TS関連の新聞記事Part2


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「自分らしく生きる」1998年5月14日朝日新聞朝刊5面社説

「性転換手術を承認」1998年5月13日毎日新聞朝刊1面

「社会の認知へ一歩」1998年5月13日毎日新聞朝刊3面

「これでやっと本当のオレになれる」1998年5月13日毎日新聞朝刊27面

「性転換手術を承認」1998年5月13日朝日新聞朝刊3面

「本来の性に戻りたいだけ」1998年5月13日朝日新聞朝刊31面

「女性患者 性転換手術を承認」1998年5月13日読売新聞朝刊30面

「性転換手術を承認」1998年5月13日産経新聞朝刊1面

「ようやく本当の自分に」1998年5月13日産経新聞朝刊社会面

「性転換手術を承認」1998年5月13日東京新聞朝刊1面

「理解されず『苦しかった』」1998年5月13日東京新聞朝刊20面

「性転換手術を承認」1998年5月13日日本経済新聞朝刊34面


「自分らしく生きる」1998年5月14日朝日新聞朝刊5面社説

性転換手術

 18世紀初めにニューヨークの植民地総督だったコーンバリー卿は、しばしば女装した。あでやかなドレスをまとい、髪飾りをつけた肖像画を残している。ローマ皇帝カリグラやイギリス国王ジェームズ一世も、女装を好んだ。

 研究者によると、こうした人々は男性の服を着ているときには男として行動する。自分は男だと思っており、女になりたいと望んでいるわけではないからだ。彼らとちがって、異性になりきりたいと願う人々が少数ながらいる。自分は男か女か。その認識が自らの肉体のうえの性と異なる人たちだ。

 埼玉医大の倫理委員会が30歳代の女性患者の性転換手術を認めた。

 患者が埼玉医大に手術を申し込んでから約6年。倫理委はまず、学会などによるガイドラインの作成や、各領域の専門家からなる医療チームの結成などを求めた。それらの条件が整ったと見て、今回、この患者の手術にゴーサインを出した。

 一人の患者の願いを正面から受け止め、情報を公開しながら準備を進めてきたことは、今後、先端医療に取り組むうえでの良い先例となるだろう。

 同時に、一連の経過は、性というものに対する多くの人々の思いこみを大きくゆさぶることにもなったのではないか。

 伝統的な男と女のあり方からはずれる人たちは、しばしばあざけりや迫害を受ける。男らしさや女らしさに対する根本的な問い直しが進んできた現代でも、そうした傾向は根強い。

 「生殖としての性」だけが自然で正当なものだという考えが支配的であるのは、洋の東西を問わない。だが、何が自然で、何が自然でないのか。簡単に答えが出るものではない。

 魚や両生類には、環境変化に応じて性転換する種類がある。人間に一番近い仲間であるゴリラやチンパンジーでは、同性愛が日常的に見られることがわかってきた。

 男と女の境目は、多くの人々が思っているほどはっきりしていない。

 文化的な性役割だけでなく、生物的な性の境目もはっきりしないのである。

 欧米では、性役割や性行動について心理学、社会学、遺伝学、内分泌学などさまざまな分野から精力的に研究が進められてきた。その結果、人間の性は性染色体だけでは決まらないこと、胎児期のホルモンが重要な役割を果たすこと、育て方も大きく影響することなどが明らかになった。

 それでも、「体は女なのに心は男」(あるいはその反対)というような人々がなぜいるのかは、まだ解明されていない。ただ、いったんそうなると、心の性を体の性に合わせようとさまざまな心理療法を試みても、成功した試しがないという。

 いかに少数であっても、こうした人たちが自分らしく生きられる権利は大切にしたいと思う。

 それには、性転換手術が可能になるだけでは不十分である。家族、友人、同僚ら、本人をめぐる多くの人たちが理解し、受容することが何より大事だろう。医学や心理学の専門家から適切な援助が得られるような体制を作ることも必要だ。

 戸籍の性の記載のあり方など、法的な検討も始めるべきだろう。

 私たちの社会は、性別にこだわりすぎていないだろうか。この手術は、そうした問いを投げかけているようにも思える。

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「性転換手術を承認」1998年5月13日毎日新聞朝刊1面

埼玉大倫理委 国内初

 埼玉医大倫理委員会(委員長・山内俊雄同大教授)は12日、東北地方に住む30歳代の女性を男性に転換する性転換手術の実施を承認した。手術の対象者は女性であることに違和感を抱き、男性の体になることを希望している「性同一性障害」の患者で、今夏にも国内で初めて医療行為として公に認められた性転換手術が実施される。(3面、社会面に関連記事)

