齋藤麗奈&ailu


Sarah/Zabadak
私が死んだらいつか私を忘れてね。


ほんとうの心なんてどこかに置き忘れてきたままでわからなくて、私はあのひとにいちばんして欲しいことを思い出せずにいた。
私はあのひとが誰よりしあわせになることと、あのひとが私と一緒に永遠にいられること、両方を当然のように望んでいて、そのどちらかを選ばなくてはいけなくなる状況を、考えたりしたくなかった。
そう、考えなかった訳じゃない、考えたりしたくなかったんだ。


いまわたしは願う、私を忘れないで、私を忘れないで、私を忘れないで忘れないで忘れないで。
誰の運命にも関わりたくないんだなんて、私無闇に格好のいいことを言ったね。
ごめんなさいそれはほんとうに嘘だった、私は、ほんとうはどこにでも私が存在したという刻印を残して歩きたかった。


私、がいなくなることなんて、遠い遠い未来のことだと思っていたよ。
途中から、愛してるとか好きだとかって、ことばに出して言わなくなったね私たち。
もったいぶらずに言えばよかった、そのことばが言い過ぎて無限に薄まってしまってもそれでも、言えばよかったんだ。
あたりまえのことになりすぎていちいち言わなくなった、私たちのあいだに行き違いなんてひとつもなかった、だから言わずに済んでいたけれど、今私、その一言をどんなにあなたに届けたいことだろう。


遠い遠いこの場所で、どうして今あなたがここにいないのか、私にはそのことがどうしても信じられずにいるけれど、それでもいないんだね、私が呼んでいても、あなたの来られない場所がこの世界にあることを、私ははじめて知ったんだ、今。
傲慢すぎた、その罰かな、ううん、私は罪と罰の力関係など信じない、その筈だから、私は罰なんて受けない。絶対に。


暗い廊下で、死んだ子供を抱きしめて泣いている女のひとを見た。
あのひと、どうして罪もないこの子がと泣いていたんだけれど、それなら悪いことをした人は死んでもいいと、そういうことなのかしら、ねえ、私はそれならいつ死んだっておかしくなかったけれど、それでも今まで生きていたよ、今まで。
それが間違っていたの、違う?間違っているのは今なの、それとももしかして何も、何も間違っていないのかな、私が愛していると今あなたに伝えられないことも、あなたがわたしを失ったことで心に空いてしまう穴の存在も。
かなしいことがあるのは当然で、それがないことがおかしいの?


あなたがかなしむのがかなしい。
あなたがかなしむのがかなしい。
世界が今とまればいい、私には決してつばさなどなかったのに、それでも遠からず届いてしまう。
あなたのもとへ。
無視できぬ報せが。


取り戻せぬものを取り戻したいと叫く無為を私はその最後の瞬間まで続ける、ついえてゆく時間の引き延ばしたその限界点まで。
それならばもっと早く、はじめていればよかったね。


ああ、ほんとうはただひとつだけしか祈る時間などなくて。
私はただ、そこに、あなたのそばにいたかった。
いつまでも。