COLECTIVO

 

ブエノスアイレスの路線バスは、まさに「市民の足」となっている。路線バスを知り尽くせば、低料金でブエノスアイレス中を駆け回ることもできる。

路線バスには日本のように時刻表がない。ただ昼間なら何分か毎に同じ路線のバスが来るので、特に時刻表は必要ない。通勤通学時間なら、同じ路線のバスが詰まって同時に5、6台通過することもある。夜も本数は減るが、一晩中、街を走っている。

 

一般的にはスペイン語でバスのことをブス(BUS)と呼ぶが、アルゼンチンではコレクティーボ(Colectivo)と呼ばれている。

コレクティーボは幾つかのバス会社に分かれて経営されており、運転手は決まった何人かがローテーションを組んで仕事をするらしく、バスは半分、私物化している。例えば、運転席には家族の写真が貼られていたり、フロントガラス付近がキンキラキンに装飾され、そこにマリア様の絵が飾られていたりする。好きなサッカーチームのペナントや、時にはヌード写真が貼ってあることもあるし、ラジオも好きにかけている。

 

ここに駐在員として住んでいる人の中には、コレクティーボの乗り方が分からない、子供を連れて乗れない、危険だ、などの理由で利用しない人も多い。

 

(路線バスは番号で確かめる)

市内のバスは、全て番号がついている。カピタルと呼ばれる首都では、約150の路線バスがある。この番号によってどういう路線を走っているか見極め利用することになる。知らない番号のバスに乗る場合には、事前に知っている人に確認するか、キオスコで売っているRumiなどの市内地図(10ペソ程度)で路線を確認してから利用する。表示には通過地点が幾つかと最終的な行き先も出ているので、その場所が目的地に近ければ飛び乗ってしまうことも可能だ。

一方、同じ番号でも路線が微妙に異なるバスが走っている場合がある。

市内地図では、バスの番号に加えA、B、Cなどと区別して記載されているし、バスでもフロントガラスの乗り口付近に白や赤のバックライトで行き先表示がされている。

近い場所ならあまり問題にはならないが、20分以上乗る場合で区別できなければ、運転手に目的地に行くかどうか確認した方が無難。例えばSanta Feで降りたければMe deja Santa Fe?と聞く。

料金は「カピタル」の中なら70センターボ(約75円)。私がここに来た1996年当時は50センターボだったが、その後2回値上げされた。カピタルの外に出ると1.20ペソから2.50ペソまで距離に応じて値段が上がっていく。

例えばエセイサ国際空港は25キロ離れた郊外なので2.5ペソ程度になる。

但し、車なら3,40分のところを、遠回りしながら2時間以上かけて「小旅行」することになるが、時間があってお金がないときには利用価値がある。

そのほか、同じ路線でもServicio Diferencial(上級サービス?)と書いたバスが来ることもある。これは普通のバスと違って空調が効いていて、座席が観光バスと同じ配置になっている。そのかわり、市内でも2ペソ、郊外なら3ペソ程度と普通のバスより少し高い。高いので空いていて必ずと言っていいほど座ることができる。距離が長い場合や疲れているときは利用すると良いだろう。

ただしこのServicio Diferencialは、比較的多く走る路線でも20分に1本くらいしかこない(我が家では、回転寿司に例えて「大トロ」と呼んでいる)。

「カピタル」の中でも、だいたい3.5キロで区切られた範囲の中なら65センターボ(約70円)になるが、よく利用する路線以外はどこまでが65センターボでいける範囲なのか分からないので、運転手に確認することになる(たまにいい加減なことを言われることもある)。また、区切りの付近で乗ると、たった数百メートル行くだけでも70センターボなので、注意を要する。

 

(バスの乗り方)

 

1)乗りたい番号のバス停を探す。だいたい200から300メートルおきにバス停がある。ただしバス停の表示のない場所や、表示の仕方が非常にわかりにくい場所もあるので、そういう場合は近くの人に乗りたい番号のバス停の場所を聞く。

2)乗りたい番号のバスが来たら手を挙げてバスを止め、前のドアから乗車する。

  運転手によってはバス停でない場所でも停止してくれることもある。他に乗る人がいて乗車口付近で列が止まってしまっても、片足だけバスにかけて待つのはやめた方がいい。運転手が確認せずに発車し、地面にある方の足が引きずられたりすることがあって非常に危険だからだ。

3)運転手に料金を告げる。例えば普通市内ならセテンタ(70)と言えば通じる。

  運転手がボタンを押すのを確認して自動券売機にお金を入れる。お札は使えないので必ずコインを用意すること。たまに2ペソ札しかもっていなくって、乗車してから他の乗客に両替を頼んでいる人を見ることもあるが、あまりやらない方がいいだろう。

  値段が分からない場合には、直接行き先を告げても分かってくれる。

4)コインは1枚ずつ静かに入れる。自動券売機の能力が高くないので、いっぺんにコインを流し込むと詰まったり、数え間違えたりと混乱の元になる。

5)行き先に近づいたら、後ろドアの付近にあるボタンを押して降りることを伝える。ボタンがどこにあるのかわかりにくかったり、バスによって違った場所に付いている場合もある。

  運転手によっては、信号待ちなどを利用してバス停でないところでドアを開ける場合がある。

 

  バスには時々「物売り」が乗車してくる。

  乗り込んだ時点で運転手とその場で交渉し、オーケーなら即、売り口上が始まり、鞄からいろいろな商品が飛び出す。ボールペン、目覚まし時計、クレヨンセット、ストッキングなどなど。「市価の○○分の一の値段だ」と言って、低価格を強調する。ストッキングは車内の吊革に端を結びつけ、下に引っ張り、尖った刃物で数カ所を擦ったあと、結び目を解くとどこも傷になっていない丈夫な品だ、なんていうデモンストレーションまでやってみせる。まるで手品のようだ。

これがよく売れるので、毎度、不思議でならない。

一つも売れないことももちろんある。そんなときでも最後に「グラシアス(ありがとう)と一言、乗客に挨拶するのを忘れない。感心してしまう。

それ以外に楽器を持ち込んで演奏、なんていうのもある。

 

Colectivo路線バスは2年ほど前までボンネットバスが多かった。現在は普通のバスの形や、身体障害者用に車体を低くして車椅子が入れるスペースを設けたSuper Bajoが走っている。座席はプラスチック製で、特に古いバスはよく揺れ、発進音もうるさく、ドアの開閉の時も凄い音が出る。車体はベンツが多いが、こんな音の大きいベンツはこの国以外に見たことがない。

 

最後に、こちらでは騒音に寛容だという話を以前したが、車内の携帯電話は人目を憚(はばか)らず、どんどん使用されている。概して声の大きいアルゼンチン人は、家に居るときと同じ調子でバスの中でも携帯電話に向かって話すため、内容は丸聞こえだ。いつかは精神科医を薦めるような話まで耳に飛び込んできて驚いてしまった。

 

路線バス「コレクティーボ」、ブエノスアイレスのごく普通の人の生活が垣間見られる空間かもしれない。

 

 

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