女性患者

今夏にも実施

 性同一性障害は、自分では男性だと思っているのに体は女性だったり、女性だと思っているのに体が男性である状態をさす。今回の患者は幼いころから女性であることに強い違和感を覚え、男性の体になることを望んでいる。l992年から同大総合医療センターなどでカウンセリングや男性ホルモンの投与を受け、現在は男性として職業に就いている。

 手術は1回目に卵巣摘出などを実施し、2回目に上腕部の皮膚と肋軟骨を使って男性器を形成する。手術後は男性として性行為をすることもできるが、精子ができないため生殖能力はないという。

 性転換手術は95年に原科孝雄同センター教授(形成外科)が倫理委に実施を申請した。倫理委は翌年、手術を医療行為として認めたが、精神科、泌尿器科などの専門家グループが事前の診断に当たることや、関係学会が手術実施のガイドラインを作成することなどを実施の条件にした。

 97年5月には日本精神神経学会特別委員会が性同一性障害の治療のためのガイドラインを作成した。このため、倫理委は手術の条件は整備されたと判断した。

 日本では、男性3人に精巣摘出の手術をした産婦人科医が優生保護法(現・母体保護法)の「故なく生殖を不能にしてはならない」との条文に違反したとして69年に東京地裁で有罪判決を受け、70年に束京高載で判決が確定した。以降、性転換手術はタブー視されてきた。このため、米国や東南アジアなど海外で性転換手術を受ける人も現れていた。厚生省は「母体保護法は適切な治療を妨げるものではない」と説明し、専門家が具体的に判断する問題だとしている。【高野聡】

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「社会の認知へ一歩」1998年5月13日毎日新聞朝刊3面

戸籍など課題なお山積

 性同一性障害に悩む女性に対する性転換手術が埼玉医大の倫理委員会で承認された。性転換手術を治療行為と認めた同倫理委答申から2年、患者が手術を求めてからは6年が経過している。この間、関係者は患者に対して慎重に精神療法やホルモン療法を行ってきた。手術はその延長線上にある当然の治療行為といえる。一般には理解しにくい性の悩みが、肉体を傷つけてまで治療する必要のある「病気」であることを社会に提起した意義は大きい。

 性同一性障書は、肉体的な性と自分が属していると認識している性が一致しない状態を指す。性的な嗜好を表す同性愛とは異なる。手術は肉体を改変することにより、肉体と精神の不一致をなくすことを目的としている。

 性同一性障害は、女性で10万人に1人、男性で3万人に1人の割合で存在するといわれる。程度によっては、手術を必要としないケースもある。性を変えてしまえば、やり直しはできない。このため、手術が患者に本当に必要かどうか、事前に診断することが必要になる。

 今回のケースでは、複数の精神科医が、男性として社会生活を送っている患者を5年以上にわたって慎重に観察し、自分の性に対してどのような違和感を覚えているのかなどを聞き取りしてきた。手術はこうした積み重ねのうえで初めて認められた。

 埼玉医大は、社会的に全く認知されていなかった性同一性障害の問題を表に出した。しかし、現状はそうした「病気」の存在が知られただけだ。海外で手術を受けても、戸籍の性の変更は認められていない。戸籍を別の性に変えることは許されるのか。周囲の人たちが正しく理解し、偏見なく受け入れられるのか。社会は重い問いを突き付けられている。【高野聡】

 生命倫理に詳しい三菱化学生命科学研究所の椒島(ぬでしま)次郎・主任研究員の話 性同一性障害を病気と認め、性転換手術以外の治療では治せないとした医学的な判断は評価できる。しかし、手術後に生じる戸籍の変更や結婚の可否、雇用など社会的な問題を含めて十分検討されたかどうかが重要だ。

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「これでやっと本当のオレになれる」1998年5月13日毎日新聞朝刊27面

性転換手術受ける女性 幼い頃から悩み続け…

 「ついに道が開かれた」−−。12日、女性から男性への性転換手術を埼玉医大倫理委員会が承認したことに、手術を希望した患者や支援者たちは歓迎の声を上げた。幼いころから自分の体が自分のものでないという違和感に悩み、現在も女性の肉体を隠して働く不安の日々。手術承認はこうした人たちに一筋の光明を与えた。しかし、戸籍上の性別をどうするのかなど、未解決の問題も多い。

