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あっと驚くクモの事実あれこれ(4)



・「益」虫・クモ利用の極致: 中国の蜘蛛農法
・クモの惑星 --- 蜘から蛛まで...クモの多様な生態
・「ヘン」な形の蜘蛛
・真のクモと偽のクモ
・クモと親戚は誰? 昆虫、カニ、三葉虫、ムカデ? --- 分類上の地位
・1メートルの巨大古代蜘蛛を見た?!--- クモの化石
・クモは一匹狼か? --- 社会性クモ
・アリとクモ --- ムシに見る奴隷制と民主主義
・クモの和名にみる日本むかし話(お姫様と鬼と戦争と植民地)
・最大のタランチュラは何か? --- 果てしなき論争
・セアカゴケグモに噛まれたら・・・ --- 毒虫との共生のススメ
・クモの糸 --- 自然界最強のファイバー
・参考文献
・クモ一般のサイト(Links)

・クモの和名にみる日本むかし話(お姫様と鬼と戦争と植民地)

日本のクモ学者(特に、初期命名者の岸田久吉博士)は、結構ユーモアがあったとみえ、日本において科学的に正 式な名称である「和名」に、面白い命名が結構ある。いくつかあげてみると、

<日本昔話風>

和名 学名 由来 解説
カグヤヒメグモAchaearanea culcivoraかぐや姫 A.lunata に同定されてきたが、学名の種名語
源は「月」。
ウラシマグモ浦島太郎 岸田久吉博士が京都府宮津湾・老人島(おしま)
で発見した。
オトヒメグモ属Orthobula spp.乙姫上種と近縁
マサカリヤチグモCoelotes kintaroi鉞(まさかり) 学名種名、キンタローイー! マサカリ担いだ
金太郎、じゃなくて、馬場金太郎 医学博士に
ちなんで、つけた。でも、マサカリは、やはり
昔話の金太郎にちなんでる。
アカオニグモAraneus pinguis赤鬼
アオオニグモAraneus pentagrammicus青鬼
オニノカナボウ
ケズネグモ
Gonatium nipponicum 鬼の金棒・毛脛
こいつはすごい名前だ。前脚の脛節に生ずる長剛
毛と、オス触肢腿節のいぼ状突起のため。小野展
嗣の命名(1981)。
フウジンナミハグモCybaeus fujinensis風神熊本県風神洞の地名から
テングヌカグモ属Walckenaeria spp.天狗 オスの頭部から前方に向けて突起が出る。小天狗ヌ
カグモ、チョビヒゲヌカグモも同属。
リュウノイワヤナミハグモCybaeus
ryunoiwayaensis
龍の窟(いわや)徳島県龍窟の地名から
コロポックルサラグモPocadicnemis pumilaコロポックル(アイ
ヌ語)
アイヌ説話における「蕗(ふき)の下の人」=小びと
アッコヒメ
シモフリヤチグモ
Coelotes accoアッコ姫!・霜降 発見者の名にちなんだ献名というのはクモの学
名・和名でも多いのだが、斎藤明子さんのニッ
クネームに「姫」までつけてしまったのは、1987
年命名とはいえ、ナウいといえよう(西川喜朗)

「アッコ姫」が和名になるなら、 香港産の新種タランチュラは、 「ミルカシヒメオオツチグモ (海松橿姫大土蜘蛛)」でも、まじめにイケるではないか!! /≧^∩^≦\


<宗教用語から>

和名 学名 由来 解説
ホウシグモStorena hoosi法師 頭部の形態から、オデコグモ、ニュウドウグモ
(それじゃ雲になっちゃう)、ヒョットコグモなど
も考えられたが、一番上品な「法師」となった。
ドウシグモDoosia japonica童子同属のホウシグモにちなんで.
エンマグモ科Segestriidae閻魔(えんま)大王 閻魔が亡者の獄を断じて厳に罰を行うように、当
時の学会の弊風を嘆き刷新を希望して、岸田博士
が名づけた(1913)。
エビスグモLysiteles spp.恵比寿
ゲホウグモPoltys spp.外法(げほう) 髑髏を用いてする妖術の意。腹部が髑髏に似ると
見たのだろう。筒外法グモ、襤褸(ぼろ)外法グモ
、棹(さお)差し外法グモ、ヒョウロク外法グモと
、いろいろいる。名前も形も変なやつらだ。
ヌサオニグモAraneus ejusmodi幣(ぬさ) 腹部斑紋が神社で使う幣状。当初、Nusa dubius
とされた。
ギボシヒメグモTheridion rapulum擬宝珠(ぎぼし)学名種名は、カブラ
カンノンホラヒメグモNesticus
floronoides notoi
観音群馬県観音穴の地名から
ボサツホラヒメグモNesticus kaiensis菩薩山梨県大菩薩峠の地名から
ラカンホラグヒメモNesticus rakanus羅漢愛媛県羅漢穴の地名から
ギョウジャグモDiaea gyoja行者
ゼンジョウホラヒメグモNesticus zenjoensis禅定
心を統一する力を言う禅宗の用語。徳島県禅定窟
の地名から

