Youri Egorov

Biography

 1954年ロシアのカザン生まれ。
 17歳の若さで、ロン=ティボー国際コンクール4位入賞。
 その後地元の音楽院からモスクワ音楽院に移ってヤコブ・ザークに学び、1974年チャイコフスキー国際コンクール3位入賞。
 1975年エリザベート王妃国際コンクール3位入賞。
 1976年オランダに亡命し、以後アムステルダムを本拠に活発な演奏活動を開始。
 その翌年の77年、アメリカで行われたヴァン・クライバーン国際コンクールに出場し予選落ちするが、これをきっかけにカーネギー・デビューを果たし、アメリカでも名声を得る。
 1988年エイズのため33歳の若さで他界。
 録音はEMIに多数残されているほか、アムステルダムには彼の夭折を惜しんで「エゴロフ協会」という団体ができて、彼のCDを出し続けている。



 ユーリ・エゴロフの音楽は本当にみずみずしい。彼の手にかかると、どの曲も、まるで初めて聴くかのように、新鮮な輝きをもって迫ってくる。
 エゴロフは魔法のようなタッチをもっている。ゾクっと鳥肌が立つほど純粋で美しく、私たちの耳を金縛りにする。彼の演奏はマンネリズムの対極に位置するもので、初々しいピュアな共感が満ち溢れている。音楽が生まれ出る瞬間の感動と喜び、それをこんなにストレートに伝えてくれる演奏家は稀で、サヴァリッシュとの「皇帝」の録音に出会って以来、彼は僕にとって特別な、孤高の存在であり続けている。
 音楽の原点としての、純粋な「音楽する」喜び…それを聴く度に思い起こさせてくれるのがユーリ・エゴロフである。



■シューマン・アルバム(EMI)
 エゴロフの、シューマンに対する深い共感が、全ての音符から発露している珠玉の名演ばかりである。シューマンの夢見るような感情の移ろいが、エゴロフのデリケートなタッチにそのまま映し出されているかのようで、ことに「謝肉祭」「蝶々」「色とりどりの小品」は絶品中の絶品。端整な佇まいの中にありったけのロマンと香気が詰め込まれている。辺り一面に花が咲き乱れるような、言語を絶する美しさである。

■ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」・モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番K.466/サヴァリッシュ指揮フィルハーモニア管(EMI)
ベートーヴェンが名演。冒頭のまばゆいほどの輝きからしてすっかり心奪われる。初々しい感性の赴くままに奏でられたベートーヴェンだが、透明で引き締まった造型感覚と繊細な歌心が絶妙の融合をみせる。絶品は第3楽章で、抜群のリズム感覚が冴え渡る快演。サヴァリッシュの好サポートも特筆すべき。

■ドビュッシー:前奏曲集/ショパン・アルバム(EMI)
 ドビュッシーはどこまでもクリアーで繊細。もう少し陰影が欲しい気もするが、それにしても本当に美しい。ショパンは、バラード1番が胸のすくような快演。

■エゴロフ・レガシーVol.1(CANAL GRANDE)
 シューベルトのソナタ19番c-mollと「楽興の時」。
 c-mollのソナタは、彼の遺した最も素晴らしい録音のひとつで、エゴロフの繊細な持ち味に、ライヴならではの感興の豊かさと熱気がプラスされ、信じられないほどの名演となっている。
 「楽興の時」は、エゴロフの最後のリサイタルでの録音。彼自身、迫り来る死を自覚していたという。かなり遅めのテンポでたっぷりと噛み締めるように歌い込まれていて、涙なしには聴けない。ライナーノートのJan Brokken氏の文章によると、名声に無頓着だったエゴロフはシューベルトの音楽の誠実さにとりわけ深い共感を見出していたという。エゴロフはこう言っている。「シューベルトの音楽の内面には悲しみが潜んでいます。彼の音楽に苦しみはありませんが、ただ無性に悲しくなります。しかし、彼は、たとえ悲しみのどん底にうちひしがれている時でも、いつも控えめでした。」これは、シューベルトを愛したエゴロフの、聴衆への最後のメッセージとなった、感動的な記録である。

■エゴロフ・レガシーVol.2(CANAL GRANDE)
 1980年、エゴロフ若き日のライヴ。バッハのパルティータ6番e-moll、バルトークのソナタ、ショパンのエチュードOp.10。
 特にショパンは、絶え間なく湧き出てくる泉のような自発性と歌心にあふれた素晴らしい名演。これほど感興に満ち溢れたエチュードの録音は他に皆無と言ってよく、ハッとするような新鮮な美しさにすっかり耳を奪われる。

■エゴロフ・レガシーVol.4(CANAL GRANDE)
 ハイドンのc-mollソナタでの瑞々しい表情。スカルラッティのソナタやベートーヴェンの「アンダンテ・ファヴォリ」で聴かせる慈しむような歌心。いずれも忘れがたい。

■ブラームス:Intermezzo Op.118-1,2,6(PHILIPS)
 どこまでも暖かく、心洗われる清冽なブラームス。ただただ美しく純粋な音楽がある。こういう途方もない名演に接していくと、エゴロフが早く天に召されてしまったのも分かるような気がしてくる。



エゴロフ・ディスコグラフィー

川崎清人さんによるエゴロフの紹介記事


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