 「間違って生まれてしまった体を、やっと自分に取り戻せる」。「手術承認」の知らせに、手術を受ける30歳代の女性はほっとした表情を見せた。

 身長165センチ。リーゼント風の髪形と口ひげ。ジーンズとサングラスが似合う筋肉質の外見は、男性そのものだ。現在は東北地方で建築の仕事に就いている。

 女性の体に違和感を感じたのは2、3歳ごろのことだ。保育園で裸の男子の性器を見て「どうして自分にはないのか。きっとそのうち生えてくる」と思った。中学時代には、声変わりしない声がいやで、声帯を自ら金ぐしで傷つけた。高校生で初潮を見たときには、「自分は一体何者なんだ」とパニック状態になった。

 高校卒業後、就職したものの、会社の制服のスカートがいやでやめた。以後は男性として、配管工や電気工事の仕事などを転々とした。「戸籍の性別がばれると困るから社会保険のない会社ばかり選んだ。今の社長もオレが女であることを知りません」。トイレや入浴は悩みの種だ。屋外での作業が多い仕事柄、トイレを我慢せざるを得ないことも多い。男子トイレではいつも個室に入るため、「腹をこわしているのか」と言われたこともある。

 性転換手術を希望していることを知った母は「そんなばかげたことはやめてくれ」と猛反対した。3年間説得してやっと理解してもらった。「母も勉強してくれたようだ」と漏らす。手術が決まった今、夢見るのは結婚だ。過去には年上の女性と交際していたこともある。だが、これまでに性同一性障害で戸籍の訂正が法廷で認められたケースはない。戸籍上で「男性」にならなければ、女性との結婚は認められない。【高野聡】

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「性転換手術を承認」1998年5月13日朝日新聞朝刊3面

埼玉医大倫理委 早ければ来月実施

 埼玉医大(埼王県入間郡呂山町、東博彦学長)の倫理委員会(委員長・山内俊雄教授)は12日、自分の性に強い違和感を持ち別の性になることを強く望む「性同一性障害」と診断された女性患者について、性転換手術を認める結論を出した。同医大の医療チーム「ジェンダークリニック委員会」(委員長・阿部達教授)から承認申請が出ていた。早ければ六月にも同医大の総合医療センター(同県川越市)で手術の見通し。大学の倫理委の承認を受けた国内で初めての性転換手術となる。(社会面に関係記事)

 患者は30代の女性。幼いころから自分が女性であることに違和感を覚え、心と体の性の不一致に悩んできた。精神療法やホルモン療法を受けてきたが、クリニック委は、最終的な治療として性転換手術をしたほうがよいと判断した。国内では、3人の男性の性転換手術をした東京都内の医師が1969年、正当な理由なく生殖を不能にする手術をしたとして、母体保護法(旧優生保護法)違反の罪で起訴され、東京地裁で有罪判決を受けた。以来、国内の医学界では、性転換手術は表立って議論されてこなかった。

性同一性障害

 生物学的には完全に正常であり、自分の体がどちらの性に属しているのかはっきり認知していながら、その半面で人格的には自分が別の性に属していると確信している状態。数万人に1人の割合でいるとされる。自分で意識する性と肉体的な性の不一致に悩み、日常生活で反対の性の立場をとったり、強く性転換治療を望んだりする。同性愛とは異なる。原因ははっきりしないが、胎児期に受けたホルモンの影響などによる生物学的要因が指摘されている。欧米では「障害」として治療が定着している。

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「本来の性に戻りたいだけ」1998年5月13日朝日新聞朝刊31面

埼玉医大委「性転換」承認

 もしも、体と心が「違う性」だったら……。違和感を解消したいと願う人たちへの一つの回答が12日、埼玉医大倫理委員会によって示された。性同一性障害と診断され、最終的な治療としての手段なら、性転換手術を認めようという判断だ。「待ち望んでいた」と喜ぶ患者らがいる一方で、専門家からは乱用を戒める慎重論も聞こえる。性は単純に割り切れるものではない。手術が社会的に認知されるためには、医療面だけでなく、戸籍や性教育、周囲の理解など、さまざまな場で意識の変化が求められることになりそうだ。

手術第一号候補の30代「女性」

スカート嫌「結婚、女性と」

「なぜ手術したいの、と聞かれるたびに戸惑います。本来の性を取り戻したいだけなのだから……」

 医科大学が承認する性転換手術第一号になるとみられるのは、東北地方に住む30歳代の「女性」患者だ。6年ほど前、埼玉医大側に直接かけ合って手術を申し込んだことが、公認の動きのきっかけになった。

 今回、手術に向けて事実上のゴーサインが出たことについて「17歳の時から手術を望んでいました。うれしさと、とにかく早くして欲しいという気持ち、本当にうまくいくのかなという不安が、入り交じっています」と話す。物心がついたころから、女性の体であることが「借り物」のような違和感を覚え、中学や高校では制服のスカートが苦痛だった。