<歴史教室から>

和名 学名 由来 解説
オオツチグモ科Theraphosidae 土蜘蛛(つちぐも) 学名は、theraphion(小さな野獣)に因む造語か。
日本の歴史・文化における土蜘蛛の地位について
は、 別稿を参照
シュジュコサラグモDicymbium salaptium侏儒(しゅじゅ) 古語で小びとのこと。日本では武烈記や天武記に
「侏儒〈ひきひと〉」を天皇が宮廷に集めて娯楽
の対象にしたという記録がある。また、「侏儒舞
〈ひきまい〉」は猿楽の一部を構成しており、彼
らが芸人として生活していたことがうかがわれる。

学名種名は小びと。
オツヌヤミサラグモArcuphantes delicatus役小角(えんのおづぬ) 修験道の祖(役の行者とも)。葛城山を根拠に大和
政権に抵抗した 宗教集団だったので、土蜘蛛と近
しいかも? 岸田博士の命名。
ナリヒラグモNarihira delicata在原業平ヒメグモ科でnom.nudになった
コマチグモ属Chiracanthium spp.小野小町
マイコフクログモClubiona rostrata舞子 踊り子の意。C.maikoae はシノニムになっ
た。
シンゲンナミハグモCybaeus singenni武田信玄山梨県にちなんで
シノビグモCispius orientalis忍び 忍者の意。伊賀地方にちなんで。三重県クモ談話
会は、「しのびぐも」という雑誌をだしている。
ハヤテグモ属Perenethis疾風(はやて)
シャラクダニグモOpopaea sharakui写楽発見地の徳島にちなんで
カチドキナミハグモBansaia nipponica勝鬨(かちどき) 日中戦争の最中(1938 広東陥落の日という)に、真
属新種として「日本万歳」を学名に、「カチドキグモ
」を和名に発表された(植村利夫)。その後、ナミハ
グモ Cybaeus属とされ、Cybaeus nipponicus
カチドキナミハグモに落ち着いた。
センショウグモEro japonica戦捷(戦勝) 日露戦争後、Bos et Str.により記載され、岸田
博士により和名命名。この戦争において、戦場と
なったばかりか、日本の植民地とされた歴史をも
つ韓国では、戦勝と呼びつづけることを嫌って、日
本植民地からの解放後、「解放蜘蛛」と呼びかえ
た。
ミカドヤチグモCoelotes micado帝・天皇(みかど) ヤチ(谷地)グモって、みんな黒くて同じようにみ
えるけど、色んな名前がついてます。C.michikoae
もいるけど、これは皇族の美智子じゃなく、八木
沼健夫博士のおつれあいの美智子さんです。

