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心臓手術

北里大学  心臓血管外科中江世明


 新しい手術方法は歴史に基づくものが多く、これから手術を受けられる方々にも、今後の問題点を知っていただくうえで必要なことと思います。
一、体外循環の発達と心臓手術
 古くアリストテレスの時代から「心臓だけは傷をつけてはならない」器官として扱われてきて、約2000年に渡って治療としては、心臓に手をつけられなかった事実があります。体外循環による開心手術と心停止法は160年も前から研究されていましたが1953年に初めて臨床応用されました。心臓手術は開始後急速な進歩をしますが、その歴史は医学史の中では極めて短いものです。
二、ファロー四徴症の治療の歴史
 1700年代に発見され、病理学的診断はついているものの治療出来ない状況でした。姑息手術としてよく知られるブレロック短絡手術も、小児科医へレン先生によって考案され、ブレロック先生により実施されるまで長い年月を重ねました。動脈管開存症を併せ持つファローの子どもの方が、これを持たない子どもより長く生きることに注目をしたへレン先生の登場は、心臓外科の夜明けであり、この発見は医学史の中では、ヒポクラテスの再来と言われるほどのものでした。
 ファロー四徴症の根治手術は、理論的には現圧まで変わるものはありません。しかし細かな手術方法は変遷していて、右室の筋肉の過剰な切除を避け、右室機能を温存することで飛躍的な成績の進歩を得ました。現在は肺動脈弁温存手術をし将来の発育を待つという方法を可能な限り行なっています。手術後右室の肥大がとれるのに約4年かかりますが、早い時期での手術ほど期間を短縮出来る傾向にあります。
三、フォンタン手術の歴史
 今でこそ盛んなこの手術方法も、その歴史はまだ新しく1971年にフランスで第一例が行なわれて以来、約二十五年しか経ていません。最初の手術は音のグレン手術後の患者さんで、上半身の血液が右の肺動脈だけに注いでいたものを、下半身の血液を心房の中を通して、左の肺動脈に注ぐようにしたものでした。これがフォンタン手術の原法です。その後一時、肺動脈に弁をつけたり、人工血管を入れたりと少し変化をしましたが、現在では非常に小さな右心房を作って、そこに集めた血液(上半身と下半身の静脈血)を直接肺動脈に注がせるという方法になっています。
 単心室症・三尖弁閉鎖症の福音と言われたフォンタン手術ですが、様々なケースがあり、生後何らの姑息的外科治療を経ないでフォンタン手術になるのは約30%です。フォンタン手術のしくみに合わない場合は、ブレロック短絡手術や肺動脈の絞扼手術などの姑息手術を経て、肺の血管の抵抗を調節する必要があります。グレン手術は、古くは、右の上半身の血液を右の肺動脈だけに流して肺の血流を少し増やすという、根治出来ない時代の恒久的姑息手術でもありました。しかし、グレン手術は静脈の血液が肺の中を通過し、有効な肺の血流量が増えるため、ブレロック手術より有効酸素摂取肺血流が増え、やや効果が高い場合があり最近リバイバルして脚光を浴びています。
四、手術後のクオリティ
 手術で行なうことは、心臓に対して形態を修正することです。穴が開いていれば塞ぐ、狭い所があれは拡げる、フォンタン手術のような複雑な組み合わせをするなどの形態の修正が、心減の機能面から見て.果して満足出来るものであるのか大きな問題を抱えています。フォンタン手術をすると、肺に血液を送り出す心室機能はないことになります。心内膜欠損症で弁の形成術が出来ても、完全なものとはいえません。大血管のスイッチ手術が行なわれていて理想的で非常に質の高い手術ですが、大動脈弁は本来のものではありません。ファロー四徴症・大血管転位症・修正大血管転位症・総動脈幹症などの比較的複雑なチアノーゼ性疾患の治療に、心室・肺動脈間の人工血管による手術(ラステリー手術)が、1970年代に画期的な手術方法として登場しました。しかし、時間がたち人工血管のもつ自然劣化(石灰化・体重増加による狭小化などの問題)によって再手術となり、子どもにとっても重大な精神的重圧となっています。その他にも不整脈や人工血管の感染症(感染性心内膜炎)の問題もあります。これらのことは、子どもたちが成長する過程で何らかの制約を受けながら生活するということであり、最初に知っておくべき問題だと思います。
五、手術後の運動機能評価
 心房・心室中隔欠損症の子どもの術後は、運動機能にほとんど健常児との差を見いだせません。しかし、ファロー四徴症・フォンタン手術後の子どもは、健常児と一線を画しています。これは、心拍数の増加率が悪い、呼吸が心機能を代償できる範囲が小さい、心拍出量が低値であることがわかっています。現在の心臓外科の技術では完全に正常化出来ない部分ですが、日常の生活は活発にされている方は多くいます。
六、まとめ
 ファロー四徴症の場合25年前の死亡率は20%でしたが、現在は0.5%を下回るという状況で、その診断と技術は非常に進歩しています。今後、外科医が子どもたちに良い治療を提供していくには小児循環器医師の診断面での修復方法に対する積極的な意見・手術に対する評価・患者さんの声の代弁など、ますます厳しくなっていってほしいと考えます。この積極性と情熱は外科治療にとって、とても大切なことだと信じます。今から手術を受ける方は、心臓手術の歴史の約五十年分を享受出来ることになります。五十年を経た治療の進歩はめざましいものがありますが、生命の危険から見た場合、死亡率〇という手術はまだ存在していません。もしかしたら亡くなるかもしれないという治療を、どう受け取めて手術を受けるのか?決して逃げないで、正面から取り組んで考えてみることが、勇気を持って臨むチャンスを作るのだろうと私は思います。小児循環器医師が子どもの心臓病治療には重要な存在で、この上にすべてのシステムが成り立っています。子どもや、成人を迎えていく方々が満足する生活が出釆ることを願い、外科医の一人として良い治療が出来ます様にたゆまず努力していきたいと思います。
     

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