LA CATARATA DE IGUAZU

 

1部:季節外れ?のイグアス旅行

 

Tucan1998年9月半ば、春遠からじと思われていたブエノスアイレスは、突然、冬に舞い戻ったかのような厳しい寒さに見舞われました。日本から友人が遊びに来ており、予定していたイグアス行きはそのさなかで「不幸中の幸い」とでも表現したらいいのでしょうか、寒さが大の苦手な私にはまさしくグッド・タイミングな旅行となりました。イグアスといえば一年中が常夏。突き刺さるような眩しい日差しと、うっそうと茂った緑のジャングルが待っているのだわと心ワクワクして飛行機に乗ること小2時間。まもなく眼下に見えてきたのは、確かにうっそうとはしているけれど、心なしか色褪せた緑の一面の広がり。なんか違うなーと、しばし考えた後で、なるほど、常夏とは言っても今、季節的にはまだ冬だから、樹木も左様なわけか!と納得しました。前回イグアスを訪れたのがセマナ・サンタの頃だったので、この光景の差は明らかでした。果てしなく広がるジャングルの上に、私の乗る小さな飛行機の影だけが、それでもくっきりと映っていました。

 

さて、しばらくぶりのイグアスは新しい空港の建物もおおむね出来上がって、一大観光地の玄関にだいぶふさわしくなったかのようでした。むんと湿った空気が肌にまとわりつくと、ここに来たことを実感させられます。これでもだいぶ今日は涼しいんだよ、と運転手はそう告げ、昨日まで激しい雨が続き、滝の水量が大幅に増えていると説明を加えました。

 

かようなわけで、まずは滝を目指すことにしました。国内外からは夏休みでものすごい数の観光客が来ていて、様々な言語が飛び交っており、「イグアス」の発音も言語によってちょっとずつ違っているのが聞いているとちょっと面白かったりします。ホテル・インテルナシオナル・デ・イグアスはアルゼンチン側の国立公園内に位置し、皆そこを出発点に滝見学へと出掛けます。行ってみると桟橋の上をアリの行列のように人の長い列がどこまでも続いているではありませんか。これでは滝の観光スポットである「悪魔ののどぶえ」の桟橋へ近づくのは無理かもしれないなあ。そう考えているとガイド氏は、実は昨日までの大雨で下の方の桟橋は水面下に入ってしまって通行は不可能なんだ、といかにも残念だったねえといわんばかりの大袈裟な身振りをしました。長い列はその終点にある展望台へと向かっており、その合間のスポットでは団体客が集合写真を撮るために待っていて、狭い桟橋の上ではハタ迷惑な行為とも取れるのですが、それもまあこんな状況下ではやむを得ないことのようでした。

 

2部:恐怖の滝壷突撃ツアー

 

団体客らの間を擦り抜けるように進みながら周囲の景色に目をやると、以前来たときに見た、真っ白くていい香りを放っていたジンジャーの花や、見たことの無い観葉植物の花がそこかしこに咲いていたものでしたが、やはり季節的に見ることが叶わず、サルなど動物達とも出会えず、代わりに巨大なトカゲがひょっこり現れたりして、観光客の注目を集めていました。変わらないのは、この自然の恵みとも言うべきオゾンを胸一杯吸ってもまだ余る、都会にいたら決して味わえない新鮮な空気と、それを受けて育った大きなモンステラの葉やランなどの寄生植物が大威張りで日光を浴びていることくらいで、滝の方はと言うと、相変わらずゴーゴーとたくましい音を立てて黒い水飛沫を力いっぱい揚げていました。

「白い水飛沫」と表現すべきなのでしょうが、あの特徴的な大地の色をそっくりそのまま運んでいるのだから「白い」のはちょっとヘン?と思ったりして。

 

などと一人考えながら、緩やかな日差しの下をてくてくと歩き進み、アルゼンチン側の桟橋を一周したところで遅い昼食をとろうとブッフェ形式のレストランへ入りました。だだっ広く雑然とした雰囲気。加えて食事はいとも大雑把な感じがして、こんな一大観光地の数少ない食事処だというのにあまりのお粗末さにがっかりさせられました(でもこんなものかあ・・・とも思いつつ。私にとっては「食」は大きな楽しみであるし、同時に大切な旅の思い出なのです)。

 

まあ、パラナ川のお魚でも次回はひとつ食べたいものだと気持ちを切り替え、次なるイベントである滝壷突入ボート・ツアーへと向かいました。最終出発はなんと16時半。陽は既に傾きつつあり、戻る頃にはすっかり暗くなっているのでは?と心配でしたが、そんな不安をよそに30人からの外国人が順番を待っていました。まもなく到着したジープに乗り込み、約40分間木々が茂ってひんやりとしたジャングルをひた走った後、終点で全員が降りると、折り返し乗ってきたのは全身がびしょぬれとなった人人人!げげげ!こんなにもずぶ濡れになっているぅ〜!Tシャツから滴る水を絞りながらこちらを向いて親指を立てて(Very good!の意味です)ニカッと笑ってみせる人。着ていた服を脱いで(ついでに靴まで脱いじゃって)上半身裸でのしのしと歩いている人、などなど実に様々ですが、共通して言えるのは皆とっても楽しそう!満足げだったことでした。寒いブエノスを脱出して喜んでいた矢先になんてこと・・・と、半ば諦め半ば覚悟して(それなりに濡れるのは承知の上でしたが)いざ、ボートに乗り込みました。このボート、実は飛んでませんか?と思うほど良く跳ね、そのつど身体が川へ飛び出しそうになり、向かう風はいよいよ強くなって・・・そして滝壷へ突入。水の冷たさは想像以上で、容赦なくそれが前から横から、ついでに背中からも飛び込んで来るので、はしゃいで寒さを何とか忘れようとこちらは必死。まるで真冬の滝に打たれる修行僧さながらでした。ボートの運転手はサービス精神旺盛にも繰り返し滝壷に近づいた後、勢いよくまたボートを岸に向かって走らせました。

