登場。                        │
│                               │
│同居人の話を彼女にしたこと。                 │
│彼女のその時の様子。                     │
│                               │
│回想。僕と彼。彼の自殺。                   │
│「死は生の一部として存在している」              │
│「深刻に考えないようにすること」               │
│                               │
│デートの進行。                        │
│                               │
│彼女の誕生日の夜。コミュニケーション。            │
│                               │
│手紙。                            │
│蛍。                             │
└───────────────────────────────┘

 そしてそれぞれの内容――具体的に描写(語る)する事柄を考えていった。
 ひとつのシェークンスに対して起承転結で考えていくのです。



【起】=学生寮のこと
       ┌─────────────────────────────┐
      起│学生寮に入っていた。その理由は――            │
      承│寮は高台に立っていた。門をくぐると――          │
       │中庭に入る――棟                     │
       │本部もある。緑の芝生。                  │
     転結│右翼的な人物の財団法人の運営。でも日常生活には変わりない。│
       └─────────────────────────────┘

   =同居人の登場
          ┌──────────────────────────┐
         起│一日は国旗掲揚から始まる。             │
          │寮長の役目でこの男は――その様子。         │
          │窓からそれを眺めた。「君が代」が流れ――      │
          │夕方も同じように――                │
          │国旗は夜は仕舞い込まれる――国家って……      │
         承│部屋割り、二人部屋。                │
          │部屋の様子。                    │
          │怖ろしく汚い。                   │
          │だが、僕の部屋は清潔。同居人が異常なまでに清潔好き。│
          │○同居人との会話                  │
          │ 地理学。演劇。目的とするものを巡って……     │
          │彼の服装、話の内容。                │
         転│彼は「君が代」とともに起き洗面、ラジオ体操。    │
          │跳躍――とても眠れない。              │
         結│○ラジオ体操、跳躍を巡る会話            │
          └──────────────────────────┘

【承】=同居人の話を彼女にした
   =彼女の様子
       ┌─────────────────────────────┐
      起│同居人のことを話すと彼女はくすくす笑った――       │
       │線路脇の土手を歩いていた。テニスコート。         │
       │ベンチに座って話し込んでいる修道尼――          │
      承│彼女の服装、トレーナー(思い出せない)          │
       │○共同生活を巡る会話                   │
       │半年ぶり――彼女は痩せていた。              │
       │偶然出会い、目的もなく電車を降りて歩いていた。      │
       │直子は前を歩き、時々話しかけた――内容がわからないことも。│
      転│駒込に来た。                       │
      結│○会話                          │
       │ どうして此処に                     │
       │ 送らなくてもいい                    │
       │ うまく喋れない。もう一人の自分。            │
       └─────────────────────────────┘

   =回想。僕と彼。
           ┌─────────────────────────┐
          起│高校二年生の春の初めての出会い。友人の彼の恋人。 │
          承│彼、僕、彼女の関係。               │
           │彼はホスト役。                  │
           │僕と彼女には共通の話題がない。          │
         転結│彼の葬式の後で会った時、僕に腹を立てているよう――│
           └─────────────────────────┘

   =深刻に考えないようにすること
       ┌─────────────────────────────┐
      起│彼と最後に会ったのが僕だったからか……          │
      承│ビリヤードで遊んだ。                   │
       │彼はその夜、自殺。                    │
       │事情聴取されたが……                   │
      転│あらゆる出来事を深刻に考えないようにすること、だが、   │
       │「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している」│
       │           それを空気のように感じた。     │
       │それまで死を分離したものとおもっていた。         │
       │だがあの夜以来――死は僕の中にある。           │
      結│それがわかり、深刻に考えないようにした。         │
       └─────────────────────────────┘

   =デートの進行
            ┌────────────────────────┐
    起       │それから月に二度ほどデートをした。       │
    承       │我々はただひたすら歩いた。           │
            │夏休みが終わるころには彼女は自然にぼくの隣に――│
            │秋の終わり。彼女の求めているものは誰かの腕―― │
            │彼女の目は透明                 │
            └────────────────────────┘
                ┌────────────────────┐
                │寮の連中は僕に恋人ができたと思いこんだ。│
                └────────────────────┘
     ┌───────────────────────────────┐
     │そのようにして僕の18歳は過ぎていった。何にもなりたくなかった。│
     │そんな気持ちを彼女に話そうとしたがうまくいかなかった。    │
     │土曜日の夜のロビーの椅子に座って――             │
     └───────────────────────────────┘
               ┌─────────────────────┐
               │冬のレコード店でのアルバイト。プレゼント。│
               │正月。彼女のアパートで。         │
               │1月の末に同居人が熱を出した。      │
               │○同居人との会話             │
               │2月。喧嘩。               │
    転結         │19歳になった。僕。彼女。         │
               └─────────────────────┘

   =彼女の誕生日の夜
            ┌────────────────────────┐
           起│6月に彼女は二十歳になった。死者だけが17歳。  │
           承│彼女の誕生日に部屋で。「二十歳になるなんて……」│
            │彼女はよく喋った、喋り続けた。         │
            │11時。「あまり遅くなっても……」 喋り続ける。 │
            │突然、もぎ取られ終わる。            │
            │「邪魔するつもりはなかったんだ……」      │
            │彼女は吐くように泣いた。            │
            └────────────────────────┘
                  ┌──────────────────┐
           転      │その夜、彼女と寝た。        │
                  │どうして彼と寝なかったの、と尋ねる。│
                  └──────────────────┘
                  ┌──────────────────┐
           結      │朝になると……彼女はまだ眠っていた。│
                  │部屋の様子。            │
                  │メモを書き、部屋を出た。      │
                  └──────────────────┘

【転】=手紙
                ┌────────────────────┐
               起│電話はかかってこなかった。手紙を書いた。│
               承│7月の始めに返事が来た。        │
                │○療養所に               │
                │ 気にしないでください。感謝。     │
                │やり場のない悲しみ。          │
              転結│ロビー。僕とテレビのあいだの空間。   │
                └────────────────────┘

【結】=蛍
                          ┌──────────┐
                起         │同居人が蛍をくれた。│
                          │○会話       │
                          └──────────┘
                    ┌────────────────┐
                承   │日が暮れると、寮はしんとした。 │
                    │屋上に上がった。        │
                    │瓶の底で、蛍は微かに光っていた。│
                    │死にかけているのかもしれない。 │
                    │僕のその時の記憶は……     │
                    └────────────────┘
                         ┌───────────┐
                         │夜の水音……     │
                         │どこだったのだろう。 │
                         │深呼吸。風。夜。   │
                転        │瓶の蓋を開け……   │
                         │蛍の姿を眺めていた――│
                         └───────────┘
                 ┌───────────────────┐
                結│飛び立ったのはずっとあとのことだった。│
                 │その光の軌跡は僕の中に残った。    │
                 │闇のなかに手をのばしてみた……    │
                 └───────────────────┘


           ────────────────

 そして、それぞれのトピックセンテンスの内容をまた、起承転結で考えていきます。
 それは73号で書いたことです。

 この起承転結は、ぼくが勝手に便宜上つけたものです。正確じゃありません。
 それに起承転結は序破急でもいいわけだし、なにもこれが転、これが結、なんてや
る必要はないわけです。すごく緩やかでいい。


 もちろん、こんな詳細な粗筋を作って書き出すなんてことはないでしょう。
 でも、こういうふうに起承転結の関係性を描き出すとわかりやすいでしょう?
 粗筋を考える→描写へ、と作っていくための考えるヒントになるのじゃないでしょ
うか。

 誰もが、頭の中では、プロットを作るためにこの原理で考えているはずなんです。
意識しないだけでね。


           ────────────────

 長くなりましたので、今回はここまでにします。
 もう少し、粗筋から→描写への方法を考えてみたい。他の作家の小説をみて。
 次回はカート・ヴォネガットを取りあげようとおもっているんですが……そんな、
そんな、今回のように粗筋を全部書くようなことはしません。(^o^; 2、3の作家を
みてから、プロットについて考える応用編は終わりにしたいとおもいます。

 それが終われば、描写編(描写するための技術)を書く予定です。
         ●心理学から人物の仕草を学ぶ――人物造型のために
         ●短文の積み重ねで描写する
         ●文体? 語尾の変化の重要性
         ●……
                    などというのをテーマに考えています。

 今回も読んでいただけて感謝しています。<(_ _)> ありがとう、また日曜日に。

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2001年6月24日                        〈毎日曜日発行〉
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   ☆彡..*.・'                   ┌──┐
          小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃応用編│76号│
          ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛   └──┘ ★彡.・'
        悪戦苦闘! おもしろい純文学を書くために――
           「描く」技術を考える Mail Magazine
─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
                今週のテーマ
     ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
     ┃          自由な語り手!          ┃
     ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
        カート・ヴォネガット・ジュニアは自由奔放に語る。
         こういうふうに語れたら気持ちいいだろうな。
          それって、どうすればいいんだろう?

