<第1部>

Puerto Mont六月最初の3連休にチリのプエルト・モンを訪ねました。サンチアゴから飛行機で1時間40分飛ぶと、太平洋から吹き込む冷たい風が頬を突き刺すこの港町に到着。ここはパタゴニア地方へ入るための玄関で、バックパッカー達で賑わうと聞きましたが、雨も多く初冬のこの季節は観光客も少なく静かでした。

人口約14万人のこの市の生活を支えているのは近海で一年中豊富に取れる魚介類で、その種類の多さと新鮮さは天下一品。今回の旅の目的も実はこれにあったと言って過言ではありません。とにかく「美味しい海の幸を求めて」がテーマでした。

さて到着後さっそく市内見学と魚市場の様子を覗こうと出発。中央のアルマス広場にここの最初の移民としてやって来たドイツ人家族が原住民であるインディヘナに導かれている様子を現した銅像が置かれていて、プエルト・モンの歴史の第1歩を物語っていました。町のあちらこちらにドイツ文化の影響を受けた建造物が見られ、独特の雰囲気を醸し出しています。

道は湾に沿って緩やかに伸び、まもなく町を外れ、しばらく行くとアンヘルモ漁港が目に入ってきました。周辺にはみやげ物や干物などを売っている店が並んでいて、車を降りて歩いているとどんどん声を掛けてきます。と、大きな籠にウニとムール貝などが山盛り入っているのを見つけ、近づくとこれからトラックに積まれてどこかへ運ばれるところでした。その場でもしかしたらひとつくらい口に出来るかな・・・などと思っていたのでちょっと残念。

その日はもう市場はひっそりとしていたので引き上げることにして、みやげ物屋を覗きながら次なる目的地に向かう途中、山積みされた茶色いものを見つけました。聞くと、それはこの辺りで取れるテハという木の木片だそうで、これをチップ材にして日本へ輸出するとファックス用紙などの上質紙の材料になるということでしたが、チリはそれをまた輸入するので結局儲けは無いのだという話でした。

町で最も古い建造物のひとつである教会は見晴らしの良い高台にあり、そこから町全体が見渡せます。遠くの方にかすかに「チリ富士」と呼ばれるオソルノ山の裾野の辺りが見え、手前は相変わらず降り続く雨のためにもやが立ちこめ、ぼんやりとした町が見えました。全体的に質素な印象を受けるこの町にも首都・サンチアゴにある近代的なショッピングセンターや大型のスーパーマーケット(私見ですが、ブエノスのスーパーよりも行き届いた感じがしました)が進出し、人々の生活も徐々に変わりつつあることがわかります。物価も比較的なんでも揃うかわりに決して安いとは言えず、市民の生活は決して楽ではないということでした。

その夜、町なかの小さなレストランで生のウニ、ピコロコという鳥のくちばしのような形をした貝、ムール貝、サーモンなどを注文。ちゃんと醤油を出してくれたのには感激しました。ウニは若干水っぽく大味で少々期待はずれ。ピコロコは味が濃くてどちらかと言えばサルサ向きな味。ムール貝はレモンをかけてなかなかイケました。予想外に塩焼きしただけのサーモンが一番美味しくて、アツアツのご飯などあればシアワセ!と思ったほど。そして一通り食べた後でシュラスコが登場。実はセットニューだったらしく、さんざん魚介類を食べたお腹にはチョリーソ一本も苦しくてちょっともったいなかったかなあと思ってしまいました。

 

<第2部>

翌日、プエルト・モンから55キロ離れたチロエ島を観光。湾から島までの数キロを車両ごと乗せて渡すフェリーは一回20ドル、バスは50ドルと高いのには驚きました。

日本の企業が橋を掛けようと提案したところ、地元のフェリー業者の猛反対にあって断念したとか。船着場にはペリカンの群れが魚を捕る姿があり、海上では僅かながらもアザラシが泳ぐ姿に出会いました。島に到着するとまたしても大雨に見舞われ、まずは一路アンクーの町へと急ぎました。

ここでもプエルト・モン同様、うろこ模様の板壁で出来た家(ちょうど神戸の異人館通りに良く似た家があったのを思い出しますが)を数多く見つけ、どれもカラフルでおもちゃのようでした。勾配になった道を行くと少しして町の魚市場に着き、取り立てのあらゆる海産物の山が所狭しと並べられている間を進むと、盛んに「安くしとくよ!」「新鮮だよ!」と呼びとめられます。見るからに観光客のこちらが興味深そうに一つ一つ覗いてはガイド氏に調理方法や食べ方を尋ねていたので、地元の人たちも買って行くと思ったのかも。