 

さて、そこからホテルに着くまでの間、すっかり夕闇に包まれた景色を眺める余裕も無く、びしょびしょになった我が身を震わせながら、どうかホテルのシャワーから熱いお湯が出ますようにと願わずにいられませんでした。念願叶ってどれほどホッとしたか、ご想像くださいませ。やはりこの時期のイグアス見物は少々体力がいるかもしれません(それとも私だけ??)。

 

 

3部:グアラニーの村を訪ねて

 

あくる日、今回の旅行でブラジル側へ行くことを考えていなかった私たちは、2日に分けて予定していた滝見学ツアーが短くなってしまって、さて何処へ行こうかと考えました。すると、昨日のガイド氏から、この先にグアラニー族が今も昔ながらの習慣を守りながら生活をしている村があるよ、と聞いて迷わず訪れることに決めました。赤茶色の大地は干上がることなく潤い続け、うっそうとしたジャングルは鳥や動物達を守り、そしてその中で暮らす人々とは・・・?

 

村はイグアスの町から車で45分、サトウキビの畑が切れるとまもなく、あたかもそこだけ残されたかのようなこんもりとした森が姿を見せました。一人の少年が出てきて案内をしてくれると言うので、彼について森の奥へと進みました。少年はカライ君という名前で、グアラニーの言葉で「力強き者」を意味し、19歳という年齢は彼らの間ではもう一人前の人間として扱われ、小さな子供たちに様々なことを教える義務があるのだそうです。例えば森に自生している草や木の根から採取する薬草の知識は、グアラニーに古くから伝わるもので代々そうして語り継いできたものであり、今は彼の最も重要な任務となっています。決して樹木を切り倒したり枯らせたりすることなく、常に必要な分だけのものを採取するには、それなりの経験も大切ということ。歯痛に効くという薬草からは、付けてみるとほのかにミントのような香りがしました。

 

しばらく歩みを進めると、大きな丸太が数本の枝に支えられ、更に上から乾燥した木の皮で吊るされている不思議なものを見つけました。それは動物を捕らえるための罠で、捕らえた動物が傷つくことの無いような工夫がされていて、地面にはいつも軟らかな落ち葉などを敷き詰めておくとか。また時には弓矢で狩りをすることもあるそうで、そうした時は罠を掛けるのを一旦止め、1対1で堂々と闘うのだそうです。

狩りはだいたい12歳ごろから学び始め、上手に仕留められた者は大変尊敬され、時には祭りの主役にもなるという話でした。彼らの最大の楽しみは、季節ごとに定められた日に行われる祭りで、主には収獲とそして森の精霊への感謝を捧げる意味を持ち、まもなくその日が訪れるのだと言っていました。

 

彼らは古くて大きなものには精霊が宿っていると信じ、大切な話し合いや儀式は今もその傍で行うというのです。その一つである木の傍に座ってみました。空高く、天を突き抜けるようなその木は、彼らグアラニーの人々にとって守り神のような存在なのでしょう。その木をいとおしそうに擦りながら少年は、自分達を理解せず、文明こそがもっとも素晴らしいと唱える人間らが我々から森を取り上げ、大切な生活の場を奪いとってしまったと言葉少なに語りました。彼を始め、グアラニーの人々は外部から来る人間によってスペイン語を学び、国の歴史を学ぶことで自分達外の人間と共に生きていく道を強いられましたが、果たしてその逆は・・・この先、我々が彼らから学ぶことは有り得るのでしょうか?そんな疑問が頭を過ぎりました。日焼けした顔に優しい瞳を持ったカライ君はグアラニーの将来をどんなふうに担っていくのか、私は心からの応援を送りながら村を後にしました。

 

イグアスを出発に当たって、やり残していることが一つだけありました。それは何か一品、これだ!というものを食べておきたかったこと。町の外れにこぎれいなレストランを見つけ、メニューに「Surubi」の文字を発見し、早速注文してみました。出てきたのは、Surubiのムニエルにニンニクとアスパラガスのソースがかかったもので、あっさりとしていて何だか魚自体は日本的な味なのに、ニンニクソースが強烈、といった組み合わせでした。でもなかなかの美味しさに満足!これで寒いブエノスに戻っても風邪知らずかなあと一人ほくそえんで、今回のイグアス旅行を終えたのでした。

終わり

 

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