    おはようございます。また読んでいただいて感謝しています。<(_ _)>
       --------------------------------------------------

 カート・ヴォネガット・ジュニアを読まれたことがありますか?
 このすばらしいURLで全体像がわかります。

     「カート・ヴォネガット非公式ページ」
          http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2382/index.html
     「so it goes」
          http://www.members.tripod.com/~sanaes6/kvj1.html

 そう、ヴォネガットの影響は村上春樹の「風の歌を聴け」1979年、にもみることが
できます。
 余談だけれど、このへんから日本の純文学は変わった、というエッセイを読んだこ
とがあります。それまでフランス文学やイギリス文学やロシア文学から学んできた日
本の文学は、アメリカ文学の方へ歩み寄った。「物語」の方向へ踏み出したんだと。
               (うろ覚えなので正確じゃなかったらごめん)


 ほんとうを言うとね、ぼくがヴォネガットを知ったのは「風の歌を聴け」の評論を
読んだからなんです。
「スローターハウス5」を読んだときはぶっとんだ。
 この段落ごとに区切られた空白。物語の時間を自由に操作できる力。すごい。それ
でいて読みやすい。
 後書きにもこう書いてある。「時の流れの呪縛から解き放たれたビリー・ピルグリ
ムは、自分の生涯を未来から過去へと遡る、奇妙な時間旅行者になっていた」
 この卓越した設定。

 確か映画にもなりましたよね。ずっと若い頃、見ました。
 たぶんビデオ屋さんにあるとおもう。

           ────────────────

 短い「章分け」「段落分かち書き」(変な言葉ですみません)の機能をこれだけ目
いっぱい使う書き方には驚きます。そんな小説をそれまで読んだことがなかった。前
衛的な作品では、あります。でも、これだけ話としておもしろくて、物語の構造がし
っかりとしているものは。

 多くのヴォネガットの小説がこういう形式をとっています。


           ────────────────

 とてもこの巨大な作家の世界の解釈や評論をする力量は、ぼくに無い。

 初心者として、そこから描き方を盗みたい。村上春樹のようにね。そしていつかは
自分の描き方に到達できるようになりたい。

           ────────────────


 閑話休題。
 職人さんは、先輩のやり方を見て盗む。誰も教えてくれないので真似るしかないの
です。
 そして、芸術は模倣だ。
 いちばんいいやり方は、自分の好みの作家の作品を書き写すこと。そうすれば体が、
その文章のテンポや語り口、構成の案配や描写の機微を覚えてくれる。何度も何度も
わかるまで書き写すことが上達への近道でしょう。
 頭で理解することも意味はあるけれど、最終的には手が勝手に動くようになるまで
体を使って憶えること、それしかない。


           ────────────────

 だけどヴォネガットを安易に模倣することは危険だとおもう。力が無いのに真似す
ると、形式だけで内容のないものになるだろう。
 これはヴォネガットだけが使える専売特許のようなものだ。

┌────────────────────────────────────┐
│ 四月には、ロイが手術不能の脳腫瘍に罹っていると診断された。こうして“世│
│紀の大自然クルーズ”は、彼の唯一の生きがいとなった。「すくなくとも、それ│
│までおれはがんばれると思うよ、メアリー。十一月――そう遠い先の話じゃない│
│、そうだろう?」                            │
│「そうよ」と彼女はいった。                       │
│「それまではおれも生きられるさ」                    │
│「まだ何年も何年も生きられるわよ、ロイ」                │
│「とにかく、あのツアーにだけは行きたい」と彼はいった。「赤道のベンギンを│
│見たい。それだけでおれは充分だ」                    │
│                                    │
│                ●                   │
│                                    │
│ ロイのまちがいはますます多くなっていたが、ガラパゴス諸島にべンギンがい│
│るという言菓は正しかった。ガラパゴスのベンギンは、給仕長の衣装をまとって│
│はいるものの、やせこけた鳥である。それでなければ生きていけない。もし、世│
│界の半分むこうで南極の浮氷の上に住む親戚のように、厚い脂肪に包まれていた│
│ならば、岸に上がって溶岩の上で産卵したり、雛を育てたりするあいだに、強い│
│日光にあぷられて死んでしまうだろう。                  │
│ コバネウとおなじように、彼らの先祖も、やはり飛行の魅力に背を向けた――│
│そしてその代わりに、より多くの魚をとるほうを選んだのだった。      │
│                                    │
│                ●                   │
│                                    │
│ 百万年前、できるだけたくさんの人間活動を機械に譲りわたそうとしたあの謎│
│の熱狂について――これこそ人間が自分たちの脳はまったくのできそこないであ│
│ると認めた、その証拠のひとつでなくてなんだろうか?           │
└────────────────────────────────────┘
             「ガラパゴスの箱船」ハヤカワ文庫P53、54

 のような描き方です。
 段落のあいだの飛躍――よほど物語の構成がしっかりしていないと出来ないのでな
いでしょうか?

           ────────────────


 小説が小説である限り、部品は同じ。
 部品の機能と内容も同じはずです。会話。説明。描写。

 じゃ、ヴォネガットの小説は他の小説とどこが違うのでしょうか?
 形――構成の仕方が違う。
 普通の小説の起承転結の流れで捉えられない重層的な構造になっています。


           ────────────────

 普通の小説は、

        ┌───┐  ┌───┐  ┌───┐
プロローグ───┼───┼──┼───┼──┼───┼─────→エピローグ
        └───┘  └───┘  └───┘      
        エピソード  エピソード  エピソード

 ファーストシーンからラストシーンまでひとつの流れを持っています。エピソード
の串団子を作りながら。
   ┌────────────────────────────┐
   │現在時のエピソードと、過去のエピソード(小過去、大過去)│
   └────────────────────────────┘
 とのあいだを行ったり来たりしながらも、基本的には現在時を主に描いています。
基本的にはひとつの事件にまつわる話だ。




 もちろん、ヴォネガットの小説も原理は全く同じなのですが、これが極端に歪めら
れている。極端な飛躍を持ち込んでいるんです。


         エピローグ   / \  プロローグ
                /   \
               /      \
             /         \
            /           \
           /             \
           ─|           |─
          ┌─|─┐ ┌───┐ ┌─|─┐
   第3の物語──┼─|─┼─┼───┼─┼─|─┼─────→
          └─|─┘ └───┘ └─|─┘ 
          ┌─|─┐ ┌───┐ ┌─|─┐
   第2の物語──┼─|─┼─┼───┼─┼─|─┼─────→
          └─|─┘ └───┘ └─|─┘ 
          ┌─|─┐ ┌───┐ ┌─|─┐
   第1の物語──┼─|─┼─┼───┼─┼─|─┼─────→
          └─|─┘ └───┘ └─|─┘ 
            |           |

              ─────────
               物語の時間表
              ─────────

 ヴォネガットの語り手は、第1の物語、第2の物語、……とたくさんの話の時間を
自由に行き来して語るんだとおもうんです。
 語られるために自由に配置されたエピソードは複雑な時間軸を作り出します。
 まったく現実の時間の流れに囚われていない。

 絡み合った重層的な時間。
 そこから現実をアイロニカルに見直し、再構成する。
 それはより高い物語=世界を作り出します。

 時間の因果関係を超えて自由に人生の物語を構成し直すこと。それこそ、ヴォネガ
ットの語り手の視点であり思想となっている。

 こんなに自由な語り手!