<他の動物に似てる?>

和名 学名 由来 解説
チャボハグモDictyna procerula矮鶏(チャボ)色がにているという
ネコグモTrachelas japonicus
イタチグモItatsina praticola鼬(いたち) Alopecosa スジコモリグモ属が狐、Arctosa
ミズコモリグモ属が熊の意であることから。
イノシシグモ科Dysderidae学名のギリシャ語源は「喧嘩好き、短気な」。
マシラグモ科Leptonetidae猿(ましら) 猿の住むような森林にいる、と岸田博士の命名。
髭長猿蜘蛛、手長猿蜘蛛、黒毛猿蜘蛛もいる。
アカショウジョウグモ属Hypsosinga spp.赤猩猩(あかしょう
じょう)
これも猿の意。Singa属はショウジョウグモ属
という。
ヤエンオニグモAraneus macacus野猿 東京野猿峠の地名から。学名も日本猿属名を拝借
トドヌカグモScotinotylus eutypusとど(大型哺乳類) 形が似てるって...学名種名は「良い形の」である
コウモリオニグモAraneus patagiatus蝙蝠(こうもり)
カラスゴミグモCyclosa atrata烏(からす) 黒い...学名種名もカラス
ワシグモ科Gnaphosidae ドイツ名Griefspinneに因む。グリフォンは鷲の
翼をもつライオンの怪物。以下の2属も本科所属。
ハイタカグモ属Haplodrassis spp.鷂(はいたか)
トンビグモ属Poecilochroa spp.鳶(とんび)
トリノフンダマシCyrtarachne鳥の糞騙し これ名前だけでなく、本気の擬態です
ワクドツキジグモPasilobus bufoninusワクド(ヒキガエ
ルの方言)
腹部のいぼ状の外見から。珍種。
カニグモThomisidae
カザミグモPistius undulatusガザミ(蟹の一種) 植物周辺に住むのだから擬態してるわけではない
のだが、腹部をとったらそのもののソックリさん
エビグモ科Philodromidae海老以下二属も本属所属
ヤドカリグモ属Thanatus spp.宿借り
シャコグモ属Tibellus spp.蝦蛄(しゃこ)
キツネハエトリPseudicius vulpes学名種名は狐の意

<罪つくり(?)な名前>

和名 学名 由来 解説
ドクグモ科Lycosidae毒蜘蛛 1973年東亜(現、日本)蜘蛛学会大会で改名が決ま
るまで、コモリグモは科、属、種ともに、みなド
クグモとよばれていた。たとえば、「黒腹毒蜘蛛」
とか、「海賊毒蜘蛛」とか 「疼(うず)き毒蜘蛛」(本当
は、卯月)
とか、おどろおどろしい名前が通ってい
た.実際は、 子育て行動をする毒も弱いクモなので
、誤解を解くため改名された。
ユウレイグモ科Pholcidae幽霊 薄暗いところに不規則網を張り、脅かすとからだ
を小刻みに素早く震わせて、「ぼやけて」見える様
子は確かにオバケチック。家幽霊、曙(あけぼの)
幽霊、熱帯幽霊の名も考えてみると怖い。
ゴケグモ属Latrodectus spp.後家 猛毒で殺された人の妻が後家になる、という意味
で.は.な.い。クモのオスが交尾後に食べられ
てしまう様子からの命名。
ワスレナグモCalommata signata勿忘(わすれな) 日本での記載が二頭あった後、採集されなか
ったので、岸田博士が「忘れずに覚えておこう」と
いう信条で名づけたとか。
ビジョオニグモAraneus mitificus美女!
緑と赤の美しい蜘蛛。これを美「女」と名づけた人
がえらい。
ケワイグモHerennia ornatissima化粧(けわい) 学名種名は、「非常に美しい」(ornatus の最上形)
の意。
チブサトゲグモ
Gasteracantha mammosa乳房 学名種名は、「大きな乳房」。腹部のトゲが乳房状
の膨らみをもつ。
オオアナヤチグモCoelotes grandivulva大穴 アナって、これ、Vulva だから、ヴァギナのこと
なんですね。まあ、クモ分類学者は、毎日オスメ
スの生殖器を顕微鏡で覗いてるわけですが...何も
大アナなんて、つけんでも。
デベソヤチグモCoelotes tumidivulva出臍(でべそ) 学名種名は「突出した生殖器」の意

(出典:「クモの学名と和名--その語源と解説」
八木沼健夫、平嶋義宏、大熊千代子共著, 九州大学出版会)

まだまだまだまだ、いわく付きのクモの名前あります。お暇な方は、カラー 図鑑ともつき合わせて楽しんでください。



・最大のタランチュラは何か? --- 果てしなき論争


最大のクモは何か? というのは、世の人が関心を持つところです。もちろん、古世代 石炭紀末には絶滅したであろう、 徘徊性の巨大なクモ(の祖先)については、良く分かっていま せんが、全長1メートル近いものもいたようです。 こはくの中に閉じ込められたクモ化石 からDNAを取り出して、巨大クモの再生をするのは、恐竜の再生(ジュラシック パーク)よりは、楽な話しかもしれません(笑)。

