繁殖に挑戦しようという方へ


タランチュラのブリーディングについてのATS(米国タランチュラ協会)機関紙 からの翻訳(原文:Nigel Carter)




はじめに

各種のタランチュラを一・二頭ずつ集めると、自分の好きな種を繁殖させてみようと 考えるのは自然なことだ。「好きな種」というのは3種類の見方ができる。まず、 興味深い行動・きれいな色・サイズなどで選ぶことができる。また、仔グモが 生まれたらどれほど価値があるか、という選びかたもあり、三番目にこの両方の 組み合わせで選ぶ方法がある。(野生個体に過度に依存しない)自給的な状況を うながすことが望ましいのは、タランチュラ飼育でも例外ではない。つまり、 生まれた仔グモは、つぎの繁殖プロジェクトのために取り引きされ ることにもなろうということだ。繁殖のためによい成体をそろえるのには、 数千ドルを費やすこともあるということを考えれば、将来の繁殖のために個体 を提供できることは、とても望ましいことなわけだ。

私の意見では、繁殖の成功率をたしかにするは、六頭というのが「マジック・ ナンバー」のようだ。二頭のオスと四頭のメスとする。私なら、二頭の成体メスを 一頭のオスと交尾させ、さらに別の二頭のメスを、もう一頭のオスと交尾させる。 これなら、成功裏の交尾を得る公算があり、運がよければ複数の卵のうをえる ことができよう。理想的には、全部のメス・オスが互いに近縁でないのが望ましい が、それも難しい(しかも高くつく)だろう。

ここではタランチュラ繁殖の経験についていくつか紹介する。様々な方の経験 が大変参考になった。Sergio Velez、Darwin Sinam、Joel Ledfordに感謝したい。 「West Coast Zoological」のMark Hartは、私の繁殖への興味を持たせてくれた 人で、無料アドバイスをしてくれた。私は専門家ではないが、20種以上を繁殖 させるという幸運に恵まれたのだ。



交尾についての一般的なこと

当然だが、成体オスと性成熟したメスが必要である。私が最もよく聞かれる質問は、 「このメスは、繁殖できるくらい大きいか?」というもの。Sam Marshallは、 最近の著書のなかで「オスが教えてくれる」と答えている。つまり、オスを正しい 方法で導入してみて、オスの反応を見ることで、オスがメスを性成熟している とみなすかどうかが分かるということだ。(ATS編註:これは必ずしもうまく いかない。多くの報告やわれわれの観察では、少なくともある種のオスは、 未成熟メスや未成熟オスとさえ交尾を試みようとした。)



導入

同種の成体オスとメスがいて、オスが精子網(sperm web:訳註−クモのオスは 触肢が生殖器なので、精子をいったん網の上に出し、それをスポイト状の触肢 の先ですいとる。性成熟したオスがつくるこの特別な網をこう呼ぶ)を作った としよう。どうやって両者を一緒にするか。

オスメスの「準備導入」法が最も有効だと思われる。「ペット・パル」タイプの 穴付き透明しきりがあるケージを用いる。これは大きさの違う二部屋を提供する。 人工芝を引いた上に湿らせたバミキュライトをひく。

メスは、シェルターをおいた大きい方のスペースに入れ、オスをシェルター無しの 小さいほうのスペースに入れる。両方に水容器をおき、中仕切りをしたまま3日間 待つ。3日待たないならば、この方法をわざわざとる意味もないだろう。この間に、 オスメスともコオロギをたくさん食べさせておく。

メスが成熟している場合、たいてい、両者は新たな巣に馴れて、相手の存在に 気が付くようだ。もしメスが「踊りに行く」準備ができていれば、メスは中仕切り のところで、脚を押し付け、激しくドラムを叩きまくり、オスが動くと自分も 動く。オスのほうは、ドラムを叩きかえすか、中仕切りを通り抜ける道を探し はじめる。さらに一日待つ。メスが初めからドラムを叩かず、興味を示さない 場合は、運が悪いということになる。

いよいよ、中仕切りをとる。が、必ずカードか、ピンセットか、ハケを持って、 万一メスがオスを餌にしようとした場合には防御をしてやる。私は、野生下の 交尾時間である日没後にこれをするようにしている。昼間にも交尾に成功して いるから、絶対条件ではないが。



メキシカン・レッドニー(Brachypelma smithi)

私の経験(オス三頭とメス十二頭を'97夏に交尾させた)では、メスは交尾へと 急ぎ、普通は威嚇をほとんど見せない。ドラムをやらないメスは、オスに対して かなり攻撃的になりうる。この場合はタッチ・アンド・ゴーだ。もしあなたの オスが強大な個体だと、心の揺れ動いているメスを、とにかく押さえつけてし まう。もしメスがまったく気がなければ、おそらくオスを食べようとするので 注意する。