           ────────────────


 ぼくはヴォネガットの小説は読んでいますが、いい読者じゃない。
 というのは、この巨大な作家に圧倒されるばかりで、到達することなどとうていで
きないとおもうからです。
 読んでいるだけで楽しいです。ほんとうに遊ばしてくれる。
 純文学の深刻さ(ほんとはヴォネガットのほうが虚無的だ)みたいなのがない。ぼ
くの場合、圧倒的に手放しで何でも受け入れちゃうので、好みじゃない人とは話が合
わないかもしれませんね。(^o^; 

           ────────────────

 ごめんなさい。配信が遅れてしまいました。
 この1週間いろいろあって、お酒に溺れておりました。昨日は友人が訪ねてきたし。
 次回のテーマは決まっていません。これから考えます。
 では、また日曜日に。

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2001年7月1日                        〈毎日曜日発行〉
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   ☆彡..*.・'                   ┌──┐
          小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃応用編│77号│
          ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛   └──┘ ★彡.・'
        悪戦苦闘! おもしろい純文学を書くために――
           「描く」技術を考える Mail Magazine
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
                今週のテーマ
   ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
   ┃独り独りの現実の人生の物語を、ひとつの小説の物語に再構成しよう┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
        自分の身近にいるひとりひとりの人生の物語を知ろう
              それらは小説よりも大切
             ぼくらはそこからしか学べない
             人生という枠の中に囚われた物語
     小説を書ける人のできることといったらそれを空想で解き放つこと


       --------------------------------------------------      
 おはようございます。

 72号から「粗筋(プロット)を作る」ことを考えてきました。
 75号は村上春樹の「蛍」を分析。76号はカート・ヴォネガット・ジュニアの小説の
書き方を考えた。どうプロットを作るかが多少具体的になってきています?

 前号の76号でこう書きました。
「カート・ヴォネガット・ジュニアは、第1の物語、第2の物語、第3の物語……と
多くの抽斗を持っていて、たくさんの物語のあいだの時間を自由に行き来して、書い
ている」のじゃないか?(詳しくいうとそういうこと)

 もちろん、段落分かち書きになるのは、自由な語り手の、記憶のおもむくままに繋
いでいくから。

           -----------------------------------

 それで考えていて、こういうことに気づいたんです。
┌────────────────────────────────────┐
│    登場人物それぞれの(人生の)物語を知っておくことは大切だ    │
└────────────────────────────────────┘
┌────────────────────────────────────┐
│       それらが関わり合い、ひとつの物語=小説になる       │
└────────────────────────────────────┘

(登場人物がどんな奴で、その話のなかでどんな役割をするのか)を徹底的に考えな
くてはならない――っていうのはプロット作りの鉄則なんだけど。
 考えたことは、登場人物はみんな人生の物語を持っているということを、具体的に
わかっていたほうがいいということなんです。

          -----------------------------------


 小説のプロット作り――
 それは小説作法編の27号34号までを読み返していただければいいんだけれどね。
          (ぼくも時々、読み返しております(^_^))
 そこに構成するという技術的なことは書いたつもり。それに、他の小説作法の本か
らもたくさん構成作りの技術的なことは学べるしね。

 こんなメルマガを書いていてなんだけど……
   ┌────────────────┐
   │小説は技術だけを知っても書けない│というのは本音としてある。
   └────────────────┘
 もちろん、技術は大切。考え方やもの作りの基本だ。
 世界観だって「いかに考えるか」という哲学の技術があってこそ、です。


 でもね、「こんな話を書きたいよ」って小説を構想するときに、登場人物を作ろう
としますよね。そのときに、何を手掛かりにします?
 読んだ本の、心に強烈に焼き付いた登場人物のイメージから?
 自分が見聞きし、体験し、そこから想像しえるところから?

 それも大事だけど、37号の身上調査書を作り出すのはたいへんだ。
 それに危険なことは、これを作り出すのに疲れてしまうことだ。
 それを作り出したら、小説作りの大半が終わったように思い込んで。ほんとうはこ
れからなのにね。(^_^) 


          -----------------------------------

      ┌─────────────┐
 で、ぼくは│身近にいる人、知っている人│の人生を考えることを、お奨めします。
      └─────────────┘
 (これは自戒をこめて。……ぼくはあまりにも自分勝手な人生を生きてきたから)


 自分も含めて、そういう、人の人生を考えることがほんとは根本的なことなんだ。
 小説を作ろうとして、登場人物のことを考えるより優先されるべき事だとおもう。

          -----------------------------------


                   ┌───────┐
 小説の登場人物でないぼくらは、現実に│人生という物語│を生きています。
                   └───────┘
「人生の物語」という考え方は心理学でいわれているんだけれど、ここにURLを。
 
        「交流分析」では人生の脚本という考え方。
         エゴグラムのページはここ。
        http://www.geocities.co.jp/MotorCity/2486/ego/koryu.html

        『近代日本における「人生の物語」の生成』もヒントになる。
        http://faculty.web.waseda.ac.jp/ohkubo/jinsei.html


 身近な人。たとえば両親――父の、母の、兄弟の、姉妹の――物語。
 友だち。近所のおばちゃん。いつも行くスーパーの店員、道で出会う人。電車で。
駅で。みんなそれぞれの人生の物語を生きている。
 それぞれ、どれだけバラエティに富んでいることか。
 どれだけの人生が、そこにあることか!

 そういう自分の生きている範囲の人への想像力が、小説よりも大事だろうとおもう。

 自分が作り出す小説の登場人物なんて何ほどのものでもない。現実に「人生という
物語」を生きている人々に比べたら。


          -----------------------------------

 小説の登場人物を作り出そうなんて、傲慢なこと。
 もちろん技術論的にはあるし、そう、いろいろ工夫したやり方で小説の登場人物は
作り出される。それは、あり、です。そうしなければならない。

 ぼくの言いたいことは、現実の人生を生きている人の物語を考えるほうが、有効で
はないかということです。ぼくなんかの想像力を超えたものがそこにある。
 そういうひとの人生を小説に登場させるほうが本物じゃないか。

 ――モデル。
    ┌─────────────────────────────┐
    │現実の人生の物語をモデリングして、小説のなかに生かすこと。│
    │そこから学び、方向を与え、現実を再構成すること。     │
    └─────────────────────────────┘
 


            ----------------------------

 想像してみます。
 村上春樹は「蛍を放つ」という着想(モチーフ)を得て、小説にしようとおもった。
 どういうふうに小説にしようか?と考えた――設定と語り口で決まるけれど。

「まず、主たる登場人物はどうしよう……」と。
 その時思い浮かんだのが、直子。村上春樹の世界の核になっているコミニュケーシ
ョンがとれないで自殺した女の子です。
 この子が現実の身近にいた女の子であろうとなかろうと、村上のなかではリアリテ
ィがあった。
 そして(語り手としての)ぼくとの関係を考えるときに、彼(キズキ)がいる。
 突撃隊――潔癖性の同居人も。

 身近にいる人、見聞きした人、あるいは心に残っている人、それら村上のなかでリ
アリティの感じられた人たちから登場人物が選ばれた。

            ----------------------------

 これらの登場人物は「ぼく」も含めて、モデルなんていないのかもしれない。ある
いは村上の身近な人たちだったのかも。
 でも大事なことは、書こうとした作者のなかでリアリティある存在としてあった、
ということでしょう。

            ----------------------------

 そして誰をモデルにして小説の登場人物を作るにしても、その登場人物にも人生の
物語がある。
 現実の人間に自己史という物語があるように。

            ----------------------------


 それをわかった上で、村上春樹はそれぞれの登場人物の物語を、プロットという形
で再構成しているのです。

 小説のなかのシーンは、その人生の物語のワンシーンを切り取ったものだ、とおも
います。
   ┌────────────────┐
   │登場人物は人生の物語を生きている│と考えたのが、結論。
   └────────────────┘

            ----------------------------

 こう考えることで、小説というものが、現実のそれぞれの人々の人生の物語に対し
て、リンクする。そうおもうんです。

 小説というお話を考えすぎないようにすること……
 だって、現実のほうに物語はあるんです。作り話でしかない小説の物語より強力な。
 残酷で恐怖に満ちた現実や、落ちついていて静かで愛おしい人間関係、卑小で悔い
の残る選択や、理想的な夢、遙かに複雑な……心の物語が。