 高校卒業後、女性として働いた時期もあったが、スカートや化粧を強制されそうになって辞め、男性として職を見つけても戸籍謄本などを提出させられそうになると辞めた。

 15回ほどの転職の末、今は建設現場で働く。証明書などは求められないものの、社会保険がない不安定な身分だ。最近は男性ホルモンを定期的に注射しており、ヒゲが濃くなり、声も低くなった。女性とみられることはあまりないが「周囲の偏見から逃れるため、ばれたら大変だと思うと、生きた心地がしない」という。

 「体と心が合わないだけだから、病気と診断されることや特殊な人間とみられることに抵抗がある。社会の理解が欲しい」

 将来は、女性と結婚したい、と思っている。

「人生変わった」 米で手術の「男性」

 「日本で手術が実現するのをずっと待っていた。やったあという感じです」1987年から89年にかけて米国で性転換手術を受けた、著述業の虎井まさ衛さん(34)=ペンネーム=は素直に喜ぶ。

 虎井さんも、「女」から「男」になった。医者から米国の団体を紹介され、大学卒業直後に渡米。カウンセリングを受けたうえでまず上半身、次に下半身の手術をした。費用は計600万円ほどかかった。

 「自分は手術後、人生が変わった。満足している。成功例が続けば社会的に認知され、いずれは戸籍の男女変更の動きも出てくるでしょう」と期待している。

戸籍、「旧性」のまま 「人体改造」乱用の恐れ

・法的な「性」

 戸籍法は事実上、性別の変更を認めておらず、性転換手術を受けても、法的には「旧性」が残る。このため病院での診察や就職などの際に不都合が起きたり、社会的な差別や偏見を受けたりする恐れがある。

 欧米では、性同一性障害などの人の性別変更を認める国もある。しかし、法務省民事局第二課は「生物学上の性は変わるはずがないというのが社会理念。性転換手術をして性が本当に変わったといえるのか、議論の余地がある」という。

 医療・生命倫理に詳しいノンフィクション作家、中島みちさんは「生き死にの問題への対応は別にして、価値観は多様であっていいので、手術そのものには反対しない。だからといって、手術を受けた人について、社会規範的にも法的にも別の性になったと認めない状況で、大学の倫理委がいま、承認できる問題とは思わない」と疑問を投げかける。

・性別の認織

 生物学的な性はXX(女性)、XY(男性)という性染色体の違いで決まるとされる。しかし、自分の性をどう認識するか、一致しない場合がある。順天堂大学の新井康允教授(神経内分泌学)は「脳による性別認識は必ずしも染色体では決まらないことが分かってきた」と指摘する「性同一性障害の原因が解明されていない今、性転換技術は患者を救う有効な手だての一つだろう。ただ、脳の性分化の基礎的な研究をさらに進める必要がある」と話す。

・相談200人

 埼玉医大ジェンダークリニック委員会の原科孝雄教授のもとには、これまでに200人近くから相談があったという。しかし、手術まで検討する真性の性転換症と見られる人は10人に満たない。原科教授は「手術すればすべてが解決するというのは幻想」と話す。

 厚生省精神保健福祉課は当面、埼玉医大の性転換治療を慎重に見守る構えでいる。しかし、他の医療機関への広がりについては、「診断や治療には高い専門性と倫理性が必要。学会の指針などに照らして、患者に著しい不利益が生じれば、母体保護法違反も検討する」と話す。

 徳山大の粟屋剛教授(医事法社会学)は、失われた機能を取り戻すための医療から一歩踏み出した「積極的な人体改造時代の幕開け」と見る。新たな医療が新たな需要を呼び、手術が美容形成感覚で乱用される恐れがあると心配する。「市場原理のもとで、倫理は弱い。性転換治療が適切な医療としてなされるためには、法規制が急務だ」と警告している。

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「女性患者 性転換手術を承認」1998年5月13日読売新聞朝刊30面

埼玉医大倫理委 国内初、今夏にも実施

 生まれながらの性に強い違和感を持ち、別の性になりたいと悩む「性同一性障害」患者の性転換手術の是非を討議していた埼王医大(埼玉県毛呂山町)の倫理委員会(山内俊雄委員長)は十二日、申請が出されていた女性患者の性転換手術について「手術後の精神面でのサポートで適切な対応をする」一との条件付きで承認した。欧米やアジア各国で認められている性転換手術は、国内では旧優生保護法(母体保護法)の壁もあってタブー視されてきたが、この日の承認で、今夏にも正式な医療行為として国内初の手術が実施される見通しとなった。

