
厳選40 ホラー編
◆夜◆
○大地震により外界と隔離された山中の新興住宅地。
不気味な夜を迎えると、謎の動物が現れ、次々と
住民を殺してゆく。住人たちの運命は………。
○この作品は、9割方、ホラー小説である。新興住宅地を
舞台に人間と謎の動物との壮絶な戦いを描く、というところ
であろうか。はっきり言えば、それだけでもこの作品の
魅力は十分語り得たことになる。何の武器ももたない住人たちが
不気味な夜とともに訪れる恐怖に対する感情の描写やその中で
懸命に生きようとする人たちの様子などの描写は素晴らしい。
○だが、私がこの作品をお薦めする理由はこのことではない。
多分にネタバレになるのだが、この作品のテーマは「何が悪か」
ということであろうと思う。最後の場面で、謎の動物、という
よりは怪獣に近い存在に対して中川が投げかけた同情や
妙な親近感、そして哀れみなどを描いている点において
私はこの作品をお薦めするのである。
○善悪の判断からすれば、この怪獣は何人もの罪なき
人たちを殺しているのだから、悪、ということなるだろう。
しかし、ここで少しばかり考え直してみたい。何故この怪獣は
人を殺す、というより殺さざるを得なかったのか、という
ことである。それは、人間が山中にまで開発の手を伸ばして
その結果として怪獣が食べ物を探す範囲を広げざるを
得なかったのではないか。そして「たまたま」そこに人間が
いたから、殺したまでのこと、という解釈はできまいか。
○もちろん、善悪とは単純に決められるわけではない。
それだけに最後の中川が怪物に向けた感情には大きな意味が
あり、またこれをいかに解釈するか、ということも
同様に大きな意味を持ちうると思う。
もちろん、基本的にはホラー小説なのだが、この部分に
ついての意味、みたいなものが非常に重要であると思う。
◆殺人を呼んだ本◆
○私立野々宮図書館、ここに集められた本はすべて
殺人に関した本ばかり。そこから本が取り出される度に
次々と事件が起こる………。
○人々の思いがつもった本が取り出される度に
その本に関係した人々の間で事件が起こる、という
設定は面白い。ホラーと現実を組み合わせた展開は見事で
ある。それぞれ短編ではあるが、起承転結がしっかりと
している。
○ちなみに、この作品はプレイステーションで
「夜想曲」という題でサウンドノベル化されている。
小説を読んでからゲームを楽しむのもまた一興と
いうものであろう。
◆長い夜◆
○一家心中を決心した家族の前に現れた謎の老人。
彼は、心中した自分の娘一家の謎を探るよう一家に
依頼した。それから奇妙な事件は幕を開ける。
物語を多くの人物の視点から描くことにより、事件を
様々な側面からとらえている。それだけ複雑な事件で
あるわけだが、その視点切り替えの見事さが、この
物語の大きな魅力の一つといえよう。
物語自体は、かなり純粋なホラー小説と言えるだろう。
◆魔女たちのたそがれ◆
○主人公のところにかかってきた一本の電話。
「助けて………、殺される………」という電話。
それは幼なじみの女性からかかってきたものであった。
しかし、彼女は山中の学校に赴任していたはず。
主人公は彼女が赴任した小学校へと向かうのだが……。
○ホラー小説としての要素と、推理小説としての要素を
見事に組み合わせた作品。ここで紹介している作品の
なかでも、「夜」と並んで、1、2を争うおもしろさ、
といっても過言ではない。物語は、幼なじみの女性の
回想、そして彼女が入院している病院の周辺で起こる
奇妙な事件を同時に描いて展開されてゆく。
○ホラー小説としては、現在起こっている謎の事件に
焦点が置かれようが、推理小説としては、回想、
そして現在の事件に加えてその関連という3つの要素
から成っており、こちらの方も面白い。
○登場人物に関しては、敢えて、あまり強い個性を
与えないことにより、物語の方に重きを置いている。
それだけに、物語の構成は見事である。過去と現在を
同時に進行させることにより、それぞれの謎を深めて
いるといえよう。
○そして、最後の場面は、まさに絶妙としか言いようが
ない。意外としかいいようがない結末は、続編である
「〜長い眠り」へと引き継がれる。最後の場面の
極端なまでの静けさがいかんとも言い難い怖さを
感じさせる。
◆魔女たちの長い眠り◆
○前述した通り「魔女たちのたそがれ」の続編である。
この作品は、「たそがれ」とは異なり、サスペンス色の
濃い作品になっている。「たそがれ」の登場人物に加えて
この作品に新たに登場し、物語に幅を添えている。
○物語は、敢えて細かいことを語る必要はあるまい。
それたけ、物語の展開が見事なのである。最初は
様々な人々の視点から描かれているが、それが段々と
集約され、一気にラストへと向かう展開は非常にうまい。
このスピード感は、とても小説とは思えないほどである。
○まあ、私のつまらぬ戯れ言はこの程度にしておくが、
私が最後の場面で語られていることについて少し
考えてみたい。最後の場面で、語られていることは、
単なる「ハッピーエンド」で話が終わらないことを
暗示している。「夜」とも似たようなテーマなのであるが
これをいかに解釈するかは読者に任されている、と
言える。ちなみに、なかなか、というか、かなり重たい内容で
あると思う。しかし、このことが「たそがれ」と「長い眠り」が
単なるホラー小説以上の意味を持たせているのである。
○ちなみに、これらの小説はプレイステーションで
「魔女たちの眠り〜復活祭〜」として同じく
サウンドノベル化されている。内容的には、両作品を
かなり忠実に再現している。ただし、ホラーとしての
部分が強調されているので、あまり恐いものが
嫌いな方にはお薦めできない。映像と音楽(含む音声)が
とにかく恐い。画像が鮮明なだけに余計に始末が悪い。
ホラー好きの方にはたまらないゲームだろう。
(平成12年9月14日更新)