 それから学び、組み立て、出会い、葛藤を解き放つこと。
 小説ってそんなふうなものだとおもう。


        ──────────────────────

 今週も読んでいただいてありがとう。
 プロット作りを考えてきた応用編も次号で終わります。
 78号のテーマは「自由に語っていいんだ」です。
 その後は「描写編」。描くときの実際の技を書いていくつもり。

 掲示板はリニューアルしていますので、書き込んでいただければ幸せです。

 暑いですからお身体に気を付けて、ご自愛を。
 では、また。(^_^)

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2001年7月8日                        〈毎日曜日発行〉
─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
   ☆彡..*.・'                   ┌──┐
          小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃応用編│78号│
          ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛   └──┘ ★彡.・'
        悪戦苦闘! おもしろい純文学を書くために――
           「描く」技術を考える Mail Magazine
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
                今週のテーマ
    ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
    ┃         自由に語っていいんだ         ┃
    ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
          こんなことしていても無意味じゃないか?
            おもしろくないんじゃないか?
            これじゃ、とても作家になれない。
              書けない自分はだめだ。
               そう思った時に――

       --------------------------------------------------

 おはようございます。
 
 大胆に、「自由に語っていいし、何を書いてもいいんだ」ってことを主張したいと
おもいます。
 自分を元気づけ、勇気づけるのは自分しかいない。書くのも自分。止まっていては
結局、何も生み出せない。
 うまく書けないとき、書くのに疲れてしまったときは一休み。
 最良のお薬は、好きな作家の小説を読むこと、書き写すこと。
 
 いつもね、「たかが小説、されど小説」なんだ。


           --------------------------------

 なぜ、だめだとおもうの? そんなの変だ。
 自分と他人を比べるからでしょう。

 まず、ぼくらが陥りやすい「結果主義」を批判します。
    ┌────────────────┐
    │結果主義は悲惨を導き出す間違いだ│
    └────────────────┘
 こういう競争社会では、ぼくらは結果主義に陥りやすいんだ。
 結果主義をとると、勝った者だけに価値がある。
 金を多く手に入れ、高い地位につき、人に賞賛され、人を従わせる者だけに価値が
あることになる。
 結果だけに価値があるなら人生に意味なんか無くなる。成功しなければ無駄で馬鹿
で無意味な生き方だから。
 それは変だ。そういうところでは心は何の役に立つだろう。


 新人賞を取ったり、作家になりたいという目標を持つのは当然のこと。
 でもどれだけの人が作家になれる?
 作家になりたいと新人賞に応募する人は、調べてみればいいけれど、ひとつの新人
賞で千人から数千人いるだろう。そのなかで賞を取る人はひとりだけ。
 競争と考えるとほとんどの人が「負け組」です。
 もちろん、新人賞を受賞したり作家になれたりするのは素晴らしいこと。
 でも、ほとんどの人が「負け組」になるなかで、そういう競争を小説を書くことに
持ち込み、こだわることに何の意味があるだろうか?

 文章がうまかったり、おもしろいと感じさせたり、感動を与えたりする作品を書け
る人が、たまたま選ばれて作家になったに過ぎないとぼくはおもっています。
 それはすごいことだ。
 でもね、そういうのって神様の僥倖なんだ。ほとんど運がよかったって世界だ。

 ぼくの言いたいことはね、新人賞を取ることや作家になることを権威として受け入
れて、そこから発想するな、ということなんだ。成功することだけを求めて、それを
すべての基準にするなということなんだ。そんな権威はいらない。

 文章がうまかったり、おもしろかったり、感動させたりする作品を書いている人は、
べつに商業的に認められた作家以外にもいるはずで、まず、君がそうなればいい。
 芥川賞に象徴される純文学的権威と、売れるのがすべてだっていう商業主義的権威
とのどちらかに、ぼくらはつい引きずられてしまう。
 でも、それを基準にしてもしかたない。自分から出発するんだ。

 比べるな!既成の作家と。
 それは書くことの本質じゃない。
 彼らは成功した。だからといって、あなたがそうしなければならない必要はないん
だ。とらわれるのは止めようよ。
 そりゃ、成功を望んでもいいけれど、そのことばかり考えて頭がいっぱいになると、
自分の書くことなんてとても見られたものじゃないと思えるし、いちばん嫌なことは、
いつのまにか、成功することを権威として受け入れてそれに同化して自分を見失って
しまうことだ。
 自分と同じように書いている人たちの作品を、成功していないということだけで、
けなし、否定することが生きがいになることだ。
 そんなの、おかしいでしょう。
 虎の威を借りる狐になるな!

 小説は文芸です。
 作家は単なる職業の一分野に過ぎないでしょう?
 基本的に売文業でしょう?

 ですから誰にでもできるはず――そう、技術さえあれば。
 言葉の職人さんだ、そう考えてこのメルマガを始めたんです。
 ちゃんと書くべきだし、こだわらずに技術を伝えるべきだし、教えてくれなければ
自分たちで始めようよ、そういう気持ちからメルマガを始めた。

 小説は「立派である」とか「素晴らしい」とか「成功した」とか「権威になる」以
前に、個人の「伝えたい想い」の表現でしょう。それが基にある文芸。

           --------------------------------

 小説で「勝ち残る」ことばかりに囚われると、自分の書くものを「それ」にあわせ
なくてはならない。もちろん、それが楽しい人はいいけれど、ぼくは結果主義は唾棄
すべきものだとおもっています。
「小説を“結果”から考えるのはやめようよ」そう言いたいですね。

           --------------------------------

「何を伝えたいか」「伝えられたか」が大事なんだ。
「新人賞をとることや作家になることだけに、価値があると思い込むことは間違いな
んだよ」

 ぼくらは小説を「書く者」の側だけから見るんじゃなくて、「読者に何を伝えられ
たのか」という謙虚な姿勢を持つことが大事だとおもうんです。

           --------------------------------

┌────────────────────────────────────┐
│なぜ、書いていて嫌になってしまうのだろう。ひとつは結果主義に陥ることと、│
│視野狭窄になってしまうことだとおもう。                 │
└────────────────────────────────────┘
 もっと自由に書こう。とらわれずに。
 起承転結は構成の基本だけど、そういう枠があるから、自由に壊したっていいんだ。
 もっと飛躍することも重要だ。

 小説の魅力は、いかに深くテーマをとらえているかでしょう。
 でも表面的には、《構成》と《描写・語り》の魅力でしょう。それに惹かれる。
    ┌──┐         ┌───┐
 自由に│構成│していいし、自由に│語って│いいんだ。 
    └──┘         └───┘
 作者は楽しんで小説を書くべきでしょう。そうでなくて、読者を楽しませることが
できるだろうか?

           --------------------------------

 76号に書いたように《カート・ヴォネガット・ジュニア》は自由に構成している。
 話者の思い出すままにエピソードが並べられ記憶が語られる。
 その語り方は斬新だ。【分かち書き】を大胆に持ち込んだ。


 シーンだけをピックアップして描いてゆく作家に《シドニィ・シェルダン》がいま
す。彼の展開の速さ、スピード感。読者を飽きさせないためにスリルを次から次へと
用意する。そして、わかりやすい。


 おそらく自由に描いているなと感じる作家はもっと多くいるでしょう。
《保坂和志》を知っていますか? 95年に「この人の閾」で芥川賞とった作家ですね。
 彼の小説では【日常の生活のあわいに流れる心理】のようなものを描いている。
 事件らしい事件はほとんど起こらない。
 小説の起承転結という枠を超えた「何か」を探し求めている。
      URLはここです。
              http://www.k-hosaka.com/

