厳選40 推理編

 三毛猫ホームズの推理◆

○三毛猫ホームズシリーズの記念すべき第一作目です。
女子大を舞台にした難事件に、片山義太郎と三毛猫の
ホームズが挑む、本格的な推理小説です。
 
○この作品の大きな特徴は一言で言えば「シリーズものの
ホームズとは違った作品である」ことにつきます。もちろん
この作品もシリーズもののうちの一つであるわけですが、
これ以降の作品と比べると登場人物だけでなく、雰囲気が
大きく異なっています。「三毛猫ホームズシリーズ」の解説は
「シリーズものご紹介」のコーナーを参考にして頂くとして
ここでは、「推理」独特の雰囲気を中心に展開します。
 
○レギュラー陣の内、今回登場するのは主人公の片山義太郎
その妹の晴美、そしてヒロインである三毛猫ホームズの
二人+一匹です。片山刑事に関しては、女性恐怖症や
高所恐怖症といった性格付けは基本的には同じですが
それらはあくまでも「おまけ」的に存在するのみで、基本的に
片山刑事は事件の「探偵役」です。妹の晴美は、脇役的な
存在で、探偵の真似事はほとんどやらず、あくまでも
脇役に徹していて、シリーズものとは大きく異なっています。
ホームズは、はじめは大学の理事長の飼い猫でしたが
とある事情により片山一家と同居することになったことが
描かれている他はシリーズものと大した違いは
ありませんね。

○肝心の物語は「ユーモアミステリー」としての色合いも
幾分かはありますが、実質的には「本格的な推理小説」
と言うことができますね。
女子大を舞台にした売春や校舎建築に絡む不正疑惑、
そしてそこに登場する様々な人々が織りなす人間模様と、
その中にはトリック、犯人あて、そして人間ドラマ、
と数多くの要素が盛り込まれています。
そして、この小説では「ユーモア」も脇役ですね。
言わば本筋にちょっと花を添えるような存在です。
 内容は読んでからのお楽しみとして、三毛猫シリーズの
中では、まず間違いなく最高の傑作と言えます。
個性的な登場人物、巧みなトリック
そし意外な結末と、まさに申し分のない出来映えです。
特に、探偵役を務める片山刑事の人柄がいい意味で
あくがないながらも好感が持てます。ホームズも
今回は脇役に近い感じながら、要所要所では
「さすが」と思わせる活躍を見せてくれます。

○ちなみに、この作品の最大の特徴は「話が暗い」ことです。
とは言え、読後感がすっきりとしているのは
さすが赤川氏と言うべきですね。
 「三毛猫ホームズ」シリーズとしては異端の作品とも
言うべきですが、ここにこそこのシリーズが持つ
「人に対する優しさ」が集約されているように思えます。

 ひまつぶしの殺人◆

○一見平凡な中流階級の家庭である早川家。実は、
それぞれが殺し屋、詐欺師、泥棒それに弁護士と警官という
まさに善悪が入り乱れた家庭なのです。こんな早川家の
面々が目を付けたのが大富豪である石油商が湖岸のホテルで
開催する宝石展。それぞれの思惑を胸に、早川家の面々は
湖岸のホテルへと集まるのですが………。
 
○登場人物の設定に関しては、屈指の異色作と言えます。
善悪が入り交じった早川家の面々に加えて、舞台となる
湖岸のホテルに置いても個性豊か人物が数多く登場します。
しかも、この作品では様々な人物の視点から物語が展開
されるために、展開自体も非常に変化に富んだものと
なっています。

○しかし、この作品の魅力は登場人物の個性はもちろんですが
なんといってもそれ以上に物語自体が非常によいです。
早川家の面々も、様々な個性を持ちつつも、それに
「あくの強さ」を感じさせない文体で、スピーディーに、
なおかつ本格的な推理小説として見事に描いています。

○文庫版だとおおよそ400項ほどありますが、その長さを
全く感じさせない見事な展開、と言えます。
特に、これだけ「設定上」の個性が強い面々を揃えながら
彼らをそれぞれ「人間」として描くことにより、設定上のもの
ではない登場人物の個性を感じることができます。

○肝心の物語は、複雑な人間関係と宝石を巡る謎を
中心に本格的な推理小説としての要素を備えており、
一見非現実的な登場人物の設定とは裏腹に、推理小説として
極めて良くできています。

  死者の学園祭◆

○舞台は、「手塚学園」という女子校。主人公の少女が
この学校に転校してきた早々、3人の同級生が相次いで
殺害される事件が起こります。探偵小説好きな主人公の
少女は、3人を殺した真犯人を探るべく、恋人の
大学生と探偵役を演じ、事件を推理してゆくという
学園ものと探偵小説を組み合わせたような小説である。
 