まじめな話、タランチュラ飼育者やディーラーの間では、タランチュラの最大種は 何か、ということが、いつも話題になっています。脚を広げたレッグスパンが、25 から30センチというのが、最大級のサイズと考えられているようですが、ギネスブ ックでは、 ゴライアス・バードイーター(Theraphosa blondi)というこ とになっています。しかし、この本の信憑性を一般的に疑う人も多く、タランチュラ は熱帯の「秘境」に隠れ住む生物で種ごとの研究も進んでいませんから、ディーラー の間での情報はまちまちです。

たとえば、さんは、Arachnids メーリングリストで、次のようなやり取りがあ りました。

Dr. Breene (ATS 編集者)

「輸入業者が言うには(つまり、確証のない情報なのですが)、野生のゴライアス (Teraphosa blondi)が重量で最大で、ゴライアス・ピンクフット(Pseudotheraphosa apophysis) がレッグスパン最大ではないか、ということです。」

Todd Gearheart (Glade Herp クモ担当)

「私が見た何百というLasiodora属の個体の中で、 ブラジリアン・サーモン(Lasiodora parahybana)が最大レッグスパンで、オスでも8-9インチ、メス は9インチ(22.5センチ)を超えます。

他に、巨大な連中といえば、

ボリビアン・ブルーレッグ(Pamphobeteus antinous) 9.5インチ
A. Smith's I.D. Guide 参照。私は標本で9.5インチを見たことがあります。 Ian Wallace が'92年に 9.5インチをやはり採集しているとか?

ジャイアント・ピンクスターバースト(Vitalius roseus) 9.5インチ
A. Smith's I.D. Guide 参照。

ブラジリアン・ピンク(Vitalius platyomma) 9インチ
A. Smith's I.D. Guide 参照。うちに8インチのメスがいます。飼育しやすく、 さらに大きくなりそう。

コロンビアン・ジャイアント(Megaphobema robustum) 9インチ
A. Smithi's I.D. Guide 参照。オスは小さい(5.5-6.5")。

アイボリー・オーナメンタル(Poecilotheria subfusca) 10インチ
P. Carpentier's Exothermae publications 参照。この情報源はクモ学者には信用 されてませんが、私もこの種が巨大になるとの情報を得ています。 フリンジド・オーナメンタル(P. ornata) スレータード・オーナメンタル(P. rufilata) のメスも9インチになります。

アフリカン・ゴライアス・バブーン(Hysterocrates hercules)と同属の didymus, scepticus 7.5-10インチ
ATS Forum vol.5 no.5 R. Blauman 参照。
アフリカの Sao Tome島に10インチを越す巨大なのがいて、木の幹に5-6インチの巣を張り、 鳥を獲っているというのを、ドイツ人が観察したと聞いています。
後記:98年、サントメ・ジャイアント・オリーブブラウンバブーンの名でタランチュラ市場に登場!
Acanthoscurria gigantea, geniculata, & atrox 8-9インチ
A. Smith's I.D. guide と Vogelspinnen by Schmdit 参照。

コロンビアン・ジャイアントブラック(Xenesthis monstrosa) 9.5インチ
Smith's Guide 参照。うちにも9インチがいます。

Phoneyusa sp.
アフリカに7インチを越すものがいますが、コンゴなど奥地にはさらに大きくなるものが いるでしょう。

チキン・スパイダー(Pamphobeteus species) 10インチ
見かけはT. blondiに似ていてペルー南部の Madre de Dios 地方に見られる。 BTS Journal vol. 12 no. 3 "The Hunt for the Chicken Spider" by M. Nicholas 参照。」

これらの情報に関わる、さらに根源的な疑問は、「最大種」の定義とは何か、 ということ。レッグスパンというあいまいな測定法(脚を延ばせったって、クモ はじっとしてません)。野生個体よりも、パワーフィーディング(過剰給餌)によ ってより大きい個体になるのではないかとか、一番多くの個体を見る機会のある 輸出入業者が種を特定する知識を持ち合わせているのかとか、彼らの測定が信用 できるか(特にクモは、手にとって測定できないため)、とか。とにかく、「最大 のタランチュラ」は、いつでも、謎に包まれたお話でありつづけることでしょう。




驚くべき事実(5)に続く

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