 例えば、こんな文章。「季節の記憶」(講談社 1996年)65ページ
┌────────────────────────────────────┐
│ 長い時間働いて人並み以上の収入を得ることは良しとして、逆に、収入は人並│
│みより少なくてもかまわないから働いている時間を短くしていたいという人間に│
│は文句をつけるというのは労働を美徳として疑わなかった時代の残り滓で、僕は│
│労働をいいことだとは思っていないから収入よりも暇な時間の方を選ぶ。   │
│ そういうわけで僕は蛯乃木の電話のあとは鎌倉駅の方まで行って、夕方は松井│
│さんの家で夕食を食べ、そのあいだ僕は昼間会ったナッちゃんという人の顔が誰│
│に似ているのか思い出せなくてなんだかずっと気になっていて、それに美紗ちゃ│
│んとももう少しナッちゃんの話をしたいとも思っていたが、松井さんが補修に行│
│ってきた家のものすごい違法建築の話がずっとつづいてしまってナッちゃんの話│
│題にはならなくて、そのうち食べ終わる頃に瀬霜さんという今年五十五歳になる│
│このあたりの自称“サーフィン第一世代”の人が遊びにきて、一度はじまると二│
│時間は絶対終わらないことで有名な瀬霜さんの湘南の昔話を聞いて(いつも半分│
│は繰り返しだけれど繰り返しの部分も含めて面自い)、そのあいだに美紗ちゃん│
│が息子の圭太を風呂に入れてくれたりして、十時すぎに帰っていつものように翌│
│朝のスープを作って、しばらく本を読んで、二時ごろ一度息子をオシッコに起こ│
│して寝た。                               │
│ そして次の朝はまた散歩に出るのだが、息子が「“急な坂”がいい」と言うの│
│で三人でしっかりした靴と肌を護る服を着て出た。             │
│急な坂≠ニいうのは車の道から東に枝分かれするとすぐに坂がはじまる道で、│
│そこから山に入っていく。坂は舗装でなくコンクリートで固めてあってそれが四│
│、五十メートルつづくのだが本当に転がり落ちそうに急な坂で、それを上りきる│
│と木の根が剥き出しになった急な坂″よりもっとずっと急な山の斜面があって│
│、枝や木の根や幹に絡まる一センチぐらいの太さのあるツルにつかまりながら十│
│メートルぐらい登ると、稲村ガ崎全体を囲んでいる山の尾根に出る。     │
└────────────────────────────────────┘

 非常に自然体で描かれています。まるで日常の何気ない風景を日記のように綴った
ようです。
 そう、事件らしい事件が起きなくても(じつは心理的には起きているのだが)小説
は描ける、という見本のようなものです。

           --------------------------------

《笙野頼子》も自由に語っています。
 FANサイトを見てください。
      http://members.tripod.co.jp/kimukana/

「てんたまおや知らズどっぺるげんげる」(講談社 2000年)61ページ
┌────────────────────────────────────┐
│ しかしなんですかこの元旦の朝早々から「群像」正月号ってものをいくら都合│
│良く(艮過ぎるわいっ)真ん中へんから開けたからって、これだけオノマトペエ│
│ーンド副詞っていうのは。手抜きなんでしょうか、――いえいえいえいえっ。絶│
│対になんとしてもこれらは、要るんだもの。                │
│ そういう事で必要は掟破りの母、っていうか要するに前作の思いっきり目茶苦│
│茶した「てんたまおや知らズどっペるげんげる」評判艮かったの。だから作者の│
│義務としては次に全然違う事をしてみなくてはならんからと思ったので書き出し│
│のところは意識的に文章変えてるの、でももしかしたらそれは書き出しだけで前│
│と同じ様子になってしまうかも判らないの。だけど変えようと思った事も本当だ│
│しもしも変えられなくって前と同じように書いてしまう結果となったらそれも本│
│当なの、自分の気持ちに忠実に生きただけなのって、なんかふたまた掛けて矛盾│
│に開き直る安易な無頼派の、依存丸出しの言いぐさに憧れてまねしているような│
│風合いでございますがっ、ええ、でもでもでもでもっ、創作天空バーチャル小説│
│それ自体の中に練り込まれた矛盾、そして図式とのずれ、これこそがこの小説を│
│動かすエンジンと申し上げても別に過言ではなーい。矛盾けっこうむしろ間題に│
│なるのは、「リアリティ」の欠如。また常識の欠如に対する「自己認識のなさ」│
│。ああ怖いたとえ一瞬たりともマニュアルに則ればたちまち地獄の底に落ちる恐│
│怖のお仕事。ファシズム系物語全盛のただ中にあり、ひたすら紋切り型ビームか│
│ら逃げまくりつつも、確保せねばならぬ、実感の追求。そもそもその点こそがこ│
│れ、「私小説」なり。って私小説論、いいえただのごたく。とはいうものの、「│
│え、こんなのが私小説、こんなのが現実」……はーい無理はない無理はない。な│
│んだか変ですよねー。つまりこれただ「私」という言葉の脳の中で動くさまを描│
│写しておるだけ、それをひとつふかして厭味で私小説と呼んでおるの。つまりそ│
│れ、「私小説」というより、「私のぐちゃぐちゃ」。で、このような私がはたし│
│てどこまであるやらないやら。「事実無根」は確かなれども、捨ててはおけない│
│、あっ、「先天未生」っの――脳内劇場。わけが判らないけどでもぐちゃぐちゃ│
│と動く。御存知、沢野座サイケ(死語じゃないのよまた流行するの)な、一人芝│
│居。そうそう、一人芝居、それが、どーんなに訳が判らないものなのか。ひとつ│
│、「見てやってください」。この矛盾だらけを。え、「矛盾、いーけーまーせー│
│んーなーあ」だって。その上「全然判らないよ要点をまとめて」だと。    │
└────────────────────────────────────┘

 笙野頼子はもともと語りの作家ですが、「私」の頭に浮かんだことをそのまま記述
するというところがあって、それがここでは極端なまでに押し進められています。ほ
とんどシュールリアリストの自動記述に似ている。

「母の発達」や「愛別外猫雑記」もおもしろい。
 引用してサンプルに取りあげようかとおもったけれど、長くなるので止めます。

           --------------------------------

 自由に語っている作家はもっともっといるはず。探してみてください。
 けっきょく、こういうことなんです。
  ┌─────────────────────────────────┐
  │小説は完成しさえすれば、自由に構成していいし、自由に語っていいんだ│
  └─────────────────────────────────┘
 これはこれでいいか?って描写を点検して考えながら描くことも大事だけれど、と
らわれずに自由に語ることも大切にしたい。
 なにより楽しんで!
 そして一人よがりにならないように読者とともに楽しんで!

  -------------------------------------------------------------------------

 どうもありがとう。言いたいことはこれだけです。

「応用編」はこの号で終わりです。
 次は「描写編」です。
 2週間ほどお休みをいただいて、その間にデータを集めます。
 75号の後書きに書いたようなことをテーマに選んでいきます。
 次号ではタイトルの一覧表を載せたいとおもっています。

「描写編」では、もう、考え方とか理屈じゃなしに、じっさいに描くときの《技術》
を簡潔に書いていきます。小説の文章をサンプルに。

 では、また、月末に。

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      ★☆彡                        ☆。..*.・'
             ☆ミ 
      メルマガ配達人    SAO  ヾ(^^ )
                      E-mail: YHY11050@nifty.ne.jp

「小説の感想」掲示板です。読んだ本への感想、雑誌の記事などをきっかけに小説に
ついておもったことなどを書いてください。小説に関係する話題なら何でも。お気軽
に。のんびりと、ほんわかと話をしましょう。
 http://hpmboard1.nifty.com/cgi-bin/bbs_by_date.cgi?user_id=YHY11050
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2001年7月29日                        〈毎日曜日発行〉
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   ☆彡..*.・'                   ┌──┐
          小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃描写編│79号│
          ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛   └──┘ ★彡.・'
        悪戦苦闘! おもしろい純文学を書くために――
           「描く」技術を考える Mail Magazine
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
          ┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓
          ┃  描写編のテーマ。目次です。 ┃
          ┗━━━━━━━━━━━━━━━━┛
        
       --------------------------------------------------

 こんにちは。暑い、暑い。暑いですねえ。(^^;)
 かといって部屋の中でクーラーをかけていると体に悪い。不健康です。外で熱中症
にならないぐらいの運動をしなければ。わかっているのですが……

 これから「小説の作り方! 描写編」をお送りします。ここでは――
1 作家が書いた小説からの引用、と
2 ちょっとした分析、解説
             を載せていきます。
 多くの作家の「描き方」を見ていくのは勉強になるでしょう。

 小説を作るのにはコツがいる。それでぼくは職人さんの仕事だとおもっているんで
す。こつこつと独りで作らなければならないし、技術も必要だ。
 既成の作家たちはどんな「描き方」をしているのか。それを参考にして自分の「描
き方」を作っていってください。

          --------------------------------------

 ところで、このメルマガを読んでいる人の多くは自分なりの小説を書いてはるでし
ょう?
 初めに言っておきますが、描写編はほとんど引用で成り立つので、そういう人には
おもしろくないかもしれませんよ。もう、わかってるよ、なんて言われたりするかも。
 で、まあ、軽く読んでください。
 原理的な「小説の作り方」のことはもう基本編と応用編でやりましたしね。
 それでもメルマガとしての意義はあるはず。

 小説はどんな描き方も「あり」です。それぞれがそれぞれなりに自由に描けばいい
んです。なにより楽しんでね。

          --------------------------------------

┌─────────────────────┐
│これからのテーマ。いちおう目次ということで│
└─────────────────────┘
■文体ってなんだ?