 性転換手術については、同大倫理委が1996年7月、手術を「正当な医療行為」と容認した。これを受け、日本精神神経学会の特別委員会が、診断と治療についてのガイドライン(指針)を作成。その中で、手術は生殖機態を失わせるなど「不可逆性」があるとして、精神的カウンセリング、性ホルモン投与を経ても違和感が解消しない場合に限った「最終段階の措置」と位置づけ、(1)年齢は20歳以上(2)希望する反対側の性で1年間以上日常生活を体験してみる(3)患者は手術の影響を十分に理解し実施に文書で同意している−などを条件として挙げている。

 同大倫理委は、今回のケースについて、既にこれらの条件をクリアしているものと判断したが、欧米の症例から、手術後に後悔して自殺するケースもあるとの報告を重く受け止め、「術後の精神面でのサポートの必要性を条件として盛り込んだ。倫理委は今週中にも、同大学長に正式な答申を出すという。対象となる患者は、男性への性転換を望んでいる30歳前後の女性。卵巣摘出と男性器の形成手術を受けることになる。

戸籍や婚姻など様々な課題

解説

 性転換手術が埼玉大倫理委の承認で医療行為として実施される見通しとなったが、戸籍、パスポート、保険証などの性別の変更、婚姻問題など様々な課題は残されたままだ。

 例えば、戸籍上の性別の変更を申し立てた訴訟は、これまでに認められた例はない。末村利人・早稲田大学教授(バイオエシックス)は「法律の改正など社会的制度的なサポート体制ができておらず、患者は手術後に法的なアイデンティティーの問題など苦しみを負うことになるのでは」と懸念を隠さない。

 また、社会的、法的制度の整備について、石原明・神戸学院大学教授(生命倫理法学)は「性転換の問題に関して、社会全体の理解を得ることが必要」とし、「社会的に理解が広がっていけば裁判所も理解を示すようになるだろう。同時に、法的にも戸籍法の手直しや性転換に関する法律の整備を進めるべきだ」と話している。(龍野晋一郎)

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「性転換手術を承認」1998年5月13日産経新聞朝刊1面

性同一性障害 医療では国内初

「精神面ケア」条件

埼玉大倫理委

 自分の心と体の性が一致せず、身体的に違和感を持つ「性同一性障害」の患者を治療している埼玉医科大(埼玉県毛呂山町)の倫理委員会(委員長・山内俊堆精神科教授)は12日、女性患者(30)の性転換手術について、術後の精神的サポートをより明確にするなどの条件つきで承認した。国内初の承認で、早ければ今年夏にも、女性患者に対し、医療行為としての性転換手術が行われる。「性同一性障害」に悩む患者は数千人いるとみられており、同大の手術承認は、波紋を呼びそうだ。

 女性患者の性転換手術は同大の性同一性障害に関する医療チーム「ジェンダークリニック委員会」(安倍達委員長)から倫理委員会に許可申請が出ていた。

 手術が予定される患者は3歳ごろから自分が女性であると認識できず、社会的には長く男性として暮らす一方、同大で6年前から精神治療やホルモン治療を受けてきた。

 性転換手術については同大倫理委が平成8年、この女性を含む2人の患者の症状を病気としたうえ、手術は「正当な医療行為」と認定。翌9年には、日本精神神経学会が同障害の診断と治療のガイドラインを策定し、厚生省も医療行為と認める見解を発表した。

 ガイドラインでは精神カウンセリングとホルモン治療を経て、それでもなお強い違和感を訴える患者に最終的な治療手段として性転換手術を行うこととしている。また手術の適否には治療判断の正確さが求められることから、手術は精神科や形成外科など複数の専門家から成る医療チームを備えた医療機関での実施に限定することなどを定めている。

 同大では、この患者に一連の治療を施すとともに昨年、正式に「ジェンダークリニック委員会」を発足させ、治療を継続しながら手術の適否を話し合ってきた。その桔果、手術の必要性を認めたため、4月30日付で倫理委に手術承認を求め申請していた。今回、倫理委は同委員会の診断・治療がガイドラインの条件をほぼ満たしていることから「患者の治療には手術が必要」と判断、承認に踏み切った。

 山内委員長は同委員会の申請内容について「基本的には診断と治療の段階を踏んでよく検討されている」と評価したうえで、今後、患者への術後の精神的サポートやインフォームドコンセント(説明・同意)などを充実させ、近く東博彦学長に答申する予定。学長が認めれば正式に手術にGOサインが出される。(社会面に関連記事)

