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あっと驚くクモの事実あれこれ(3)



・「益」虫・クモ利用の極致: 中国の蜘蛛農法
・クモの惑星 --- 蜘から蛛まで...クモの多様な生態
・「ヘン」な形の蜘蛛
・真のクモと偽のクモ
・クモと親戚は誰? 昆虫、カニ、三葉虫、ムカデ? --- 分類上の地位
・1メートルの巨大古代蜘蛛を見た?!--- クモの化石
・クモは一匹狼か? --- 社会性クモ
・アリとクモ --- ムシに見る奴隷制と民主主義
・クモの和名にみる日本むかし話(お姫様と鬼と戦争と植民地)
・最大のタランチュラは何か? --- 果てしなき論争
・セアカゴケグモに噛まれたら・・・ --- 毒虫との共生のススメ
・クモの糸 --- 自然界最強のファイバー
・参考文献
・クモ一般のサイト(Links)

・クモは一匹狼か? --- 社会性クモ

クモは、同種でも容赦なく襲って餌にしてしまう、冷酷な一匹狼であると 一般に信じられている。メスが交尾の後にオスを食べてしまうのケースがある のは有名な話しだ。

しかし、共同生活をする「社会性クモ」というのは存在する。一般に卵のう から出てきたばかりの子グモは、お互いに「許容性」があって、共食いはしない という傾向をもつ。3、4回の脱皮を繰り返すまでは、共同網 での集団生活(「まどい」とよばれる)をし、その後、共食いを始めて数が減ったり、 バルーニング(糸による飛行) をする場合は、思い思いの方向へと散っていく。この「許容性」期間が延長されて、 成長していっても同種間で共食いやなわばり争いがおこらないことが、社会生活 を可能にする最低条件である。子グモのう化後も母グモが生きのびて、子の面倒 を見ないまでも、手当たり次第食べてしまわない(子も、親をよってたかって 食い殺さない)というのも、指標である。その意味では、う化後の何十匹という 子グモたちを腹部に乗せて歩き回るコモリグモは、社会生活こそしないが、その 前段階の進化過程(「前社会性」)にあるとする学者もいる。

クモは比較的嗜好の限られない(つまり同種のクモでもおいしく食べられてしま うという)肉食性であって、しかも限られた範囲で餌を待ち伏せする「なわばり (文字どおり<縄張り>)」行動をとるものが多いから、縄張りの競合を避ける ためには、逆に積極的に狩りを共同でするという種もいくつか進化してきた。 こうなると、敵味方の情報を区別する(なんせ、クモはほとんど目は見えないか ら、振動による判断などが頼り)、というコミュニケーションの関係が進化する。 これは、社会生活の部類に入り、社会生物学の用語では、「亜社会性」と呼ぶ。 何が「真社会性」かというと、同種の中での役割分担・分化の成立である。 たとえば、蜂の女王は餌集めに働くことはせず、ひたすら子どもを産むだけ。 働き蜂という部類は、生殖機能を失ったメスで、ひたすら餌集めを他人の子の ためにする。アリの場合には、兵隊アリという攻撃専門部隊が分化する。無脊椎 動物の世界では、これをもって「真社会性」の成立と呼ぶことになっている。脊椎動物 の場合は、家族関係自体が複雑だから(一夫多妻、多夫多妻など)、ここでは触 れない。

さて、この分類によると、真社会性クモの存在は疑わしいが、亜社会性クモ は、ことなる科・生態のものが存在する。例をあげると、

<シート網をはる種>

★ ハグモ科 Mallos Gregalis, メキシコ

体長5ミリほどで、数百匹が木の枝を足場に焼く50平方メートルのシート網を 築く。現地の人は、これを切り取って窓につるし、雨季に家に侵入してくる蚊やハエを防 ぐのに使うという("el mosquero")。シートのあちこちに穴が開いており、産卵室や 隠れ家となる。メスグモだけが共同で狩りに参加し、ハエが動かなくなったと ころで、子グモが這い出してきて捕食する。オスは粘着性の糸を出せず、自分で 狩りをしない寄生的生活者。


★ イワガネグモ科 Stegodyphus sarasinorum, 南アジア)

体長1センチほどで、数百匹が潅木や生け垣などに5、6平方メートルの網をはる。 子グモははじめ、母親の口から「吐き戻し給餌」をうける。脚の間接のあいだから 体液をすすったという報告もある( Diaea ergandros についての同種の報告 "Gruesome Diets"の項も参照)。三令になると、親は獲った餌を子に与えて食べ させる。その後、成虫たちと一緒に狩りに加わり、網の修繕をするようになって いく。