   1 いろんな作家。いろんな文体。
   2 リズム、テンポ、語り方。
   3 語ることの醍醐味なんだ。

■メリハリを作る

■どんなシーンを作るのか

■ファーストシーンの描き方

■心理学を学べ

■意識の流れという手法

■擬人化による描写

■自由間接話法というもの

■人物描写は服装で

■人物の表情、視線、独白……で心理を表す

■動作や仕草で心理を表す

■会話は嘘つき、会話はディベート

■会話のシーンの在り方

■説明のやり方

■細部の描写

■風景描写

■変わった場所、変わった時間

           --------------------------------

 これらを、いちおうテーマにしていく予定です。
 この2週間、いや、3週間「描写編」で何を書いていくのかをずっと考えてきまし
た。なかなかまとまりませんでした。
 描写をとりあげるのって個人の好き嫌いがあることだし、メルマガという共通のも
のでやるべきことじゃなく個人でやっていくことじゃないか?
 って、そんな疑問もありました。

 でもね、「こういう小説ではこういう描写があるよ」っていうのも意味があるだろ
うと結論を出しました。

           --------------------------------

 ぼくの作りたいのはほんとうをいうとデータ集なんです。
 自分が小説を書くのに迷ったときに、他の作家がどんなふうにそれを描いたのかと
いうデータ。
 会社の場面や、電車のシーン、学校とか市役所とか家庭とか……そんなのは誰でも
描けますよね。それは誰でもが経験する、したこと、だからです。
「変わった場所、変わった時間」では、ちょっとここはどう描いたらいいんだろうっ
ていうシーンを集めていくつもりです。そこからが本番。

           --------------------------------

 ぼくは――
    「感情表現辞典」(東京堂出版 ¥2800)
    「感覚表現辞典」(東京堂出版 ¥3296)
    「人物表現辞典」(筑摩書房  ¥2884)
    「レトリカ」  比喩表現辞典(白水社 ¥3900)

 を持っているけれど、これらは小説の中からきらっと光る表現を抜き出したものな
んです。ですから二、三行を載せてあるのが普通です。
 すごくいいんですが……勉強にもなりますけれど……
 小説ってそういう表現だけで作れるものじゃないでしょう?

 シーンを作ることができなければ、基本的には小説は出来ない。
 シーンを集めなければデータとして役に立たないんじゃないか、という思いがある
んです。それでデータ集を作りたい。

           --------------------------------
             ┌───────────┐
             │語り方にはいろいろある│
             └───────────┘

 小説を書くときにまず最初に考えなければならないことは、どういう語り口で語る
か、ってことでしょう。
 つまり「文体」っていわれているもの。これを意識しないではいられません。

 ぼくは、語り方が文体を作り――文体はその小説世界の見え方を作るとおもってい
ます。つまり文体は思想です。(まあ、そう大上段に構えなくてもいいけど)

 文体――文章のリズムやテンポ、語り方――つまりどういう文章を作るか、だ。

 広辞苑をひくと、
「文体――文章のスタイル。語彙・語法・修辞など、いかにもその作者らしい文章表
現上の特色」「文章の様式。国文体・漢文体・洋文体または書簡体・叙事体・議論体
など」とあります。
 ぼくは小説の文体を考えたい。
 いかに描写するかということと、どんな文体でということとは同じことです。

           --------------------------------

 もちろん、描くジャンルによって描写の方法は違うんです。
 今、図書館から借りてきている本から、少し選んでみますね。

┌────────────────────────────────────┐
│ 中山唯生という虚構の存在。ここであきらかにしておかなければならないこと│
│がひとつできた。この場で語られる唯生がもはや虚構の存在にほかならず、しか│
│もその幻の姿や内面を「正確」に言葉であらわす自信がないと述べられたいま、│
│語り手である私は、あるひとつのことをあきらかにしなければならない。それは│
│ことさら、あきらかにしなければならないなどと、切羽詰まっていう必要もない│
│ような、すでにだれもが見抜いていたであろう他愛もない仕掛けの「種明かし」│
│である。それは、中山唯生という名のもとにこれまで語られてきた男とは、私自│
│身なのであるということだ。これはたとえとしていっているのではなく、あくま│
│でもひとつの事実として私は述べているのである。もともと私には自分のことを│
│「ありのまま」に「告自」する意志はなく、というかそうすることは自分のこと│
│にかぎらず最終的に無理だろうとおもっている、ということはまえに述べたとお│
│りだ。私は、とりあえず自身をモデルにして物語の主人公を形成してみようとい│
│う魂胆から、中山唯生という男を捏造した。だからその名も仮のものである。中│
│山唯生などという人物を私は知らない。私はこれまで嘘をついていたわけである│
│。ではなぜいまさらそんなことをあかすのか。そんな素人手品のぶざまな芸の、│
│あってないような手の内をあかすようなまねを。それは、唯生が虚構の人物であ│
│ると、とりあえず確認されたであろうと私が独断的に判断したためであり、そう│
│したほうが今後、語り手の立場としてやや気がらくになるとおもわれたためであ│
│る。ということはつまり、これから語られる中山唯生という男は、よりいっそう│
│虚構のなかへその身を浸透させねばならず、したがって、その男はさらに私自身│
│からは遠く離れることになるだろうし、これまでに語られた中山唯生とも若干ち│
│がった姿をしているかもしれない。すこしまえに私は、唯生を物語るにあたって│
│下書きを終えぬまま自い平面に色ばかり塗っていたいと述べたが、下書きという│
│正確さへの配慮が私には不毛におもわれたことがその理由といえるだろう。だが│
│、いま私はかならずしもそうだとはおもわない。なぜなら、自分の書いた「プル│
│ース・リーについて」という文章が、それについての反論を、非力ながらもすで│
│におこなっていたことに気づいたからだ。                 │
└────────────────────────────────────┘
 これは「アメリカの夜」阿部和重(講談社 1994年)のP30の部分です。
 メタ・フィクションというのでしょうか。虚構だと告白することでなにかを狙って
いるんでしょうね。まだ、読んでません。人気のある作家だそうで、借りてきました。
 文章は平明なんですが、何か重いなあという印象ですね。
  
      「長編小説『シンセミア』の公式サイト」
              http://www.sin-semillas.com/

┌────────────────────────────────────┐
│ 山手線の恵比寿駅で降りると、狭いホームにひしめきあった人波にたちまち体│
│は流される。足元を見ながら注意深く階段を上がり、改札ロを出ると目の前は大│
│通り。駅の構内の雑踏とは別の、少し風通しのいい風景が広がる。高度成長期に│
│建てられた駅前のビルの屋上にはハンバーガー店の巨大な看板が立っているが、│
│その下には、古い東京のにおいがまだ残っていて、日本家屋の和菓子屋があった│
│り、古本屋の奥行きのある深い闇が目の前に現れたり、帯やバケツなど日用品だ│
│けをつつましく並べた店が目に飛び込んでくる。そんな大通りを一筋奥に入ると│
│、職場のある灰色のビルが姿を現す。木造の二階建てアパートが並ぶ、いかにも│
│裏通りといった一角である。                       │
└────────────────────────────────────┘
 これは「ガーデン・ガーデン」稲葉真弓(講談社 2000年)「群像」1996年9月号
に発表されたタイトル作品の冒頭です。作者は1973年に女流新人賞、1995年に「声の
娼婦」で平林たい子賞をとっているらしいです。
 駅から小説の舞台へとスムーズに視点が移動しています。「ひしめきあった」「風
通しのいい」「におい」「つつましく」など女性の感覚が表れていますね。
 ぼくはこんな小説のほうが好きです。わかりやすいし。共感しやすい。
 純文学の正統的な文体でしょうね。

