肥前國風土記の土蜘蛛の地、賀周の里
見借(みるかし)を訪ねる


昔、この里に土蜘蛛あり、名を海松橿姫といひき。天皇、国巡りしま

しし時、陪従、大屋田子をやりて、誅(つみな)ひ滅ぼさしめたまひき。

時に、霞、四方をこめて物の色見えざりき。因りて霞の里といひき。

(『肥前国風土記』「賀周の里」の項)


ついに行ってきました。「海松橿媛(みるかしひめ)」の故郷、 佐賀県唐津市見借(みるかし)<地図はこちら>」


土蜘蛛・海松橿媛の根拠地として「肥前國風土記」に登場する「賀周の里」は、現在の唐津市見借 であるという。一時は、私・みるかし姫が本籍地を定めてさえいた、この因縁の土地に、行って みました。


東京から夜行列車に載って、九州へ。佐賀駅から自転車を借りて、走ること約1時間(迷ったから)。 峠を越えて見えてきたのは、のどかな田園風景。見ると、鎮守の森らしきもの。畑仕事をし ているおばあちゃんに尋ねると、「庚申様」とのこと。よーし。目的地に着いたぞ。この 「庚申様」は、猿をまつる神社で、毎年2月17日の初庚申節に、 「見借浮立(ふりゅう)」という踊りが奉納されるところ。 室町時代に栄えた芸能というから、ずいぶん歴史があるのだ。他の地域ではすたれたが、九州 では、残ったという。 庚申というのは、そもそも怨霊系の神社らしく、天皇族に滅ぼされた土蜘蛛族の故郷と してはふさわしい。神社の「沿革」を示す文献が残っていないのが残念なところ。 神社の前まで行くと、「見借庚申様前」とある。「様前」とは、さすがだ。



神社の階段を上ると、かわいらしい狛犬が迎える。境内を見回し、土蜘蛛ゆかりの塚でも あるはず、と探すが、見当たらない。残念! 気を取り直して、本殿へ。奉納された絵馬の 中に 「大江山鬼退治」らしきものを見つけ、ニヤリとする。 天皇方の護り・源頼光に噛み付く鬼の首だ。殺されても首だけ飛んで噛み付いた、という 「もののけ姫」のモロの君のようなヤツである。こういうのが奉納されているところに は、大体、怨霊・もののけが跋扈していたはずなのだ。



本殿のまわりをみると、地元の人々が奉納した猿の像が無造作にならべられている。 土蜘蛛の「タタリ」をなんとか避けようと、猿にお願いしたというわけか。 クモザルが聞いたら、笑いそうな話。しかも、「見ざる、言わざる、聞かざる」が御神体 というから、なお笑わせてくれる。

今日、「見借」と呼ばれているこの土地は、古代・風土記の時代には、このあたりを跳梁 跋扈した土蜘蛛族の姫に敬意を表して「海松橿」であった。そのつぎには、「見留加志」として 天平勝宝6歳太宰都督となった吉備真備は勅命によって藤原広嗣の霊廟を創建、大領田十五町 を施入したというが、それが「在当地見留加志之庄是也」とある(「松浦廟宮先祖次第並本縁起」)。 また、南北朝期の文書によれば、女子一期分知行が行われていたことがうかがえ、古代の姫 への敬意なのかどうなのか、女性の地位に対する興味深い習わしがあったようだ。

「見借」と称されるようになったのは、江戸のことだが、昭和になっても「見借峠」は急坂 で、唐津側とは隔絶された土地だったようだ。1961年に道路大改修により、車両交通が容易 になったのだという。そういえば、巨大な「道路改修記念碑」が建っている。

実は、旅行にわざわざグリーンボトル・ブルー・タランチュラの「みるかし姫」を連れてきて いた。せっかくだから、記念撮影。「見借」の字の入った奉納額の上で一枚。

神社をおりて、村を走ってみる。山が見えるので、登ってみる。だんだん、うっそうとした 森の中へ入っていく。土蜘蛛たちは、こういう森のなかに割拠したのだろうか。入植したば かりの村人たちは、この森を恐れたに違いない。土蜘蛛と、「天皇」の威を借る入植者と、 何が違うかといえば、おそらく、土蜘蛛は縄文人、入植者は弥生人だったのかもしれない。 魏志倭人伝にも出てくる 「末盧(まつろ)國」というのがあるが、唐津は、日本でもっとも早く コメ作りがなされた地域だった。その「コメ文化」をひっさげた弥生人が、先住の民として 駆逐しなければならなかったのが、縄文人(の生き残り)。「土蜘蛛」とは、歴史的には その人々に名づけられた蔑称だったのだろう。唐津の「末盧館」にも行ってみたが、 そこにあった「縄文人」の絵は、なぜか、もののけ姫によく似た化粧・装身具をつけていた。





唐津といえば、焼きものだが、見借にも 窯がある。そこで、ビールジョッキを買ってかえった。 古代に思いをはせ、一杯、というわけである。





後記: 佐賀「洋々閣」のおかみさんが、「見借の春」というエッセイを書かれています。とても美しい詩も紹介されているので、ぜひごらんあれ。来年(2005年)の東京クモ談話会の夏の合宿が佐賀なので、その機会に見借には是非再訪したいと思っています。



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