■性同一性障害 自分の性別を認識する「心」と「身体」が一致しない病気のことで、アメリカのデータでは、成人でこうした性同一性障害から、男性から女性への転換を望んでいる人は3万人に1人、その逆は10万人に1人いるといわれている。

 実際の性転換手術では、交通事故などで損傷した部位の再建手術の技術が応用され、まず、乳房の切除、卵巣や子宮などの摘出、また男性器形成の準備として尿道変更手術が行われる。これらの手術がスムーズにいった場合、約半年後に患者本人の上腕部などから血管や神経ごとに取った皮膚や皮下組織で男性器を形成する。生殖機能はない。「性転換」といっても外科手術で外見上の特徴を変えるだけで、生物学的な「性」を転換するわけではなく、戸籍上は元の性別のまま。しかし、治療にあたる埼玉医科大総合医療センター形成外科の原科孝雄教授は「患者にとって男性器は男性としての性を認識する象徴。したがって心と身体のアンバランスを埋めることで人間性の回復に手を貸すものと思う」と性転換手術の意義を語っている。

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「ようやく本当の自分に」1998年5月13日産経新聞朝刊社会面

埼玉大倫理委 性転換手術承認

 自分の性に違和感を抱く性同一性障害の治療法として埼玉医科大が12日、承認した性転換手術。「望みの性で生きたい」と、この日を待ちわびた人々にとっては大きな朗報となった。アジア各国や欧米で認められている性転換手術だが、わが国では旧優生保護法(母体保護法)の壁で長年タブー視されてきた。患者らは周囲の無理解や偏見に悩んできただけに、埼玉医科大の手術承認を一様に歓迎している。

 女性の体に生まれながら、社会的には男性として暮らす神奈川県のフリーライター(40)は「やっと手術が受けられる」と感慨もひとしお。

 「女」の肉体のまま生きられるかどうかを試すために結婚。30代で出産したが、それでも自分は「男」であると確信し、出産直後に離婚した。これまで「男親」として一人息子を育ててきた。ホルモン投与を続け、筋肉も声質も男性に変わってはいるが、残る女性器に違和感があり「早く手術を受けたい」と話す。この人によると、海外での手術は経済的にも精神的にも負担が大きく、技術面にも不安が残るという。「あとは肉体の変更に合わせ、戸籍変更ができれば」と、法律面の整備を訴えている。

患者ら一様に歓迎

無理解や偏見に悩み続け

 男性への性転換を希望する都内の女子大生(23)も、「うれしい。これで自分が、『おかしい』と思わずにすむ」と、正当な医療行為として手術が行われることに、感激の声をあげる。

 性同一性障害をもつ人は偏見や差別を恐れ、家族や親しい友人にも「本当の自分」を隠し、苦しむ人も多い。しかも、体と違う「性」で暮らせば、字校でのいじめや就職・雇用差別など厳しい現実が待ち受け、水商売を余儀なくされる人も多い。

 女子大生は「これをきっかけに、自分の心を隠さず普通に生きられる社会になれば」と話している。

カルーセル麻紀さん「私も市民権得られた」

 タイや台湾などアジア諸国や欧米では、性転換手術は普通の医療行為として定着している。

 一方、わが国では昭和44年、男から女への性転換手術を営利目的に実施した産婦人科医が優生保護法に違反するとして、有罪判決を受けて以来タブー視されてきた。

 25年前にモロッコで男から女への性転換手術を受けたタレントのカルーセル麻紀さんは「遅かったわね」とひと言。当時は違法行為にあたるかもしれない国内での手術を断念した苦い経験を振り返り、「日本も進歩したわ。これで私も市民権が得られたのね」と話している。

 米国の研究では、この障害をもつ人は数万人に1人ともいわれ、日本でも数千人の患者が存在することになる。

 しかし、他の病気と違って治療や相談窓口の情報がほとんどないのが現状。埼玉医科大が昨年1月に開設した国内で唯一性同一性障害を専門にする「ジェンダークリニック」には約150人が来院している。

 職場では戸籍通りの女、私的な生活は男という二重生活を送る都内の会社員(33)は埼玉医科大の決定を知って、「これで、やっと本当の人生が手に入る」とつぶやいた。

独自の指針検討

 日本形成外科学会理事長の波利井滑紀・束大教授の話 「本人が希望しているとはいえ、性転換手術には、倫理上の観点から問題もある。形成外科学会としては、各大学の倫理委員会が十分な検討をしたうえで実施するなら問題はないと考える。ただ、一般の開業美容外科医にも安易に広がる懸念があるので、歯止めの意味からも学会として独自のガイドラインを検討している」