○この作品は比較的初期の作品です。学園小説としての
雰囲気と探偵小説としての雰囲気を巧く組み合わせています。
冒頭からなにやら事件を予感させるような展開です。
全体を一学期(事件編)夏休み(捜査編)学園祭(解決編)
と分けた物語の展開も見事で、若さにあふれた主人公が
捜査をしてゆくの描写も良いですね。

○しかし、この作品は、それだけで終わらないところがある。
それは、実は題名に示されています。一見詩的な響きすら
するような題名ですが、これが結末を暗示している辺りが
非常にうまいですね。

○もちろん、内容に結末については深くは追求しませんが、
この作品の結末もなかなかりのもののように思えます。
「ハッピーエンド」ではありませんが、味わい深い、とだけ
述べておきますか。

  死体置場で夕食を◆

○道に迷った女性カメラマンと編集者の夫婦が幸運にも
たどり着いた山荘。そこにいる人たちは、皆気のいい
人たちのように思えた。しかし、翌日目を覚ますと
山荘の中には、この夫婦以外誰もいなかった。
助けを求めて街へ降りた女性カメラマンが山荘へ
戻ってみると………。
 
○まず、題名が巧いですね。ある映画の題名が連想される
ところです。肝心の内容は、女性カメラマンと
元刑事の二人のコンビが不可解極まる事件を捜査してゆく
本格推理です。果たしてあの山荘とは何であったのか?
という謎がその中心に置かれています。

○この作品の魅力は、主人公とも言える女性カメラマンの
個性と奇怪な謎、そしてスピーディーな物語にあります。
徳間文庫では、SF作家の横田順弥氏の解説があり、
それが比較的良いのだが、なんといっても、一番の魅力は
物語にあります。冒頭に不可解な謎が提示され、手がかり
らしきものをつかむものの、また新しい事件が起こり………、
と半分を過ぎてもまだまだ事件は起こります。
しかし、最後ではうまくまとめられており、
この展開の妙にはただただ感心させられますね。

○横田氏も述べておられますが、主人公の女性が、
一見何処にでもいそうな感じの人だからこそ、親近感を
感じることができ、感情移入もしやすい所です。
その点もこの作品の魅力の一つと言えましょう。

  ◆霧の夜にご用心◆

○平田正也氏(36歳)は、一見したところ平凡なサラリーマン
ですが、実は切り裂きジャックにあこがれ、黒ずくめの
服に鋭利なナイフまでを所持するやや始末に悪い人物なのです。
そんな平田氏にとって足りないものはただ一つ「霧」。
ある日、いよいよ待望の夜、すなわち霧深い日が
訪れ、平田氏は同僚である女性を罵倒した会社の顧問を
第一の標的と決め、黒ずくめの服装にナイフを持ったまでは
良かったのですが………。
 
○19世紀にイギリスで起こった「切り裂きジャック」を題材と
した推理小説です。特徴的なのは、主人公がこともあろうに
「切り裂きジャック」志望であることですね。そんな
主人公が次々と不可解な事件に巻き込まれてゆきます。
この主人公は、あまり個性的な人物ではありませんが、
「切り裂きジャック」にあこがれる、という特徴を
上手に活かして、物語は展開されています。

○舞台も、日本であるにも関わらず、どことなく
19世紀のロンドンを思わせる数々の描写があることも
巧みですね。舞台は日本ですが、ところどころに
イギリスの感じを加えた、そんな独特の世界観も
魅力的ですね。

○ 物語は、あくまでも主人公の視点に統一することに依って、
独特の雰囲気を醸し出しています。次々と提示される謎も
伏線の張り方が見事で、楽しむことができます。

○新書版のカバーで赤川氏は、この主人公のような
ものは誰にでもある、というような意味のことを
書かれていましたが、そのようなことを片隅におきつつも、
本格派の推理小説として楽しめる作品と言えます。

  ◆死者は空中を歩く◆

○財界の影の大物と呼ばれる千住氏が、弁護士に
とある命令を下したことからすべては始まりました。
こともあろうに、少女暴行、殺人、横領などの罪を
犯した男を四人自宅へ招いてこう告げた
     「私を殺してくれ」と。
 
○まず題名の響き、なんとも幻想的なものを
予感させてくれます。物語は、千住氏の娘の視点を中心として
展開されます。何故千住氏はあんなことを言ったのか、
そして「万華荘」で繰り広げられる事件の真相とは?
「万華荘」という限られた空間を舞台にしつつも、
そこで繰り広げられる事件の展開の仕方は巧いですね。