以下は、B.smithiをはじめて交尾させたときの記録である。

ケージの中仕切りはしてあったが、オスはいつも同様活動的で、メスは24時間 仕切りに張り付いたままだった。オスはタッピングしてまわり、ときどき第一脚 で地面を強く叩いた。オスが一方の端に行くと、メスも同じほうについていき、同じよう にウロウロしているのに気づいた。そしてメスは地面を速く強く叩きはじめた。 ここで、二人を一緒にすることにした。オスはメスにまっすぐ向かっていって、 メスの前脚を叩いた。メスは触肢を持ち上げ、牙を開いてオスに見せた。オスは メスの下に入り込み、フック(訳註:成熟オスの第一脚にある爪)をメスの牙に かけた。ここまで約一分。オスはメスを垂直に押し上げ、さらに下に潜り込むと、 触肢をタッピングしながら、メスの腹をしきりに探りはじめた。私がピンセットを 手にのぞき込むと、ひとつの触肢が挿入され、次にもう一つが挿入された。 オスはフックをメスの牙にかけたまま、離れようとした。ここで私はオスが 逃げるのをピンセットでたすけた。メスは大変攻撃的になり、もしオスが急いで 逃げていなければ攻撃をうけたのは確かで、殺されていたかもしれない。

全部で5分ほどだった。約二時間後に同じ事を繰り返し、さらに三日おきに二週間 繰り返した。はじめの交尾の6日後に精子網を作ったので、オスはメスに授精 していたかもしれないと思った。

この際の交尾は結局失敗に終わったのだが、数ヶ月後に同じ方法で行ったもの はもう少しうまくいった。メスは初めの導入の83日後に卵のうを作った。残念 なことに10日後にはメスが卵のうを食べてしまった。他の人から聞いたところ では、卵のうは、摂氏24度、湿度75%で、85-95日で幼体に成熟するという。



エクアドリアン・ブラウンベルベット(Megaphobema velvetsoma)

この種はごく最近にとりくんだもの。現在('97末)オス一頭・メス七頭がいる。 はじめ、メスのうち何頭が性成熟しているかわからなかった。先述のテクニックで、 七頭中五頭が成熟していると判明し、オスはまだ健康で、3-5週ごとに定期的に 精子網を張っている。この種はすこし変わっていて、オスが攻撃的メスに追い 落とされてしまうので、上のケージ方法もわずかしか成功しない。Sam Marshallの アドバイスで、バミキュライトと表層土をもっといれて、プラスチックのチューブを 埋めてトンネルを作り、メスが7-10日間かけて新環境に馴れるようにした。オスは、 空気穴を開けたデリカップごと入れて3日おいた。給餌のため、毎日数時間オスは とりだした。導入時、オスは数時間じっと硬直しており、一方メスは巣穴から出て、 ゆっくりオスの周りを四、五周歩きまわった。このあとで初めて、オスは第一脚を ふるわせて、触肢で地面をドラムしはじめた。メスはオスのところに牙を見せて 駆け寄った。オスは必死でフックを牙にかけようとし、第一脚でメスの位置を コントロールしようとした。オスはフックをかけ、メスの腹部を触肢で3-5分間 触った。今日までのすべてのケースで、オスは触肢を片側だけ挿入すると、離れ、 時速100キロでケージから逃げだそうと駆け出した。

卵のう形成と仔グモの出のうに関するデータは持っていないが、数ヶ月後には ご報告できることを期待している。初めのメスは97年10月10日に交尾し、現在 大量に食べてかなり太ってきている。

<訳註:筆者にその後を尋ねたところ、このM.velvetsomaの卵のうは 孵化しなかったとのこと。>




アンティル・ツリー(Avicularia versicolor)

これも最近やりはじめた種である。交尾についてはJoel Ledfordのアドバイスに 感謝する。

樹上性種は、上記の安全策を用いるのに少々困難がともなうこと があるが、幸運にも、樹上性種は普通あまり攻撃的ではない。私の唯一の 経験だが、A.versicolorは、他のAviculariaよりもいくらか 攻撃的なようだ。

私のオスは、精子網を週に三回張ったようだった。メスは、脱皮八週後で、 コルクの空洞の内外にチューブ網をさかんに張っていた。オスをデリカップに いれてメスのケージ内に3日間入れておいた。デリカップを開けると、オスは メスのチューブ網にとんでいき、メスはオスに向きなおった。両者はセレモニー もなく15分間くらい交尾した。離れると、オスはとても素早く退散したが、再度 の交尾を考えたらしく、また25分ほど巣の中に消えた。そして、こんどは時速 200キロで飛び出してきた。四時間後に、オスはなんとまた精子網をはった。 交尾はさらに五日間で五回繰り返され、交尾ごとに新しい精子網が作られた。

32日後にメスは卵のうを作り、今日で5日がたったところだ。30-40日したら、 卵のうを取り除くつもりだが、これは、それ以前の除去は孵化の可能性が 低くなるとのJoelの意見による。のちほど報告したい。

<訳註:筆者に尋ねたところ、その後の経過は以下の通り。
23日後に卵のうを取り出す。卵の状態よし。胚発生のしるしはまだみられず。
さらに21日後に後期胚になる。
19日後に第一令幼体に脱皮。
11日後に第二令幼体(捕食幼体)に脱皮。全部で93個の卵のうち、84個だけがこの段階 の幼体にまで育った。>



オーナメンタル・スパイダー各種(Poecilotheria spp.)