この属は、各地に多くの社会性種が現れている。M.gregalis 同様に虫除 けに用いることができるが、気をつけないとキッチン全体に巣が広がったり、 取り除いても取り除いても車のトランクが網だらけのままだった、といったこと になるようだ( 体験談はこちら)。

Agelena consociata, 西アフリカ

一次林のやぶに直径3メートルなる棚網に千匹が暮らす。卵のうは共同のシェ ルターに、多いときは百個もつるされる。最近、集団構造が研究され、ほとんど が血縁関係にあること、小さいコロニーは豪雨で消滅しやすいこと、などが判明 (Riechart et al 1986)。

★ ヒメグモ科 Achearanea diaparata, アフリカ南西部ガボン

森の開けた空間に、数十のユニットからなる5×5×5メートル程の立体網をはる。 ヒメグモ特有の水平網とその上に落ち葉などをちりばめた不規則網内の隠れ家、 という構造が一つのユニットで、各ユニット手段が共同で狩りをし、ユニット間 では餌をめぐる争いが起こる。各ユニット集団が、直系の家族集団かどうかは 調べられていない。

★ ヒメグモ科 Anelosimus eximius, 中米

森林の大きな樹から釣り下げられたハンモック状網に、何代にもわたり数百・ 数千匹で暮らし、アリがするような、個体間の触肢すりあわせによるコミュニ ケーション(同種確認)が確認されている。コロニー内の40%のメスしか受精して いないという観察もあり、子を産まずに他の個体の子を育てるメスたちもいる ことが推察される(Vollrath 1986)。

★ ヒメグモ科 Anelosimus studiosus, 米国フロリダ

前者とことなり、一代限りの共同網を作る。成体になったメスグモ(娘)に対して、 母親グモは攻撃をしかけ、群れの外においだしてしまう(Brach 1977)。

★ チリグモ科 Oecobius civitas

岩の下に共有のおおきな網をはる。200の卵を包む共有の大きな卵のうを作る と考えられる。(Shear 1970)

<円網をはる種>

★ コガネグモ科 Eriophora bistriata, 南米

足場糸、わく糸を共同で使って、互いに接した円網をはる。円網は構造上、各個体 が一つの円網の主となるが、日中は、共同の隠れ家に密集して身を寄せ合って 過ごす。一頭で捕らえきれない大きな獲物がかかると、複数の個体が共同狩猟 し、一緒に捕食する。日本にいるタニマノドヨウグモも、渓流で共同の足場糸 を利用して互いに接した円網をはることがあるが、個体間でなわばり争いがお こる点で、社会性とはいえない。

★ ウズグモ科 Philoponella republicana, 南米)

円網のコロニーの真ん中に不規則網の場所があり、オスがここに待機しており、 交尾・卵のうづくりがここでおこなわれる。

  出典「スパイダー・ウォーズ」吉田真
      「クモの話し II」梅谷献二・加藤輝代子
      「クモの生物学」吉倉真

このように、社会性は、異なった系統で、並行的に進化している。チリグモの ケースで、実際に共同で卵のうづくりをしているとすると、興味深い社会性行動 である。


・アリとクモ --- ムシに見る奴隷制と民主主義

アリとクモがしばしば人間の一方的な見方で比較される。みんなで力を合わせ て働く「働き者」のアリと、他のムシをだまし討ちにする冷酷なクモといった 表現である。しかし、アリが他の虫を生きたまま食い殺さないかといえば、アリの 群れに襲われる弱ったムシや動物ほど哀れで残酷なものはない。クモは、毒で一撃 のもと、相手を麻痺させる分だけ、「人道(?)的」である。こうなると、そもそも 我々の主観でしかない。両者を科学的に比べるなら、社会性に目を向けるべきだと、 私は個人的には思う。

アリの社会は、ご存知のように高度に分化した役割分化社会である。社会生物学では これを「カースト」(階級)の進化という。一方、社会性クモの社会は、知られる 限り、カースト分化をしないで相互許容性、共同狩猟、共同保育(あるいは共同の 卵のうもか?)までを可能にしている、いわば平等主義社会である。社会生物学で は、カースト社会を「真社会性」とよび、平等主義を「亜社会性」と呼んで、前者が より「高度」な社会進化であり、後者の社会行動のより発展した形態であるという のが一般的学説である。しかし、この理解に疑問を投げかけた一論文がある。