○物語は、時間と場所を越えた複雑な背景の元に
展開されますが、あいかわらず歯切れのいい展開は、
まさに絶妙としか言いようがない物です。

○個人的には山崎さんが一番好きですね。


     
◆招かれた女◆

○連続少女暴行事件の犯人を追っていた二人の刑事は
容疑者とおぼしき男の居所を突き止めるが、若い刑事は
容疑者に刺されて死亡、容疑者も逃亡しようとした矢先に
トラックに轢かれて死亡した。この事件に責任を感じた
もうひとりのベテラン刑事は職を辞め、若い刑事の
恋人だった女性の紹介によりとある会社の倉庫の管理者と
なった。これですべては解決したはずだったが………。
 
○一見すべてが片づいたと思われた事件が、ふとした
偶然により新たな事件へと発展してゆきます。推理小説としても
もちろんのこと後半部分はサスペンスとしても楽しむことが
できます。物語が、新たな事件を追いつつ、同時に
過去の事件をもう一度捜査し直すという展開は、なかなか
良く、探偵役の女性も、好感が持てます。

○この作品の魅力は、複雑な人間関係と絶妙な物語の
展開ですね。新たな事実が解明されるに併せて
新たな事件が起こります。その展開は項数があまり
多くないわりには起伏にとんでおり見事、と言えます。

○ちなみに、この続きにあたるのが次で紹介する
「裁かれた女」なので、これも合わせて楽しむことを
是非ともお薦めしたい所です。
     

      
◆裁かれた女◆

○この物語を読む前に
必ず「招かれた女」を読むことをお薦めしておきます。
「招かれた女」のネタバレにあたる箇所が
含まれているためですな。

○さてこの「裁かれた女」は、「招かれた女」から
15年後が舞台である。ある人物の死により、事件の
真相を知る人物はわずかひとりになったはずであった
のだが………。
 
○前述した通り、招かれた女の続編である為に
内容的なことにはあまり触れませんが、物語自体は前作に 
比べてサスペンス色が薄れ、文体も会話中心に
なっています。「招かれた女」の登場人物も何人か
登場し、前作の主人公を思わせる女性も探偵役として
活躍します。前作同様、個性的な人物が数多く登場し、
どちらかと言えば「会話で」読ませる文章となった。

○とは言え、推理小説としてのおもしろさは前作に
劣らず良く、人間関係の幅を広げたことで内容的にも
深みを増しています。
     
   
◆忘れられた花嫁◆

○「花嫁シリーズ」のなかでは、唯一塚川亜由美以外の
人物が主役を務める異色の作品。とは言え、花嫁シリーズと
同じく、軽快感にあふれた文体になっています。

○主人公は、結婚式場で働く大学生の女性。その彼女が
ある日、花嫁衣装に身を包んだ女性の死体を発見します。
そして、続いて先輩格にあたる女性社員までが謎の死を
遂げ、主人公は恋人と刑事の助けを借りて真相究明に
乗り出します。
 
○物語の展開自体は軽快だが、推理小説としての要素も
しっかりと備えています。しかし、どちらかと言えば
「ユーモアミステリー」という分類が一番適当でしょう。
主人公の女性を初めとして、その恋人やとぼけた検死官、
それに結婚式場の社長、と言い意味で個性的な面々が
捜査を勧めていく過程が上手ですね。

○推理小説としては、犯人あてというより、事件の真相
を探求する、という要素が若干強いですが、なにより主人公の
活躍だけでも充分に楽しむことができる作品と言えます。

   
◆忙しい花嫁◆

○「花嫁シリーズ」第1弾。
主人公、塚川亜由美が大学の先輩である
田村の結婚式に出席した。が、どうにも
ぎこちなく様子がおかしい。あげくのはてに
当の花婿である田村が亜由美に「あの女は別人だ」と
言い残し、ハネムーン先のヨーロッパで
行方不明となった。

○亜由美は、結婚式で知り合った、田村の妻の
元恋人という男とともに、田村のことを心配するが
その内に、亜由美とともに結婚式に出席した
女性が殺されて………。

○「ユーモアミステリー」としては非常に良い出来の
作品ですね。「果たして花嫁は本物か?」という謎を中心に
添えて、軽快に物語を展開させています。
登場人物もそれぞれ個性的な面々をそろえて
うまく「読ませる」物語としています。

○ただ「三毛猫」ほどではないにしろ、
それ以降のシリーズとの差はかなりあります。
この作品はユーモア小説としての要素と
推理小説としての要素がうまく絡まっていて
良いのですが、これ以降の作品は、トリックなどの要素が
薄れています。ですが「花嫁シリーズ」の中では一番の
出来映えであるといえましょう。

         
          (平成13年3月1日更新)