体長が1メートルはあるコングリオ(アナゴ)は一見グロテスクですが、ムニエルにすると美味しく、スズキにちょっと似た白身魚(不覚にも名前を忘れた)は、そのまま刺身にしても良いと聞いて、これも早速挑戦しなくては!とウキウキしました。他にはビニールの袋に入った何種類もの貝類の剥き身が無造作に積まれていたり、ビン詰め(味付けされているらしい)なども見かけ、庶民の食卓が垣間見られたといった感じでした。ザリガニに似た甲殻類が箱の中でひしめき合っている姿もあり、その隣ではいかにも漁師といった風貌の男性がぐつぐつと音を立てて煮えたぎる大鍋にそれを荒く手でちぎって入れかき混ぜてソパを作っている最中でした。ああ、なんていいにおいなんでしょう!まさに取れたて海の幸シチューです。こんなものを日々食べている島の人々がちょっぴり羨ましいな、なんて肉より魚の好きな私は思ってしまいました。

その日の昼食は昨夜と同じサーモンのムニエルで、肉厚かつジューシーな一品で大満足。でもちょっと量が多すぎでした。普段はほとんど飲まないワインも少し頂きつつ、窓越しに港を見ながらのひととき・・・。戻ってきて夕食はガイド氏もお勧めのコルビーニョにサルサ・デ・ピコロコを注文すると、これが絶品。実に上品な味でサルサが魚とも良く合い、またまた満足でした。

 

<第3部> 

連日の雨も季節がら仕方なく、かといってそんな日も嫌いではないので積極的に観光を続けること3日目。数ある湖の中でも最大のジャンキウエー湖と眼前に迫るオソルノ火山(休火山)、そして国立公園内のペトロウェー滝見学に出発。途中プエルト・バラスの町を通りすぎると、こぎれいなホテルやロッジが目に付き、ここ数年はプエルト・モンより観光客が多く宿泊するため観光施設に力を入れているとのことでした。

やがて湖が見え、湖畔に沿って進むとリオ・ペスカードというその名のとおり、サケやマスを釣りに毎年国内外からも大勢の人が訪れる川がありました。州政府によって捕獲数は決まっているとか。近くには養殖場も整備されていました。国立公園へ向かう道のりは雨のためぬかるみ、更に霧が出てきて周囲が見えず、世界から隔絶されたかのような静けさの中でようやく入口に到着。

ペトロウェー滝のふもとを流れる河は激しく、岩の多い場所では打って変わって穏やかな表情を見せ、ミネラルの成分を含んで不思議な青緑色をした水がどこまでも広がっていました。絵葉書で見るようなオソルノ山を背景にした滝の雄大な姿は残念ながら拝めず仕舞。かわりに誰もいない初冬の国立公園を白い息を吐きつつ散策し、天然のブラックベリーをつまんであまりの酸っぱさに目を細め、なんだか気持ちの良い、シアワセな気分を心から楽しみました。

新鮮なオゾンを吸って車に戻ると途端に睡魔が襲ってきて、あとは町への道中をひたすらウトウトと居眠り。

プエルト・モン最後の夜は、前日に聞いておいた美味しいと評判のレストランへ。町からタクシーで8キロのそのレストランはシーズン・オフにもかかわらず人が入っており、まだ食べていなかった生牡蠣と魚介類のソパ、そしてコングリオのサルサ・マルガリータを注文。牡蠣は小粒ながらも新鮮、ソパは先だって市場で見たもの同様いい香りがしてオマケに具だくさん、コングリオは少し脂っこいけれどサルサがほどよくクリーミーで相性が良く、どれもタイヘン良いお味でした。それにこのお店はとてもサービスが良くて気に入ったものです。まさに有終の美を飾ったかのような(ちょっと違うか?)最後の夜でした。

 

翌日は快晴。あーー、ちょっと悔しい。最後に空港へ向かう車の中から遠くオソルノ山がくっきりとその姿を現し、まさに「チリ富士」のごとく凛としているのが見えました。今度はきっと夏に来よう。そう思いつつも、静かなこの初冬のプエルト・モンも十分に堪能できました。のんびりと冬景色を眺めながら美味しい海の幸が食べたい方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。(終わり)

 

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