戸籍問題に糸口

 性同一性障害患者のサポートグループ「FTM日本」代表で著述業、虎井まさ衛さん(34)の話 「やっと手術承認にこぎつけたが、人生をさらに充実させるには反対の性での戸籍取得など法改正に向けた動きも併せて必要。手術は、私など外国で手術を受けた者も含め、こうした問題の解決に糸口を与えるものとなるだろう」

手術は第一歩、フォロー必要

視点

 埼玉医科大倫理委が手術を承認した女性患者(30)は長年、精神面のカウンセリングやホルモン治療などを継続したが、一貫して「自分は男である」との認識は変わらなかった。そのことが心身の性を一致させる最終的な治療手段として性転換手術の実施を決める大きな要因となったようだ。

 性転換手術は「確立した技術を人間の幸福のためにどう使うか」という医療の新分野への挑戦でもあり、先瑞医療など、いわば機能回復の追求だけが医療ではないことを示しているともいえる。

 だが、性転換を強く望む人々にとって手術は第一歩でしかない。術後の生活を充実させるためには、望む性別での進学・就職・結婚などを可能とするための戸籍の性別変更に向けた活動のサポートがなくてはならない。また前段階として、パスポートや公式文書の名前を望む性にふさわしい呼び名に変えるなどのフォローが必要だ。

 埼玉医科大倫理委員会の山内俊雄委員長は「戸籍の性別変更などの法律的な問題は手術の事例を積み重ねる中で検討されていくはずだ」という。が、その間、手術を受けた人々は手術は成功したものの、中途半端な性のままで生活をひきずることになってしまうという懸念はぬぐえない。

 何をもって「転換手術」の成功と判断するのか。医療行為だけが安易に先行するだけでは一個人の幸福は実現できない。人間の生き方と手段としての医療とのかかわりを今一度、考え直す時期でもある(冨安京子)

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「性転換手術を承認」1998年5月13日東京新聞朝刊1面

埼玉大倫理委 国内初、今夏にも実施

 埼玉医大(埼玉県毛呂山町、東博彦学長)の倫理委員会(委員長・山内俊雄教授)は12日、生まれつきの性に違和感を持ち、別の性になりたいと望む「性同一性障害」の女性について、性転換手術の実施を条件付きで承認した。今週中にも学長に答申する。早ければ今夏にも、国内で初めて正当な医療行為として性転換手術が行われる。【関連記事20面に】

 手術を希望しているのは東北地方に住む女性(30)。既に「男性」として日常生活を送っている。1992(平成4)年から同大に通院、これまで精神療法、ホルモン療法などの治療を受けてきた。

 同大では96年7月、倫理委が「性転換は医療行為」との見解を示した。同時に(1)診断基準の明確化(2)医療チームによる治療体制の整備−などを求めていた。

 この日の倫理委は手術後の患者に対する精神的サポートをより明確化する、などの条件がついたが、手術の必要性には異論はなく、承認された。

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「理解されず『苦しかった』」1998年5月13日東京新聞朝刊20面

性転換待つ女性 2歳のころから『私は男』

 埼玉医大(埼王県毛呂山町)の倫理委員会が、東北地方の女性(30)の性転換手術実施を承認したが、この女性は12日までの東京新聞の取材に対し「もっと早くできるかと思っていたのでようやく、という思い。でも手術台に上がるまでは安心できない」と心境を語った。

 この女性は2歳のころから「自分は男性」という意識で暮らしてきた。赤いランドセルやスカートが大嫌い。「甲高い声がいやで、金ぐしでのどをひっかき声帯をつぶしたこともあった」という。

 だが、そうまでして自分の性に違和感を持つ苦しみを、周囲はなかなか理解できなかった。「『おかしい』『変だ』で片付けられた。目に見える病気なら気にしてくれたろうに。本当に苦しかった」という。

 ある日、埼王医大の原科孝雄教授(形成外科)の性器再生手術の記事を雑誌で見つけ、連絡。治療はここから始まった。だが「2年ぐらいで何とかなるのかなとも思っていた」ため、なかなか進まない事態に、一時は「外国での手術も頭をよぎった」という。「でも海外では術後、自殺した人もいる。それを考えるとやはり日本がいい」。支援組織などの動きも徐々に高まってきた。

 専門医らの医療チーム「ジェンダー委」などの発足は、「先生たちの努力のおかげ」と評価する。そして「私たちのような人が特別視されず普通に暮らせるように、社会の理解が深まってほしい」と訴えた。

