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アルゼンチンのテレビ局数は、普及率の高いケーブルテレビを含めて約70チャンネルありますが、民放がコマーシャル(CM)を流している時間は日本に比べて極めて短いです。例えば映画を放映する場合、ほとんどノンストップで最後まで放映し、映画の始まりと終わりにだけコマーシャを流す場合が多いので、観ている方としては中断がないので落ち着いて鑑賞できます。また、サッカー中継の場合には、試合途中でコマーシャルを入れて中断させようものなら、局に抗議の電話が殺到し大変な騒ぎになりかねないので、試合を放映しながら画面の下部分を使ってコマーシャルを流すなど工夫をしています。ただし、そうは言っても、自局の番組予告だけは非常に頻繁で、コマーシャルタイムがそれだけで終わることもあり、驚かされます。

 

コマーシャル時間が少ない理由として、まず1つの番組に対してスポンサーが少ないことが挙げられます。それから、例えばバラエティー番組の場合、番組中に行われるクイズやゲームの賞品・景品に、その番組を提供している企業の商品(菓子類、洗剤、オーディオ、航空券・宿泊券など様々)が使用され、更に司会者の口から幾度となく商品名と企業名が紹介されるので、番組を中断してコマーシャルを入れなくても済むのかもしれません。かと言って、まったくコマーシャルが入らないわけでは無く、日本の長時間ドラマに見られるような1コマにつき5分間に渡って各社のコマーシャルが放映されることが無い、という違いです。

 

アルゼンチンのテレビで放映されるコマーシャルは、日本の地方テレビ局が放映している地元の特産品・商店・旅館などのコマーシャルのように静止画像やホームビデオを使った、制作費がいかにも安そうなものが、まだまだなかりの割合を占めています。その一方で、ハイテクノロジーを謳い文句にしている自動車、国内・国際電話などのコマーシャルは仲々よくできていて、撮影やCG(コンピューター・グラフィック)にも資金を投入していることがわかります。コカコーラやペプシなどアメリカ資本の商品のコマーシャルにしても、カッコいいイメージを損なわないように製作されています。ここで幾つか最近のコマーシャルを紹介しましょう。

 

フォード社の4WD(四輪駆動)の宣伝では、ヘリコプターに吊された車(4WD)が砂漠の真ん中に落ち、あわや危機一髪!と思うが早いが、そのまま何事もなかったように颯爽と走り出すというもので、日本ではもはや珍しくないCMも、アルゼンチンではまだ非常に斬新と言えます。

 

アルゼンチンの2大電話会社の1つ「テレコム(Telecom)」のコマーシャルは、アンデスの動物リャマを使ったシリーズが昨年大好評でした。

これは「リャマllama」というスペイン語が「電話をかけるllamar」という動詞と掛詞になっていて「Llama que llama(電話をかけるリャマ)」という「合い言葉」が12回のシリーズを通して使われました。リャマはもちろん本物ではなくぬいぐるみですが本物っぽく出来ており、色の違う数種類のリャマが繰り広げるジョークは、アルゼンチン人の間で流行語になったほどです。

 

シリーズの中には、ここで日系人が多く働くクリーニング屋をもじった、「ヤマモト・クリーニング店に電話するシリーズ」というのもありました。これは、ヤマモトYamamotoがアルゼンチンでは「リャマ(実際はシャマに近い発音ですが)モト」と発音され、Llama−moto、とこれまた電話をかけるllamarと掛詞になったものでした。

 

LAPAという航空会社のコマーシャルでは、日本から羊毛の買い付けにやって来た日本人ビジネスマンとアルゼンチン人ビジネスマンがコミュニケーション・ギャップに悩み「グローバリゼーションか」と機内でぽつりとつぶやきます。しかし便の行き先には最愛の息子が待っており、仕事を終えて帰宅する安堵が次の瞬間に胸を過ぎる・・・という、間接的でありながらも訴えが伝わってくる洒落たCMも人気を集めています。

 

その他に、洗濯洗剤のコマーシャルでは、人気タレントの男性が通りがかり(?)の主婦を国内の観光名所に連れて行って、同社の洗剤で洗ったシーツをパタゴニアの氷河の上に広げたり、イグアスの滝の前で広げては、「ほら、これで洗うとこんなに白くなったでしょ?」と自慢げに言って主婦に同意を求める、という一連のシリーズがあります。その思考の単純さには笑ってしまうのですが、わざわざそのような「白さ」と比べてしまう発想が、また見ていて面白いのです。

 

食器洗剤では、たった1本の洗剤で1000枚の汚れた皿洗い挑戦するシリーズや、直径が5メートルくらいありそうなパエージャ(スペイン料理ながら、アルゼンチンでも頻繁に食べられる)の鉄鍋をデッキブラシで洗うシリーズなど、とにかく派手な内容が多いです。ここで特筆すべきは、こうしたどこにでもありそうなコマーシャルに「お国柄」をちょっと加えてアルゼンチンであることを示しているところです。わかりやすく言い換えるなら、例えば後者の「大鍋を洗う」シリーズでは、A社の洗剤とCMの商品の両方を使って大人数のガウチョがそれぞれ巨大な鍋を洗うのですが、CMの商品を使った方はとっくに洗い終わり、まだ懸命に鍋を擦っている軍団を後目に悠々と女性達と共にフォルクローレを踊って楽しんでいる、と言った具合に、アルゼンチンの都市や田舎のどこにでもある光景と融合させ、商品の「日常性」を暗に協調しているのかもしれません。

 

そして、ちょっと珍しいのが医療機関のコマーシャルです。

日本ではあまり具体的な映像を用いて心身の問題や治療内容を訴えたりするコマーシャルを見かけませんが、アルゼンチンでは例えばインポテンツ専門治療機関「ボストン・メディカル」のように、かなり思い切った内容で解りやすく視聴者に語りかけるコマーシャルを放映しています。

・・・1組の男女が夜のプールで戯れている。

女はプールサイドの素っ裸の男に向かい、身に付けていたビキニを外して投げる。

・・・落ちる。

ガッカリする女。

そこで・・・「ボストン・メディカル」の登場。

再びプールサイドに立つ男。女は再度ビキニを投げる。

今度は引っ掛かった!!

喜びの表情を見せる女。

そして、自信に満ちた男の笑顔。

 

と、こんな具合に「大人の時間帯」には、何やら意味深のコマーシャルが登場するので目が離せません。

 

ケーブルテレビでは、そのテレビにあったコマーシャルが流れています。タンゴ専門チャンネルではタンゴの靴を売る店、女性専門チャンネルではエステサロン、スポーツチャンネルではナイキ、農業チャンネルではマテ茶やトラクターなどです。

 

数十年前のコマーシャルを取り上げた特集番組を見ると、時代と共に変わっていくCMと、明らかに時代から取り残されたまま今に至っているものと両方あり、おそらくこの先も何十年かは、この地方のテレビ的コマーシャルが根強く残り、昔を懐かしむ人々から「これぞ変わらぬアルゼンチンの姿」との声が聞こえてきそうな、そんな気がしたものでした。

 

 

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