米国名誉市民になった話






 米国人と接するには、多少の茶目っ気を持ったほうが良いらしい。

 メリーランド州第一の都市ボルチモアを訪問したところ、市教委の機能が一時ストップしたかと思われるほどの接待を受け、どの訪問校でも大歓迎攻めに会った。
 そこで返礼のつもりで、泊まっていたホテルに市教委首脳陣や訪問先の校長各位を招待し、各自の小づかいをはたいてのささやかな日本式パーティを行った。

 こきりこ節や黒田節の歌や踊りまで出て、宴も最高潮に達した頃、幹事がアルコールも底をついたのでそろそろ閉会宣言をしろと耳もとで迫る。しぶしぶ立って、

 「酒の好きな私には、この市の名前は、ボトルモア、ボトルモアと聞こえ、ボトルをもっと持って来いということで、まことに良い名前だ。が、幹事は、ボトルモアではなくて、もうノーモアだと言っている。よって、残念ながらお開きにする。」
 と言ったところ、この日本語的駄じゃれも結構通じたらしく、一同大いに笑って散会した。

 前夜が楽しかったからでもあるまいが、翌朝、市教委がどう推薦したのか、市長がボルチモア名誉市民の称号を授与したいから市庁舎に来いと言われてびっくり。百年も経っているという壮麗な市庁舎の中の豪華な市長接見室で、30名のひとりひとりに証書が手渡された。そこで団長としてまた一言という破目。

 「読売新聞の、多分8月2日だったと思うが、シェーファー市長さんの記事が載っていたことを思い出している。それは、貴市に建設する国立水族館の6月オープンの予定が遅れ7月にずれこんだので、遅れたら水槽で泳ぐと公約していた手前、オープン当日、市長さんがアザラシの水槽で泳いだ、という記事であった、という記事である。新聞には、写真も掲載され、小さな公約も守るという心がけと、ユーモアに満ちた行動は、公務員の手本と言うべきかとあった。この記事は、一千万人以上の日本人が読んだ筈であり、私もその一人である。かかる名市長さんの管轄する市の教育事情を視察できたことは、まことに幸せであった。小さな約束をも守って生徒の信頼を獲得するということと、常にユーモア精神を持って指導に当たるということは、およそ教師という職業にも要求される重要な資質ではあるまいか。」
と、いささかオーバーにぶち上げた。

 あとから知ったのであるが、水泳の一件はテレビで米国全土に放映されたとのことであり、このドナルド・シェーファー氏は単なる茶目っ気ばかりでなく、卓抜な行政手腕をもって着々成果を挙げている名市長とのことであった。小さなトピック記事といえども大いに役立つものであり、日本の市長さん各位にはちょっと考えられぬなという強い印象をもってこの記事をおぼえていたことは、まさに怪我の功名と言うべきか。

 かくて、われわれ一行は、1981年11月12日、米国東海岸、首府ワシントンから64Km、人口94万人の港湾都市、ボルチモア市の名誉市民となったのである。