重要な一歩、慎重に

原科季雄・埼玉医大総合医療センター形成外科教授の話

 率直に感慨深い。手術自体は欧米でかなり前から行われており技術的な問題はない。公認された医療としては国内初の重要な一歩なので、慎重に進めたい。倫理委員会に申講してから3年かかったが、脳死臓器移植などの問題と比べれば、かなり短時間で結論が出たと思う。

戸籍問題 術後のケア 社会全体で体制づくりを

解説

 埼玉医大の倫理委員会が12日、性同一性障害に悩む女性に対して、男性に転換するための外科手術を行うことを認めたことは、同じ障害に悩む人々にとって大きな朗報である。というのも「生物学的な性(セックス)」と「心理的・社会的な性(ジェンダー)」の不一致は、一般には病気扱いされず、つい最近までは医療機関でも相手にされなかった。それが、患者の悩みをいっそう深刻にしていた。倫理委がこの障害を「病気」と認定し、その患者の治療は「正当な医療行為」であると明言したことで、患者の精神的な負担の軽減は、計り知れないだろう。だが、今回の承認は、性同一性障害の問題への取り組みの第一歩にすぎない。性転換後の戸籍、身分証明書の性別をどうするかなど、課題が山積みである。また、米国では性転換を受けた患者の自殺率が高いとのデータが出されており、手術後の精神的な支えが不可欠だが、そうした体制は不十分なままだ。これらは、一大学で対応できる問題ではない。今後さらに患者が増えるとみられる以上、法曹界を含め、早急に社会全体で受け入れ体制を検討することが必要だ。(日比野守男)

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「性転換手術を承認」1998年5月13日日本経済新聞朝刊34面

埼玉医大倫理委、同意書など条件に

今夏にも女性患者に実施

 生まれながらの肉体的な性に強い違和感を持ち別の性になることを望んでいる「性同一性障害」の患者に対する性転換手術を検討していた埼玉医科大学は12日、倫理委員会(委員長・山内俊雄同大教授)を開き、条件付きで手術を承認した。早ければ今夏にも、正当な医療行為として国内初の性転換手術が実施される見通しとなった。

 倫理委は、性同一性障害に悩む患者の診断や治療をしている同大の専門医チーム「ジェンダークリニック委員会」(委員長・安倍達同大教授)が先月30日に申請した東北地方に住む女性患者(30)の手術の実施を審議。この女性は同大で長年にわたり、心理的な不安を取り除く精神療法や男性ホルモンを注射するホルモン療法を受けてきた。

 手術を認めるにあたり倫理委は条件として、日本精神神経学会が安易な手術を防ぐため97年5月にまとめた指針に基づく同意文書の作成や術後の精神的なカウンセリングなどを掲げた。今後、学長に申請して許可を得てから、手術の準備に入る。卵巣の摘出など手術の完了には半年程度かかる見込み。

 倫理委は96年に「性転換手術は正当な医療行為だが条件が未整備」とする答申を出した。同大はその後、学内外の形成外科や精神科医からなるジェンダークリニックを設置、手術の是非を検討してきた。

社会復帰へ法整備急務

解説

 埼玉医科大の手術承認は、国内に数千人いるとされる性同一性障害の患者にとってはとりあえす朗報だ。ただ術後に就職などの社会復帰が十分にできるかという課題もあり、精神的な不安を解消する仕組みや性転換した人を社会的に認める法律の整備が急がれる。

 手術後の最大の問題は戸籍。現行の戸籍法では性別を変更できず、就職や結婚などの社会的な生活に支障が出てくる恐れもある。先行する欧米では術後の性になじめず自殺したり、遺族が手術を行った医者を訴えるケースもある一方、法的に性転換した人の性別変更や結婚を認める仕組みが整っている。

 69年に性転換を望む男性からこうがんを摘出した医師が優生保護法違反で有罪判決を受けた裁判では、性転換手術を認める条件として「手術を受けた人の社会的生活が保障されること」が挙げられた。今回倫理委は医学的な手順を踏んでいるものの、日本の法的な整備は遅れており、「まだ手術実施は早すぎる(ある私立大学の外科医)という慎重な意見も根強い。

性同一性障害

 持って生まれた肉体的な性と、自分が属すると考える心理的な牲とが一致せず苦しむ状態。原因ははっきりしていないが、生物学的な要因も指摘されている。患者数は欧米の調査では男性で2万〜3万人に1人、女性で10万〜9万人に1人と言われ、日本でも同程度の割合と推定される。ただ、外科手術を望む患者はそれほど多くないと見られる。

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