フランスの Rogers Darchen & Bernadette Delage-Darchen 1986 は、 昆虫の社会性とクモの社会性を比較した。(真社会性)昆虫社会の特徴が、@世 代の共存、A保育行動、Bカーストの存在とされる(Wilson 1971, Michener 1969) のに対して、クモの社会性は@許容性、A親和性、B協同とされる(Kullman 1972)。 両者の社会を考察すると、クモ社会の特色として、いくつかの指摘ができる。まず、 網を媒介(フェロモン=におい物質の媒体、振動の媒体として)としたコミュニケー ションの重要性。アフリカ・ガボンからのみ知られる上記の社会性種 Achearanea diaparata は、実は南北中米の Achearanea tessella という単独性種と全く形態 的には同じである。体は同じだが、社会生活はアフリカの一部にだけ進化したと いうことが想像されるが、その決め手は、コミュニケーションの成立であろう、 と指摘されている。また、真社会性昆虫が、いずれも他のコロニーの個体に対 して排他的なのと対照的に、社会性クモは大抵他のコロニー個体にも寛容である。

次に、昆虫社会の本質的要素とされるカーストの存在についてだが、クモ社会 にカースト分化は見られない。昆虫においては、たとえばハチの Polistes gallicus の場合、産卵能力のあるメスが一緒に巣作りをしているうちに「支配行動が 発生し、もっとも強いメスが女王の位置を占める」ことにより、他のメスの産卵 能力が抑制され、彼女らは働きバチの地位に転落するという(Deleuramce 1957)。 「支配」による個体能力の抑制が、カーストを生むというこのメカニズムは、 人間社会の奴隷制をほうふつとさせる。Grasse 1952は、「社会生活の幸福と 不幸:集団が、個体の能力を所有し、それを増大させ、引き出して、新たな能力 さえうみださせるが、他方個体は行動の自由を失い、集団の外では生きていけ なくなる。」と書いている。蜜蜂ほどの役割分化になると、個体だけでは巣作り ができず、生き延びられない。クモの社会をこれらと比較しつつ、この論文は、 カースト分化による階級(ヒエラルキー)があってこその「真社会性」と定義する 傾向に対して、疑問を投げかけている。
「真社会性(eusociality)の概念(集団生活における個体の自由が制限される ヒエラルキーを前提とする)には、明らかに肯定的な含蓄があり、他方で、ヒエ ラルキー型の発展の頂点に達していない社会形態を見くだす評価をしているということを 認めざるをえない。したがって、クモは、発展した、あるいは進化した社会という 地位を与えられてこなかった。実際には、逆の評価がされてもよかったのに、 である。

我々人類は、(明言することなく、あるいは意識さえせずに)一種の絶対君主制 型のヒエラルキー社会に賞賛をしめし、民主主義型の階級なき社会にはずっと低い 関心しか示さない、というわけである。しかし、大概の現代人類社会で、こんな 意見を支持する人はあるまい。この事実は驚くべきことで、「純粋」生物学におけ る研究さえも、無意識にある種の文化的偏見にとらわれることがある、といわざ るを得ない。そして誰もこのことに気づかないのは、全ての人々がこの偏見を 多かれ少なかれ内包しているからである。」

そして、結論として、次のように書いている。

「クモ社会にみられる許容性、カースト・ヒエラルキー不在は、真社会性昆虫の 社会よりも低い段階にあると見るべきではなく、むしろ別の種類の社会性だ と見なすべきである。ここで社会性クモに関しておこる疑問は、なぜこの種の 社会性が自然界でもっと広く成功しなかったのか? 様々な科のなかに社会性クモが見 られるとはいえ、ごく限られた種においてだけ、社会性が進化したのはなぜか? 既になされた研究によって、クモ社会の利点としては、@産卵数の効率、Aう化の 成功率、Bメスの繁殖機能が制限されない、などがある。

異なる社会集団間の攻撃性がないという点、よって共存の可能性が高いという点を 考えると、こういう社会性がなぜ世界に繁栄しなかったのか、再度、疑問になる。 他の要因、たとえば広範囲に集団が分散することの困難さ(Vollrath 1982)など があるかもしれない。

最後に、許容性のメカニズムをもったクモの社会は、社会性昆虫のカースト を発生させた支配のメカニズムとは異なる、独特なものである。無脊椎動物の 世界においてもまた、民主主義とは到達困難な目標であるようだ。」

(Societies of spiders compared to the societies of insects. Journal of Arachnology, 14: 227-238, 1986)




驚くべき事実(4)へ続く

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