Poecilotheria属については、一般に交尾は簡単だ。メスをできるだけ 大きいケージ(20-30ガロン・タンク)に入れ、1週間から10日でメスが落ち着く のを待つ。私は、大きなコルクの空洞(または同種の構造物)をいれて、バミ キュライト・ピートモス一対一の床材を10cmほど敷く。

メスが落ち着いようにみえたら、オスをほうり込んで一ヶ月待つ(!)。 もし繁殖用のメスが一頭だけなら、オスが死ぬまでただそのまま待つ。たまに オスが食べられてしまうが、たいていは老齢で死ぬようだ。私の記録は、いま のところ、P.fasciata(スリランカオーナメンタル)オスを2月22日に 導入して6月12日老衰(?)死。もしメスが複数いれば、一ヶ月ずつオスをローテー ションすればよい。

私はP.regalis(インディアン・オーナメンタル)で同じ事をして、オスは三頭のメスと一ヶ月ずつ過ごして 二ラウンド目である。ただ週に最低二回、コオロギを腹一杯食わせておくこと に気を付けている。メスで初めて卵のうを作ったのは、オスを取り出して62日 後だった。Poecilotheria属の交尾は他の種と異なっており、興味深い。 いつも夜中にメスは巣から出てくる。オスメス双方が、容器の壁でドラミング をする。それからメスは、オスが逃げ出す地点までゆっくり近づいていく。長 ければ、これを五時間も繰り返す(P.fasciata)のを、私は観察した。 私はこの行動を二週間近く見たが、その後メスは巣に戻って出てこなくなった。 卵のうづくりを促すために、(モンスーン期が近づいている、というように) 毎日巣にやさしく霧吹きをしてもよい。びしょびしょにしないように気を付け、 換気をよくして摂氏24度を保つ。

P.fasciataについては、97はじめに次のように分かった。卵のうは、 求愛行動の中断した45-55日間のうちに作られる。私は35日後に卵のうをとり 出したが、そのときにはすでに半数の卵が孵っていた。45日には、全て孵化 した。61日目に最初の第一脱皮があり、70日で全て脱皮した。この間に、黒く なったりカビが生えた25個の卵を取り除いた。第二令の餌をとる仔グモへの 脱皮は、85日目に始まり、88日目に完了した。



卵の孵化

メスが卵のうをつくった20日後以降に卵のうを取り上げること。この間に、 卵は互いに離れ、母グモは必要な卵のうの回転を行う。(編註:ATSは、 卵のうを直ちに取り上げ、卵のう回転は手動で行う。これにより卵の生存 率が減るかどうかは確かめられていない。) 母グモは、大きなプラスチック ・スプーンか、ハケで卵のうから引き離すことができる。

必ず手袋(滅菌した手術用が良い)をして次の作業をする。デリカップを 消毒して簡易孵卵器をつくる。非常に細かい穴を針で上部と側面にたくさん開ける。 底に湿らせた吸水性の紙を敷き、強い輪ゴムでパンストの切ったものを固定し、 ゆるいハンモック状にする。

注意深く卵のうを切り開き、卵をハンモックの上にこぼす。黒や灰色になった卵 はつぶさぬようにピンセットでそっと除く。デリカップに蓋をして、摂氏24度 に保つ。毎日チェックし、紙が乾いていないこと、ハエが入っていないことを 確認する。ハエは「死のキス」を意味するので、デリカップの穴はじゅうぶん 小さいものとしておく。

発生の第一段階は、頭胸部と脚である。それらが卵の外周部に見えるようになる。 しばらくすると、孵化を経て後期胚は「脚の生えた卵」のようになる。後期胚の 反対側には、次に発生する出糸突起を探すことができる。この後期胚期は、2-3週 続き、ほとんど動かない。やがて濃い色にかわり、一令幼体に脱皮する。

ここで出てきたのは、成体クモを黄色く小さくしたようなもので、よく動く。 この時点では幼体はまだ未成熟で捕食できないが、腹部に貯えられた卵黄で 育つ。観察したところでは、幼体は水を飲めるので、注意深くストッキングに 霧吹きし、水滴がいくつかできるようにする。約二週間後、色が濃くなって幼体は第二令に 脱皮する。数日後には、適当なサイズの餌をあたえることができる。

目安として、この段階でBrachypelmaの第2令幼体は、レッグスパン6ミリほどで、 Theraphosa blondiは25ミリほどにもなる。


繁殖を試みるか、幸運にも購入した野生成体が卵のうを作った場合、この記事が 参考になればさいわいである。



ニジェール・カーター(Nigel Carter)

The Salk Institute, La Jolla, California USA

(American Trantula Society "FORUM Magazine" Vol.6 No.6, Nov/Dec-1997より 抜粋)



Go Back

みるかし姫のブリーディング・プロジェクト

繁殖待ちの個体たち


このページは です 無料ホームページをどうぞ