      「本」――稲葉真弓
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/magazine/m-teiki/hon/hon_inaba-m.html




┌────────────────────────────────────┐
│      金山への旅                         │
│                                    │
│        一                           │
│                                    │
│ 足が熱い。                              │
│ 足のまめが破れていた。                        │
│ 呂不韋がその左足を川の水にひたそうとすると、従者の鮮乙が、      │
│「あ、ひどいですね。水に濡らさないほうがー」              │
│ と、いい、いそいで布で左足をくるむようにしばってくれた。       │
│ 鮮乙を従者といったが、この三十歳になったばかりの男は、呂不亭の父の店で│
│働いている者であり、若い店貞のなかではめだった慧敏さをもち、父から目をか│
│けられている有為の者であるから、十五歳の呂不亭にだけ属けられた僕隷ではな│
│い。                                  │
│ 呂不章はこの旅ではじめて鮮乙という男に接したといってよい。むろん、これ│
│まで店員に接する機会がなかったわけではない。十歳になるまえから呂不韋は店│
│員とおなじように働かされている。その点、兄の呂孟とはへだたりがあった。家│
│産を継ぐのは呂孟であると父から無言にいわれているようなあつかいをうけてい│
│る。哀しいことに、弟の呂季ともおなじようなへだたりを感じさせられる。  │
│ ――どうしてだろう。                         │
│ 兄と弟は大切にあつかわれ、自分だけがかるくあつかわれている。不韋という│
│少年は自分の感性が鋭敏であるがゆえに傷つきやすいことに気がついた。家のな│
│かにある愛情の偏在やいわれのない不遇を考えはじめると、身動きができないほ│
│どの暗さにおおわれてしまうことがしばしばある。家のなかにいようが外にでよ│
│うが、目にうつるものが暗く沈んでゆくような感じはやりきれない。     │
│ 十歳をすぎたとき、ある晴れた日に、頭上はるかに浮かんでいる自い雲をなが│
│めているうちに、                            │
│ ――そういうことか。                         │
│ と、ふわりと解答が胸のなかに生じた。                 │
│ 母がいない。                             │
│ 兄と弟を産んだ母は家にいる。が、自分を産んだ母は、家にいないばかりか、│
│どこにいるのか、その生死さえわからない。父だけが母の消息を知っているよう│
│な気がする。が、不韋は母 ―― ――                  │
└────────────────────────────────────┘
 宮城谷昌光の「奇貨居くべし 春風篇」(中央公論社 1997年)の1章の冒頭部分
です。文章の達人――でしょう。
 場面の転換と具体性を持った説明と平易な表現で、これだけのことが伝えられたら
すごい。
 こんなのを書きたいなあ。けれどジャンルが違うから。

 「青雲はるかに」のホームページに宮城谷昌光の紹介があります <(_ _)>
     http://plaza3.mbn.or.jp/~abu/index.html

           --------------------------------

 どんなジャンルを目指して書いているのか、を自覚しておかないと、そのジャンル
の世界をうまく描写、表現できないんですね。
 もちろん今では純文学とミステリの融合に象徴されるように、お互いのジャンルの
相互浸透が進んでいます。そういうことも頭に入れて置いて。

 いろんな描写を見ていくことは、勉強になるとおもいます。

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 次回は、とにかく「文体ってなんだ」ってのを書いてみたいとおもいます。

 ところでぼくは8月1日から16日まで石川県にいます。久しぶりの出張で。
 もしかしたら配信出来ないかもしれません。そのときはすみません。19日に配信す
るということで。

 とにかく暑いです。
 ご自愛して小説を書いてください。ご健筆をお祈りしています。
 では、また。

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2001年8月5日                        〈毎日曜日発行〉
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   ☆彡..*.・'                   ┌──┐
          小┃説┃の┃作┃り┃方┃!┃描写編│80号│
          ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛   └──┘ ★彡.・'
        悪戦苦闘! おもしろい純文学を書くために――
           「描く」技術を考える Mail Magazine
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‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
  ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
  ┃話者――この目ん玉の存在――は、人格は持たないが性格は持っている┃
  ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
      --------------------------------------------------

 こんにちは。暑中お見舞い申し上げます。

 広辞苑によれば、「文体」って=「作者らしい文章のスタイル」と書いてあるんで
すが、それってよくわからないことですよね。「文体」なんて考えるからわからなく
なる。

 もっと簡単に考えよう。

1 小説では、事件や物語を読者に語るものがいる。
2 それが話者です。
3 その語り方の癖やリズムや見方が、文体です。
4 ぼくら読者は話者のひとり語りを聞いているようなものなんだ。
5 話者は直接、ドラマに登場することはない。ただ見えたものを語るだけ。


 だから、
    ┌───────────────────────────────┐
    │語り手は人格を持ってないがキャラクターは持っている、とおもう。│
    └───────────────────────────────┘

1 ある時は、主人公に憑依してその人格に乗り移り一人称で語る。
  ここでは、主人公=話者、だ。

2 ある時は、登場人物の周辺で目ん玉となって登場人物を外から描き、内面に入り
  込んだりしてその心理を代弁する。三人称の語りです。話者は見る者です。

┌────────────────────────────────────┐
│どのように語り、何を伝えたいかが、語り方を作る。            │
│それは小説世界を作り出すことで、小説のジャンル分けと一致している。   │
│ホラーは恐怖を伝えたいのだし、純文学は純文学的心理を伝えたい……    │
│そのようにそのジャンルに合った語り方はあるんだ。            │
└────────────────────────────────────┘
 

           --------------------------------

 小説を書くときに最初に考えることは、どんなふうに語るかということなのです。
 その語り口はジャンルの数だけ在る。多くの作家がいても、そのジャンルの雰囲気
を作る語り口は似てくるんだ。
 いや、歴然と「こうだ」っていうんじゃないよ。ただ漠然と、似てくる部分がある
んじゃないかとおもうんです。
 文体というのが、その文章の呼吸、リズム、テンポ、口調、修辞や語彙などだとす
るとそのスタイルが似てくるのは当然だ。

   ファンタジーの語り方。
   ジュニア小説の語り方。
   歴史・時代小説の語り方。
   冒険・探偵小説の語り方。
   ホラー小説の語り方。
   ミステリーの語り方。
   ユーモア小説の語り方。
   伝奇小説の語り方。
   恋愛小説の語り方。
   純文学の語り方。

 大雑把に分けて――その文章のスタイルが似てくるんじゃないだろうか?

           --------------------------------

 でも、これは、そうなんじゃないかな、ということで……
 ぼくは学者じゃないから、それぞれのジャンルを分けているスタイルとか文章の表
現とかを明確に指摘できない。それらを区分けし、差別化し、分類することもごめん
だ。ただ、そういう考えを持つことは無駄じゃないとおもう。

 この三週間「文体」っていうのをずっと考えていたんです。
 それでいろいろ迷ったんだけれど、確実にいえることはこうじゃないかな?

┌────────────────────────────────┐
│ 修飾語を含んだ長文 ←――――――――→ 断定的な短文    │
│  (複雑化)               (簡潔化)     │
│(心理を描くのに向く)         (行動を描くのに向く) │
│  (文学的)               (物語的)     │
│ (メタファー)              (事実)      │
│  (特別)                (普遍)      │
└────────────────────────────────┘

 に分かれるということです。つまり、簡潔な表現で事実を目指す短文で書く場合と、
話者の複雑な想いを伝えようとする長文で書く場合がある。作者にとって、短文で描
くか長文で描くかはその小説世界を表すために大問題なんだ。

 複雑な想いを伝えようとするほど言葉を尽くさねばなりません。
 話しかける人と共通の認識があるほど簡潔ですみます。

           --------------------------------

 ふたつの例を引きます。これは作品としての質を云々するわけでなく、あくまで文
体としてのサンプルなのでよろしくお願いします。引用部分も適当にしています。
(これからメルマガに取りあげるのはずっとそうです。じっさい小説を読み終わらな
いと、評価はできませんよね)


 はじめに文学的な小説を。
 大江健三郎「宙返り」(講談社 1999)P318
┌────────────────────────────────────┐
│ さらに木津は、そのソワソワしている五十代半ばの男にわずかな勇気があった│
│とすれば、女子学生に性愛の行為をもとめて手ひどくあしらわれたであろうこと│
│も、思わぬわけにはゆかなかった。そのうち木津は、所長に対して、かつてなら│
│決してやらぬはずのことをしている新しい自分を見出した。かれは右のようなこ│
│とが女子学生のアパートで起りえたかも知れぬことを告白し、そうである以上、│
│女子学生がセクシュアルハラスメントと受けとめたことを、すべて自分の非と認│
│めるほかない、といったのだ。                      │
└────────────────────────────────────┘
 この「宙返り」はまだ読みやすいのです。だけど、大江がこれまでの小説で語って
きた様々なメタファー、シンボル、言葉が、言葉によって追求されているので、より
いっそう大江の世界に入らなければ難解だともいえます。
 大江の世界について知りたければここへどうぞ。「大江健三郎ファン倶楽部」
    http://www.ops.dti.ne.jp/~kunio-i/personal/oe/oe.html

┌────────────────────────────────────┐
│ 妹よ、僕がものごころついてから、自分の生涯のうちいつかはそれを書きはじ│
│めるのだと、つねに考えてきた仕事。いったん書きはじめれば、ついに見出した│
│その書き方により、迷わず書きつづけるにちがいないと信じながら、しかしこれ│
│まで書きはじめるのをためらってきた仕事。それを僕はいま、きみあての手紙と│
│して書こうとする。妹よ、きみがジーン・パンツをはいた上に赤シャツの裾を結│
│んで腹をのぞかせ、広い額をむきだして笑っている写真、それにクリップでかさ│
│ねた、きみの恥毛のカラー・スライド。メキシコ・シティのアパートの限の前の│
│板張りにそれをピンでとめ、炎のような恥毛の力に励しをもとめながら。   │
│ れわれの土地へ疎開してきた天体力学の専門家、アポ爺、ペリ爺の二人組が、│
│その谷間と「在」を、壊す人と創建者たちの構想から、村であり国家であり小宇│
│宙ですらあると読みとったこと。その思い出を、かれらとの別れにかさねて忘れ│
│えぬ僕は、まずかれらの指示にしたがって、われわれの土地をそう呼ぶことから│
│始めよう。かつて村=国家=小宇宙には、ひとりの新しい子が誕生すれば、もう│
│ひとり嬰児の出産を待って対の二人をつくりだし、二人してひとつの戸籍に登録│
│する仕組があった。それは創建期につづいた「自由時代」と呼ばれる長い時期の│
│後、表層としては村=国家=小宇宙が、大日本帝国に屈服してのちに、もうひと│
│つ深い層での抵抗の仕組としてつくられたものであった。ところがその仕組も、│
│百年たたぬうち村=国家=小宇宙が大日本帝国との間に戦った、五十日戦争の敗│
│北により崩壊した。この仕組の構想の根本を支えた壊す人にも、それを立てなお│
│すまでの力はなかった。                         │
└────────────────────────────────────┘
 これは1979年に発表された「同時代ゲーム」の「第一の手紙 メキシコから、時の
はじまりにむかって」の冒頭部分です。
 ロシア・フォルマリズムの理論を持ち込んだこの小説は、「難解」を絵に描いたよ
うです。この小説を読むのが「楽しい」とか「楽しくない」というのは個人の判断に
任せられるべきですが、まさしく「伝えたい」ことがいっぱいあるのだな、という文
章の見本だとおもって引用しました。

 文章は捻れ、断定し、居直り、迷い、また何かを言うことで次の言葉を呼び出す。
正確に伝えようとしてさらに言葉を重ねる。
 書くために選び出された言葉が次の考えを呼び、「書く」行為を続けさせる。
 どうしても長文にならざるを得ないわけです。

           --------------------------------


 次に短いセンテンスで状況を描くことに専念するハードボイルドの文体を引用して
みます。

┌────────────────────────────────────┐
│「壁に手をついて立て」                         │
│ 俺は命じた。                             │
│ 石上は膝を震わせながら命令にしたがった。被弾の衝撃を予想してか、体を硬│
│直させている。俺はその石上の後頭部を拳銃で殴りつけて気絶させ、ベッドのそ│
│ばの洋服ダンスを開いた。酒落た服やネクタイが一杯にぶらさがっている。  │
│ 俺は石上を裸にさせた。貧弱な筋肉だが毛深い。             │
│ その体をベッドの上に仰向かせ、四肢をベッドの枠に縛りつけた。ダイニング│
│・キチンから牛刀とタオルを持って戻る。                 │
│ 牛刀の腹で石上の胸から腹を撫でおろした。金属の冷たさに石上は意識を取り│
│戻し、呻きながら瞳を開いた。                      │
│ 俺は石上の瞳の焦点が定まるのを待ち、牛刀の切っ先を石上の眉間に近づけた│
│。                                   │
│ 石上は夢中でもがき、悲鳴をあげて顔をそらせた。            │
│「言え。宮武を殺した真犯人は?」                    │
│「し、知らねえ……」                          │
│ 石上は口から泡を吹いた。                       │
│「思いださせてやる」                          │
│「本当に知らん!」                           │
│「そうか?」                              │
│ 俺は石上の小水に濡れた部分に牛刀を当てた。              │
│ 石上は絶叫をあげようとした。俺は左手のタオルでその口を押えた。    │
│「言う! 篠田だ。大幹部の篠田が殺ったんだ!」             │
│ 石上はタオルの下から悲痛な声を振りしぼった。             │
│「本当か?」                              │
│ 俺はわざと皮肉な調子で言い、牛刀の背で石上の腹を撫でた。       │
│ 石上の全身に痙攣が走る。                       │
│「嘘でない。信じてくれ! 会からくすねた金はトイレの水洗タンクのなかだ。│
│それをやるから殺さないでくれ……」                   │
│ 石上は再び気絶した。                         │
└────────────────────────────────────┘

「雇われ探偵」大藪春彦(双葉社 1996)という短編集の「カモ」。1964年の「推理
ストーリー」1月号に載った作品だそうです。
 この頃、もうハードボイルドを日本でどう描くか、という問題意識はあったわけで、
大藪春彦もハメット的な探偵を移植しようとしていたらしい。けっきょく日本では探
偵という職業は自立しにくいわけですが……

 ハードボイルドについては詳しくないので……
  「大藪春彦インタビュー」 http://magnum.cool.ne.jp/maindoFrameSet1.html
  「レイモンド・チャンドラーの世界」(リンク集が充実しています)
         http://www1.neweb.ne.jp/wa/phil/index.html


           --------------------------------

 純文学には純文学なりの……ハードボイルドにはハードボイルドの文体がある。
 それらの学び方は、そのジャンルの小説をたくさん読み、模倣するしかない。芸術
は模倣だ。

 言いたかったことは「ジャンルによって小説の文体はあるのだし、それを意識する
ことは大事じゃないかな」ということ。

           --------------------------------

 文体について考えていくと「文章を書く技術」に行き着く。対象をいかに表現する
か、という問題になる。
「文章表現の技術」については様々な本が出ているとおもう。
 それを読めば文章の捻れは防げるし、「伝えたいことを正確に伝える技術」も学べ
るだろう。それは国語の授業の話だ。

 そういうものを活用しながら、自分の文体というものを作っていってください。

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 では、また来週です。
 いろんな小説に描かれていることからその「語り口」を見てみたい。
 ご自愛を。

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